第九十話 火力枠にとってダメージ計算式は必須
久しぶりの冒険目指して玄関前からこんにちは、アズです!
「ひぃぃぃぃ!?」
俺は横なぎの斧をしゃがんで回避しながら、グレイの影に隠れる。
何で玄関出た瞬間にポップしてくんの!?出待ちしてんの!?
「こいつらまさかずっと冒険者の家の前にはってんのかよっと!」
グレイが涙目の俺を庇いながら、続く斧の攻撃を素手で止めて小人の腹に注射器のような物を突き刺す。
すると小人はビクンビクンと体を痙攣させながら光の粒子に変わっていく。
「・・・何それ?」
「何って、注射器だが?何が悲しくて重い武器を振り回さにゃならんのだ」
「そ・・・そうか」
今まで素手で戦ってる所しか見た事なかったから、若干びびる。
そういえばホームメンバーで装備を買いに行った時に、注射器のような物を見てニヤニヤしてたっけ・・・。
若干引きながらも、外に出るグレイを追いかける。
っていうか!
「待って、ちょっと待って!」
俺は体感倍速歩行のグレイを走りながら追いかける。
こっちは俊敏値が物凄い事になってるんだから、少しは歩幅もとい歩スピードを合わせて欲しい。
そんな事を考えていると、何かを察したのかグレイの歩スピードが遅くなる。
「あ、ありが・・・」
「は〜、久しぶりの外出だし?折角だから小人に困ってる冒険者でも見ながら楽しんで行きましょうかね〜?え?何か言おうとした?」
「・・・何でもない」
気を使って言ってくれたとしても、とてもクズい発言をしたので感謝の言葉を言うのはやめよう。
何か悔しいし。
「いや〜、しかしたまには俺つえええゲーも悪くな・・・あれ?」
あせあせと小走りでグレイの背中を追いかけていると、グレイが素っ頓狂な声を上げる。
「どうしたんだよ?」
ポカンとするグレイの背中に隠れながら、こっそりとグレイの視線の先に目を向ける。
『よし、ちょうど良い感じに弱ってきたね、ルピーちゃんもう少し気張れる?』
〖よゆーです!〗
そこでは小人数人と戦う、現最弱クラスのはずのルピーとフーキの姿。
ステータスが反転した今、あの二人がまともに戦える筈が無い・・・というかいつもと戦闘スタイルが違う?
よくよく見ると攻撃特化のルピーが壁をし、どちらかというと防御が高いフーキが攻撃しているふうに見える。
いつもとは真逆な戦い方・・・どういう事だ?
深まる謎に頭を悩ましていると、フーキの拳が小人を光の粒子に変えていく。
『ふぅ・・・やっぱりわいの計算は正しかったみたいやね』
〖さすがフーキお兄ちゃんです!〗
ワイワイとハイロータッチをするフーキとルピー。
『ほんならこの事を早速ネットに拡散・・・って、ん?グレイとアズやん』
額の汗を拭きながら、何やら満足そうなフーキが俺達を見つけて手を降ってくる。
「お、おう・・・」
頭を悩ませていたせいで雑な返事になってしまった。
まぁそんな事はどうでも良いや、いつもだし。
それより・・・
「何で普通に戦えてんの?」
急いで駆け寄ったせいで息が上がっている俺の代わりに、グレイがフーキに質問をする。
「ああ、その様子やと2人もまだ気づいてないんやね、まぁグレイさんに関しては必要無い知識でもあるしね」
若干ムッとするグレイを無視して、フーキが頭上のHPバーの横、もといレベルを指さす。
・・・レベル1?
