第七十五話 最強の呪文
「のわっぷす!?ま~たすっごい揺れたな!?」
本日何度目かの轟音と共に揺れる地面に手をつく
さっきから地面が揺れたり光ったり轟音が鳴ったり、この城は一体どうしてしまったのやら
多分グラン辺りが暴れているのだろうが、ランズロットさんは兎も角グレイ何かと戦うのにこんなに派手にやり合うもんかね?
それこそグレイが伝説級の武器でも使ってるのなら話は別だろうが、BGOニートに近いあいつがこのゲームでそんな武器を手に入れる手段なんてないだろうし
「・・・しかし」
俺は見慣れた花瓶を見ながら顔を顰める
「メアリーさんメアリーさん、何かさっきから同じ場所ばかり通ってる気がするんですが?」
後方を走るメアリーさんに視線を向けると、何やら手で顔を覆い尽くし出す
「ええ、間違いありませんわ、これは敵の結界魔法・・・無限牢獄に違いありません」
「・・・その名前は今思いつきましたよね?」
あ!露骨に目を逸らしやがった!
「それにしてもさっきまで瀕死状態でとてもキュートだったのに随分と元気になられましたね?」
「んー、なんかさっき光るエフェクトが現れてからすっごい調子が良いんだよなぁ」
体調はもちろんの事ながら、何かすっごいバフが掛かってる気分
具体的には大型アップデート一回分・・・レベル+30くらいしてそうな感じだ
おかげで女子にお姫様抱っこをされるという悪夢から抜け出す事が出来たし、謎の光万々歳だ
「そういう物ですか・・・あっ!そういえば困ったときにこれを使えとマスターより預かっている物があったのでした!」
マスター・・・?
ああ、馬鹿兄の事か
いざという時の為に何か役に立つ物を渡せる程機転が利く男ではなかった筈だが・・・
俺が訝し気な表情を浮かべていると、メアリーさんがごそごそとインベントリからアイテムを取り出す
「どこでもテレフォン~」
若干某猫のモノマネ入ってませんかね?
ツッコミたい気持ちを抑えていると、メアリーさんから少し古いデザインのガラケーを手渡される
「・・・なんでガラケー?」
「マスター曰く一番通信が安定する形状だそうですわ」
「ふむ、スマホとかじゃダメだったのかな?」
「マスター曰く、『スマホの力を過信してはいけない』だそうです」
いや、微妙に俺の望む答えとはズレてるんだが・・・まぁいいや
俺はガラケーを開き電話帳を開く
ガラケー、通信と言われればもうこれしかないだ・・・・おいおいおい!電話帳の中に太郎兄とサトミ姉の名前しか無いんだけどぉ!?これ絶対俺のやつって思われたくねぇよ!!
「現実のアズちゃんのスマホも似たような物では?」
「失礼ですね!フーキとかもいますー!・・・あとナチュラルに心を読まんといてください!」
頬を膨らませながらも馬鹿兄に発信、聞きなれたコール音の後にこれまた聞きなれた声が聞こえてくる
『こちら太郎、レジスタンスナンバー01メアリー、君がミッション中に連絡なんて珍しいな』
「悪いけどメアリーさんじゃないよ」
いきなりの厨二的セリフに頭を抱えたくなりそうになりながらも返答だけはしておく
これがウチの兄とか・・・しかも今までと若干違うキャラ設定だし
『・・・その声はアズか、という事はミッションの第一段階は成功し・・・逃走中といった所か』
ミッション第一段階って何だよ!とか厨二病にツッコンだら負けなんだろうな
『無言は肯定とみなす、ふむ、という事は大方チートツールを使われて逃げれないといった所か?』
「その通りだけどもしかして近くにいたりするの?」
周りを見回すが人影は無い
『そこは推測だ、今こちら側からワクチンプログラムを注入した、窓の外を見てみろ』
馬鹿兄は何を言っているんだ?
