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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第一章 空の王者と愉快な仲間達
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第三十七話 伝説って?

 

 新緑豊だった大地は荒れ果て、冒険者の墓が立ち並ぶ荒野に青年の声が鳴り響く


「何としても・・・何としても持ちこたえるんだ!!!!」


 眼鏡をかけた青年

 ランズロットの指揮のもと、クラン円卓の騎士団の冒険者達がドラゴン目掛けて殺到する


 しかしドラゴンは赤子の手を捻るかのように冒険者達を引き裂き、破壊の余波で満身創痍の冒険者達に襲い掛かる


『駄目です!足止めすらできません!!!』

「ば・・・馬鹿な・・・私達はBGOでも最硬の冒険者で構成された軍団だぞ・・・!」


 それをまるで・・・


 ランズロットの前で、生き残った冒険者達がキルされる


「こんなの・・・」


 ある者は引き裂かれ

 ある者はかみ砕かれ

 ある者は焼き尽くされ


「こん・・・なの・・・!」


 一人、また一人と仲間がキルされる中、ランズロットは巨大な槍を手に持つ


「うおおおおおお!!!!ホールディグスピア!!!!」


 アーツの発動と共にド派手なエフェクトが出現

 ドラゴンの尻目掛けて槍を突き出す


「なぁ・・・な・・・・!?」


 しかしドラゴンの尻は予想以上に硬く閉ざされ、傷一つついていない


 ドラゴンは絶望するランズロットに見向きもせず新しいターゲット、円卓の騎士団のメンバーに向けてブレスを構える


「っくぅ!!!!」


 ブレスが放たれる瞬間、団員を庇うようにランズロットが覆いかぶさる

 直後、背中に物凄い熱を感じる


『な!団長!何やってんだよ団長!?』


 団員が顔を青くして叫んでいるが、ランズロットの耳には届かない


 HPが一瞬で真っ白になっていく、私は・・・ただの一人も守る事が出来ないのか・・・


 絶望の中、だがこれで死に戻りできると思いどこか安心したような気持ちになりながら、キルされるのを待つ


 次第にドラゴンのブレスの熱が無くなり、ゲームを通じて感じていた熱さは無くなった


「・・・?私は何故・・・生きているんだ?」


 死んだのではないのか?しかし周りは相変わらずの荒野


 ランズロットは混乱しながら背後を振り向く


「っへ!BGO最硬ってのも大したもんじゃねぇな!やっぱ時代はHP盛りっしょ!」


 そう言いながらランズロット目掛けて親指を立てた青年は、ドヤ顔でドラゴンの前に立ちふさがる


「あんたらは俺の後ろに隠れてな!ここは・・・俺が止める!!!」


 突然の救援に放心状態になりながら、ランズロットは英雄を前にポツリと呟く


「ウホッ!!!良い男!!!」


 ◇


「アズリエルさん!準備オーケイですよ!!」

「ナイスですグレイさん、よし、ルピー頼んだ!!」


 体力増強ドリンクを飲み、ただでさえ高かったHPを数倍まで高めたグレイにヒールを放ちつつ

 我が家の腹ペコモンスター様に指示を出す


『任されました!!飢餓!!!』


 ルピーが突き出した手から何かへにょへにょした音波が現れ、ドラゴンに状態異常アイコンが表示される

 恐らくあれが空腹状態のアイコンなのだろう


 ドラゴンはたったそれだけの行動でグレイからルピーにヘイトを移す

 まぁ何もしてないグレイに一瞬でもヘイトがあった事のほうが凄い事だったりするのだが


『アズちゃん!お願いします!』

「任せろ!・・・あとちゃんはやめてくれ」


 俺はルピーに親指を立てながら・・・グレイに向けて手を構える


「エレガントクック!!」


<グレイの品質と味が上がった!>


 ルピー目掛けて牙を剥き出しにしていたドラゴンがピタリと止まり、グレイとルピーを見比べ始める


 俺には精々、あれ?こいつ髭でも剃って来たのかな?程度の印象しかないが、恐らく・・・


「エレガントクック!!」


<グレイの品質と味が上がった!>


 ダメ押しにもう一回アーツを発動させる


 するとドラゴンが物凄い勢いでグレイ目掛けて突進を開始する


 くっくっく!空腹な状態の時に新鮮でうまそうなもんあったらそりゃ食いつきたくなるだろうよ!

 まぁ俺には精々、あれ?こいつ風呂でも入って来た?程度のイメージだが・・・


 何はともあれ、綺麗なグレイがヘイトを稼いでくれている今がチャンス!!


