第七十三話 正義のヒーロー?
玉座の間
しかしそこに座する王はおらず、変わりに一人の子供がチョコンと座らされている
そしてその子供の周りを慈しむように、憎むように、一人の金髪男が笑みを浮かべながら歩き回る
「やれやれ、まさかシープ家が邪魔をしてくるなんてとんだ損失ですよ、これでは遠征中の父上に合わせる顔が無い」
グランが笑顔のまま両手を挙げて困った困ったと呟いている
「・・・その割に嬉しそうですね?」
「とぉんでもない!第一王子として!死んだ兵士達に合わせる顔がない!」
グランは片手で顔を覆い隠すとカタカタ震えだす
もしかして本気で悲しんでたりするのか?
どんな悪人にも良い所はあると言われている、もしかしたら・・・
俺が訝し気にグランに視線を向けると、グランが顔を覆ったまま腹を抱えて笑いだす
「まったく馬鹿な人達ですよね〜?」
「・・・まぁそうだよな」
やっぱこいつ下種だわ!
心底憎しみを込めてグランを睨む
「おや〜?私とやる気ですか〜?」
グランが俺の首を掴むと、腰のレイピアを抜きさす
「ほらほら、刺しちゃいますよ~?」
「は?それが脅しのつもりか?残念ながらここに連れ去られた時に痛み設定は0にしてあるぜ?」
「当然知ってますよ~!で・す・の・で!コード※※※!!!」
グランはねっとりと謎のアーツを放つと。玉座に座っている俺の指をレイピアでちょんちょん突く
「だから痛み設定は0にしてるって言ってんだぁ!?」
右手に走る激痛に声にならない叫びをあげていると、グランが今度は足で俺の首を玉座に固定する
いたい!?なんで!?設定は確かに0、なのになんでこんな激痛が!?
「貴方は知っているでしょ~う?チート・・・ですよ~」
グランは混乱する俺をあざ笑いながら今度はふともも目掛けてレイピアを突きさす
同時に凄まじい熱と痛みが全身を駆け巡り、声にならない悲鳴をあげてしまう
「おやおや?貴方のご友人はこの程度の痛みじゃ表情すら変えませんでしたけどねぇ・・・」
・・・それって・・・フーキの事・・・か?
そうか、フーキはこのくらいの痛みじゃあ表情一つ変えないのか
まぁあいつは昔からやんちゃだったからな
よく泣き虫とからかわれてた俺の為にいじめっ子に突撃してたっけ
おかげで今では少し泣き癖が治ったんだが・・・こんな場所で泣いてちゃまだまだだよな
「へへん!いた、くも、なん、とも、ない、ね」
「へぇ〜そうですかぁ!」
「ぐぅ!?これがどうしたってんだ」
俺は全身を震わせながらもグランを睨み返す
「へぇ~そうですか~?」
グランは心底虫唾が走る表情で反対のふとももを貫く
「そういえば前に演習場でご学友に言ってましたよね~?ズルしようがイカサマしようが勝ぁてばよかろうなのだー・・・でしたっけ?ワタクシもそう思いますよ~!気が合いますねぇ!・・・ってあら~?もう壊れちゃったんですか~?」
痛みで思考が霞む中
愉悦な表情で俺の顔を覗き込むグランを見ながら、過去の出来事が走馬燈のように流れる
そういえば昔も似たような事があったな
その時も確かヤンキー共に捕まって脅されて、本当に恐怖した記憶がある
その時はどうやって助かったんだっけ
ああそうだ、あの時は確か・・・
薄れゆく意識の中、視界の先で吹き飛ばされたグランを見て笑みを浮かべる
そう、あの時もこんな風に・・・
俺はグランを吹き飛ばしたであろう男・・・緑髪に視線を向ける
「おいおいおい大丈夫かよアズ!」
「・・・チェンジで」
「なんで!?」
助けに来たであろうグレイがわめきだす
おいおい、ただでさえ下種野郎にいじめられて疲れてるのに勘弁してくれよ・・・
助けに来てくれたのは感謝するが、こいつに助けられたと思うと後が怖い
そんな複雑な心境でグレイを見上げていると、最近見慣れつつあるメイド姿の女性が駆け寄って来る
「ああ!アズちゃんの綺麗な柔肌に傷が!消毒・・・ペロペロすれば良いのでしょうか!?」
「やめろ、まじでやめろ」
若干パニックになっているのか、いつものクールビューティーさが何処かに行ってしまったメアリーさんが顔を青くしながらオロオロしている
もしかしたらこっちが素なのかもしれない
「そんな後生・・・にゃ!?にゃにゃにゃ!?」
グッタリとメアリーさんに寄り掛かると、メアリーさんが変な声を出しながらヨダレを垂らしだす
この人は一体どこに行こうとしているのだろうか・・・
「おやおや!正義のヒーローのお出ましですかぁ!?感動的すぎて反吐が出ますねぇ!」
俺達をあざ笑うかのように、HPゲージが微動だにしないグランが拍手をしながら起き上る
「私の見た感じ・・・レベルは53ですね」
グレイとメアリーさんに続いてランズロットさんが玉座の間に入って来る
随分と変な構成だがこの三人に共通点なんてあったか・・・?
