第五十三話 大海原の海賊
「少なくとも3人、見張りもいるだろうし・・・5人くらいかな?」
覗き穴から見える範囲をくまなく見渡し、残りの敵戦力を計算する
今の俺のレベルだと、最低でも二人はスニーキングキルしておきたいが・・・
ドア越しに海賊が近づいてくるのを待つ
ここさえクリアすれば後はどうにでもなる
ドア越しに息を整え、近づいてきた海賊の背中に忍び寄る
『ふぁぁ暇だ?』
ドスッという音と共に、包丁で一突きされた海賊が海に落ちていく
「まず一人!」
だが海に落ちたのは予想外だったな、デカい音のせいで他の海賊に見つかってしまった
船上に笛の音が響き海賊の叫び声と共に4人の海賊が新たに出現する
「予想通りの人数、しかし正面から殴り合うのはキツイぞ?」
だがまだ相手は油断しているのか、ヘラヘラしている
ここはその隙を突かせてもらおう
俺は四人の海賊に追い詰められたように包丁を地面に落とす
「うぇぇ!オジチャンタチ、コワイヨー!!」
海賊達は唐突に泣き出した俺に吹き出しながら、ゲスイ表情を浮かべる
『こいつぁ傑作だ!何しに出てきたんだ?』
『だがまぁあれだよなぁ?俺達の仲間を一人殺しちまったしなぁ?』
『ああ!これはお仕置きが必要だな!』
『君、もっとローアングルで泣き顔を見させてくれないかい?』
海賊達が手をわきわきさせながら、構えを解いたのを確認
インベントリから杖を取り出し、一番近くのニヤケ面にめり込ませる
『なぁ!?こいつ、冒険者だ!?』
『どこから侵入しやがった!?』
『何て卑怯なやつだ!?』
『この見下ろされている感じ、実に良い』
散々な言われようだが、俺は誘拐されてきた身だしお前らに卑怯呼ばわりされたくないぞ?
あと最後のやつは極力関わらないようにしたい
心の中で舌打ちをしながら、杖で近くにいた海賊の顎を撃ち抜く
よろめいた隙に横を駆け抜け、見張り台の梯子を登る
『はん!冒険者と言ってもただの子供だ!頭は弱いと見えるぜ!』
『自分から逃げ場が無い所に行くとかバカじゃねぇの?』
『ローアングル!ローアングル来ました!』
俺からしたら何の警戒もせずに登って来るお前等のほうがバカだと思うが・・・
海賊達が俺に続いて登って来たのを確認、梯子に足を括り付けぶら下がるように杖を振りかぶる
「アイスピックハンマー!!」
『『『ちょ!?』』』
海賊達は目の前まで迫って来た氷の塊を避ける事が出来ず、梯子の下に落ちていく
そんな様子を片目に再び見張り台を登っていく
今ので半分は削れたがまだ倒しきれていない
また登ってくるようならハンマーでタコ殴りにするが・・・
『ゆ、弓だー!弓で撃ち落とせ!』
まぁそう簡単にはいかないよな
見張り台の柵に隠れて、飛んでくる矢を防ぐ
俺一人なら耐久戦に持ち込むが、このまま時間をかけてたらムーたん達が見つかりそうだしなぁ
「そうだ!海賊船って言ったらあれがあったな!」
俺は矢のリロード時間を狙い、見張り台の上のロープに手をかけ滑るように移動する
「うひゃあ!普通だったら摩擦で手がやばたんだけど流石ゲーム!っと!」
再び飛来してくる弓を避けながら、反撃に風をぶつけて一人一人殲滅していく
「ま、ざっとこんなもんかな」
時間はかかったが結果的には完封
やっぱ俺って強いんじゃね?
ニマニマとしながら船の下に戻ろうとした所で、背後からヘイトが固定された音が聞こえてくる
「おう、なかなか面白れぇのが紛れてんじゃねぇか」
赤い短髪に海賊帽、異常にデカいツーハンドソードを背中にさげた男が、船の上から俺を見下ろしている
「・・・見た感じ地元民の方じゃなさそうですね」
「ああ、見ての通りの冒険者、俺様は割と有名な人間だと自負してるが知らねぇか?」
「いえ、全然知らないですね」
本当は確かにどこかで見た事がある・・・あるのだが・・・
何かいまいち脅威的な人物だった記憶がないんだよ、むしろ情けないイメージがある
俺の返答に赤髪は若干シュンとしながらも、極悪な笑みを浮かべる
「だったらこっちの方はわかるんじゃねぇか?俺様は赤金の鷲クラマス!ダ」
「赤金の鷲だと!?」
「・・・」
って事はこいつは俺達を誘拐したあの金髪仮面のボスか!?
よく見たらなんてヤバそうな顔してやがる!
赤髪は何故か一瞬シュンとしたが、俺の驚いた表情に再度極悪な笑みを浮かべる
「そうだ、俺様こそBGO界の裏社会に君臨する生きるカリスマ!ダ」
「お前等!子供達を誘拐して何のつもりだ!」
「・・・」
赤髪はシュンとした顔をしながらも背中のなんか超デカいツーハンドソードを片手で持ち上げる
おいおい、ツーハンドソードってそういう武器じゃないだろう!?
