第三十六話 アズリエルの再臨
白く染まる視界
しばらくしてから訪れる轟音と砂煙に顔を覆いながら
「うおお・・・何だよ今の・・・」
『すごい爆発でしたね』
街に飛ばされ、ルピーと合流したアズはグラフ草原を駆けていた
◇
遥か遠く、冒険者が死んだときに現れるエフェクトを見ながら顔を顰める
「く!間に合うか!?」
『アズさん落ち着いてください、大丈夫ですよ』
「いや、あの時すでにやつのHPは半分を切っていた・・・急がねば間に合わん!」
『アズさん・・・なんて友人思いな・・・』
ルピーが感動したような表情を向けている
友人思い・・・?まぁいいか
『けれどもし間に合わなかったら・・・?』
「間に合わせる!とても・・・大事な事だからな!」
『アズさんにとって・・・とても大事な方なんですね・・・』
何やら神妙な表情を浮かべるルピー
何でそんな表情を浮かべているかは知らんが、キリキリと走って欲しい
はやくしないとドラゴンの報酬抽選から外れてしまう!
そう、俺はアイテムによって街に戻った事によりデバフが解けてHPが全快
そのかわりにドラゴンの報酬枠からも外れてしまったのだ
あれほどの強力なモンスター、恐らくイベント中に討伐出来ても今回の一回のみ
なんとしてもワンパンしとかないといけない!!
一人焦る中、ルピーが心配そうにチャットを流す
『アズさんには何か策があるんですか?』
策・・・?
策も何もワンパンさえすれば良いのだが・・・そうだな
「さっき街に飛ばされてる途中でレベルが上がったんだ・・・それにより俺はアイスピックハンマーを振りぬくだけの力と新しいアーツを使えるようになった!」
ステータスウィンドウに表示されたレベル8の数字を見て顔をニヤケさせる
まぁ流石にルピーさんみたいに振り回す事は出来ないが、振り抜けるだけでも十分実用性が上がる
それにMPもちゃんと3以上アップしたし、今まで使えなかった精霊化が使えるのはデカい!
『新しいアーツってどんな魔法なんですか?』
くっくっく・・・!ドラゴン戦まで待てないとは・・・やはりルピーはまだお子ちゃまのようだ
いいだろう!折角だから見せてやろう!
「全ての時を止めし絶対零度の精霊よ、今、我が身に宿りて顕現せよ!」
ルピーが並走しながら『おお!』とチャットを流している
ちなみにこの演唱に意味は無い、ただ気分が盛り上がったからつい言ってしまっただけだ
馬鹿兄辺りに聞かれたらマズイが、まぁルピーは厨二と縁遠そうだし良いだろう
「精霊化!!」
アーツの発動と同時に、首にかけた指輪から青い玉が飛び出す
青い玉は冷たい冷気を放ちながら俺の周りをくるくるまわり、俺の体に氷や霜が付着していく
そして霜が剥がれるように着ていたローブが赤色の模様から水色の模様に、所々氷の結晶のようなマークが散りばめられ、氷が解けるように髪が伸びて胸部に忌々しい感覚が蘇って来る
「・・・・」
『おおー!!!!』
ルピーが目をキラキラさせながら手を叩いている
そんなルピーを片目に、無言で忌々しいブツを揉みながら口をムニムニさせる
なんだこれは?またか?またなのか?
再びアズリエルの姿になった俺が頭を抱えていると、ルピーがローブの袖をちょいちょい引っ張って来る
「いや、違うんだルピー、これは」
『アズさん・・・とても、おかわいいこと・・・』
「うあああああああああああ!!!!!」
やめてくれ!穴があったら埋まりたい!!!
どうして!どうしてこんな事に!!!!!
『それで、その状態だとどんな事が出来るんですか!?』
尚も頭を抱える俺に、ルピーが目をキラキラさせながら聞いてくる
いや、知らんよ?俺も初めて使ったし・・・
溜息を吐きながらもステータス画面を開く
<氷精霊化>
<氷精霊化時、再度精霊化を使うまで精霊レベル×2の知能上昇効果と特殊アーツを覚える>
<氷の彫像家:氷を自在に生み出し、操作する事が出来る>
<ヒール:対象のHPを50%回復する>
なんと!BGOで未だ発見されていない回復アーツだとぅ!?
くっくっく・・・どうやらこの恥ずかしい恰好にさえ慣れれば、俺はBGO初のヒーラーとして名を馳せる事が出来るようだ!!この恥ずかしい恰好に慣れれば!!
