第八十六話 陽キャラ
不自然な暗闇が漂う用水路。
かつてグラフを襲った超大型モンスター『超チンあン皇』が討伐された際にドロップした金の玉、略して金玉。
初代グラフ民が満場一致で触りたくないと言う事でそのまま放置される事になったのだが、どういう訳か金玉は水路まで流れついてしまい、グラフの地下を流れる水路には光源が一切存在しないにも関わらず不思議な明るさを帯びている、一時は観光スポットとなり、地下水路入口付近には『玉玉邸』『金玉の湯』等という超大型旅館が作られる事になった。
しかし昨今ではその不思議な光にひかれるように低級の魔物が住み着いてしまい、魔物の巣窟となった水路は臭い物に蓋をするように現在封鎖されている。
「よっこいしょっと」
コーションのシールが貼られている看板をどける学友Aを見ながら溜息を吐く。
「普通そういうのがあったら警戒するもんじゃないの?」
「何言ってるのアズぴっぴ!こんなのアタシ達に入れって言ってるようなもんしょ!」
「わかるー、アズぴっぴは真面目すぎー」
「・・・ぴっぴ言うな」
ドヤ顔で水路の中に侵入していく学友AとB、廃病院とかに不法侵入したくなる気持ちみたいなもんだろうか?陽キャの考えは理解できない。
何故俺は地下水路の探索に付き合わされているのかというと。
冒険者ギルドで陽キャ共に見つかった俺は、何やかんやの陽キャトークで初心者クエストを手伝う事になったのである、本当に陽キャは怖い。
「うっぷ・・・さっきの酒がのどまで・・・」
そして俺の横で顔を青ざめているのは、陽キャ共に「素敵なおじさま」と上目遣いでクエストの手伝いを頼まれ、0秒でついてくる事になったグレイ。
全く男というのは馬鹿な生き物である。
やれやれと陽キャに続いて水路の中に侵入した俺は、明かりをともせるような物を探そうとして、不自然に光る水路の水を見てピタリと動きを止める。
「なんだこれ・・・?」
本来真っ暗である筈の地下水路は、松明が設置してあるわけでもないのに不思議な明るさを帯びている。
「なんかヤバそうな雰囲気だな・・・」
俺は初心者2人に注意を呼びかけようとして・・・
「はぁー、やっぱここはいつ来ても明るいなぁ」
グレイの呟きを聞いて押し黙る。
「え?グレイってここの常連さんな感じ?たまにドブ臭いのはそういう事なの?」
「ドブ臭いってどういう事だよ・・・ここはチュートリアルで来た時以来、来た事ねーよ」
なるほど、どうやらここも本来チュートリアルを進めていれば来る場所だったようた。
俺は先行するグレイの背中を見ながら後に続く。
「アズっち、アズっち!」
「アズっち言うな」
「良いじゃん!あたし達の仲っしょ!」
しばらく何も無いただの水路を歩いていると陽キャラ共が話しかけてきやがった。
仲も何も、今日初めて会ったレベルなんだが?
「しっかしアズちーから流暢な日本語が出てくるとマジ違和感パネェっすねー」
「ほんとほんと、完璧な日本語」
「・・・まぁこのゲームをやってれば、そんな違和感すぐ無くなると思うぞ?」
俺はその場しのぎで適当な言葉を紡ぐ。
今回この陽キャラ共には、BGOでは自動音声翻訳機能がついていると説明している、実際はそんな機能無いので嘘である。
そしてこいつら陽キャラ勢が何故オンラインゲームをしてるのかと言うと、学校で俺がこのゲームをしてると聞いたかららしい。
何か知らんが、えらく気に入られてしまったようだ。
「ところでアズっぺはあの人とどういう関係なのさ?」
「思った、ただの知り合いとは思えないよねー」
「・・・は?」
俺はキャピキャピ話す陽の人達をパチクリと見てしまう。
「それにあの身のこなし、あたしの天才的眼がかなりの人と見たよ」
その天才的眼は腐ってると思うぞ?
というか確かにいつも冬眠中の熊のようなグレイの動きが、普段よりちゃんとしてるというかなんというか・・・
俺は学友二人を置いて、グレイにこっそりと話しかける。
「なんだ?いつもよりキッチリした動きだけどJKに見られてるから張り切ってるのか?」
「ん?ああ、ちょっとさっきの安酒のせいかチンポジがおかしくてな」
・・・
やっぱ腐ってると思うんだよなぁ。
正直リアルの名前も覚えてない陽キャラ共だが、こんなのは選ばないよう教えといてや・・・あれ?
「なぁグレイ、陽・・・新人共がいないんだが?」
「何?」
俺とグレイは急いで周りを見渡すが、生き物の気配すら感じない。
「もしかしてはぐれた?」
「だ・・・ろうな・・・」
なんて面倒な・・・。
探すにしたって水路はかなり広いし・・・。
「あれ?」
しかし俺はここに来て他の問題に気づいてしまう。
先ほどまで陽キャラどもがいたからそうでもなかったが・・・もしかして水路の中ってかなり不気味だよな?
「な・・・なぁグレイ・・・あのさ・・・」
「ひぇあああああああ!?」
俺が不安気にグレイの袖を掴むと、グレイが奇声を上げて壁に張り付きだした。
・・・あれ?もしかして・・・。
「・・・あ、そこに顔の無い人影「ぎぃやああああああ!?」」
「・・・」
なんかあれだ、人が怖がってるのを見ると不思議と怖く無くなってくるな。
「ああああああアズさん!?アズさん!?手!手!」
「はいはいどうしたんだ?手でも繋いで欲しいのか?」
俺はヤレヤレとグレイの手を掴むために手をあげようとして、肩に違和感がある事に気が付く。
そこには手首より先がない何かがあって・・・
「・・・手?」
俺が無言で前を見ると、グレイが物凄い勢いで首を縦に振っている。
「「いやああああああああああ!?」」