第四十三話 THEIRE PROBABILITY
本日の俺は病院受診の為姉と病院に向かっている
先に言うと病にかかったわけではない
小さくなった事を馬鹿兄に報告したら
『ち・・・ちいさく!?た、大変じゃないか!体は大丈夫なのか?気分は悪くないか!?』
と、厨二設定を忘れたのかって勢いで心配されたので、俺、もとい兄を安心させる為に健康チェックと、俺が青葉大和本人である証明の為に向かう事になったわけだ
まぁ証明に関しては後々必要になりそうだから先行するわけだが・・・
今の見た目だと目立ちそうなので、髪をすっぽり覆うようにニットキャップ、サングラスで目を隠している
病院までの道すがら、エコバッグ片手に道行く人を見ながら呟く
「もしかしたら俺みたいな人がいるかもと思ったけど・・・そんな人いないよな」
いたとしても外で平然と歩いていないかもしれない
髪や目の色は何かしらの方法で隠している可能性も高い
ニュースサイト等を調べたが現在手掛かりや同じ境遇の人は見かけていない
掲示板に書き込んだら、「病院に行って、診察を受けた方が良い」と書かれてしまったぐらいだ
「はぁ・・・世知辛いのじゃー」
溜息混じりにスマホを開こうとしていた所で、嫌な者を見てしまう
いかにもな男が二人、おさげ眼鏡の女学生にからんでいるのだ
「あ!あんな所にワルモノがいるよ!お姉ちゃんがちゃちゃっと成敗してくるから、ひろは待ってて!」
「ええい、やめんか!サトミ姉も一緒に困った事になる未来しか見えんわ!!」
だがどうする?周りの人間は見て見ぬふりを通してるし・・・警察とかはいないか?
そう思いながら辺りを見渡していると、女学生と目が合う
その瞳は真っすぐに俺を見つめ、まるで俺に助けを求めているような・・・
今の俺は見た目完全小学生低学年かそこらだぞ?
ここで無視してもあの子はしょうがないと諦めるに決まってる・・・決まってるが
「・・・仕方ない」
元の姿でもぜーったい関わりたくない場面だが罪悪感がかってしまったようだ
女学生の手をつかんでいる男に大声で語り掛ける
「ちょっとちょっと!その子困ってるじゃん?やめなよ!」
『あぁ!?・・・誰もいねぇ』
「おいお前!少し下を見ろよ!いない者扱いするな!」
『うお!なんだガキかよ・・・どっかいってろ』
男が俺の腹に蹴りをいれる
ぐお!こいつ・・・小さい子供に容赦なく蹴りいれるとかヤバイやつだ・・・
痛みで腹をおさえてうずくま・・・
「あれ・・・?」
思ったより痛くない、というか軽く小突かれた程度の感触しかない
姉が慌てて俺に駆け寄ろうとし、男は蹴りを入れたポーズのまま頭にはてなを浮かべている
『あ?なんだこのガキ?』
もしかして・・・
一つ仮説が頭によぎった
男の足を掴み、体をねじるように男を後ろに投げる
男は大した抵抗もなく電柱にぶつかり、苦しそうにうめいている
俺の仮説は確信に変わる
あ!これ強さもゲーム内のままだ!
その確信を得たらもはやさっきまで怖かった男がゴブリン以下の雑魚にしか見えない
「手加減しとくから恨まないでね!」
満面の笑みで呆然としているもう一人の男の顎にアッパー
お仲間さんと一緒に電柱に括り付けておく
良い事した日は気持ち良いものである
エコバッグを担ぎなおした俺に、女学生が近づいてくる
「ああ、お礼なんて良いですよ、当然のこと」
「やっぱりアズちゃんだぁ!!!!!」
「へ?ぎにゃああああああ!?」
謎のおさげ少女に頬擦りをされ、俺の悲鳴が響き渡るのであった
◇
診察室の前に三人の人影
俺の隣では、サトミ姉が鼻歌混じりにキョロキョロしている
それは良い
「なんでメアリーさんがいるの?」
俺はおさげを下ろし、眼鏡を外したことにより、髪の色以外はゲームと全く同じ容姿の少女に問う
「アズちゃんが診察を受けるって聞いたからですよ~」
そう、なんという偶然か、さっき助けた女学生は†断罪者†の副マス、メアリーさんだったのである
ちなみに本名は違うらしいが、教えてくれなかった
メアリーさんの笑顔に耐えれなくなった俺は目をそらす
「メアリーさんは風邪でもひいたのか?」
そうでも無い限りこんな場所に来るなんて事はないだろう
「ええ・・・ちょっとですね?」
よく見ると頬が少し赤い
普段からこんな顔だった気がしないでもないが熱でもあるんじゃないか?