「それをお前が知ってどうする、止めるのか?俺様は強いぞ?」
ダなんとかの背後から何とも言えない圧力を感じ倒れそうになるが、ここで俺が倒れたら・・・
杖を地面について体制を整え、ありったけの虚勢を張ってダなんとかを指差す
「は・・・はん!赤金の鷲のクラマスだかなんだか知らんが、生憎と俺も負けられないんでね!」
「良い度胸だ、少しは楽しませろよ?クソガキ!」
ツーハンドソードを振り下ろしながら甲板の上に落ちてきたダなんとかを回避、船が大きく揺れる
「のわぁ!?何じゃその威力!?」
あんなのまともに食らったらヤバイって!?
船の甲板に捕まりながら、続くダなんとかの横薙ぎをくぐるように回避する
「ちぃ!ちょこまかと!」
ダなんとかの追撃の度に船が揺れる
「はっはぁ!避けるだけじゃあ楽しめねぇぜ!?」
狂ったようにツーハンドソードを振り回しながら、ダなんとかが吠える
確かに恐ろしい威力、俺が直撃したら即死だろう
だが・・・俺相手にその武器は選択ミスじゃないか?
「例え威力が凄くても!当たらなければどうという事は無い!」
俺はツーハンドソートの攻撃をギリギリで回避、迫るダなんとかの首筋に向けて包丁を突き立てる
「そいつぁごもっともだなぁ?だがこれならどうだ?」
包丁がダなんとかに届く直前
ダなんとかがインベントリからもう一振りのツーハンドソードを取り出して振りぬく
「はぁ!?」
おいおい!?ツーハンドソードの二刀流とか頭イカレてんのか!?回避は・・・無理!
「ぷ!プロテクション!!」
俺目掛けて迫って来たツーハンドソードを包丁で無理矢理横に逸らす
「ほぅ?おめぇに俺様のパワーに耐える力があるとは思えねぇが?」
「ふ・・・ふっふっふ!これは俺のとっておきですよ!」
っぶねー!!!
ギリギリでゴリラと契約した時に覚えたアーツを思え出せて良かった!
プロテクション、知力の数値分のダメージと衝撃を吸収する膜をはる超強力なアーツ
・・・なのだが
俺は自分のHPを見て息を呑む
ダメージをカットし、かつ包丁で捌いたというのにHPが5分の1減っている
俺は何だかんだで知力特化に近いから、相当のダメージを防げる筈だってのになんつう馬鹿力
「しかも・・・」
再びツーハンドソードを振り下ろしてきたダなんとかの攻撃を横に避けるが、もう一対のツーハンドソードが目前に迫る
「プ!プロテクション!!」
更に減ったHPを見ながら、険しい表情を浮かべる
二刀流になった事で今までの2倍ぐらいの攻撃速度になっている、これは捌けない
唯一の救いは、相手が俺を警戒している所だが・・・
「はっはぁ!中々面白れぇ!おめえがとっておきを出したんだ、俺様も出さないとフェアじゃねぇよなぁ?」
ダなんとかはツーハンドソードを弾くように上に放り投げ、極上の笑みで叫ぶ
「シャドウミストォ!!!!」
ダなんとかのアーツ発動と同時に、黒い靄が飛び出し投げ出されたツーハンドソードを掴む
「おいおいおい、流石にそれは卑怯じゃないか?」
俺は新たに現れた敵を見て冷や汗を拭う
赤髪と全く同じ背丈、体格のツーハンドソードを構える黒い靄
「こいつを召喚すると能力が80%くらいまで下がるのが難点だが・・・」
ダなんとかの横薙ぎをしゃがんで避けるが、振りぬかれたと同時に靄がダなんとかを軸に襲い掛かって来る
「プ!プロテクション!」
さっきよりもダメージは多少少ないが、大きく吹き飛ばされてしまう
「くっそう!なんなんだよこのチート野郎!!」
「さいっこうの誉め言葉だよなぁ?」
着地点でバットのようにツーハンドソードを構えるダなんとか
「プロテクション!」
ダなんとかのスイングにより船の先まで飛ばされた俺は、ガクガクする足を杖で支えながらダなんとか達を睨む
「見ての通り、元々俺様の一部のこいつは俺様の考える事が全てわかる」
「また・・・随分と珍しいスキルを!」
つまり今の状況・・・
ダなんとかは、俺の表情を見て嬉しそうに頷く
「2体1のこの状況、おめぇは俺様にタコ殴りにされるしか道はねぇんだよ!」
俺は近づいてくる一人と一匹に後ずさる
絶体絶命ってやつか?
俺とダなんとかがそれぞれの表情を浮かべる中、この場に似つかわしくない呑気な声が聞こえてくる
「はぁ・・・全く、アズはいつもおもろい事に巻き込まれてるね」
「「そ・・・その声は!?」」
ダなんとかは背後から聞こえてきた声に急いで振り返ろうとするが、先に我らがヒーローの拳が顔面を捕える
「ちょいとわいも混ぜぇや」




