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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第二章 割れる大地と海の悪魔
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第五十八話 海の悪魔

 

「こな・・・こなばななぁぁぁぁ!!!」

「まぁ当然の結果だよな」

「むしろようここまで耐えたと思うんよ」


 現在俺とフーキは、哀れスタミナ切れでダウンした赤金の鷲のクラマスを見下ろしている


「く・・・っへ・・・くへ・・・良いのかよてめぇら?俺様に手をだしたら連れ去ったガキがどうにかなっちまうんじゃね~のかな~?」

「おいおいフーキ、いよいよ三下みたいな事言い出したぞ?」

「今更やね、元々そんなもんやら?」


 俺達の余裕の表情に、赤髪は心底間抜けな表情を浮かべている


「ああ?てめぇらあの地元民がどうなっても・・・」

「あらあら?それはこの子の事かしら?」


 この場に似つかわしくないほんわかした声と共に、炎上していた敵の船からメアリーさんが飛び降りてくる

 その腕の中ではムーたんが( ˘ω˘)スヤァと眠っているのが見える


「流石メアリーさんです、でも作戦では船を炎上させる前に助ける手筈では?」

「それはそうだったのですが、こっちの方がエモいじゃないですか?」


 ああなるほど、やっぱり厨二患者に大事な仕事は任せられないな・・・

 まぁムーたんも無事そうだし良しとしよう


 俺は眠るムーたんの頭を撫でながら赤髪を睨む


「と、いうわけだ!観念するんだな、ダなんとか」

「だぁぁれがダなんとかだぁぁぁぁ!!」


 赤髪はツーハンドソードを床に刺しながらフラフラと立ち上がると、ヘラヘラ笑いだす


「大体てめぇらはなんか勘違いしてんなぁ?おいグラン!」

「はいはい、わたくしをお呼びですかね~?」


 赤髪がパチンと指を鳴らすと共に、金髪の仮面男が現れる


 何もない空間から現れたが、どうなってんだ?


「アレを見せてやれ」

「アレ・・・ですか~?」


 赤金の鷲の二人は何か不気味な笑みを浮かべ、俺達を指さす


「ハッハァ!俺達が密かに研究していたブツがこんな所で役に立つとはなぁ!」


 赤髪が不気味な程に口角を吊り上げる中、金髪男が手をかかげ


「コード※※※※※!!」


 赤髪の胸部を貫く


「「「は?」」」


 思わず赤髪とかぶってしまった

 え?何コイツ等?仲間じゃないの?


 それは赤髪も同じ感想だったようで・・・


「グランぅ!?誰を撃っているぅぅ!?ふざけるなーっ!!」


 物凄い形相でグランに掴みかかろうとして、胸部をおさえながらえづいている


「あら~?何が起きているかわからないといったご様子ですね~?」


 そんな赤髪の頭を踏みつけながら、金髪仮面が楽しそうに笑う


「貴方は用済みなんですよ~」


 一際大きな赤髪の悲鳴と共に、金髪仮面が赤髪を船の外に蹴り飛ばす


「とは言ってもこのままゴミを海に捨てると偉い方々に怒られますんでね~」


 俺達が油断なく睨む中、金髪仮面は後方にバックステップする


「リサイクル、しときましょうかね~?」


 金髪仮面の不気味な笑い声が響くと同時に船が揺れ、金髪仮面を捕まえようとしていた俺はバランスを崩す


「くそっ!逃げられた!」

「アズ、待つんや」


 金髪仮面を見失い悪態をついていると、フーキが空を指さす


 青々としていた空が今では嵐が来る前のような灰色に染まり雷鳴を鳴らしている


「・・・なんだ?」


 明らかな異常気象にチャット欄がどんどん更新されていく


『俺達かったんだよな?あとは戦利品の回収だけだよな?』

『けどこの雰囲気おかしくね?』

『・・・明らかなボス臭乙』

『きいつけろ!海底に何かいるぜよ!』


 なんだ?海賊の残党が何かしだしたか?

