第五十五話 海賊討伐作戦会議
ゆらゆら揺れる大船の船底
そこで開店されている出張酒場では、本日有力クランリーダー代表者と有名冒険者が海賊討伐作戦を考案中である
ちなみに俺は甲板の上で杖の水葬式をしていた所を†断罪者†のメアリーに連れてこられた
小鳥の会リーダー、会長が陽気に冒険者達に視線を向ける
『各自、情報の公開をよろしくお願いしマース』
海パン姿の青年がスッと立ち上がる
『私の看破のスキルによると敵の総数は5300人です』
なぜか海パン姿のランズロットさん
もしかして遊んでたんじゃないだろうか
『更に情報を追加すると、海賊達は海適正を持ち能力が強化されています』
なるほど・・・ただ遊んでたわけではなく情報収集をしながら遊んでたんだな?
ちなみに俺達チームグラフの総数は30人くらいだ
イベントでもクエストでもないのによくここまで集まったとは思うが・・・
地図の上で大量の海賊の駒に向かい合う俺達の駒に渋い顔を隠せない
お次に何故か俺の後ろに控えていたメアリーさんが、すっと立ち上がる
「これは海原を漂流していた冒険者の情報で」
「待て我が従者よ、ここは我・・・この七つの海を統べる†エンドシャドウ†に任せてもらおう」
机の上で両手を組んでいた馬鹿がポーズを取りだす
「この海域を彷徨いし亡霊の話によれば!こことここ・・・更にはこの三か所の中央に魔の三角地帯が存在するという」
『オーウ!もしやその中央に海賊のアジトがあると?』
「その通りだ鷹の目を持ちしスナイパー!流石は北の大地を統治し、我ら永遠なる宿敵達を集めるだ」
いつになく饒舌に喋るバカを放っておき、俺は地図に視線を落とす
「我がマスターの言う事に付属して、この海域には岩礁が多く奇襲に注意すべきかと」
メアリーさんが岩のような駒をいくつか置いて行く
なるほど、これは厄介そうだ・・・だが海賊の巣が大方絞られた、注意していれば奇襲の脅威も少なくなる筈だ
『今度は俺のじょうほうでぃ』
漁業組合サブマス、組長が話し出・・・
というかこれ前回のドラゴン討伐作戦会議と流れが一緒じゃないか!
『つっても今回わしらは皆に提供できる情報を持ちあわせちょらん』
「くっくっく!海の覇者ともいえる深淵に潜みし者が何の情報も持っていないだと?だが何かあるのだろう?でなければわざわ」
『†エンドシャドウ†の言う通り、わしらは今回情報じゃなくてこの船を提供しちょる』
「ほう!この神の地へと至る箱舟の持ち主は貴様の所有物であったか!流石我が認める者の一人、ああこれは我も」
ウキウキと早口でまくし立てるバカはスルーしておこう
というか何なんだ馬鹿兄は?いつになく面倒臭いぞ?
「マスターはあのお人柄ですからね、大クラン連邦の方々が畏怖して呼ばれる事がないのですよ」
渋い顔で馬鹿兄を見ているとメアリーさんが教えてくれた
ああ、なるほど
つまり相手にするのが面倒臭いからハブられてるのか、すごく納得した
「というかメアリーさん、近いので少し離れてください」
「あら残念」
なんか耳元でささやかれるとゾクゾクするんだよ
「しっかし・・・」
改めて室内を見回すが、この世界観だとかなり高額な船なんじゃないか?
どこで手に入れたのやら・・・
「なんか尋常じゃなく大きいし豪華な装飾はついてるし・・・すっごい高いんだろうなー」
「だろう・・・な・・・うっぷ」
「おいグレイ、こんな高そうな場所で吐いたらなんかもう大変な事になるぞ?」
船酔いでリバースしそうなグレイにエチケット袋を渡し、背中をさすっておく
「う・・・折角ただで豪華客船の旅に出れると思ったのに・・・この世界の船は揺れがひうっぷ!!!」
あーあーやりやがったよこいつ
というか何でこんなになってまでここにいるのやら
『・・・・というわけで、今回は助っ人もおるんじゃあ』
おっと、グレイのせいで話を聞いてなかったぜ!
「何だ何だ何ですか?どんな助っ人が来てるんですか?」
キラキラとした視線を組長に向けると、組長が手振りで後ろに控えていたNPCを紹介する
赤髪ロングの隻眼の老人、名前は・・・オクトリア・・・?
