第五章 クエスト
少し薄暗い酒場の一角、浮浪者アズは今日も今日とて悩み中
「フレンドって・・・どうやってつくるんだ・・・」
生まれてこのかた友達が数えるほどしかいない俺はいきなり窮地に追い込まれていた
酒場で仲間を募集するには三つのパターンがある
まずは自分のプロフィールを書き、その条件を見て仲間にしたいと思った冒険者が受付に申請、顔合わせをして改めてPTを組むパターン
その逆で自分から受付で名簿を確認、仲間にしたい冒険者を紹介してもらうパターン
そして勝手に話合って勝手に仲間になるというパターンだ
ちなみに紹介してもらう上二つは手数料として5R必要となる
よって所持金の無い俺は必然的に自分からスカウトするかされるかになるのだが・・・
「インドア派の俺には難易度高すぎぃ・・・」
俺は人と話すのが苦手だ、特に初対面の人にはどうやって接すればよいか全くわからない
さっきから近くを通りかかった冒険者に話しかけようとしては、赤面して俯く事を繰り返している
そんな虚無にも思える時間を過ごしているうちに、酒場の一角を陣取るという形になっているのだ
今いる待合い場に冒険者は俺含め12人、珍しく女冒険者もいる
腰まで伸ばしたサイドテールが特徴的な金髪少女
少女は赤い瞳を欄欄と輝かせて、黙々とごはんを食べている
時折こっちや少女を見て「話しかけようぜ!」「でもなんか話しかけるのに緊張するな」等という声が聞こえる、なんで俺だと緊張するんだ?あの子ならわかるが、と疑問に思っていると酒場の厨房からスタッフらしき人が現れる
「お客様、大変申し訳ありません!食事が間に合わず大変お待たせしております」
あまり混んでる風には見えないが?
不思議に思いながら様子を見ていると、スタッフが二階スペースに食事を持っていくのが見える
どうやらここの厨房は酒場と宿屋が兼用で、宿屋の方では部屋まで食事を運ぶサービスもあるらしい
急に冒険者の宿泊が増えた事により厨房が回らなくなってるのかと一人納得
あまり繁盛していないホールとは裏腹に、厨房ではスタッフがせわしなく動き回っている
「気分転換には良いかもしれんな」
近くで慌ただしく配膳をしていたスタッフに声をかける
なーに、フレンドになりましょう!とか言う訳じゃなければ、一般的な会話くらいちょちょいのちょいだ
「よかったら手伝いましょうか?接客は無理ですがこれでも料理はそれなりにできます」
スタッフは驚いたような顔をしたがすぐに真剣な顔になり
「本来頼めるものではないが雑務を頼んでも良いだろうか?」
その言葉と共にシステムログが流れる
<クエスト:厨房の悪夢が発生しました>
<連日賑わう厨房が今日はさらに大繁盛!今は猫の手でも借りたい!>
<達成条件:指定アイテムの一定数の納品 達成報酬;50R、料理人の包丁 >
思わぬところでクエストが発生した、元々手伝うつもりだった俺は迷わずYES
「さぁ!ファーストミッション開始だ!」
意気揚々と厨房に侵入すると、髭面のドワーフ体系のコック帽さんがジロリとこちらを一瞥する
おお!怖い怖い!
俺が軽くすくんでいると、さっきの店員が厨房の蛇口を捻り手招きしている
「皿洗いをお願いしても良いかな?」
「大丈夫だ、問題無い」
BGOの世界には温水がないのか多少冷たいが、普段家で慣れてるのが幸いしてささっと終わる
これなら一人でも余裕で捌ける
途中宿に宿泊してるであろう冒険者が大喜びで叫んでいるのが目に映る
緑髪のミディアムヘアー、なかなか整った顔立ち、背も平均より高くイケメンといえるだろう
頭の上にはグレイと表示されている
「やった!ついにLv10になったぞ!」
「おいおいまじかよ!やったなひっきー!」
「10になるとどうなるんだ?ひっきー?」
「10になると・・・転職ができるようになるぞ!説明では、あなたのステータスによって冒険者ギルドからなれる職業が用意されます・・・だとよ!俺ちょっと行ってくる!」
興味深い話に聞き耳をたてる、しかしひっきー?名前はグレイと表示されているが?
と思案しているとコックが肩を叩いてくる、やっべサボってるみたいになっちまった
おろおろと振り返るとスタッフが豪快な笑顔を浮かべ
「おめぇ料理もできるっていってだな?下ごしらえの手伝いも頼めるが?」
サボったと思われてない事に安堵しつつ了承
下ごしらえをしてるとコックが真剣な眼差しで見てくる
その強面顔でガン見は怖いのでやめてほしい
「おめぇ・・・!料理を作ってみないか?」
更にグレードが上がってしまったが、その程度ならどうという事は無い
黙々と料理を作っていく、それと比例するかの如くコックの強面顔がどんどん険しくなっていくのはやめてほしい
ガン見といえば
先ほどから金髪少女も料理を作ったはしから食べつくしてはこちらをガン見している
よくそんな体系でそんなに食べれますね?ゲームだからか?と疑問に思うほどだ
それから数時間、やっと客を捌き終わった俺は机に突っ伏していた
途中交代のスタッフが来たので解放されたのだ
<システムログ:クエスト、厨房の悪夢が達成されました>
ちょっとした気分転換のつもりがとんでもない過重労働になってしまった
思わずげんなりしそうになったが、スタッフが感謝を述べている手前愛想笑いをしておく
「そうだ!これは報酬だよ!」
<システムログ:50R、料理人の包丁を手に入れた>
忘れてた!
