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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第二章 割れる大地と海の悪魔
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第六十一話 妖精のイタズラ

 ある日俺は硬い床の感触を感じながら目を覚ます


「ふも!?ふももう!?」


 何事かと声を出そうとした所で口をタオルで封じられている事に気が付く


 なんだ!?一体何事だ!?

 俺は焦りながらも周りを見渡し

 目の前に立つ信じられない人物に目を見開く


 ボサボサの青い髪、綺麗な金色の眼が気怠そうにこちらを覗き込んでいる


『お・・・俺・・・いや誰だお前!?』


 しかしよく見ると全然違う

 正確には一人だけ浮世絵から飛び出してきたような出で立ちをしている


 そんな目の前の謎の人物は怪しげな笑い声を挙げながら俺に歩み寄る


「くっくっく、久しぶりでありますね!ロッテ、ロッテ・リアでありますよ!」

『えーっと・・・誰だっけ・・・』

「・・・」


 ロッテと名乗る謎の人物が顔を覆うと。どこかで見た覚えがある銀髪妖精の姿に変わる


『ああ!俺にひっでぇ呪いをつけやがった諸悪の根源!』

「・・・どういう覚え方でありますか。まぁ良いであります!妖精の姿だと人間種は認識できないでありますからね、アズの姿を借りているでありますよ」


 いや?全然借りれてないよ?見た目全然俺じゃないよ


「どうやら恐怖で声も出ないようでありますね・・・」


 いや?よく見て?お前口縛っただろ?喋れないんだよ

 というかさっきまで俺の思考読んで普通に会話出来てたよね?


「この姿・・・アズの姿なら人間の街でイタズラし放題!よー、せいせいせいせいせい!」


 最後のは笑ってるつもりか?もうちょっと思いつかなかったの?

 というかよりにもよって俺の姿でイタズラだと!?ただでさえこの前冒険者ギルドで赤っ恥をかいたばかりなんだぞ!?冗談じゃない!


「ふももう!ふも!ふもっふ!」

「今頃慌てても遅いでありますよ!しかしアズには姿を借りている恩がありますからね・・・せめてアタシのイタズラを特等席で見る権利を与えるであります!」


 俺の姿っぽい何か別の生き物が邪悪な笑みを浮かべると、俺の首にかかっているアイアンリングに手を触れる


 俺が不思議そうにその光景を眺めていると、指輪が黒い光を放って俺の意識を吸収していく


「さぁ!この国を恐怖のどん底に叩き落してやるであります!」


 ---------------------------------------------

「おうアズ、今日もサボるつもりか?」


 目が覚めた俺は目の前に立つ緑髪の青年、最高医兼教師姿のグレイの前に立っている事に気がつく


 おいおい、クエストをクリアした俺はもう学園に行く必要は無いぞ?

 あれ?声が出ない・・・というか体の自由がきかない?


「・・・なんだよ?」


 訝しげな目を向けるグレイ


「流石人間種でもサイキョーの頭脳の持ち主・・・アタシの変装がバレてしまったでありますか?」


 ぶつぶつと独り言を呟くロッテ

 どうやら俺は俺という何かに変装したロッテを見せられているようだ


 というか当たり前だろ?こんなバレバレの変装・・・なんでバレないと思ったんだ?


 冷や汗を流すロッテ、しかし次に発せられる言葉に真顔に戻る


「なんでお前トイレの前で道ふさいでんの?何?新手の嫌がらせ?」


 おいいいぃぃぃ!このクソゴミクズ!何で気付かないんだよ!?


