第六十二話 王国に潜む闇
木漏れ日溢れる閑静な住宅地の一角にそびえ立つ真新しい料理店
カランカランという音と共にドアを開けると、少年とも少女ともいえる店主が笑顔で出迎えてくれる
「おや、いらっしゃいませ」
店主は新調したであろう杖らしきものをキュキュッと拭きあげ、ニヤリと笑みを浮かべる
「いつもの・・・ですね?」
店主はわかっているとでもいうようにサンドワームを取り出し、調理していく
「お待たせしました・・・こちら、サンドワームのムニエルにございます」
「アズ・・・おめぇ・・・」
「おっと、わかっていますよ、エレガントクック・・・更にエレガントクック!」
店主は何か言おうとする客に、人差し指を立てて口元に持っていく
「これは俺の店の秘密のおまじないです、しかも2倍・・・他言は無用ですよ?」
「だがら、そういうのはいいがら」
◇
「アズ、おめぇ・・・依頼があるんだ」
くそ!何という事だ!!
なんとかその場の雰囲気で押し通そうと思ったが駄目だった!!!
「いえいえ、俺は今や超有名プレイヤーですからね、おいそれと気軽に助っ人にいけませんよ?」
「つってもおめぇ・・・」
再びフーキ棒を拭きあげる俺を見ながら、ドルガさんが周りを見渡す
「そうは見えねぇど?」
「うるっさいですよ!超有名な稀少プレイヤーなんです、伝説なんです!」
俺はわかってないなーと言った感じで手を振る
確かーにフレンドは二桁どころか0から数えた方がはやかったりもするが、これは伝説故の孤独
つまり仕方のない事なのです
「それで?人攫いの件は解決したのでは?」
確か海賊騒動の一件の後、赤金の鷲のクラマスと副マスは共に行方不明
それに伴い人攫いを手引きしていたやつらが沈静化、クエストは見事達成という形になった筈だ
「その件は解決しただ、感謝しどる」
「ふむ、だとしたらやはり恋愛相談でしょうか?最近では思いっきり甘やかして、日々の疲れを癒すという手も存在するようですよ?」
「そでは一考の余地があるげども、それじゃあねぇ」
ふむ、これも違ったか
というか一考の余地があるのか、一瞬家に帰ったらキッチンで鍋を回しているドルガさんを想像してしまったじゃないか
とんだホラーだよ!あれは可愛いキャラクターがやっているから良いのであって、ドルガさんのような男がやっていたらただの犯罪、凶悪な怪異でしかない
「・・・だとしたらどんなクエストなんですか?」
俺の質問に、ドルガさんが険しい表情を浮かべる
何かこの流れ前もあったな
「実はここ最近城の様子がおかしいんだぁ」
「城の様子ですか?」
「そうだぁ・・・何でいうが・・・城の兵士に活気がねぇんだぁ」
ゲームの世界では割と定番だな
こういう場合城が何者かに支配されてたり、お城のお偉いさんが魔物だったりするパティーンだ
まぁお城の人物には学園に通ってた時お世話になったからな、あの人達が酷い目にあってると思うと俺もやぶさかではない
「良いですよ、だったら俺がそのお城に巣食う魔物を退治してあげましょう」
「魔物だ?そんなやつはいねぇと思うが・・・」
「何をおっしゃいます、こういう異変の背景には必ず魔物がいる物なのですよ」
俺はフーキ棒をブンブン振り回しながら、インベントリにしまう
「しかし俺は学園を退学したバリバリの冒険者、なんとかして潜入する方法があれば良いのですが」
「まだ魔物が原因とは・・・まぁ潜入ずるのなら問題ないぞ?」
そう言いながらドルガさんが一枚の紙に何かを書き連ねると、近くで控えていた兵士に手渡す
< 緊急クエスト発生 >
< グラフ舞踏会 >
わーお、なんか緊急クエストが発生しちゃったぞ?
しかも参加自由の全プレイヤー対象クエスト、下手したらイベント並みにヤバイクエストだ
「・・・ドルガさんって実はかなり凄い人ですよね?」
「んなこだぁねぇ、俺はただの酒場の主人だぁ」
ただの酒場の主人が封書一枚で舞踏会を開宴してたまるものか!