俺は背筋を伸ばしてスタッフから包丁と金袋を受け取る
報酬と聞くとやはりうれしいものがある、早速料理人の包丁の能力を確かめる
<料理人の包丁> 耐久値(100%)
<スキル、料理人で素材を加工することができる
<力+2 俊敏-1 斬属性 1
「これは奇襲用の武器として使えそうだな!」
包丁片手に喜んでいると強面コックがこちらに歩み寄る
「おめぇ・・・もしよかったらまた手伝いにきでくれ!これは俺がらのおまけだ!」
<システムログ:100R、コック帽を手に入れた>
強面さん太っ腹!見た目通りの太っ腹!強面なんて言ってごめんなさい!でももうここで働きたくないです!
いそいそコック帽の詳細を確認
<職人のコック帽> カテゴリー:頭防具
<防御+1
<職人の汗が染みこんだ立派なコック帽、一流の料理人に認められた者に代々受け継がれている
ん?これってつまり・・・
強面さんをチラ見、コック帽をつけていない
・・・この装備はアイテムストレージから出る日はなさそうだ、遠い目をしていると不意にログが流れる
<システムログ:アズはLvが4になった>
「なんですと!?」
完全に忘れていた!
急いでステータスを確認する
<Lv4
<HP18 MP7 力5 防御3 知力6 俊敏5 運8 残12P
<スキル:見切り、隠密、逃走、自然、独力 枠外 精霊術、人形使い、料理人
<料理人>
<料理の生産をすることができる、また店を買えば料理店を経営することができる>
やってしまった!よりによって生産職のスキルを手に入れてしまった!
しかし料理店を経営出来るのか・・・将来的には店舗を持つのも悪くないのかもしれない
喜び半分悲しみ半分
酒場のホールに戻り視線を彷徨わせる
どの席も満席、恐らく料理を作っていた時に埋まったのだろう、来た時はこんなに人いなかったよな?
「仲間探しは諦めて包丁の切れ味でも確かめるか、それとも冒険者ギルドでクエストを受けるか」
ポツリと呟くと、袖を引っ張られる感覚に襲われる
視線を向けると、先程の少女がクイクイと引っ張っているのが確認できる
「・・・」
「・・・」
お互い無言で数巡
気まずい!何!?何なの!?俺何かしたかな!?
人見知りスキルが発動!オロオロしていると、少女が右下の方を指差している事に気がつく
・・・?チャット欄に新しい文書が流れてる?
[ご飯美味しかったです]
「ああ・・・それはどうも・・・」
なんだ?わざわざ料理のお礼に?良い子じゃないか
感心したように頷いていると、フレンド申請が飛んでくる
・・・えーと?
少女は無言でコクコクと頭を縦に降ると、また新しいチャットが流れる
[一緒に食材探しに行きませんか?]
PTのお誘いだろうか?
なんでチャットで話すの?
なんで俺なんかに?とか色々あるが
少女の口の端からヨダレが流れているのを確認した俺は、一つの仮説を導き出す
「食材を探しに行ってあわよくばそのまま調理してもらいたいと?」
冗談半分で言ったつもりだったのだが、少女が少し恥ずかしそうに頷くのを確認してしまった
結構食べてた風に見えたがまだ食べるのかこの子
まぁ断る理由も無いし、承認っと
「えーと・・・これからよろしく」
[よろしくお願いします!]
挨拶もそこそこにフレンド欄から少女を捕捉
<ルピー
<Lv3
<HP20 MP0 力15 防御4 知力1 俊敏13 運8 残0P
<スキル:刀剣、魅了、速度上昇、圧力、飢狼 枠外、攻撃の型、狂人化
<圧力> エピックスキル
ターゲットを恐慌状態にする(消去不可)
音声チャットを使用不可能になる(永続)
<飢狼> エピックスキル
満腹度が減れば減るほど力が上がって行く
満腹度の消費が通常の3倍になり、満腹状態にならなくなる(永続)
エピックに呪いみたいなバッドステータスが付与されてるんだが?
しかしおかげで納得した
「圧力スキルのせいで喋れないのか」
俺の呟きにルピーが頷く
こっちも大概に酷いエピックスキルだが、ルピーさんも相当酷いな
しかし・・・それを差し引いても攻撃方面がずば抜けている
「これは期待出来るな・・・」
何はともあれ・・・新しいフレンドゲットだぜ!!