「ドラゴンのHPは16%になったばかりか、頼むぞルピー!!」

『お任せを!一攻陣、二倍陣、三軍陣』


 ルピーがバフを掛けながらドラゴンの足を、翼を、尻尾を斬りつける


『方陣展開、神楽舞( *´艸`)』


 キィンという音と共にルピーが小太刀を鞘に戻すと、ドラゴンが雄たけびをあげながら暴れ出す


 おおー、HPが1%削れてらぁ・・・あんな大勢でやっと削ってたHPを・・・・


「と、とにかく!残り15%!」


 怒り狂ったドラゴンの攻撃をモロに受けたグレイにヒールを放つ

 これで2回目・・・


 ヒールのMP使用量は一回当たり2、ここに来るまでの間に自動MP回復で15まで回復したので、最大5回

 戦闘中にMPを回復する時間があればまだ撃てるが、あまりペースが速いと即枯渇してしまう


「ルピー!短期決戦で行くぞ!」

『了解です!飢餓の狂騒!』


 出た!ルピーお得意の超火力バフ!これで勝つる!・・・ってあれ?


「あいたたたた!?ルピーさん!?なぜ俺を!?」


 アーツの発動と共に凄まじい勢いで赤く点滅しだしたルピー、しかし何故かグレイにかじりついている

 ああ!そうか!そのアーツって腹減るんだっけ!?


 流石の高HPでも、ドラゴンとルピー、二体の腹ペコモンスターの攻撃には耐えられないらしい

 ガンガンHPが減っていっている


「ちょちょ!エレガントクック!」


<ドラゴンの品質と味が上がった!>


 ルピーの動きがピタリと止まり、ドラゴン目掛けて小太刀を振るい出す


 っぶねぇー・・・グレイさん虫の息だよ


「ヒール!ヒール!」


 急いでグレイのHPを全回復する


 これであと一回、ドラゴンの残りHPを見てもしかしたら倒せるかもとか思ったが、この調子だと無理そうだなぁ・・・


 まぁ俺達の目的はワンパンする事だし、隙を見てワンパンしてから逃げ


「あ、貴方達は一体・・・?」


 突如話しかけられて後ろを振り向くと、ランズロットさんがポカンと見上げている


 あー・・・なんて説明しよう・・・素直にワンパンしに来ましたって言うか?

 悩んでいると、ランズロットさんが目を輝かせる


「そうか!貴方達はドラゴンを討伐に来た凄腕冒険者なのですね!!」

「いや、ちが」

『俺ぁ聞いたことがあるぞ!宿屋には滅多に表に出ない伝説のタンクがいると・・・あれがそのタンク、グレイさんか!!!』


 ランズロットさんの後ろからガタイの良いおっさんが、外人ポーズで出現する


 いや、あいつはタンクじゃなくてただの引きこもりだ


「いや、違うん」

『わ、わたくしも聞いた事がありますわ!!圧倒的なDPSを誇る伝説の女の子の話を!!あれが噂のルピーちゃんね!!』


 ガタイの良いおっさんの後ろからグラマーなお姉さんが、外人ポーズで出現する


 いや、あの子はただのフードファイターです


「だから違」

『そんな二人と一緒にいるという事は・・・!!!』


 ランズロットさんの言葉に、周りの冒険者が目をキラキラさせながら俺を見ている


 ・・・


「そう、私こそはBGO初の回復魔法を操り、伝説の氷結魔法を操りし者!」

『で・・・伝説って?』

「ああ!ドラゴンに立ち向かう勇敢なる者よ!このアズリエルに続けぇ!!!」

「しょ・・・勝機が見えてきたぞー!アズリエルさんに続けー!!!!」

『『『『おおおおおおおおお!!!』』』』


 円卓の騎士団メンバーと生き残った冒険者達が、俺に続いてドラゴンに接近する


 やっべぇ!ついその場の雰囲気に流されてやってしまった!!!

 ああ・・・なんか逃げだしづらくなったなぁ・・・


 まぁ逃げるにせよ戦闘を続行するにせよ、俺はとりあえずワンパンしてグレイの回復に努めよう


「散開!伝説のタンクがヘイトを稼いでる今のうちに四方から袋叩きにするのデス!!!」

『『『『おう!!!』』』』


 冒険者達が俺の指示に従い、ドラゴンを囲みだす


 なんか物凄い勢いでHPが削れたせいでヘイトが外れ、いかついおっさんが襲われそうになってるな・・・

 まぁいいや、とりあえず俺から視線が外れた今がチャンス!ワンパンいれにいこう


 こそこそとドラゴンの背に隠れ、杖で軽く殴る


「よし、これで目標達成っと」


 これであとは街に戻って報酬が来るまで待機しとけ・・・ば・・・・


 満面の笑みで上を見上げ、舌をベロベロさせながら熱い視線を向けてくるドラゴンに血の気が引いていく


 あああああ!?それは継続なの!?食欲より性欲なの!?なんで俺だとわかったの!?


