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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第二章 割れる大地と海の悪魔
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第五十一話 かーてばよかろーなのだ!

 草木も眠る丑三つ時


「どーしてこうなっちゃったのかなー」


 誰もいない観客席を眺めながら溜息を吐く


「おいアズ!聞いてんのか!?」

「ああはいはい聞いてますよー」


 真夜中の闘技場、俺は真向かいで木刀を振るムーたんに視線を向ける

 なーんでこうなったかというと


「約束通り俺が勝ったらアズリールさんの情報を寄越せよ?勝負のルールは簡単、相手を気絶させるか降参させるかだ」


 今ムーたんが言ったことが全てである

 恋する乙女は怖いというが、本当に怖い


「というかムーたんは丸腰相手に木剣を使うつもりか?とんだ腰抜けですねぇ」


 ムーたんが俺の挑発にムッすると、棒を取り出してこちらに投げる


 渡さなきゃ有利になるだろうに・・・

 まだまだ卑怯になりきれないようだ


 俺はまだまだだね・・・とため息を吐き、投げ渡された棒を確認する


 何の飾りも無い一般的な木製の棒


 俺の知識に間違いが無ければ

 メインクエストを進めた見習い冒険者が初めて手に入れるガラクタボウだろう

 装備制限も重量制限も無く耐久値が無限の変わりに

 全てのステータスが0という完全なネタ装備

 名前通りのガラクタである


 ちなみに俺はメインクエストを一切進めていないので初めての入手となる


「おいムーたん、武器の性能の差に問題があるんじゃないか?」

「まさか武器の差で負けたとか言わないよな?」


 ムーたんの癖に生意気な・・・

 俺の恨みがましい視線を受けながらカバンから角のようなアイテムを頭につけるムーたん


 木刀もあれから出てきたがどんだけ入ってんだ?4次元ポケットか何かか?


 しかしそうなると背中のカバンにはアイテムが大量に入ってるんだろうなぁ


 これは油断できそうもない


「僕の準備は完了だ、アズはどう・・・ああ!準備する物なんてないか!」

「・・・いつでもおっけーだぞ?」


 わざわざ近寄ってきて挑発か


 いよいよ調子に乗ってきたムートンを睨み、ガラクタボウを構える


 べ・・・別に怒ってなんてないんだからね!


「それじゃあ始め!」


 ムーたんが開始の合図と共に木剣を振りかぶってきたので、前転しながら回避する


「うっわ汚!どんだけ勝ちたいんだよ!」

「ズルしようが何しようが勝てば良いんだろ?」


 確かにそうは言ったけど!


 続くムーたんの上段斬りを、俺はガラクタボウの左右端を持って衝撃に備え・・・

 真っ二つに割れたガラクタボウに驚愕しながら木剣のダメージにのけぞる


「なぁ!?ガラクタボウの耐久力は無限のはず!?」


 ムーたんの追撃をかわしながらガラクタボウを確認する

 その割れ目は細工がしてあったかのように綺麗に・・


「おい」


 睨む俺をムーたんはへらへら笑う


「悪いけどあらかじめ細工しといたぞ?」


 ・・・なかなか見所があるじゃないか


 俺の㏋は現在レベル1設定のせいで15

 力と防御はあってないようなものだからなぁ・・・

 接近戦はマズイ


 俺はムーたんから距離を取り、たいまつの下で両手を挙げる


「どうした?もう降参か?」


 勝利を確信して木剣を構えながら近づいてくるムーたん

 そんなムーたんに俺は笑みを浮かべる


「相手が勝利を確信した時、すでにそいつは敗北している」


 そんな言葉と共に、たいまつ付近の赤い発行体からムーたん目掛けて炎を射出する


「なぁ!?」


 驚きの声と共に、ムーたんはカバンから取り出した泡状の何かで炎の起動を逸らす


 なんだあれ?あれがムーたんの秘策か?


「魔力の発生を感知出来なかった!?錬金アイテムが無かったらヤバかったぞ!?」


 なるほど、錬金術

 という事はあの4次元バッグの中には大量の錬金アイテムが入ってるわけだ

 これはちょっとマズイか?


「まぁだけど・・・」


 俺はニヤリと笑みを浮かべると

 いまだ混乱しているムーたん目掛けて再度炎を射出する

 このまま安置から完封してくれるわ!


 ムーたんは炎を何度か泡で軌道を逸らすが

 アイテムが無くなったのかギリギリ回避を試みだす


 ふっふっふー!こっちは炎が近くにある限り無限に炎を出せるぞい!