 急ぎ船の下を見る


「・・・?なんだあれ?」


 海底では何か大きい影が揺れている


「まさかこれ・・・魔物か!?」


 雷が鳴り響き海底が照らされ、その一部を照らし出す


 大きく揺らめくそれは体中に吸盤をつけている・・・


「触手・・・!」


 敵の正体がわかった時には海原が揺れ、海賊船が一瞬で木っ端微塵になる


「おいおい冗談だろ!?」


 俺の叫びに反応するかのように次々と巨大な触手が現れ、俺達の船を包囲していく


『我らが主の誕生だ!』

『いいぞ!やれやれ!』


 縄で拘束された海賊が叫ぶ中、俺は海上に表示される馬鹿でかいHPゲージを見ながら頬を引き攣らせる


 海王種でもトップクラスの魔物

 それはそう・・・


「く・・・クラーケンだー!」


 ◇




『我らが偉大なる船長!キャプテンダなんとか!』

『海の支配者は我ら海賊!』

『今我らも貴方様の元へ!』


 クラーケンが触手を動かす度に船が揺れ、解放された海賊達が狂気に満ちた表情で海に飛び降りていく


「何が起きてるってんだ!?」


 唐突なレイドボスの出現に臨戦態勢をとる中、チャット欄が更新される


『海賊討伐、ならびに人質救出作戦は成功じゃい!撤退するぜよ!』


 チャットを受け取った冒険者達の船団が撤退を始めるが、その後ろを巨大な触手が追いかけてくる


『もうだめだ・・・勝てるわけがない・・・』

『やつは伝説の海の悪魔だぞ!』

『逃げるんだぁ・・・!』


 あのデカい海賊船が一瞬で木っ端みじんだぞ!?このままじゃ全滅だ!


「皆!ここは俺に任せて逃げるんだ!」


 俺達冒険者は最悪死に戻りが出来るが、この場にいるNPC群は死んだら終わりだ

 このまま戦えば生き残る可能性が高かった海賊戦とは違い、明らかに死が待っている


 小型のパイレーツシップに飛び乗りモーターボートのように風で前進させていると、背後で我に返った船員達の叫び声が聞こえる


『なにやってんだよ船長ぉぉぉ!』

『子供船長ぉぉぉ!』


 まったく・・・なんて声出してやがる・・・


 衝突寸前で急速旋回

 余波でパイレーツシップが粉々になるが、なんとかして触手に精霊をぶつける

 ・・・が、ダメージは無いに等しい

 それどころか俺を全く気にせず船を追撃しようとしている


「なんとかしてヘイトを奪えないか・・・?」


 プカプカ浮かぶ木くずに捕まりながら触手に視線を向ける


 触手は尚も船を追撃しようとし・・・ん?

 8本の触手のうち5本は移動していない・・・?否、何かを狙っている

 誰かのスキルか?こんな芸当が出来るのは・・・


「あ!もしかして!」


 敵の船団には最高のヘイト吸引機が残っていたじゃないか!!


 しかしこのまま近づいても一緒にお釈迦になるだけだし・・・あれをやればあるいわ・・・けどなぁ・・・


「・・・絶対零度のその果てに、我が道を切り開け、精霊化!!」


 アーツの発動と共に全身を襲う海水の冷たさが無くなっていき、周囲が氷結化していく

 それと共に全身に変化が現れるが、悲しい事にだんだん慣れてきてしまった


「アズリエル参上っと!」


 海水を凍らせ、滑りながら狙われているヘイト吸引機さんに接近する


「グレイさん!」

「おわあああぁぁ!?私に天使が舞い降りたぁぁぁぁ!?」


 悲鳴をあげながら意味不明な言動を放つグレイをキャッチ、引きずるように海水の上を移動する


 触手はグレイの無意識の敵視スキルに反応している・・・!

