第五十四話 阿吽の呼吸
「よ!まだ無事そうやね」
「ま、余裕デスヨ」
赤髪をぶっ飛ばし、ヘラヘラと笑いかけてくるびしょ濡れ男に親指を立てる
流石は正義の風紀委員、毎回ピンチに助けてくれるこいつは本当のヒーローだよ、まったく
「というか何でそんなびしょ濡れなの?」
「そんなん泳いで来たからに決まってるやろ?」
「ああ、どおりで・・・ワカメついてますよ?」
頭の上を指さすと、フーキがワカメを投げ捨てる
しかし海賊共の殲滅に結構時間をかけたと思ったが・・・泳いで来たって事は意外と海辺に近いのか?
だとしたら助かるが、今はこっちの事の方が気になるか
「なんでこんな場所に?」
「んなもん助けに来たに決まってるやろ?」
決まってるのか・・・
「助けに来たとしても、どうやって俺の情報を」
「アズ、気になるのはわかるけど、今はアイツをどうにかせんとな?」
「ん?ああ、そうだった」
俺とフーキは海賊帽の上にワカメを乗せた赤髪を睨む
「また会ったな、正義の糞風紀委員さんよぉ!」
「またアンタ等かいな、良い加減飽き飽きなんやけど」
赤髪が残忍な笑みを浮かべてフーキに突撃するが、フーキは軽く体を捻って避ける
そのまま捻った体をもとに戻すように、赤髪の頬に拳を振りかぶる
「なんや?相も変わらずの突進かいな、アホくさ」
「んなわけねぇだろう?糞風紀委員!」
フーキの背後にいた黒い靄が、振り上げていたツーハンドソードを振り下ろす
「おっと!危ないわぁ・・・そんなデカいもんこんな場所で振り回さんといてっと!吹飛拳!」
これまた黒い靄の攻撃を回避、そのまま黒い靄を船先まで吹き飛ばす
「ハッハァ!今のは上手く避けれたみたいだが次はどうかなぁ?2体2のこのタッグバトル、意識を共有している俺が有利な事に変わりはない!!」
アーツの硬直でまともに動けないフーキに向けて、赤髪が上段斬りをかますが・・・
フーキが赤髪のツーハンドソードを掴む
あんの馬鹿!カッコつけるのは良いが、俺がプロテクション使わなかったらヤバかったぞ!?
フーキはプンプン怒る俺に苦笑いを浮かべ、赤髪と至近距離で睨み合う
「アンタ、何か勘違いしてへん?」
「あぁん?」
フーキは空いてる手で拳をぐっぱさせると、赤髪に向けて拳を構える
「分身して体が増えたとしても、考える頭は一つしかないし、視界が広がったわけでもない」
「はぁ?何言ってんだ?まあ良い、さっさとケリつけて拉致したガキ共を売り払わなくちゃいけないんでね」
赤髪はゲスイ顔で黒い靄に視線を向け、そのまま驚愕の表情で固まる
「あ、悪いけどこいつは俺が動けなくしといたんで」
俺は地面でもがく黒い靄の体を構築する精霊を分解、無力化していく
だってこいつ赤髪の考えでしか動けないんだもん、つまりフーキと話してる間ただのカカシですよ
「クソガキィ!!!ふざけ!ふざけるなぁ!!」
赤髪は血管が切れそうな勢いで叫び声をあげながら、ツーハンドソードを振りかぶる
そんな赤髪の腹にフーキが拳を突きさす
「刺突拳、だからそれがバカの一つ覚えやっちゅうに」
「そ・・・れ・・・・がぁ!なんだってんだぁ!!!!!」
苦しそうな赤髪の叫びと共に黒い靄が消え、赤髪がインベントリからツーハンドソードを振りかぶる
なるほど、その方法なら瞬時に黒靄先輩のツーハンドソードをインベントリに戻せるのか
消えた黒靄先輩がいなくなって甲板の上で座り込む俺を無視して、フーキと赤髪の戦闘がヒートアップしていく
「大抵の冒険者なら今ので沈むんやけど、その身体能力・・・明らかに普通にプレイしとる冒険者と比較にならんね」
フーキが迎撃の為に拳を振りかぶるが、拳とクソデカツーハンドソードではリーチが違い過ぎる!
このままいけば一方的に攻撃を受ける事になる
それに気づいた赤髪が口角を吊り上げる
しかしフーキは止まらない
フーキは迫るツーハンドソードの一撃目を紙一重で回避する
「ハッハァ!一撃目を避けれても二撃目は・・・」
赤髪の目が驚愕で見開かれる
「なぁ!?それはクソガキの杖!?」
フーキは俺から投げ渡された杖を掴み、赤髪の胸部を貫く
ただの杖で刺し貫くとかまじやばたん
「本当の協力プレイやと、1足す1は2にも3にもなるんやで?」
「ま、連携で俺達に勝てるやつなんて早々いないって事・・・ああ!俺の杖が破裂してる!?」
凄い威力で突き出されたせいか、耐久値が0になった杖に涙を流しながら膝をつく赤髪を見下ろす
「さてフーキ、こいつどうするよ?」
「随分と悪さしとるみたいやからね、しばらくは拘束させてもらうのも手やね」
俺とフーキがジリジリと距離を詰める中、赤髪が観念したように顔を俯け・・・
顔芸を披露しながら俺達に顔を向ける
「く・・・くっはっはっは!やっぱりお前等は馬鹿だぜ!俺が正々堂々と戦うわけがねぇだろう?」
「こいつ!まだ何かする気か!?」
地面目掛けて振り下ろされたツーハンドソードを回避、あたりに砂煙がまう
「ここに来て往生際の悪い・・・!」
俺はモクモクと巻き上がる砂煙を、風で吹き飛ばす
「良い加減観念しろ!勝負はついて・・・」
「はぁ?これ見ても同じ事言えんの?」
俺は赤髪に腕を掴まれ、何が起きているのか理解できていない学友に目を見開く
「む!ムーたん!?」
俺の叫びに、何が起きているか察したムーたんが必死に赤髪の手から抜け出そうとしているが、赤髪の力にかなうわけがない
「おっとぉ?変な気を起こすなよ?」
冷静に戦況を分析していたフーキが赤髪の後ろから奇襲をかけようとしたが、赤髪がツーハンドソードの切っ先をムーたんに向ける
「この・・・ゲスが・・・」
「最高の誉め言葉だぜ?こいつは借りてく、あ~ばよ~」
どこから現れたのか、ガレオン船の下から小型のパイレーツシップが出現
赤髪はムーたんを担いでパイレーツシップに乗り込むと、物凄いスピードで離れていってしまう
「くそ!してやられた!!」
フーキが悔しそうに船を叩く
「アズ!何とかあいつらを追いかける方法は・・・」
「今は無い、この船は一人二人じゃ動かせないし、一度体勢を立て直す必要があるな」
「何悠長な事言うて・・・!このままやとあの子が!?」
フーキが何か言おうとしたようだが、最後まで言う前に俺の顔を見て黙り込む
何だ?俺の顔に何かついてるか?
自分の顔をぺたぺた触ってみるが、特に何かついている様子も無いな・・・まぁ今はそんな事はどうでも良い
「もしムーたんに何かあったら・・・死んだ方がマシと思えるような目にあわせてやる」




