第八十一話 知り合いに会った時、挨拶するのはマナー
唐突だが、皆さんは知り合い・・・とまでもいかないまでも、同じクラスの人物とすれ違った時どんな対応をするだろうか。
リア充もとい社交性が多少ある人なら挨拶、最低でも会釈ぐらいするんじゃないだろうか?
学生が社会人になっていく過程で学ぶ、対人スキルの一つともいえる。
俺はすれ違うクラスメイトから隠れるように、隣を歩く人物の背中に隠れる。
まぁ俺はしないんだが。
生憎と俺は社会人では無いし、超がつくインドア派なものでね。
背中に隠れた俺に渋い顔をしながら、フーキがクラスメイト達に軽く挨拶をする。
「流石フーキだぜ、見ず知らずの人間に挨拶するなんて」
「見ず知らずでもないし、大和は良い加減その人間不信なんとかせん?」
「今は大和じゃない、アズだ」
見ず知らずの人、もといクラスメイトが視界から消えたのを確認して安堵の息を放つ。
そんな様子を見ながら首を傾げるのは、何故か一緒に登校する事になったメアリーさん。
何でこっちでもメアリーで通っているのかは考えたら負けなのだろうか?
「あら?アズちゃんは結構馴れ馴・・・フレンドリーな方だったと記憶してますが・・・」
「メアリーさん今馴れ馴れしいって言おうとしませんでした?」
半眼で睨むが、ニコニコと笑顔で返されてしまった。
肯定はしないが否定もしないってか?本人目の前にしてやっぱメアリーさんはすげぇよ。
「・・・あれはゲーム内だからですよ、ゲームとリアルをいっしょくたにしちゃだめですよ?」
メアリーさんの言葉にヤレヤレと首を横に振っておく。
『アズちゃんはリアルアバターの癖に本気であれを言ってるのでしょうか?』
『アズは昔っからチビに見られとったんよ、せやからああやってちょっと大人ぶるのが好になってもうたんよ』
『あらまぁ・・・お可愛い事』
「おいおい、俺を置いて二人でコソコソ話とは良い度胸じゃないか!良いのか?泣くぞ?泣いちゃうぞ?」
俺に聞こえないようにヒソヒソと話出す二人に軽く脅しを入れておく。
本当に泣きはしないが、ヒソヒソと話されたら陰口をたたかれてるみたいで目頭が熱くなってくるんだよ・・・泣きはしないが。
「せやけどわいもそろそろアズは独り立ちして良い頃やと思うんよ」
「え?ちょ!」
フーキはそんな台詞と共に俺の襟首を掴むと、いつの間にか現れたクラスメイトBの前に俺をつまみ出す。
「え?あ・・・あの・・・」
「ほらアズちゃん、挨拶はどないしたん?」
ニヤニヤと俺を小突くフーキ、こいつは後で八つ裂きにしてやる。
それはそれとして俺は涙目で目の前の試練に視線を向ける。
「お・・・お・・・」
クラスメイトは俺の様子に困惑の表情を浮かべる。
「おは」
しかし俺はそこまで口にして、ゲームで無駄に鍛えられた俊敏値でフーキの背中に引っ付く。
「ううぅぅぅ、ふーぎぃぃぃぃ」
「ああはいはい、アズは頑張った頑張った」
ヤレヤレと両手を挙げるフーキ、もとはと言えばお前のせいだからな?
そして何故か隣で勢いよく鼻血を噴出するメアリーさん。
「かっは!ふふふフーキさん、はやくそのアズちゃんを私にパスしてください、涙目でフーキさんの背中でグズるアズちゃんメニアック!」
「はいはい、メアリーさんも落ち着くんよ」
慣れたようにメアリーさんの頭を鷲掴みにするフーキ。
「ちょいわいの連れがすまんな、また後で」
『あ、ああ』
俺達の奇行に困惑の色を強めていたクラスメイトは、冷静さを取り戻すと顔を真剣な物に変える。
『フーキ、ついに本物に手を出したのか?一緒に警察署まで行こうか?』
「なんでそうなったん!?」
『いや、だってなぁ?』
クラスメイトは俺とフーキを見比べる。
『こんな可愛い幼女、ロリコンフーキが手を出さない訳ないじゃないか』
「何なんその異名!?」
遂に今まで常識人ポジに落ち着こうとしていたフーキが喚きだす。
しかし俺の事を幼女とな?
俺が言うのもなんだが、こいつは同じクラスだった筈だし顔を覚えてても良さそうな・・・
「ああ、そうだった」
俺はここに来て自分が今小さくなっている事を思い出す。
何かフーキ、メアリーさんといるといつも通りというかなんというか、完全に忘れていた。
ここはすぐにでもフーキから離れるか、自分は幼女ではないと名乗りをあげるべきなのだろうが・・・
でもまぁもう少しこのままでも良いかもしれない。
悪戯心をくすぐられた俺は、少し強めにフーキの背中を抱きしめる。
「ちょ、アズ!?」
『おまわりさーん!』
「ちょ、おま!?」
かくして、ブレーキ役も壊れた俺達の通学は更に混乱を深めるのであった。
◇
ふわふわとした意識の中、少女は灰色の空を見上げる。
空は生憎の雨模様、今すぐにでも軒並み求めて退避したい所だが・・・
『むぅ』
しかし体は自由に動かす事が出来ず、自分の考えとは全く違う動きをする。
いつか何処かで見たような光景に、少女はハッと心の中で呟く。
『これは・・・きおく?』
いつ、どこで、何の記憶かはサッパリわからない。
「ときは きた」
夢の中でそう呟く自分に首を傾げる。
『なに が?』
「最後の 試練」
自分の声が届いたわけでもないだろうに、少女は無表情に呟くと手に持った軍配を掲げる。
『さいご しれん?』
「数々の戦で 民の心 アーサーに無い」
誰に語るでもなく、少女が軍配を振り下ろすと同時に背後から怒声が響き渡る。
「ここで 負ければ アーサーが天下一」
現在の状況と少女の台詞で、現在のおおよその状況を把握する。
すると今がいつ、どんな状況だったかがどんどん頭の中に入り込んでくる感覚に襲われる。
まだ少女が幼かった頃、群雄割拠の時代。
共に天下を目指した王に約束された勝利を与える最後の戦。
この戦で負ければ、自分の所有している土地、民を全て無条件で差し出す事が出来る裏技。
『わざと・・・負ける?』
そう心の中で呟くが、少女は無表情ながらも口角吊り上がるような感覚に襲われる。
『それは、あり得ない』
自分が相当な負けず嫌いだった事を思い出しながら、少女は夢の中の少女と同じように口を開く。
『「やるからに は 勝つ」』
〖不確定要素の沈黙を確認、修復再開します〗




