第四十話 男達の陰謀
とある城の最上階、フードや仮面で顔を隠した怪しい集団が密やかに囁く
メンバーは全員男、檀上にリーダー各らしき男が座ると、周りにいた数十人の冒険者はゴクリと喉を鳴らす
『して・・・情報のほうは確かで?』
「間違いありません、なんせ俺も制作に携わった人間ですから・・・」
おおーっと部屋の男達が声を揃える
『ならばはやく結構を!時間がたてば計画が露見します!』
「あせるな!この計画は絶対に失敗できない!慎重にいくぞ!」
ざわざわと部屋が騒がしくなる
「今回のターゲット・・・とあるホーム持ちの冒険者アズ、その住人のルピーで間違いないな?」
『ああ!俺は一度アズさんを隅々まで確認したかったんだ!』
『うむ、あの成長しきってない体・・・まったく・・・小学生は最高だぜ』
『ルピーちゃんも捨てがたいぞ?あの和服の下がどうなっているかをだな・・・』
男達が鼻息荒く意見?を出し合う
「待て待て、ちゃんと俺の要望にも応えてくれるんだよな?」
『当然だ、既に知り合いの女冒険者達には話を通している』
「そうか、ならば良い!皆存分に楽しもうではないか!」
男達の笑い声が部屋にこだまする
「まったく・・・君達の紳士度は53%です・・・私の看破がそう言ってます」
『・・・何だおめぇ?じゃあお前には目当てのやつがいねぇのか?』
幹部であろう男が訝し気に挑発してきた男に視線を向ける
恐らくフードの下に眼鏡をかけているであろう男は、眼鏡をクイッと上げると大声で言い放つ
「私は鍛え上げられた筋肉、男の汗をかいてるところが良いと思うぞ!」
その場にいたメンバー全員が一斉に眼鏡から距離を取る
『じゃ・・・じゃああんたのターゲットはグレイか?』
最初に携わったと発言した男が体を震えさせる
「そうだね・・・是非うちに欲しいぐらいだよ、入団的な意味では無く、勿論性的な意味で」
机に乗り出して周りの面々を見つめるフード眼鏡
『あれランズロットさんじゃね?』
『まさかホモなのか・・・?』
『聞いたことがあるぞ・・・円卓の騎士はリーダーの権限で男冒険者しか入団を許さないらしい』
『つまり・・・あっ察し』
周りのざわめきが強くなった所でランズロット(仮)が机をたたく
「男が暗がりの中密会をするという事で私がここに来てみれば!なんという体たらく!貴様等それでも漢か!?」
ランズロット(仮)が腰に差している短槍を抜く
「この作戦!私は反対だ!真の漢として、貴様らに騎士道を見せてやる!」
ランズロット(仮)の怒気に周りが一瞬怯むが、リーダー各の一人が奮起する
「皆のものやつはこの狭い空間でサブ武器を使用している!我らが楽園の為、目の前の賊を捕えろ!」
「フフフ!良い度胸です、我が騎士道にかけて・・・かかってこい!」
◆
「それでは皆の者!作戦は今日の夜!現地にて集合だ!」
おう!という声が地下に響き渡り、一人また一人と作戦の準備の為屋敷を後にする
地面では簀巻きにされて身動きが取れなくなったランズロットが、何人ものプレイヤーに踏まれて荒い息遣いをしている
「なんたる屈辱!くっ殺せ!!」
『『『『男のくっころとかいらねぇから』』』』
そんな光景を遠く、人が少ないところで見ていた男が呟く
「大事な会合があると思って来てみたら・・・えらいことになったね」
ほんまやったら今すぐランズロットさんを助けに行きたい所やけど・・・
周りの人間と同じくフードをかぶった男・・・フーキは申し訳なさそうに呟く
「計画が始まる前にアズに報告せんと」
『誰が、誰に報告するって?』
「っ!?」
普段慣れないフードを被っていたせいか、視界が狭まって油断をしていた
仮面をかけた小柄な男が、前歯を煌かせフーキの前に立ちふさがる
