第九十四話 風の精霊、アズール
「よし、こんなもんやね」
茶色がかった髪を手ですくい、フーキが虫の息な小人種を蹴り飛ばす。
本日何匹目になるか、街に襲撃を駆けていた小人種のライフを削りとったフーキは満足気に息を吐く。
ちなみに最後に蹴り飛ばした意味は特段ない。
「長い間痛い目みさせられたんやし、このくらい許されるやろ」
ふうっと一息つき周りを見渡すと、冒険者ネットワークにより対マイナスステータス戦法を実践していた冒険者集団が勝利の雄たけびをあげているのが目に入る。
どうやら上手い具合に小人種を撃破する事に成功しているようだ。
「これで当面の問、街は安全やね」
〖お疲れ様です、フーキお兄ちゃん〗
フーキはせっせとタオルを差し出してくるルピーから、タオルを受け取り軽く汗を拭く。
先刻アズと別行動をとり街の防衛に努める事にしたフーキは、現在相棒のルピーと共に街の小人撃滅作戦を展開していた。
作戦は上場、最初こそは今までと違った戦法に苦戦していた冒険者軍団も、伊達にレイドイベントを経験しているだけはあり、今ではステータスが勝っていても多少格下の小人種は倒せるようになっている。
これなら近いうちにグラフ街を襲っている小人種を全員血祭にあげられるだろう。
「随分と長い間やられっぱなしでうっぷんが溜まってたからね、小人種には悪いけど一匹残らず狩らせてもらうんよ」
〖フーキお兄ちゃん、なんだか凄い悪い顔してます〗
ルピーのチャットに指摘され、咳払いを一つ表情を引き締める。
「いかんいかん、わいはただグラフの街を守る為に戦ってるんや、小人種を叩きのめすのが目的やない」
などと思ってもいない言い訳を口にしていると、先ほどの冒険者集団から悲鳴が巻き起こる。
なんや?ちょっとレベルの低い小人と出くわしてもうたんか?
やれやれ仕方の無いやつらやね、と、腕を回しながら冒険者軍団がエンゲージしているエネミーに視線を向ける。
「・・・なんや、あれ?」
緑色に発光した髪が特徴的なワンピース姿の少女、その周囲は緑色に着色された謎の風が纏わりつき、近づく者を全て拒絶するかのように押し出している。
名前の所を凝視するが・・・アズール?特段小人種っぽい種族マークはついていない、サイズ的に小人種と同じくらいやから敵やと思ったけど・・・。
「新手の敵?っちゅうことで問題ないんやろうか?」
フーキは訝し気な表情を浮かべながらも、少女にターゲットしようとし。
『うっひょう!超やばいロリ発見!』
『え?小人種だよな?見た感じヒューマン的なマークが見えるけど小人種だよな?』
『ぐへへ・・・嬢ちゃん、すけべしようや・・・』
無言で冒険者集団にPVP申請を送信する。
『げ!?ロリコン番長!?いたんですか!?』
『くそう、流石ロリコン番長!俺達よりロリを優先するってのか!』
『ぐへへ・・・ロリコン番長、すけべしようや・・・』
「誰がロリコン番長やお前等良い加減にせんとほんまに殴り倒すで!?」
フーキが頭を抱えたくなりながらも冒険者軍団に接敵しようとした瞬間、リーンという音と共に暴風が巻き起こる。
『『『ん・・・?なんだこの風びゃぁぁぁぁぁぁぁ!?』』』
あわれ、冒険者軍団は空のかなたに吹き飛ばされてしまった。
自業自得とはまさにこの事か?
上空何百フィートまで吹き飛ばされた冒険者達に両手を合わせる中、ルピーが真剣な表情を浮かべて少女とフーキの間に割って入る。
〖フーキお兄ちゃん、あの子〗
「わかっとるんよ」
ルピーのチャットを見ながら、フーキは表情を改める。
今のはあの少女の攻撃だ。
暴風が巻き起こる瞬間、少女のMPゲージが減ったのを確認した。
「これは間違いなく」
〖間違いなくお兄ちゃんのロリコンセンサーに反応する!はやく倒さなきゃ!〗
「っておおおい!?」
思わずツッコミをいれてしまったフーキを残し、ルピーが小太刀片手に単身少女に突進する。
少女はカタリと首をルピーに傾けると、風に押されるようにスライド、小太刀を軽く回避する。
そして再びリーンという音が鳴ったかと思うと、ルピーが風の圧力に吹き飛ばされる。
今のは攻撃やない、ただ相手を引き離そうとしただけやね・・・けど。
風の圧力に押され、ルピーが尻もちをつく。
それを無表情に、光の無い目で視認した緑髪の少女が手をかざす。
再びリーンという音が聞こえてくる。
なんでかはわからんけど・・・あれは攻撃やね!
今のルピーは俊敏も力も最弱、避ける事は不可能!
フーキは全速力でルピーの前に飛び出し、庇うように抱きかかえる。
「・・・?」
しかしいつまでたっても風が襲ってくる様子は無い。
不思議に思いながら顔をあげると、緑髪の少女が小さく首を傾げ、こちらをジッと見ている。
「なんや・・・?」
少女はフーキを見ながら何かを口にしようとするが、リーンという音しか聞こえてこない。
一体どういう事なのか、わけがわからないよ!と言いたくなるフーキを見ていた少女は、既に敵意が無くなったとでもいうかのように虚空を見上げ、緑色の風を全身に纏う。
リーン・・・
再び大きな音が鳴り響いたと思うと、大きな風が巻きあがり、少女が天高く飛んで行ってしまった。
「ほんまに・・・どういうことやねん・・・ってルピーさんは!?」
飛んでいく少女にしばらく呆然としていたフーキは、腕の中でぐったりした様子のルピーの存在を思い出す。
まさか思ったよりダメージが!?
〖うへへ・・・お兄ちゃん・・・〗
どうやら大丈夫そうだ。