 ムーたんはこっちの弾数に制限が無い事に気づいたのか

 諦めたようにこちらに向き直る


「もらった!」


 すかさず射出した炎がムーたんを捉える

 薄暗い演習場の中、炎によってムーたんの顔が照らしだされる


 ・・・ムーたんの表情に絶望感は無い!


「メェーーーーー!!」


 突如ムーたんが間抜けな声で叫ぶと

 炎は何かにぶつかり、俺の後方に弾き飛ばされる


「こ・・・これは!?」


 俺は目の前に展開されている羊毛に目を見開く


「これは使うつもりは無かったんだけどな!シープ家の家宝の力を見せてやる!」


 家宝?錬金アイテムだけでなくそんな物まで・・・どんだけ勝ちたいんだよこの子は!

 俺が頭を抱える中、ムーたんが得意げに語りだす


「羊の声真似が必須だがカウンター能力最強の羊毛だ!いくぞ!メェー「ぶふぉお!」・・・・」


 あっしまった・・・

 あまりに酷い発動条件につい吹き出してしまった


 ムーたんめ・・・勝つためにそこまでやるとは・・・ぷーくすくす!

 俺の心の中の称賛が届くこともなくムーたんは耳まで赤くなっている


「い・・・いくぞ・・・?メ・・・メェー「っく・・・ぷぷぷ・・・」いい加減笑うのをやめろぉぉぉ!」


 しかし羊毛だろう?燃えてもおかしくないと思うが・・・まさか炎を反射するとは・・・

 やるじゃないかムーたん


 俺が素直に心の中でムーたんを称賛していると

 ドヤ顔をしていたムーたんの表情が訝し気なものに変わる

 なんだ・・・?


 俺は油断無くムーたんを見つめ・・・


「はいは~い!そこまで~」

「な!?」


 顔を仮面で隠した金髪男に肩を叩かれ、素っ頓狂な声をあげるハメになってしまった


「君達~駄目じゃないですか~?こんな夜中に!子供が二人で!しかも武器を持って争うなんて!」


 男は何やら仰々しく手をあげ、問い詰めるように俺達に話しかけてくる

 やばいな、もしかしてま~た罰を受ける事になるのか?

 というかこの人どっかで見た事あるなー・・・ああ!確かフーキとイベントの時に戦ってた・・・


 目の前の男の事を思い出そうと頭を捻っていると、ムーたんが男に近づく


「申し訳ありません、ですが大事な事だったので」


 そう言いながら、何やら羊の紋章がついた紙を取り出している


「ふむふむ~なるほどなるほど~貴方はシープ家の方でしたか!?」


 男は驚いたように口を手で覆う


「しかしそれでも、悪い子にはお仕置きをしないといけないと、わたくしは思うのですよっと!!!」

「「へ?」」


 俺とムーたんの間抜けな声が静寂に響き、ムーたんの肩から血が流れ落ちる


「あひゃひゃひゃ!ばっかじゃねぇの!?おら!床でも舐めてな!」


 ナイフを肩に刺され、蹴られるように地面を転がるムーたんにかけよる


「ムーたん!大丈夫か!?」


 ムーたんは苦しそうな表情を浮かべ、声にならない声を出している


「おい!お前何なんだよ!何でこんな事!?」

「おや~?そういえば自己紹介がまだでしたね!わたくし、赤金の鷲の副マスをしておりますグランと申します、まぁてめぇらは覚えとく必要はねぇけどなぁ!ヒャッハー!」


 赤金の鷲・・・あのチンピラ集団の副マス!?

 フーキと戦ってた時に感じた嫌な雰囲気の正体はそれか!?

 くそ!そうとわかっていればもう少し警戒できたのに!


 回避出来たかもしれない脅威に唇を噛みながらも、ムーたんにポーションを飲ませるが、HPがどんどん減っていっていく


「あるよ~?毒武器あるよ~?」


 仮面男の言葉に俺は顔を蒼くする


 毒のエンチャントアイテムか!?

 苦しそうに呻くムーたんのステータスをよく見ると、緑色に変色している

 解毒アイテムは・・・持ってないぞ!?


「・・・何が目的だ?」

「目的?んなもん決まってんだろぅ?」


 仮面男は俺が睨むと、心底嬉しそうに口角を吊り上げる


「ガキが苦しんでる姿を見るのがさいっこうに気持ち良いなぁ!」

「・・・このゲス野郎」

「お褒めに預かり光栄でございます、ヒャッハッハ!まぁオメェが大人しくしてれば、そのガキが死ぬことはねぇぜ?」


 仮面男は「その代わり」と、縄を取り出す


「一緒に来てもらう事になるがなぁ?」

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