第六十話 転職
「グスッ・・・ステータスは足りてるけどどの職にも適正が無いって・・・」
「はいはい、わかってた事だろう?それになれないわけじゃないんだぞ?良かったじゃないか」
グズるグレイの背中をさすりながら、改めて冒険者ギルドのお姉さんに向き直る
そう、今日は何もグレイの付き添いに来たわけではないのだ
「レベル10になったので転職をしたいのですが!」
ステータスをお姉さんに見せると、お姉さんが驚いたように目を見開く
「そうですね、アズ様のステータスやアーツを見るにシェフのクラスがおススメかと」
「なるほど、それ以外でお願いします」
何でよりによってそんなクラスをすすめてきやがった?
後ろでフードファイターさんがうるさいが無視だ無視、俺は冒険をしたいんだよ
「他ですと、なれるにはなれますが適正とは言えませんね」
「じゃあ何で最初に驚いた表情浮かべたの!?俺のステータスが超強くて驚いたんじゃないの!?」
「いえ、二人連続で非適正な冒険者に当たったのが初めてでしたので」
チクショウ!!
俺ってそんな極振りしてたっけ?いやまぁ確かに俊敏と防御は低いけどさ
なんか後ろで非適正冒険者が仲間を見つけたように肩を叩いてくるが無視だ無視、俺は一応シェフには適正があるんだよ
「この際適正とかどうでも良いです、戦闘職でお願いします」
お姉さんと後ろの二人が驚愕の表情を浮かべるが無視だ
「適正は大事ですよ・・・?そういえば近々他種族間への転生が行えるようになると帝様からお達しがありましたし、それの後でもよろしいのでは?」
お姉さんが何やら妙案を見つけた!って顔をしているが・・・
「転生?そんな事出来るようになるのですか?というか帝様って誰だ?」
「そんな事も知らんのかいな」
後ろで何やらシュワシュワした物を飲んでいたフーキが、ヤレヤレといった風に近づいてくる
なぁそれアルコール入ってたりしないよな?
「地元民にとっての帝様っちゅうのわ、わいらにとっての運営様や、しかしとんでもない情報が出てきたね」
フーキが鋭い視線をお姉さんに向ける
「その情報詳しく聞いてもええですか?」
「もちろんです、私共の業務の一つでありますので・・・顔は悪くないけどあともう少し歳をとってからかしらね・・・」
お姉さん?なんか不吉な言葉が聞こえた気がするのは気のせいでしょうか?
「まず帝様が他種族への転生、禁忌とされる術の開発に成功した所からお話致しますね」
とまぁお姉さんが事の始まりから詳しく教えてくれたが、正直いらない知識が多かったのでカットする
その中でも必要と思えた事だけピックアップすると・・・
まず次の大型アップデートで他種族への転生が出来るらしい
転生と言ってもレベル1に戻ったり、ましてや赤子に戻るわけでもない
ただ種族が変わり、それに伴い身体的特徴やステータスが変動するだけだ
もっとも、転生するには何かしらの条件が必要らしいが、そこまでは知らないらしい
ちなみに現在判明している種族は人間種以外で6つ
獣人種:高い俊敏と力を持つ近接アタッカー種族
海王種:陸地でのステータスが軒並み低下する代わりに、水中適正が飛躍的に上昇する種族
妖精種:高い魔力を持ち、状態異常を得意とする後衛種族
小人種:すべての能力が低下するかわりに、生産や対人系のスキルとアーツが強化される種族
死霊種:異常に高いタフネスと、あらゆるバッドステータスを付与する種族
悪魔種:高い力と魔力を手に入れる代わりに、生産や対人系のスキルとアーツの能力が低下する種族
「なるほどこれはとんでもない情報だ」
テーブル席で出されたシュワシュワを目の前に、ゴクリと喉を鳴らす
「せやね、次の大型アップデートは夏休み最後の日やから割と近いしね、ここで知れたのは運が良かったんよ」
「夏休み最後の日ってのが最高にクレイジーだけどな?それで?皆は今聞いた中だとどれに興味ある?」
シュワシュワを口につけ、ほんのりとした甘みにホッと息を吐く
「わいは獣人種一択やね、ルピーちゃんもそうなんちゃう?」
フーキから話を振られてルピーが首を傾げている
ルピーはこの話題にあんまり興味無さそうだしな
「しっかし流石フーキだな、和服ケモ耳は嗜好とか騒いでただけの事はある」
「そんな事言った覚えないんやけど!?」
あれ?言ってなかったか?
