第九十六話 その時彼らは
『緊急警報発令!緊急警報発令!』
風の少女出現により街に被害が出始めていたそのころ、冒険者ギルドには度重なる緊急警報にゲンナリしたプレイヤー達が集まっていた。
そこにはアズの知人もほぼ集合しており、もちろんフーキの姿もあった。
◇
「今回集まってもらったのは他でもない」
デデドンというコナンの黒服が出しそうなBGMを流しながら、一人の厨二患者が元帥ポーズで口を開く。
それはアズの実兄にして、クラン†断罪者†のリーダー†エンド・シャドウ†。
プレイヤー達はなんでお前がしきってるんだよとか色々ツッコミたい所はあったが、絡まれると面倒な事になる上に、変な異名でもつけられかねないので黙って成り行きを見守っていた。
「この度我らが生まれし原初の街に、正体不明の魔物・・・いや、神獣ガルーダが出現した事についてだ」
エンド・シャドウの言葉に、なんとなく察しがついていた冒険者達が一気にざわめきだす。
『おいおい、小人の次は魔物だと!?』
『魔物はステータスそのまんまなんだろ!?どうしようもねぇじゃん!』
『やっとフーキさんのおかげでオワタの大冒険が終わったばかりなんだぞ?勘弁してくれよ』
小人種からの一方的な蹂躙劇がやっと終わるといった所で新たな強敵の出現。
それはドMゲームを極めたゲーマー達の心を折るには充分な物であった。
「皆の気持ちはよくわかる、この我とて心中穏やかではない、そこで我等はここに神獣捕獲作戦を決行しようと思っている」
そんな普段会議でハブられているエンド・シャドウの口元は、作戦指揮官的な状況を体験出来た事により緩みに緩んでいる。
『けどよ?相手は魔物だろ?ステータス上絶対勝てねぇじゃん』
『そうよそうよ、ただでさえがるーだ?って強そうな奴なのに』
二人の男女冒険者が、勇気を出して抗議の声を挙げ、それに呼応するかのように周りの冒険者が立ち上がり・・・
「もっともな意見だな、殺戮者ジャック、それに死の王女ローズマリー」
予想通り変な異名をつけられた二人の顔が引きつり、他に抗議の声を挙げようとした冒険者達が一斉に席に座る。
そんな中一人の元から変な異名をつけられている少年が意見を出す。
「まぁエンド・シャドウさんのいう事も一理あるんよね、このまま街に被害を出され続けたらゲーム自体が破綻しかねんのよ」
「流石は正義の風紀委員、ジャスティスフーキだ。話がわかるな」
既に異名をつけられているからと油断していたフーキが顔を顰める。
フーキは「とは言っても今回の件は完全にお手上げなんやけどね」と呟く。
名前の横の種族はヒューマンに見えた。
だから最初は人間種だと思っていたが、その身体能力は明らかにマイナスステータスをつけられている者とは思えなかった。
「かといってこのままにも出来んし・・・ってん?」
うーむと唸りながらも頭を悩ましていたフーキは、ギルドの入り口でチョイチョイと指でサインを送ってくる知人を見つける。
あれはグレイさん?なんや滅茶苦茶ボロボロやけど上手い具合にネクロニアには到着したんやろうか?
フーキは軽くエンド・シャドウに席を外すと口にし、グレイの下に駆け寄る。
「随分はやい帰りやん?無事転生は出来た・・・訳ではなさそうやね」
「まぁな、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたんだよ」
グレイの名前の横に見慣れた種族マークを確認したフーキはちょっと残念そうに肩をすくめると、「それで」と話を切り出す。
「どないしたん?今街では新しい魔物の出現でお通夜モードなんやけど」
「ああ・・・えーと、その事なんだけどよ」
少し歯切れが悪いグレイに嫌な予感を感じる。
そういえばアズの姿が見えないと、そしてフーキにとってアズは見事なトラブルメーカーという認識があり・・・
尚も口ごもるグレイを見ながら静かに瞼を閉じる。
そして思い出すのは先ほどエンカウントしたガルーダ(仮)の姿。
なんやどっかで見た事があると思っていたその姿を思い出し・・・
グレイに詰め寄り小声で話す。
「もしかして街でイタズラしてる魔物ってアズやったりするん?」
「そうそれ!」
「はー・・・・・」
グレイの返事にフーキはこめかみを押さえてうずくまる。
何でアズはいつも厄介事ばかりわいに持ち込むんや?と。
「・・・となると間違っても他のプレイヤーに捕まらせる訳にはいかんよね」
何故ステータスが反転していないのか?とか、何故ちっこい体が更にちっこくなってるのか?とか、そもそも何で暴れてんねん!とか色々ツッコミたい所だが、それどころでは無い。
どういう状況にしろ、このままプレイヤーに捕まってしまったらマズイ事になる。
幸いな事に現在プレイヤーの大半はこの捕獲作戦にやる気を見せていない、このまま上手く誘導してアズにかかわらせんようにして、わいらで処理すれば良い。
そう思い、尚も演説を続けていたエンド・シャドウに視線を向ける。
話はまだ決定していないようやし入り込むなら今やね、と席に戻ろうとした所でエンド・シャドウが大きく笑みを浮かべる。
「なに、我とて魔王の呪いで弱体化した身、策も無しに突っ込む馬鹿ではない・・・君達の気持ちもわかるし、無謀に無償で戦わせようとは思っていない」
実は我一番に挑みに行って返り討ちにあっているのはここにいるプレイヤー全員の知る所なのだが、面倒なのか黙って聞きに徹っしている。
そんな中エンド・シャドウが指パッチン(アーツレベルMAX)を使用すると、何かを抱え背後に控えていたメアリーが静かに前に歩み出る。
そしておもむろにその何かを机の上にドサりと置くと、周囲から『おお・・・』という声が漏れる。
「この度我がマスターが命を賭して手に入れた情報を冒険者ギルドに持ち帰った所、冒険者ギルドは未確認モンスターであると判断されました・・・それにより多額の報奨金がかけられ、その額10万R、現在の日本円レートで50万円となります」
数人のプレイヤーが『やれやれ』とストレッチを始める。
これはマズイ流れや、なんとしても止めんと・・・
とフーキが声をあげるよりも先に、既にアズとエンカウントしたプレイヤーが声を荒げる。
『俺からも意見させてくれ!俺が見たところあのワンピース姿に張り付いたボディライン・・・あのペドっ子は・・・履いてない・・・!!!』
ガタリと更に数人のロリコンプレイヤーがスクショの調子を確かめながら立ち上がる。
同時に女性プレイヤーがそいつらから距離をとる。
やばい・・・これはもう止めれへんのやないか?と思いながらフーキが口を開こうとした所で、畳みかけるかのようにメアリーさんが口を開く。
「更に王国より、この事態を治めた者には勇者の称号が贈られるという話が上がっています、ちなみに装備アイテムで効果は全ステータス+10%という破格のレア称号です」
まだ渋っていたプレイヤー達がそれを聞き、全員が我先にと冒険者ギルドから駆け出していく。
ああ・・・どうしてこうなってしもうたんや・・・!?