「・・・どうやらバレてはいないようでありますね」


 ロッテは笑みを浮かべるとその場を横にずれる

 グレイはロッテの事を訝し気に睨むと、そそくさとトイレに駆け込む


「さすがアタシ!変装は完璧のようであります」


 いや、あいつは特殊なだけだから、目が腐ってるだけだから


 変装に満足したロッテは、早速ホームの外に出ようとする


「くっくっく・・・この場所を拠点にこの街を恐怖に陥れてくれるであります!!」


 そう叫びながらロッテが振り向くと、ルピーがスプーンを片手にテーブルに座っているのが見える


『おいおいおい!こんなの黒歴史確定じゃないか!?厨二乙!やめてくれ!?』


 ルピーはじっと俺を見つめると

 失笑しながらチャットを打ち込む


『アズさん・・・お可愛い事・・・』

『あああああああああああああああああああああ』


 恐らく俺に実体があれば赤面して当分動けない場面だ


 しかしロッテはルピーを無視してホームから出ようとする

 ルピーはそんなロッテにピクリと反応すると、ロッテの肩を掴む


 っは!そうだ!グレイはともかくルピーならロッテの正体に・・・


『お腹が空きました、何か作ってください』


 お前も気づかないんかいいいいいい!!


 俺が心の中で頭を抱えていると、ロッテが乱暴にルピーを振り払う


「ええぃ!そんなもの自分で作れであります!」

『ば・・・ばか!なんて事を!?』

「よー、せいせいせいせいせい!せけんてい?っていうのを気にしているようでありますが、今のアタシには痛くもかゆくもないのでありま」


 しかしロッテが最後まで言う前に、ルピーの刀の切っ先が首筋に当たる


『ご飯』

『「ひぃ!!」』


『馬鹿野郎!ルピーにとっては俺の命より日々の飯のほうが大事なんだよ!』

「アンタ達は本当に仲間でありますか?」


 困惑に彩られた声を発しながらもロッテがエプロンを着用、震えながら料理を開始する


『なんだ、お前妖精の癖に料理が上手いんだな』

「ふん!アタシは今アズになっているのでありますよ?当然アズの能力も全て引き継いでいるであります」


 得意げに語るロッテ

 何なんだよそのチート


 軽く料理を済まし、ルピーが満足したのを確認したロッテが今度こそ街に向かって足を進める


「おいアズ!今日こそ学園に来てもらうぞ!」


 獰猛に笑うロッテの元に、我が学友たるムーたんが駆け寄ってくるのが見える


 こいつ俺がもう学校に行く必要が無いって知ってる癖に、毎日誘いに来るんだよな

 毎日の日課になりつつあるムーたんをどうしたものか考えていると、ロッテがボツリと呟く


「よー、せいせいせい・・・さっきは失敗したでありますが、今度は上手くやるであります」


 ロッテはそう言いながら荒く息をすると地面にへたり込む

 なんかもう嫌な予感しかしないんだが?


「お・・・おい!?どうした!?」


 唐突なロッテの変化に慌てるムートン

 というかこいつもロッテの変装を見抜けないのか?俺はどんだけ皆に興味を持たれていないんだよ


 何もする事が出来ないので、ロッテが何をするのかと見ていると

 心配して駆け寄ってきたムーたんを突き飛ばし壁を強く叩く


 そう、壁ドンである


『や・・・ヤメロォォォォ!?おま!?俺の体で何をする!?』

「よー、せいせいせい!人間種はこういうのに弱いのでありましょう?」


 ムーたんが俺の奇行に完全に放心状態になっているじゃないか!

 おいおいおいおい!こんなの黒歴史確定だよ!