まぁでもこいつの好きなキャラにそういうのが多いからあながち間違いでもないだろう
「という事はルピーはこのまま人間『獣人種になります』・・・」
何か言い終わる前に口をメモで塞がれてしまった
彼女は一体何と戦っているのだろう?
「ぷはっ!?・・・で?聞くまでもないと思うけどグレイは人間種だよな?」
「アズさんアズさん?何で聞くまでもないと思ったんだい?」
「だって何か条件があるみたいだし、グレイはそういうの興味無さそうだったし」
「まぁ否定はしないけどな、死霊種になってみようと思ってるぞ?」
え?何?ただでさえホームに引きこもってる癖に、その上死臭とかまき散らすようになるの?勘弁してくれよ・・・
「元々HP盛りだからな、更に盛れるチャンスがあるなら乗るっきゃないでしょ」
渋い顔をする俺を無視してグレイが得意気に語りだす
その心意気は買うが、アンデットだろ?多分お前の大好きなアズリエルと相性最悪だと思うんだが・・・
まぁそれは言わないでおこう、もしかしたらアズリエル状態の時に近寄って来なくなるかもしれないし
シュワシュワを一気に飲み干し、おかわりを要求する
「で?アズは何になるんや?」
「おれ~?おれはね~?なにになろうかな~」
俺はにへらにへらと頭をゆらゆらさせる
「妖精さんとか小人さんとかも可愛いよね~ケモミミとかつけちゃうのもありかもにゃ~」
両手を耳のように猫の真似をしてゴロゴロしていると、皆が何か変な顔をしている
さんしゃさんよーでおもしろい
「・・・なぁフーキさん、そのシュワシュワってアルコール抜きだったよな?」
「その筈やけどね、いや、多分何かの間違『これは酔っぱらってますね!!!』・・・」
ルピーがキャー!っと俺の頭をワシャワシャ撫でてくる
何か頭の中がフワフワして良い気持ちで~
「まずい、アズが人様に見せられんような状態になってもうた」
「たまには良いんじゃないか?どうせちょっと黒歴史になるだけだって、俺は痛くも痒くも無いし」
グレイが俺を無視して優雅にランチを楽しもうとしている
そんなのはゆるしません!
「ぐぇいお兄ちゃんも一緒!」
この時グレイに電流走り、あまりの衝撃に仰け反ったまま微動だにしなくなる
「グレイさん!?どないしたん!?」
グレイは仰け反った体勢のまま静かに呟く
「・・・っかい」
「え?」
心配してグレイの顔を覗き込んでいたフーキが戸惑いの声をあげる中、静かに呟いたグレイは大きく頭を振りかぶると、息を荒くしながら俺に詰め寄る
「アズ!いや、アズ君!もう一回お兄ちゃんと!」
そう、元々アズリエルというアズにとてもよく似た人物に好意を向ける彼
しかしアズリエルの情報は一切流れて来ず、悶々とした日々を過ごしていた彼は・・・もう限界だったのだ
決して彼が元々シスコンとかブラコンとかの気があるわけではない
俺はグレイの豹変ぶりに怯えて机の下に隠れる
「グレイさん!アズが怖がっとるやろう?」
いつになく強気なフーキが俺を庇うように、テーブルの下から引っ張り出す
「アズ君!そいつから離れるんだ!見ろ!そのだらけきった顔を!お兄ちゃんの命令だ!」
「な!別にだらけた顔なんてしてへんし!?」
普段言い争い所か、会話等全くといって良い程しない二人
しかし今日は何やら譲れないものがあるようで
「フーキ君!はやくうちの子から離れるんだ!」
「グレイさんこそ落ち着きや!なんか口調おかしいし、相手はアズやで!」
フーキの言葉にグレイが静かに俺に視線を移す
一体何が起きているんだろう?とりあえず首をかしげながらグレイを見てみる
「許す!超許す!アズ君は今日からうちの子だ!」
鼻血を流しながらフーキに摑みかかるグレイ
しかしフーキも負けじと顔を引き締めてグレイに掴みかかる
「「よっしゃあ!表でろや!!!」」
今日も一日平和です




