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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第一章 空の王者と愉快な仲間達
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第八章 冒険者ルピーの軌跡

 

「クエストは俺がクリアしとくからここで休んでて!」


 フレンドのアズがそう言って悪夢の世界に戻っていく

 ぼんやりとした意識の中、走り去るフレンドの後ろ姿に多少の罪悪感を抱く


『私のわがままでついてきてもらったのに・・・』


 しかし思うように体が動かないルピーは背中の木にもたれかかりながら、BGOを開始するまで、開始してからの事をぼんやり思い出していた



 ◇ 


 私、紅川玉樹(あかがわたまき)は7月の誕生日にヘッドギアを両親から貰った。


「お父さん!これなぁに?」

「フフフ・・・これはヘッドギアと言ってね」


 電子機器に弱い私は一体何を貰ったかわからず

 父に説明を求めたらドヤ顔で長々説明をされた


 要約するとゲームや映画を見るものらしい

 あまり興味がわかなかった私は、折角もらったヘッドギアを箱にいれたまま押し入れに封印する事になった

 なんせゲームなど生まれてこの方、友達が学校で隠れてやっているのを見る程度だ

 せっかく貰ったヘッドギアは箱の中に入ったまま夏休みまで開封すらしなかった



 それから半年たった夏休みのある日

 勉強という学生の労働から解放された私が無駄に部屋の大掃除をしていると

 押し入れの中から見慣れぬ箱が見つかった


「これなんだっけ・・・あ!確かお父さんが・・・」


 夏休みという膨大な時間に暇を持て余していた私はヘッドギアを試して見る事にした

 最初は映画を観るつもりだったがDVDを買いに行くのが煩わしく、無料でできるオンラインゲームに目をつけた

 なんでも先日サービスが開始された世界初のVRオンラインゲームらしい


「ダウンロードって長いんだな・・・」


 そう呟きダウンロード終了を待つ


 結論から言うとその日、私の見る世界が変わった


 OPからキャラクリまで感動の嵐だった

 私の名前は紅川玉樹、そこから紅玉という単語を取り出しルビーと名付けた


 待機画面が終了すると唐突に視界が明るくなった

 透き通る風は気持ちよく、草原の匂いが鼻に押し寄せる

 空は青色、日差しが眩しいくらいだ


 私の周りには色々な人がいて

 露店を開く者、クラン?の勧誘に励む者、剣を携え草原にかけて行く者

 後から知った事だが私が初めてログインしたのはスタートダッシュ組の後、暫くしてからだったらしい


 何もかもが新しい地でキョロキョロしていると、露店商の人が話しかけてくる


「嬢ちゃん?新米だな?よかったら見て行かないかい?」


 小太り体型に大きな金槌を背負った褐色のおじさんが話しかけてきた


「俺はこう見えて最前線で攻略してる冒険者でな、ちょっと金が必要で今まで手に入れたもんを新米冒険者に売ってるんだ」


 おじさんは人懐こい笑みで私に話しかける


 興味があった私は商品を見て回る、なかなか沢山ある

 その中でも目を引いたのは花柄黒色の小太刀、値段は100R


「なかなか目が高いな、そいつぁ今んとこ一本しか見つかってないカテゴリーの小太刀って武器で、名前は花錦(はなにしき)、なかなかのレア物で新米冒険者の所持金全額と交換になるがどうだい?」


 後から知った話だが100Rは結構な額らしい

 ゲームに慣れるまでの衣食住、すべてに使った上で更に装備をある程度整えれるぐらい


 そんな事を知らない私は思わず購入

 商人は吹き出し、ニヤニヤしながら花錦を私に渡す


「毎度どうも!これから大変だと思うが頑張れよ・・・折角だから試し切りもしていくと良い!」


 そう言いながら草原を指さす商人の指先では、青いネズミと戦う人たちの姿

 私は商人に負けないぐらいニマニマしながら露店を離れると、草原に向けて走り出す


 するとまるで狙っていたかのように、キーキーとネズミを青くしたモンスターと鉢合わせた

 周りの人を真似て私も抜刀

 戦闘が終わった人達がこっちを見ているのは、きっとピンチになったら助けてくれるつもりなのだろう

 これなら新米の私でも安心して戦える


 私はジリジリ間合いを詰めてくる青いネズミから目を離さず、正面から睨みつける

 青いネズミが私に牙をむき出しに突撃してくる


 ギリギリの所でネズミの攻撃を回避した私がすれ違いざまにネズミを斬りつけると

 ネズミは苦しそうに鳴き声を発してよろめいた


 小太刀を買った高揚感で忘れていたが、よくよく考えたら生物を小太刀で斬るってすごいまずい事なんじゃ・・・!?


 あまりにリアルなネズミの姿に私が戸惑っていると、体制を立て直したネズミが再び私目掛けて牙を剥く


「何ぼさっとしてんねん!」


 生物を斬ってしまったという罪悪感から腰が砕けてしまった私を庇うように、茶色い髪の男の人がネズミを殴り飛ばす

 そのまま岩にぶつかり動かなくなったネズミを見ながら

 私は恐怖半分、感謝半分で男の人を見上げる


「まったく・・・ほら、立てる?」


 差し出された手をとり立ち上がる


『とりあえずお礼を言わないと・・・!』


 感謝の言葉を紡ごうとしたが、恐怖で上手く喋る事が出来ない

 しばらくパクパクしてると、茶髪の人は何かを察したように手を叩き、私の目の前で人差し指を立てる


 謎の行動に首を傾げていると、男の人はそのまま指を視界の端まで移動させる

 ・・・?何か文字が書かれてる?