「じゃあ診察受けておいでよ」
「アズちゃんが心配ですので」
自分も風邪をひいているのになんて良い人なんだろう!
俺が心の中で感激しているとアナウンスが入る
『青葉さーん青葉大和さーん』
遠くで看護婦が呼んでいるのが見えたのでそちらに歩み寄る
俺は心の友に振り返り
「じゃあ行ってくるね?」
別れを告げ診察室に入る
診察室では医師が変な顔をして一人座っており、俺の両脇には保護者・・・
「なんでメアリーさんも入ってきてるの!?」
メアリーさんは何言ってるんだこいつ?といったような顔をしているが、こっちがその顔したいからね!?
俺達の様子を見ていた医師がメアリーさんを追い出すよう看護婦に手差しする
連れていかれる瞬間捨てられた子犬のような目をしていた気がするが・・・
まぁいいや・・・彼女は彼女の病気を治すのに専念すべきだ
ウンウン頷いていると目の前の医師が眼鏡をかけ直し真剣な表情を浮かべる
「それで青葉さん」
「あ・・・はい」
医師の診察は心音の確認などの簡単なものから入り
大きな機械を使った診察までやる事になった
終わる頃には数刻が過ぎ、外は真っ暗
今は検査の結果を聞く為診察室の前に座っている
「疲れたー!」
「ほんとだねーまるで検査みたいだったねー」
「いや、姉さんは途中で寝てなかったか?」
姉さんが目を逸らしながら口笛を吹く
こいつ・・・!
ここが公共の場でなければ腹にブローを決めている所である
それにしても・・・メアリーさん・・・大丈夫だったかな
姉さんをジト目で見ながらメアリーさんの事を考えていると
横から紅茶が差し出される
「お疲れ様です」
「ありがとう!ちょうど喉がかわい・・・なんでメアリーさんがいるの?」
そこには紅茶セットを展開し、小首を傾げるメアリーさん
「紅茶の準備が出来ましたので・・・うん、今日も中々の味です」
「あ・・・はい・・・そですか」
きっとメアリーさんも診察に時間がかかり、終わったうえで待ってくれていたのだろう
こんな夜遅くまでかかる診察なんて実は彼女重病なんじゃないだろうか?
心の中で心配をしていると再びアナウンスが流れる
『青葉さーん青葉大和さーん』
診察の結果が出たのだろう
俺達は再び診察室に入り・・・医師の無言の手差しで一人追い出された
なんであの人は毎回入ってくるんだ?
部屋の中では医師がレントゲンや書類と睨めっこしている
「結論から言いましょう」
ずれた眼鏡を掛け直しながら医師が真剣な表情で話しを切り出す
俺は間違いなく健康だし、青葉大和本人だ・・・それは一番自分がわかっている
だが医師の空気にのまれて自然と喉が鳴る
「私の診察では・・・あなたは99.9%の確立で青葉大和だという結果が出ました」
それもう本人じゃない?
「しかし0.01%の確率で青葉大和では無いという結果を出します」
「え?どういう事?」
「難しい話は端折りますがここで貴方を100%本人と書類に書くのは危険だと判断しました」
よくわからないといった顔をしていると医師が優しい笑顔を向けてくる
「大丈夫です、私達は貴方が本人であるというのは認めています」
とりあえず本人確認はとれた・・・のか?
尚も難しい顔をしている俺に医師が「それに・・・」と前置きを置いて話しを続ける
「青葉さんは気づいてないかもしれないけど・・・私はBGO内で君と出会った事があるんですよ」
医師の衝撃の発言その2に驚愕する
BGOの人達を頭に浮かべては、その変態性から頭の中で否定していく
誰だ!?こんな優しそうなエリート俺の周りにはいないはずだぞ!?
「貴方は誰なんですか・・・?」
医師は子供めいた笑みを浮かべる
「それは秘密です」
狐につままれたような顔をして診察室を出ると姉が抱きついてくる
「ねーひろー!終わったし帰ろうよー」
「・・・そうだね今日はご馳走を用意するよ」
やったー!と喜ぶ姉の呑気さに毒気を抜かれ・・・
「まあ誰でも良いか」
リアルの詮索は基本タブーである
手を握ってくる姉とメアリーさんを両手に俺は帰宅・・・
「だからなんでメアリーさんがいるんだよ!!!」