言われるがままに窓を開けて外を見る
「な・・・なんじゃこりゃあ!?」
そこにはどこぞのガノン城よろしく、断崖絶壁に囲まれた風景
『外の区域が侵入不可及び未実装エリアになっていたからな、俺が別途で用意していたエリアで補填させてもらった』
サラッとゲーム改ざんしてるが垢バン対象じゃないかこれ?
というか・・・
「どっちにしろこんな断崖絶壁どうやって突破しろと!?」
まだ賢者達からメダル貰って無いし虹の橋とか作れませんよ!?
『そんな物空を飛べば・・・ああ、なるほど』
太郎兄がガラケーの向こうで何か納得したように言葉を漏らす
『今その場所はグランの力で一時的にすべての電子世界がリンクしている・・・アズ、お前は空を飛ぶ術を有していると思うが?インベントリを見てみろ』
はぁ!?全ての電子世界がリンク!?
もうどこまで本当でどこまで厨二かわっかんねぇよ!
インベントリを開くと昔オンラインゲームをしていた頃のアイテムが収納されていて更に頭を抱える
「・・・俺はもうこういうアイテムは卒業したんだけどなぁ」
『言ってる場合ではないだろう、・・・む!?外部より本部にアクセスを感知、すまんが通話を遮断する』
プーップーッと鳴るガラケーをメアリーさんに投げ渡し、インベントリから《天使の羽》を取り出して装備
背中から純白の羽がはえてくる
「キャー!アズリエルちゃん降臨、キャー!」
半眼で黄色い声を挙げるメアリーさんの首元を掴み、窓の外に身を乗り出す
もうなるようになれだ!
「おお・・・妖精の羽の時みたいに難しい操作が必要なのかと思ったが、なんかイメージ通りに飛べるな」
力強く翼をはばたかせて上空に飛翔、少し遠くに見える大地目掛けて旋回する
「妖精の羽は実物、その天使の羽はシステム上の物ですからね」
「いや、どっちもシステム上の物だろ?」
こいつは何を言っているんだ?
首根っこを掴まれたまま優雅に紅茶をキメるメアリーさんを見下ろすが、それ以上の答えは無いといったご様子
「まぁいいか・・・これでやっとログアウト出来る」
正直数日ログアウトしてないからな、リアルの俺がどうなっているのかそっちの方が気になる
まず汗がヤバそうだし風呂だな、まさか病院に移送されてたりしないよな?逆に家でサトミ姉が甲斐甲斐しく世話をしてる可能性も・・・
どちらにせよ速くログアウトして・・・
俺がログアウトしてからの事を考えていると、背後から咆哮が聞こえてくる
「アズちゃんアズちゃん?どうやらそう簡単に逃がしてはくれないみたいですわよ?」
「・・・デスヨネー」
軽く首を動かして背後を確認すると、どこぞのGウィルスを取り込んだ科学者の如く
黒く肥大化させた腕をはやした化け物が空を飛んでいるのが見える
・・・化け物じみた姿になってはいるが・・・グランの面影があるなぁ
「あらあら、やっぱりミッションのラストにこういったイベントは付き物ですわ!・・・でもいささか優雅さに欠けますわね」
メアリーさんがふふっと紅茶を地面という大穴にこぼすと、突如地面が現れ・・・
「メアリーさんまでデータかいざぶふぅ!?」
同時に背中の羽が消え去り、地面に顔からダイブする
「マスターの注入したワクチンプログラムが切れただけですわよ、ここは元の・・・チートツールを使われていないフィールドです」
「わかってたなら俺にも教えてくださいよ・・・」
優雅に地面に着地したメアリーさんをジト目で睨むが、「あらあら」とはぐらかされてしまった
「ふざけ・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「のわっぷ!?急に何事!?」
おお・・・びっくりした・・・
突如背後から聞こえてきた絶叫に胸を抑えながら視線を向ける
そこでは黒い化け物の姿ではなく、エセ王子の姿に戻ったグランが地面を叩きながら雄たけびをあげている
「ワタクシの・・・俺の計画が・・・こな・・・こなばななぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あんなに叫んで喉は大丈夫だろうか?