『誰が、誰に?』
再度嫌らしい笑みを浮かべた男が問いかけてくる
こいつ一人ならなんとかなるか?・・・最悪裏切り者ってことにするとええかもね・・・
フーキの頬に汗が流れる
そんな事を思っていた矢先に、男が芝居がかった風に大声を発する
『俺ぁ耳の良さに定評があってね、こいつぁ誰かに、報告を、するらしいぞ?』
わざとらしく叫ぶ男のもとに、残っていたプレイヤーが集まる
『で?誰に報告するって?』
再び問いかけてくる男
いつの間にか会合に参加していた男数十人に射殺す様な目で睨まれる
「・・・アズにや、あんた耳がええっちゅう割に大事な所が聞こえてへんな?」
『なぁにぃ?』
男は血管を浮かびあがらせながら腰の剣を抜き去る
『曲者じゃ!であえであえ!』
「何!?まだ裏切り者が・・・ってよく見たらこいつフーキじゃないか!」
『なんだと?あの女たらしの!?』
「しかもロリキラーでもある」
『な!?』
『『『イエスロリコンノータッチ!!』』』
狂ったような叫びをあげる男達から拘束魔法が飛んでくる
「この程度でわいが止まるとで・・・も・・・!?」
拘束魔法を避け階段まで駆け抜けようとした所で、視界が真っ黒に染まる
暗闇の状態異常!?そんなん使っとるやつおらんかったで!?
『くっくっく・・・さぁ大人しくしてもらおうか・・・』
『なーに、悪いようにはせんさ・・・』
近くで男達の気持ち悪い声が聞こえてくる
マズイ、このままやと・・・
男達の声を頼りに後ずさるが、どうやら壁まで追い詰められたらしい
『はぁん?悪運尽きたな、そこの槍の男と一緒に地下牢にでも入ってな』
男のゲッスイ声が聞こえてくる
「あいにくとわいは縛りプレイが嫌いなんでね!破拳!!」
背中の壁に拳を突き立てると同時に壁が爆発、そのまま屋敷の外にダイブする
確かこの屋敷の下は川やったはず・・・!
しばらくの浮遊感を感じ、ドボンと何かに落ちる感覚が広がって来る
上手く逃げれたみやいやけど・・・
視界が真っ黒なせいで、上手く泳ぐ事が出来ず息も絶え絶えに川に流される
『に・・・逃がすなー!!なんとしてもやつを捕えるんだ!!』
上の方では男達が何やら騒いでいる
「アズ、きーつけるんや、あいつら目が正気やない」
消える意識の中フーキは呟くと同時に意識を手放す
◇
場所は変わってホームにて
鼻歌交じりに包丁で野菜を切るアズは、ナイスな提案をしてきたグレイを思い出し顔を綻ばせる
『せっかくの温泉なんだし、宣伝がてら皆を招待したらどうだい?』
あんなやつでもたまには良い提案するじゃないか!
意見を採用、現在夜に備えて料理の仕込み中である
厨房から見える温泉付近には多くの冒険者が物珍しさに集まってきている
外垣を登るもの、スクリーンショットをあらゆる方向から撮るもの
のれんをくぐり中に入ろうとするものまでいる
そんな連中を見ながら笑みを浮かべる
ホーム内の物は、勝手な持ち出し、所有権の強奪、著作権等で守られるようで
許可を出さないと中に入れないし、スクリーンショットをとっても何も映らないのである
「残念だけど、グレイの案で温泉の解放も夜なんだよね」
朝は宣伝活動に勤しみ、夜に解放しようというグレイの作戦だ
「そこまで考えてるなんて、あいつなかなかやるなぁ・・・それに比べて・・・」
厨房で仕込みをしながら、フレンド欄を開いて溜息を一つ
「フーキのやつ、ログインしてるなら返事ぐらいしてくれよな・・・」
昨日の夜、フーキから届いた空白のメッセージ
最初は打ち間違いかと思い返信をしたのだが全く音沙汰無いのである
「まぁやつはあれでゴキブリ並みにしぶといからな、大丈夫だろう」
鼻歌を歌いながら、料理の仕込みを再開するアズなのであった