 このままヘイトをとり続ければ船から引き離せる


「グレイさん、何とかしてあのデッカイ化け物を引き付けれませんか!?」

「あああああアズリエルさんの願いなら叶えたい所は山々なのですがぁぁ!?」


 っち!流石元木偶の棒さん、相変わらずそんなアーツは覚えてないか!


「だがまぁ、今の状態でも十分にヘイトは稼げてるか!」


 囲い込んでくる触手を氷結状態にしその上を滑る


「・・・思ったより迫力が凄いな」


 迫って来る触手をギリギリの所で回避、ジェットコースターのように触手の上を滑り降りる


 触手は一つ一つがまるでビルのような大きさ、動きは遅いとはいえこうもデカイとよけるのが難しい


「ブヘァ!ちょ!アズリエルさん!?もうちょヘギィ!」


 異音が気になるが嵐のせいだろう、船は上手く逃げ切れたか?


「な!」


 視界の先に、触手を囲むように接近するパイレーツシップを捕捉

 その上には冒険者軍団の面々


 この隙に逃げれば良いものを・・・

 よくよく見ると、チャットが物凄い勢いで更新されている


『あれを見ろ!我らが女神が降臨されておられるぞ!?』

『こうしちゃいれねぇ!俺は行くぞ!』

『我らには女神の加護がある!』


 口をムニムニさせながら近くの触手を氷結状態に、登るように上空に滑る

 触手は俺達を追うように天に向かってそそり立つ


「これで囲みやすいだろう?」


 俺の意図をくんだのか、パイレーツシップは触手を囲み良い具合にダメージを与えている

 だが攻撃の余波で徐々に数が少なくなっているのも事実


 そして避け続けるのも限界が・・・

 俺を圧殺すべく、巨大な四本の影が四方から出現する


「しまっ!」


 触手が俺達をはたき落とそうと伸びてくる瞬間、キィンという音と共に閃光が走る


『神楽舞、一閃(-_-メ)』


 な・・・何事だ!?

 巨大な触手の切り後には金髪の少女が大太刀を手に立っている


「ルピー!?」


 こちらに気づいたルピーが、ウィスパーチャットを流す


『たこ焼きが良いと思います』

「・・・」


 俺の無言を肯定ととったのか、親指を立てて触手を解体していく

 あの子やっぱ強すぎませんかね?