まぁ今の内にトンヌラ・・・あ、こっち見た
「おのれぇぇ!貴様が、貴様さえいなければぁぁ!!」
グランが腰のレイピアに手を掛ける
何か知らんがお得意のチートは使えない感じなのか?
・・・だとしたら勝ち目はあるな
警戒しながらも杖を構えようとした所で、グランの背後でポーズを決めている馬鹿を見つけて頭を抱える
「世界終焉の時、貴様と我がここで出会う事・・・それすなわち運命」
グランは唐突に背後の馬鹿から声をかけられ一瞬ポカンとするが、すぐさま怒りの形相を浮かべる
「おのれぇ!!言霊の巫女も!叡智の賢者もいない世界で!尚もワタクシの邪魔をするか†エンド・・・シャドウ†!!!!」
「え?・・・ッハ!我が宿敵、†暗黒邪帝グラン†よ!我らが戦うのは星の運命、いかにしても運命から逃れられぬ」
どんだけ運命好きなんだよ
グランの叫びに馬鹿兄は何か気づいたかのようにポーズを整える、なんかここ数年で一番の笑みを浮かべてるぞ?
というか今一瞬素に戻ってなかったか?
「なぁメアリーさん、うちの馬鹿はもう手遅れなのでしょうか?」
俺が疲れたようにメアリーさんを見上げると、メアリーさんが真剣な表情を浮かべている
「ええ」
あ~あ、メアリーさんにまで認められ・・・
「かの王子はまさしく†暗黒邪帝グラン†!私に封印されし言霊の巫女の力が・・・っく!」
お前も乗っかるんかーい!!!!
もうあいつの事は厨二病共に任せて俺は先にログアウトしても良いんじゃないか?
そんな事を考えながら成り行きを見守っていると、俺の背後から「クックック」と笑い声が聞こえてくる
まだ厨二患者共が増えるのか?
「へ!ざまぁねぇな!その顔が見たかったんだ!」
げぇ!?ダなんとかぁ!?
まさかここまで来て赤金の鷲のリーダーまでPOPしてくるなんて・・・
「だぁぁれがダなんとかだ!!!俺様の名前はダ」
「何故!?何故貴様がここに!?貴様のアバターは確かにデータを改竄された筈!?」
何かを叫ぼうとした赤髪は、ここに来て初めて混乱しだしたグランの顔をぶん殴りながらドヤ顔を決める
「んなもん運営に垢ハックされたって通報したんだよ、通報」
「「「う、うわぁ~」」」
それをお前がやるのか・・・
俺達全員から白い目で見られながら、赤髪はしたり顔でグランに視線を向けている
まぁこの様子じゃあ今回は敵じゃないのか?
「つってもレベルは一桁からになっちまったわけだし?俺様もやられっぱなしってのは嫌だったんでなぁ?」
なるほど、それで騒ぎに便乗して暴れにきたってところか?
レベル一桁で?ぷーくすくす!
「まぁてめぇの悔しがる顔も見れたし満足したわ」
赤髪は本当に満足そうに首を縦に振ると、何やら虚空で手を動かす
するとグランの周りに白い十字架が舞い降り、グランを拘束する
「おいおい、ダなんとかさんは戦士職だったんじゃ?あれはどう考えても魔法だよな!?」
俺が渋い顔をする中、赤髪は何言ってんだコイツ等?って目でこちらを見る
「ああ?てめぇこれ使った事ねぇのかよ?」
使った事?
って事はなんだろう、あれは誰でも出来るもんなのか?
馬鹿兄に視線を向けるがなんか目をキラキラさせてるし
「かぁー!!まさか真面目にプレイしてるやつの方が知らねぇとはなぁ!!」
ダなんとかさんは髪をクシャクシャしながら、それでいてすっごいうれしそうに操作を続ける
すると今まで変動が無かったグランのHPが白く染まっていく
「おのれ・・・おのれおのれおのれ!コード※※※※!っぐぅ!?何故だ!?何故効果を発揮しない!?」
粒子となって消えて行くグランに、赤髪が中指を立てる
「通報しました」
「台無しだよぉ!!!」