「まぁ良いですけど、俺は例によって正義心強い一般ピーポーですからね」
「それじゃあ俺はごれから準備に入る!!後は任せるだ!!」
ガタリと立ち上がり、勢いよく店を飛び出していくドルガさん
そんな背中を見送りながら、今や我が家宝ともいえるグラスを棚に戻す
「さて、となるとまた料理店は休業か・・・」
良い加減客の一人でも来て欲しい物だが・・・
メニュー画面を開き、訪問設定をクローズに変更する
「さて、クエストまではもうちょっと時間があるし、俺は俺で準備をしますかねぇ」
◇
「アズ!やっと学校に行く気になったのか!!」
「行く気も何も俺は退学した身だからな?おいそれと入場できないぞ」
舞踏会の準備という事でムーたんの実家を訪ねた俺は、現在簀巻きにされてムーたんの足元に転がされている
「というか良い加減解放してくれよ、俺が何したっていうんだ」
俺の恨みがましい視線にムーたんが困った表情を浮かべている
「何って・・・当家はこれでもグラフで3つの指に入る名家だぞ?そこにコソ泥まがいのやつが潜入してきたらこうなるだろう、むしろその状態とはいえ僕の所まで来れた所が驚嘆に値するよ」
「なんか奇跡でも起きた風な言い方だが、これは俺が頑張ってお前の家の兵士に駄々こねた結果だからな?人の努力を奇跡で解決するなよ?」
「お前は・・・いや、アズはそういう奴だったな」
何やら溜息を吐かれているが、溜息を吐く前に縄をほどいて欲しい
「それで?学校に行く気になったのではないのなら当家に何用だい?」
やっと縄をほどいてもらい、豪華な椅子に座った俺は机の上の菓子を一つまみ
「ボリボリ、ボリボリボリボリ・・・・ボリボリ」
「ええい!食いながら喋るな!というか何当然のように僕の菓子を食べているんだ!」
当然のようにも何も、ムーたんの物は俺の物、当然の摂理のつもりだったが・・・
「というよりムーたんってそんな喋り方で叫び芸かます奴だったっけ?」
「誰のせいだ誰の!・・・今日は別国から高名な占い師が来ているんだ」
「高名な占い師?」
「そうだ」
何でもムーたんの話だと、その言葉で国一つを動かす程の超有名人らしい
それがこの国を訪れているから、グラフの名家王家は大慌て
そこに訳の分からないクエストが舞い込んできててんやわんやらしい
多分その訳の分からないクエストっていうのは俺のせいで舞い込んできた話だな、ごめーんね!
「という訳で、今僕達はアズに構っている暇はないんだ、用が無いなら帰ってくれないか?」
「用ならあるさ・・・ボリボリ、近々舞踏会が開かれるだろ?・・・ズズ、それに着ていく服がないから見繕ってもらおうと思ってな・・・ゴクリンコ」
「アズ・・・お前ってやつは・・・もう良いわかった、後日アズの家にそれらしい物を送るように手配するから今日は帰ってくれ」
今日のムーたんは随分と溜息を吐くな、ストレスでも溜まっているのだろうか?
「ムーたんも女の子なんだから、そんな怖い顔ばかりしてると後で涙を見るぞ?じゃあな」
「誰のせいだ誰の!全く、これだから・・・おい待て」
窓から飛び出そうとした所で、フードを引っ張られて室内に戻されてしまった
「おいムーたん!それは首が締まるからやめろよ!冒険者じゃなかったら致命傷ですよ!?」
ムーたんは俺の抗議の声もそこそこに、険しい顔をしている
なんだろう?窓から出ていこうとしたから怒ってるのか?
「なぁアズ、どうして俺を女の子だと?」
「何故って・・・え?何か問題あんの?」
ムーたんは俺の言葉に少し視線を泳がすと、真っすぐ見つめてくる
「貴族の当主は男でないといけない、これはグラフでは当たり前の事なのだが・・・知っているか?」
「初耳だな、ははーん?さてはそれで男として立ち振る舞うよう言われてるってか?」
本当にムーたんはテンプレが多いな
「そうだ、以前アズリールさんを探していたのも僕の事をお嬢さんと言ったからなんだ」
「それで口止めでもするつもりだったのか?てっきりルピーの言うように恋する乙女にでもなったと思ってたぜ」
「それは無いよ、僕が好きなのは・・・」
ムーたんが何やら俺の顔を見ると、赤くしながらそっぽ向いてしまった
まぁいいや、俺の用事は解決したし腹も膨れた、後はさっさとホームに戻って動画でも見て時間を過ごそう
「そんじゃあ俺は黙っとくとしてこれで帰るとするか、サンキューなムーたん!」
「だからムーたんと・・・アズは俺が大貴族の子供だからと・・・女だからと・・・変な目で見ないんだな」
平和な日本で生まれた俺に大貴族とか言われてもピンと来ないんだよなぁ
「ムーたんはムーたんだろ?むしろテンプレキングのムーたんの事だから、王族の子供って言われるのさえ覚悟していたぞ?」
「ハハッ、そんな恐れ多い事ある訳ないだろう」
何やら憑き物がとれたように笑みを浮かべるムーたん
まぁこいつも何か色々大変なんだろうが、子供に暗い顔は似合わないってもんだ
俺は一人満足しながら扉に手をかける
「そんじゃあ俺はホームに帰『おーいムートン!良い加減準備は出来たふぅん!?』」
「「・・・」」
ガツンという音と共に、扉の向こう側にいたおっさんが白目を剥いて倒れている
ああ、どうやらただ友人と話をするだけでは帰らして貰えないらしい