『オクトリア王じゃい』
『「「オクトリア・・・王!?」」』
なんでそんなお偉い人がこんな会議に!?
オクトリア王は悪戯が成功した子供のように喉で笑うと、俺の前に歩み寄って来る
『会議に参加する前にまずアズ・・・君に礼を言っておかねばならない』
皆がまたお前が何かしたのか?的な視線を送って来るが、何の覚えもないぞ?
というか俺は比較的まっとーに、平穏なゲームライフを送ってるつもりだから、トラブルメーカー的な視線はやめてほしい
半ば現実逃避に走っている俺に、オクトリア王が頭を下げる
『よくぞ我が娘を海賊から救い出してくれた』
ああ!助けた子供達の中に、みょーにセレブっぽい子がいたが、あの子姫様かよ!?
驚愕の事実に呆けている俺の隣で、いつの間にか這いよってきていたバカが「流石は全てを紡ぎし我が血族・・・」とか、また何かうるさくなってきたので、腹パンで黙らせておく
『それに伴い我がオクトリアは此度の戦・・・全面的に協力する』
オクトリア王が地図の上に駒を追加していき、冒険者軍団からゴクリという音が聞こえてくる
盤面はオクトリアと海賊の数が同じくらい
「こんなに・・・良いんですか?」
『無論だ、これでも少ないほうだぞ?』
どや顔しているオクトリア王に礼を言って改めて地図を見る
これで数の不利はなくなった
だが向こうは海賊、海による戦闘適正の差がダイレクトに出てくるだろうから、戦力的にはまだ不安が残るか?
険しい顔で地図を睨んでいると、皆が俺に視線を向けている事に気が付く
『鬼策士、君は何か策はあるかい?』
全員がゴクリと喉を鳴らしこちらを見る
そのまなざしには少し畏怖が込められている気がするのはきのせいだろう
「そうですね・・・ここは昔の人の知恵に頼りましょう」
地図の海賊の巣の中心にグレイの駒を置く
「まずグレイが相手船団に乗り込み火をつけ、俺が風を操り敵船の炎を燃え広げさせます」
『待つんじゃい!それは危険じゃい!』
もっともな意見だな、そのまま火をつければ自軍の船にも引火しかねない
だが何も無策というわけではないぞ?
「俺にはとっておきの・・・プロテクションのアーツがあります、このアーツは本来ダメージをカットするのに使いますが、実際に壁として扱う事も出来ます、プロテクション!」
アーツの宣言と共に薄いレンズのような壁が出現、気絶したバカとリバースするバカを酒場の外に押し出していく
「これにより相手船団からこちらの船団に火が燃え移る事はおろか、海賊達は船から逃げる事も出来なくなります」
ざわ・・・ざわ・・・と周りがざわめきながら、俺から距離をとる
『まってくれ、その場合火を点火したグレイ君はどうなるんだい?』
「もちろん相手の船が燃え尽きるまで向こうの船だ待機してもらいますよ?HPが高いので恐らく生き残る事は可能かと」
ざわめきが更に強くなる
『流石鬼策士様デース・・・』
『グレイは捨て駒か?』
『筋が通ってるから手に負えん』
何を言っているかはよく聞こえないが、恐らく称賛の声に違いない
俺は若干強すぎないか?という皆の引き具合にドヤ顔をかます
「ただこの作戦には一つ問題点があります」
『そ、そうだな鬼策士、このままではグレイ君が』
「向こうにNPCの人質がいる事です」
『『『・・・』』』
ん?なんだ?なんか皆が俺に聞こえない所でコソコソしだしたぞ?
まぁいいか、今はそんな事重要な事じゃない
「NPCが船にいる限り炎上させる事が出来ません、誰か良い案がある方はいませんか?」
俺の問いかけに皆が渋い顔をする中、メアリーさんが静かに手をあげる
「そういう事であれば我が†断罪者†にお任せください」
「何か良い手があるんですか!?」
「良い手・・・というわけではありませんが、マスターはアサシンのクラス、私はシャドウサーヴァントのクラスについています、二人で潜入して人質を救出してきます」
ほう!メアリーさんと馬鹿兄はそんなクラスについていたのか!これは期待できる!
・・・というか馬鹿兄の方が俺よりレベル高いのか、なんか悔しい
着実に海賊掃討作戦が練られる中、連れ去られた友人に顔を思い出す
「待ってろよムーたん、今助けに行くからな」