 これ以上勝手に黒歴史を作られないように俺が心の中で神に祈っていると、物陰からホンワカした声が響いてくる


「なるほど壁ドン・・・ですが今のはいささか乱暴すぎます、今回はこれからの期待を込めて34点をつけさせていただきます」


 そこではどこから仕入れてきたのか、エレガントなテーブルで紅茶を嗜むメアリーさんの姿


 この人も大概自由人だよな・・・


「しかし今の壁ドンは優雅さが足りませんね、折角なので私がご教授してさしあげましょう」


 そう言いながら、逃げようとするロッテの肩を掴む


「逃がしませんよ?私のアズちゃんにはこれからたっぷりと体に教え込んであげるのですから」

『「アンタの物になったつもりは無い」』


 悔しい事にロッテとセリフが被ってしまったが、ここだけは譲れない


 ロッテの言葉に首を傾げていたメアリーさんは、ニコニコと耳元に口を寄せてくる


「もちろん私がアズちゃんの物ですよ?」

『「うああああああ!!!」』


 俺とロッテはゾクゾクとする背筋に悲鳴をあげながら、一目散に駆け出す


 しばらくしてメアリーさんが追ってきて無いことを確認したロッテが、物陰で悪態を吐く


「っくう!この体は失敗でありますね!」

『おい、ちゃんとこの体でイタズラをするのはってつけろよ、俺の体が失敗作みたいだろ!』


 俺の非難の声を無視して、首にかけた指輪が強い光を帯びる


「お?おお!やっと解放された!!」


 俺の叫びにロッテはゆらりと銀髪の姿に戻る


「今日の所はアンタの顔に免じてこのくらいで勘弁してあげるであります!」

「いや、充分好き勝手にしてたし、勝手に自爆しただけだろ?」

「やかましい!であります!」


 ロッテは地団駄を踏みながら、飛び立とうと羽を動かす


「おいおい?こんだけ好き勝手やっておいて、まさかこのままはいさよならになるとでも?」

「モチロンであります・・・よっと」


 手をなら・・・せないのでプニプニさせていた俺に、ロッテが何かの粉を投げつける


 これって確かあれだろ?羽が生えて空をとべべべべべべべべ!?


 唐突に体が痺れてその場にはりつけになる

 ステータスを確認すると、麻痺の状態異常にかかっている


 そんな事も出来るのかよ!!

 ロッテがアッカンベーをしながらニシシと飛び去って行くのを、恨みがましい目で見送る事しか出来ない


 ------------------------------------------

 とある民家のかまどが大きな音をたてて爆発する


『あらあら!?カマドの火は消した筈だけど!?』


 恰幅の良い中年の女性が慌ててカマドの炉を確かめる


『なんとも無いねぇ・・・?』


 炉を確認しながら首を傾げる女性の上を淡い光が飛んでいく


「あれじゃあ不完全燃焼も良い所でありますからね!」


 ロッテはイタズラが成功した子供のようにクスクス笑う


「今度は小人族のヒホーを使ってもっと凄い事をするのもありでありますな」


 ロッテは何の変哲もない小さい針を見ながら笑みを浮かべる


「これは逆転の針、全ての事象を反転させる小人族のひほーであります」


 何でも昔これを使って小人族が鬼族を退治したとかなんとか

 そんなサイキョーアイテム、やはり大大的に使う前にどこかで試しておきたい


 ロッテは目の前を歩くひょろ長い男に狙いを定める

 そうでありますな!あの男の年齢を逆転させてみるであります!


 逆転の針を握りしめ男の背後に忍び寄ったロッテ

 しかしロッテが針を刺す寸前、男の顔がロッテの目の前に迫る


『ほう?まさか我にイタズラをしようというのか?小さき者よ?』


 男の肌は不気味な程白く、そのひょろ長い体躯からは想像も出来ないほどの存在感を醸し出している


 妖精の直感が囁く

 こいつは相手にしてはいけない

 しかし逃げようと羽に力を入れるが全く力が入らず

 徐々に高度が落ちていく


『ワーハッハッハ!まさか我にイタズラを仕掛けようとして逃げようなどと考えてはおらぬだろうな?』


 男は落ちてくるロッテをキャッチする


「我こそは悪魔種の王にしてイタズラ界のキング!ヴァンプである!ワーハッハッハ!!」

「悪魔種のオーサマですと!?なんでそんな化け物がこんな所にであります!?」


 震えるロッテを悪魔種の王は天高く放り投げる


「キングは一人!この我だ!」


 上空に人差し指を掲げ、ポーズを決めた悪魔種の王


 そのポーズのまま指から光線が迸り、ロッテは跡形も無く消え去る


「この国に謀反者が来ると聞いて来てみたが・・・中々面白い事になっておるな!ワーハッハッハ!」


 男はロッテが持っていた二つのアイテムを片手に、この街でも一際大きい人間の城を見ながら獰猛に高笑いをあげるのであった


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