 彼女にはクラーケンが食材にしか見えていないようだ


「アズリエルさん!アズリエルさん!?後ろ!後ろぉぉ!!」


 ルピーに気を取られて反応が遅くなった

 二つ目の触手が俺達目掛けて伸びてきている

 今度こそ万事休す・・・


 衝突の刹那

 ズガンという音と共に触手の攻撃が止められ、二人の男がキメポーズをしながら触手の上に着地する


「なんやようわからんけど、アズリエルさん?サンキューで・・・あれ!?青姉さん!?」

「ふぅん、流石は我が宿敵!だが勝利の女神が見届けるこの・・・あれ!?サトミ姉さん!?」


 ああ、今の俺ってどっちかというとサトミ姉に近いからなぁ

 二人は困惑に彩られながらも、迫る触手に追撃をはかる


「グレイさんグレイさん」

「どうしたんだいアズリエルさん?」

「もしかして冒険者って皆あんなに強いので?」

「いやー・・・あいつらが異常なだけだと思いますよ?」

「あの三人は異常だったとして・・・冒険者ってタフですね・・・」


 視線の先には船なんてなんのその

 触手クライミングしながら攻撃を与える冒険者達の姿


『漁業組合諸君!大物のお出ましじゃい!』

『我らが女神を守れ!』

『こんなゲソ野郎に負けてられっかよ!』


 冒険者達により三本目の触手が海面に叩きつけられ、海に沈む触手の上で冒険者達が勝利の咆哮をあげている


『いけるぞおめえら!』

『この戦いが終わったら俺・・・アズリエル様に告白するんだ!』

『なんだ・・・結構倒せるじゃねえか・・・』


 3本目の触手が沈んだが、まだあと一本触手が残っている

 これを避けれなければどちらにせよ死に戻りするしか・・・


「やれやれですね、ここで俺だけみっともない姿は見せられませんねっと!」

「な!?グレイさん!?」


 グレイはいつの間に用意したのか、謎のぬるぬるした液体を俺の手にぶっかけて俺の拘束から抜け出す


「王国医になって密かに作っていたみかわし薬です、俺のとっておきです」


 なんとかグレイを掴みなおそうとするが、ぬるぬるして上手くつかめない

 くそっ!このままじゃ!!


 焦る俺にウィンクをしながらキメ顔を作り、触手に向かってグレイが落下していく


「グレイさんの白くてネバネバした物のせいで上手く掴めない!」

「・・・アズリエルさん、もう一回今のせりぷぅ!?」


 最後に何か言おうとしていたグレイが、地平線のかなたに吹き飛ばされていってしまった

 くそっ!なんてことだ!貴重なヘイト吸引機を失ってしまった!


 俺は舌打ちをしながら触手に視線を戻す


「・・・様子がおかしい?」


 先程までの喧騒が嘘のように静まり返り、5本の触手の中心が渦巻き海の中からタコともイカとも見える名状しがたき怪物・・・クラーケン本体が現れる


 クラーケンは一度こちらを見ると冒険者の方を睨み触手を動かす

 今まで俺達を狙っていた触手が意思を持ったように動き出す


 ヘイトがとれない!?やはりグレイがいなくては・・・いや、本体の様子を見るに、恐らくグレイがいても関係無かったのだろう


 異変に気付いた冒険者が各自防御態勢をとっているが・・・明らかにレベルが違いすぎる


 クラーケンが大気を吸い込みギリギリまで膨張すると、巨神兵の如くスミを吹き出し冒険者を薙ぎ払う


 俺は激しい痛みに悶絶しながら、海の上に墜落する


『皆無事か!?』

『ええ・・・命はとりとめましたがHPは残り10%に、しかも視界は真っ暗ですが』


 スミで吹き飛んだ冒険者はHPが残り1割になり一定確率の暗闇状態・・・その上・・・


『お・・・おい!このスミディスペル効果まであるぞ!?』


 俺は自分の姿を見て愕然とする

 それはアズリエルの姿ではなくいつものアズの姿


 このままでは海の上での移動が出来ない

 急いで再度精霊化しようとするが、氷精霊のクールタイムとやらで使う事が出来ない


「く・・・ここに来て戦力外通知ですか、そうですか」


 再び海面の木くずに捕まりプカプカと状況を確認する


 暗闇状態の冒険者を意思を持った触手が襲い壊滅状態

 今まで空中ジャンプでギリギリかわしていたルピーが触手を避けきれずに粒子となって消える

 連携で触手を捌いていた馬鹿兄とフーキを3本の触手が締め付けるように圧殺する


「くそ!やっぱり無理だったか・・・でも、折角だから最後まで・・・全力でやってみるのもありだよな」


 どうせ俺の知り合いはほとんど全滅したし、見られる心配も無いか!


 俺は目の前を同調するように飛び回る黄色い精霊を掴む


大地(だいち)閑閑(かんかん)たり、小地(しょうち)間間(かんかん)たり、精霊化」


 演唱と共に、髪は短く茶色に

 背は平均的な男性より少し高いくらい

 白いローブの上には所々金色の甲冑のような物が装着されていく


 しかして今やそのような些細な事、気にもならず


 余は海面に漂う小さな岩礁に杖を突きつける


「いかに広大な大地とて最初は小さな陸地である、ガーデンオブグラウンド」


 すると海の上だというのに大地が震動し、新たな大地が創造されていく


「勝利する事はかなわずとも、少し余の遊び相手になってもらうぞ?」

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