「縛りシステムもとい、レベル制限システムや」
「ああ!その手があったか!」
以前クエストで学園に侵入した際に使ってたあれかー。
グレイが答えを聞いてもわかってないような顔をしているが、まぁ普通にプレイする上で使う事はないから仕方ない。
俺がせかせかとレベル制限を1にすると、今まで倍速に近かった風景が少しゆっくりになる。
急な変化で若干目がくらむが、すぐに慣れるだろう。
しかしあの時は単純にレベルが1になるだけで窮屈だったが、ステータスが反転し、数値が低いほど強くなる今の状況なら間違いなく最適解だ。
そしてレベル1制限は、初期のチュートリアルのステータスが反映される。
だから防御が高かったフーキが攻撃に、攻撃力の塊だったルピーが壁になってんのか。
「それだけやないで?」
納得したように首を縦に振っていると、フーキがドヤ顔を更に濃くする。
確かに凄い発見だが、その顔は腹が立つ。
フーキは膝蹴りをかます俺を無視して、ルピーをちょいちょいと手招きする。
「ルピーちゃん、回復頼める?」
「!?」
俺はフーキの発言に困惑の表情を浮かべる。
現在BGOで回復系統のアーツを使用出来るのは、俺事アズリエルしか確認されていない・・・そんな貴重アーツを攻撃特化のルピーが?
複雑な気持ちでルピーに視線を向けると、軽く敬礼のような仕草をしたルピーが小太刀に手をかける。
・・・ん?あれ?
〖神楽舞ヾ(`・ω´・)ゞ〗
久しぶりに見た親の顔のチャットログに目を見開く。
それって攻撃アーツでしたよね!?
驚く俺を他所に、小太刀の一撃をモロに受けたフーキのHPが・・・20%程回復する。
「と、言う訳や」
更に更にドヤ顔を濃くするフーキ。
・・・なるほど。
誰も冒険に出ないから気づかなかったが、アーツの効果も反転してるのか!
何度も首を縦に降る中、尚も首を傾げるグレイ。
「・・・それって普通に攻撃するのと違うのか?」
あー確かに、それなら攻撃すれば回復する筈、なのに小人にはダメージを与えていた。
グレイにしては鋭い指摘だ。
「それはやね、攻撃の計算式は力×倍率×(レベル適正+・・・」
ドヤドヤと解説しだすフーキ。
あ、不味いなぁ・・・、こうなったら中々終わらないんだよなぁ・・・
フーキのガチ考察は聞いてて疲れるし・・・俺は今1番気になっている事を整理する。
「つまりフーキは今、中学低学年の女の子に壁をさせて守ってもらい、挙句ちょくちょく殴られて回復してるのか」
「・・・その言い方は語弊があるんよ」
フーキも若干気づいていたのか、ドヤ顔を崩す。
ざまぁ。
「と、ところで2人はどうしたん?珍しいやん!」
話を逸らすように、慌てたフーキが質問をしてくる。
「ああ、俺達は今から転生クエストを受けにネクロニアに向かうんだ」
「・・・公式サイトにあった謎の都市やね」
フーキが興味深そうに目を怪しく光らせる。
「なんなら一緒に来る?」
「・・・折角やけど今回はやめとくは、わいらは今のレベル制限システムとアーツに関しての情報を冒険者に広めなくちゃならんからね」
フーキは少し残念そうに肩を落とすと、何やらシステムウィンドウを弄り出す。
恐らくメールやらLINEやら、ネットに繋げているのだろう。
一刻も早く不遇な扱いを受けている冒険者の為に情報を流したいのだろう、流石正義の風紀委員。
「そっ、なら仕方ないな、行くぞグレイ」
俺は何やら、「あれ?じゃあ俺がアズを連れ出した意味は・・・というかこれならホームでのんびり・・・」とか言い出したグレイの袖を引っ張る。
「小人に関してはそれで良いけど、お前がいないと草原を突破出来ないんだよ!」
「・・・そ、そういう事なら仕方ねぇなぁ!」
まったく、俺をやる気にさせといて今更やっぱ帰るとか言わせると思ってるのか。
やれやれと嬉しそうに表情を緩めるグレイを見て、自然と頬が緩むのを感じる俺であった。