 色々と思う事はあるが・・・とりあえず


「に・・・逃げろー!!!!」


 脱兎の如く逃げ出す俺の後ろを、ドラゴンが追いかけて来る


『あ・・・アズリエルさん・・・いや!アズリエル様が俺の為に身を呈して!?』

『な・・・なんて慈愛に満ちたお優しい方・・・・!!!!』

『皆の者!!アズリエルさん・・・様をお守りするぞー!!!』

『『『『うおおおおおおお!!!』』』』


 なんか後ろが騒がしいがこのままじゃ追いつかれる・・・!そ、そうだ!


 俺は杖の先に氷の精霊を集め自分の前方に氷のラインを生成、スケートのようにその上を滑りだす

 焼石に水だが、普通に走るより断然はやい!


 スケートなんて生まれてこのかたやった事はないが、氷の彫像家のアーツのおかげかスイスイ進むことが出来る


「ついでにほい!!ほい!ほい!」


 掛け声と共に氷の壁を生成、ドラゴンの行く手を阻む


 どやぁ・・・これで少しは時間が・・・稼げませんよねぇ!!!???


 氷の壁を粉砕しながら進むドラゴンを見て、泣きそうになりながら逃げ惑う


「こ・・・このままでは・・・くそぅ!捕まってたまるかぁぁぁ!」


 目前まで迫ったドラゴンのベロベロ突撃に対して、空中に向けてラインを生成、スノボーのように一回転

 上空で杖を振りかぶる


「アイスピックハンマー!!!」


 素の状態でも巨大な氷のハンマーに、全身にまとわりつく氷精霊が同調、ドラゴン並みにデカくなる

 いやいや!こんなの振り抜けるわけないだろが!?


 そのままハンマーの重みにされるがままにクルクルと落下、がら空きになったドラゴンの背中にクリーンヒット!


『おおおおおお!アズリエル様が武勲を立てたぞぉぉ!!!』

『な・・・なんて神々しい・・・』

『残り5%!皆さん、一気に決めますよ!』

『『『うおおおお!!』』』


 冒険者達の怒号と共に、4、3、2、とHPが削れていく


「あと1%!勝ったな!風呂入って来る!」


 そう宣言した瞬間、ドラゴンが俺目掛けて火炎弾を放つ

 その瞳には、手に入らないならせめて道連れにという決死の覚悟が・・・ってんな事はどうでも良い


 完全に油断していた俺に、それを避ける術は・・・無い!!!

 あー結局死ぬのかー


「危ない!アズリエルさん!!!」

「な・・・!?グレイ・・・さん!?」


 迫りくる火炎弾を見ながらリスポン地点の情景を思い出していた俺は、グレイに手を引かれるように射程から外れる


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 変わりに火炎弾の射程に入ったグレイの絶叫が荒野に響く


 HPが削れに削れていたグレイは今の一撃で瀕死、火傷の状態異常も入ってる・・・このままじゃ


「へ・・・へへ・・・無事・・・ですか?」

「グレイさん、なぜこんな無茶を?」

「そんなの・・・惚れた女の為・・・ですよ」


 徐々にHPが削れていくグレイ、しかしその顔は何かをやり遂げたかのような満足感で溢れている


「あ・・・アズリエル様!回復魔法でなんとかならないのですか?」


 名案とばかりに眼鏡をあげるランズロットさん


「残念ながらMPがもう・・・」


 しかし続く俺の言葉に、力なく項垂れる


 俺は今の表情を誰にも見られないように、グレイの服で顔を隠す


「グレイさん・・・本当に・・・本当に・・・ありがとう」

『アズリエル様・・・そんな冒険者如きの為に・・・』

『っく!!!我らが女神を助けた英雄に敬礼!!』

『『『敬礼!!!』』』


 なんか後ろが騒がしいが・・・


 俺は邪悪な笑みを浮かべながら呟く


「ありがとう・・・」


アズ「いやーだってこいつ生きてたら街まで護衛するとか言いそうだし、ここで最後のヒールを使うのは下策かなと」

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