「ルピー、どうやらこのアーツは使えないようだ、街に戻ろう」
『ええ!?』
フードで顔を隠すように街に戻ろうとしたが、ルピーにフードを引っ張られる
『ここまで来てそれは無いですよ!行きますよ!!』
「ちょ!引っ張るな!?わかった、とりあえず氷精霊化が解いてからいこう」
今回は妖精の施しとかみたいに強制じゃないし、何より任意で解除できる
ルピーには秘密にしてもらうとして・・・
「さて、せいれ」
「アズリエルさん!?そこにいるのはアズリエルさんではありませんか!?」
最近聞きなれた声を耳にして急いで口をつむぎ、慌てたように走って来る今忌々しい緑髪を睨む
「ああ、やっぱりアズリエルさんだ!どうしてこのような場所に?」
『アズ・・・リエル?』
額の汗を拭いながら爽やかな笑みを浮かべるグレイと、不思議そうに首を傾げるルピーさん
やめ!そんな目で見ないで!違う!違うんだ!!!!というかグレイのそのキャラは何なんだよ!?
「お・・・にく・・・グレイさんは何故ここに?」
「おにく?ああ、俺はその・・・!
グレイが何やら恥ずかしそうに頬を掻いている
「前話したマブダチが攫われたらしく、助けに行こうと思いまして」
ダウト、お前もどうせドラゴンにワンパンかませるつもりだったんだろ?
とは思いつつも俺はニコリと笑みを浮かべる
とりあえずこいつから離れて精霊化を解こう
なーに、街に戻るとか言えば別れる事は出来そうだ、なんせマブダチを助けに行くんだろう?
前みたいに同行するとか言って来ればそこを突けば良い
「まぁまぁ!流石はグレイ様ですね!私達はこれからま」
『私達はこれからドラゴン退治に行くんですよ!!』
ルピーが俺とグレイの間に割って入るようにチャットを流す
何やってくれてんのこの子?
「な!?ドラゴンに!?危険です!!」
グレイが目を見開いて危険を説き始める
とても遺憾ではあるが、今回はこいつに説き伏せられた形で街に戻れば良い
さっきみたいに邪魔しないようルピーにウィンクで合図すると、ルピーは任された!といった感じで胸を叩いている
なーに、ドラゴンは目と鼻の先、精霊解除して合流すれば間に合う筈だ
「それもそ」
『それでも私達は行かないと行けないんです!大事な人が待っているんです!!』
再びルピーがチャットを挟む
お前は何を言っているんだ?
「しかしアズリエルさんが行くのは危険過ぎます!(NPCなんだから)」
『確かにアズちゃんが行くのは危険です!(貞操を奪われかねない)』
謎の口論に呆然とする中、ルピーがこちらを見てチャットを続ける
『貴方にも大事な人がいるでしょう?』
「・・・確かに」
グレイはルピーの視線をどう解釈したのか、納得したように頷く
お前が説得されるんかいぃ!!!!!
ま・・・まぁ良い、なんとかこの場で別れれさえすれば
「ですがそれなら俺も同行させてください、前も言いましたが俺は冒険者として凄腕なんですよ」
そう来ますよねー!!!
でもここは断
『それは頼もしいです!グレイさんの噂は耳にしてます!!』
「・・・」
ああ!もうわかったよ!!!連れってってやるよ!連れてきゃ良いんだろ!!!???
どうあがいても逃げれない事を悟った俺は、グレイに視線を向ける
「グレイさん、貴方はドラゴンの注意を引いてください、頼めますか?」
「おっふ・・・当然です!その為に千円アイテムも用意してきました!」
そう言いながら体力増強ドリンクを見せびらかせるグレイ
まぁR交換所に通うこいつにとって千円なんてたかが知れてそうだし・・・
「それは安心です、お・・・私がグレイさんを回復するので、なんとか持ちこたえてください」
「な!?アズリエルさんは地元民でしたよね!?」
あ、そこに反応するのか
下手に嘘言ってアズだとバレたくないしー・・・
「なるほど、戦える地元民だったんですね」
「え?あ、はい」
なんか勝手に納得してくれたからこの話は流そう
「そしてグレイさんがドラゴンを引き付けている間に・・・ルピーさん」
『任せてください!』
ムフーと鼻息荒くドヤ顔するルピーさん
フードファイターとかいう訳の分からない職についたが、やはり彼女のDPSはたよりになる
問題はどうやってグレイにヘイトを固定させるかだが・・・
・・・フードファイター?
「アズリエルさん、ドラゴンの注意を引き付けるのは構いません、ですが・・・恥ずかしながら俺にはヘイトを奪うアーツが無くて・・・」
「いえ、大丈夫です、そこは私達に任せて下さい」
「へ?」
俺は間抜けな顔をするグレイを見ながら邪悪な笑みを浮かべる
さぁ!ワンパンいれにいくぞ!!!