「今回は冒険者で誰が一番早くアズを助けに来れるかって競争してたからな」
メアリーさんの応急手当により痛みが薄れていく中、俺の不思議そうな表情を読んだグレイが答えてくれる
おい!人のピンチで遊んでんじゃないよ!!
「でもまぁ・・・そんな楽しい雰囲気じゃないみたいだな、その傷少し見せて」
「アズちゃんに触るな害虫!」
「ひどくない!?」
メアリーさんにはたかれながらも、グレイは応急手当される俺の傷を見て珍しく真剣な表情を浮かべる
「おい、ここは俺が足止めしといてやるからさっさとアズを連れてけ」
「な・・・グレイ・・・・肩に剣刺さってるぞ?」
「いってぇぇぇぇぇぇ!?」
グレイは床でもがきながら肩に刺さった剣を引き抜き、親指を立てる
「良いからさっさと行けって、子供を守るのがOTONAの仕事だ」
「・・・わかりました」
メアリーさんは微妙な表情で頷き俺をお姫様抱っこする
普段なら文句の一つでも言う所だが今はそんな元気は無い、変わりに心配そうにグレイを見ておく
「大丈夫だアズ、俺が死ぬのはアズリエルさんの膝のうべし!?」
気持ち悪いドヤ顔を浮かべるグレイの顔をグランが踏みつけ、口角を吊り上げる
「逃がす訳ないじゃないですか~!」
グレイを踏みつけたポーズのままグランが指パッチンすると、どこからどもなく兵士がPOPしてくる
「・・・手ごたえがありませんね」
メアリーさんが近づいてくる兵士の急所を斬りつけまくるが、兵士は何事も無かったかのようにのそのそと近づいてくる
こいつら件のバイオハザード系兵士か・・・!
「ハッハァ!そいつらはワタクシの特別製ですからねぇ!しかし・・・おんやぁ〜?随分と高いHPですね〜?」
壁に追い詰められる俺とメアリーさんを片目に、グランが再び足を振り上げ何度もグレイを踏みつける
いくら高HPとはいえ、数回数十回蹴られHPを大きく削られる
「ほんとにタフなお方だ~」
グランはグレイの喉元を掴み持ち上げると、軽く押すようにグレイの心臓を貫く
即死はしなかったもののグレイのHPがどんどん白くなっていく
「これで終わりですねぇ~?」
腕を引き抜こうとしたグランの動きが止まる
否、止められた
グレイは体を貫かれた状態のままグランの腕を掴むと俺を睨み大声で叫ぶ
「いっけえええええ!!!」
「なんだと!?」
驚愕の表情を浮かべるグランにグレイがしがみつく
「グレイ・・・!」
グランが驚いた拍子にゾンビ兵達の動きが鈍り、その隙にすかさずメアリーさんが包囲網を突破する
今なら俺達は逃げ出せる・・・けど・・・!
グレイは親指を立てると、さっさと行けとばかりに手を振るう
「今日の晩御飯は楽しみにしてるぜ」