『これはチャットいうて・・・まぁ今はLINEとかそんなもんと思ったらええで』


 納得した私は、教えられるがままにチャット欄を開き、慣れないタイピングで感謝の言葉を書き込む


『ありがとうございます。』


 私の遅いタイピングをニコニコと待ってくれた男の人は、ウンウン頷き私の頭に手を乗せる


「どういたしまして、完璧初心者みたいやから色々教えてあげたい所なんやけど・・・」


 男の人はそう言うと、急におびえたように周りを見回す

 そこには私の戦いを真剣に見ていた人達が、何やら怨敵を見るかのように武器を構えている

 私が戦っている間一人も目を離そうとしなかった優しい人達、一体何をそんなに怒っているのであろう?


「ここはゲームやから遠慮せずバンバン切り倒したらええで!ほなな!!!」


 そう言いながら男の人が脱兎の如く逃げ出し、その後ろを多数の優しい人達が追いかけていってしまった


 一度に大量の出来事が起き呆然としていた私は、ふと倒されたネズミを見る


 そのあまりにリアルな姿

 しかし血は出ておらず、時間が経つにつれて粒子となって消えてしまった


 なるほど、これはゲームだという事を再認識させてくれる


『今度は・・・大丈夫・・・』


 私はリベンジするために小太刀を構え、再度現れたネズミに小太刀を突き付ける

 1回目の戦闘以降、体が軽くなった気がする

 出現したネズミを簡単に切り伏せ、再度現れたネズミに小太刀を向ける


 何時間戦っただろうか、周囲にいたモンスターは最初こそ戦う気まんまんだったが今では私の方をみて放心状態だ


 そんな折り、赤色のネズミが現れた

 他のネズミと違いすれ違いざまに斬りつけるも爪で塞がれ

 大きく後ろに飛んだかと思うと口から炎の球を三発、私に向けたものと左右に一発撃ってきた

 左右に避けても当たる位置にいる私は炎の球を正面から見据え、着弾のタイミングで花錦を斜め上に切り上げる

 炎の球は真っ二つに切れ鎮火、そのまま距離をつめ花錦で赤いネズミを斬りつけ蹴り上げる

 赤いネズミはキー!と叫ぶと口から何かを吐き出し逃げ出してしまった


 何が落ちたのかとよくみると小型のバーナーだった

 手で触れた瞬間光の粒子になって消えた


 今日何度目かの不思議体験に困惑していると

 急激にお腹が空いたのだ。


 何も知らない私は現実でお腹ぎ空いたと思いログアウト

 だが現実に戻ると全く空腹感が無い


 不思議に思い父にゲームの話をすると得意げに色々な事を教えてくれた

 ゲームの基礎知識から用語まで、前ヘッドギアを説明された時より真剣に話しが聞けるのは私が完全にあの世界に魅了されたからだろう


 ちなみに父の話では、私のヘッドギアには年齢設定をしてあり

 流血表現をオフ、痛覚は完全遮断にしているらしい

 けれど空腹等の感覚は項目に無いらしく、満腹度の低下によりゲーム内で空腹を感じたのだとか


 現実での食事終了後、再び狩りを続けながら街に食料を求めて進軍

 父の教えに従いレベルアップによるステータスの割り振りを行ったり、ドロップしたアイテムの収集を行う

 光の粒子になって消える素材を見てアイテムストレージを開くと素材がちゃんと入っている、小型バーナーも収集されていた


 途中空腹で倒れそうになり思わず座り込む、いつの間にかHPが残り僅かになっている

 狩りの途中ダメージを受けた様子のなさから、満腹度0%による空腹ダメージだろう


 あまりの空腹に耐えきれず、ネズミの肉をバーナーにかざして山賊焼の如く食べたら視界が紫色に、ステータスを見ると毒になっていた

 名前がブルーラットの生焼け肉と書いてあった事から、食中毒的な物と推測

 次にジックリ焼いてから食べた肉はとても美味しかった

 だがすぐにお腹が空き、物足りない


 急ぎ足で街に着いた私は一にも二にもご飯が食べれる場所へ向かいたい衝動を抑え、父が言っていた冒険者ギルドでブルーラットの素材を売り20R

 出来たお金で酒場に駆け込む。


 後はひたすら食べる事に専念

 最初はお世辞にも美味しいとは言えない食事だったが、途中から味がどんどん美味しくなる

 周りで食べてた冒険者もそれに気付くと他の冒険者に宣伝し始めたぐらいだ


 そんな中でも厨房で一際動いている青い髪に金色の目をした子のご飯が絶品!

 あんな子と旅をしたらいつでも美味しいご飯・・・もとい楽しい冒険が出来そうだなーと思いながら黙々とご飯を食べる


 リボルボアの卵炒め、アビルスライムのスープ、ブラックサンギョのソテー、イソギンチャクの素麺等とても美味しかった・・・




 ・・・そこで私は意識が覚醒した


 イソギンチャクの素麺を作れる可能性に気付いたのだ


 一歩、あの地獄の風景へと踏み出す

 二歩目にはもう食材の宝庫としか見れず

 私は駆け出した!ちょうどアズさんを飲み込むばかりの勢いで触手を大きく広げているイソギンチャクを切りつけると、イソギンチャクが絶叫を上げながら水の中をのたうち回っている


「え・・・あ・・・あれ?」


 目をまん丸に広げたアズさんがこちらを驚愕の眼差しで見ている

 とりあえず笑顔を作っておくと、バツが悪そうにアズさんがお礼を言う


「あ・・・あー、ありがとうルピー」


 さぁーこれからイソギンチャク狩りだ!と思ったが今気になる発言があった


 ルピー?

 私はステータスを開き名前を確認する

 紛れもなくルピー、私は顔を覆いうずくまることになった


 名前入力・・・間違えてる・・・

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