第六十六話 産まれぬ者と産み出すもの
妖精
近代社会の物語において記載される幼い容姿をした人ならざる存在
物語において、その幼い容姿から明るい可愛らしい存在として扱われる事が度々あるが、
その実、国によっては妖怪や魔物と記載されていたりもする
そんな妖精だが、BGOの世界では種として認められつつもどちらかというと後者に部類される
何故かというと、それは妖精の生まれる理由にある
◇
暗い暗い真っ暗な道
果たして私は、僕は、何度この道を歩いた事だろう
全身を襲う強烈な痛みに体を抱こうとするが、自信に実体が無い事を思い出す
『とんだ間抜けだな、だったね』
どうやら今回も失敗してしまったらしい
『だが俺が、アタシが妖精である限り、アタシは滅びぬ、何度でも蘇るさ』
実体が無いままフラフラと暗い道を彷徨い続ける妖精の目に、ボンヤリと光る少女の姿が浮かび上がる
どうやらまた新入りが産まれたらしい
妖精はボーっと虚空を眺める少女に近づく
喋る事は出来ないが、同じ存在同士なら意思を通じさせれる
『そこの女よ、少女さん、何を見つめているんダイ?』
少女は何も無い所から唐突に話かけられたにもかかわらず、驚きもせず虚空を眺め続ける
「産まれるのを待ってるの、もうすぐ私のお父さんとお母さんと会えるんだ」
少女は無表情に、しかし何かソワソワした様子で虚空を眺め続けている
どうやらこの子はまだ気づいていないらしい
『ここは死の世界、否、その例えは的確ではないか』
現実を伝えるのは少し心苦しいが、知恵ある者が教えなければ彼女はいずれ魔物になる
もっとも、私が存在しなければ妖精など魔物と同列だったのだがね
『君を産むべき人間に何があったのかは知らんが、この世界で君が生を受ける事はないでありますよ』
俺の言葉に少女は意味が分からないといったように首を傾けている
まだ産まれてもいないのだ、仕方ない
『君に残された選択肢は三つ、一つはこのまま無意味に待ち続け消滅する事』
少女は消滅という言葉を聞き、初めて動揺に目を動かす
『二つ、このまま無策にあらがい何かしらの魔物と融合して討伐される』
少女は無表情なままボロボロと涙を流しだす
本人も何故泣いているかはわかっていないようだが、本能というやつだろう
『三つ、私と共に・・・妖精としてこの世に生を受ける、どうだい?』
僕が震える少女の手に近づくと、少女は涙を流しながら首を縦にふる
そうだ、それで良い
『ならば僕等、私達と共に行こう』
少女の体が薄い光を帯びて私の中に入り込んでくる
妖精は先ほどよりも感覚が鮮明になってきた事を感じながら、歩を進める
「この柔らかい感覚、多分アタシは今女の姿をしているのでしょうね」
BGOにおける妖精の産まれ方
それは本来存在しえたかもしれない人、産まれるはずだった人々の悲しみの念が自然と形を成した存在
幽霊という訳でもなく、生者という訳でもない・・・
「まぁ普通の妖精なんて私みたいに賢いわけでもないんだがね」
依然として真っ暗な道を進む少女は力強く歩き続ける
行く当てならある、その為に色々準備した・・・この懐かしい感覚を辿っていけば・・・!
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チュンチュンという小鳥のさえずりを聞きながら、重たい瞼を開く
「・・・夢か」
痛む頭を押さえながらベッドから上半身を起こす
何だかとても辛くて悲しい夢だった気が・・・
自然と流れる涙に首を傾げながらも、頬を叩いて喝を入れる
そんな事を考えている場合じゃない
「しかし何で俺はゲーム内で寝落ちし・・・ああ、昨日はダンスの練習で徹夜したからか」
インベントリを開いて最終確認しながらカーテンを開ける
「ほほー!ここまでくるとやっぱイベントだよなぁ!」
街を歩く仮装した人々や豪華な馬車
西洋風の家々には電装がつけられ、街をきらびやかに彩っている
今日はドルガさんのクエスト・・・舞踏会の日
「オラわくわくしてきたぞ!」