第三十四話 ドラゴンと囚われの・・・
「うへぇ・・・生臭い・・・」
ドラゴンに拉致され、適当に巣に投げ込まれた俺は顔をしかめる
なんだ?トリガー技を封じたからバグでも起きたのか?
「しっかしくっさいなぁ・・・」
こんな臭い場所さっさと逃げ・・・ドラゴンの巣は少し興味があるな
「見たところ高台のようだが・・・どこのエリアだ?」
マップを開いても、円形状のフィールドしか表示されない
俺の記憶だとこんな場所見覚え無いし、おそらくボスフィールドというやつだろう
だとするとチャットで救援は・・・やっぱ無理か、この調子だと多分逃走も不可だろうな
灰色になったチャット欄にこめかみを押さえつつも、周りを見回す
「ふぅむ・・・ドラゴンの巣というよりは鳥の巣っぽいが・・・」
俺は木やら草で作られたであろう巣の中を漁る
あれだろ?ドラゴンっていったら巣の奥にお宝を隠してるんだろ?
「お?これは!!」
<モンスターのふんを拾った!>
手に入れたブツをどこか遠くに投げ飛ばす
そういえば攻略情報ばかり見てたからドラゴンの生態とかよく知らんな
ドラゴンもどっかに飛び去ってすぐキルされる様子も無いからその辺確認しとくか
近くにドラゴンの気配が無い事を確認し、適当に情報サイトを開く
<伝説に存在する魔獣>
<その炎は大地を焦がし、一夜にして一つの都市を焼き尽くす
<空の王者としての誇りを持っており、数度飛行を邪魔した者を同格と認める習性がある
<また、普段は大渓谷の奥に巣を作るが、数百年に一度ツガイを求めて世界を飛び回る
<ツガイになる者は種族性別問わず、その性欲の強さから様々なドラゴンとのハーフが誕生している
「・・・つがい?何それおいしいの?」
俺はドラゴンの情報に口をムニムニさせる
えっ?生態調べるつもりだったけどなんかヤバイ情報出てきたんだけど?
予想以上にピンチなんだけど?
いや、まだ俺がそうとは限らない、だがさっさと・・・
無理を承知でドラゴンの巣から飛び降りようとした所で、ドラゴンが鼻息荒く巣に戻ってくるのを確認
咄嗟に飛び降りようとしたが、足でキャッチされて再び巣に放り込まれる
よし、こうなったらログアウ・・・・
ああ!こんちくしょう!ボスフィールドだもんな!そりゃ使えないよ!
灰色になったログアウトボタンを乱暴にかき消していると、ドラゴンがベロベロと舌を動かし近づいてくる
「ちょやめ!あ!アッーーー!!!!!!」
くっさい!!くっさい!!しかもねばねばして気持ち悪い!!!!
「どうしてこうなった!?あっ!こんな時こそ昔メアリーさんが言ってたセクシュアルガード・・・って両手を塞がれて使えん!!!
まるで俺の動きを理解しているかのように両手を風で封じられる
ああ!風精霊ってこんな使い方もあるんだね!!!勉強になるよコンチクショウ!!!!
ほどこうとするが、今までとは段違いに精霊が凝縮されていてうまくほどけない
そんな事をしている間にも、ドラゴンにベロベロとなめ回される
「誰か!誰かぁ!?」
ゲームで、しかもドラゴンに貞操を奪われるとか、世界広しといえど俺だけだろうよ!
圧倒的絶望に涙していると、何かが空から飛来してくる
「そこまでや!!!」
何かはドラゴンの尻尾を掴むと、背負い投げの要領でドラゴンを投げ飛ばす
そして何か悔しそうな顔でこっちを見ているドラゴンに向けてドヤ顔をかます
「わるいなドラゴン・・・このゲームは全年齢版なんや」
「フービー!!!」
見慣れた友人の姿に安堵の息をはきながら接近、友人の服で鼻をかむ
「あびばぼー!!!ほんぼあびばほー!!!!!」
「うわ!きったな!ちょい近寄らんて!!」
そうは言いつつハンカチらしきものを渡してくれるあたり、流石フーキだ
サンキューフッキ!
「でも何でここに?今は決勝戦の時間じゃなかったか?」
「ああ、そうやね」
ハンカチであらゆる液体を拭きながら確認しておく
若干フーキが嫌そうな顔をしている気がするが、大親友だからな!それはありえないだろう
「・・・親友のピンチは放っとけんやろ?」
「流石フーキだぜ!」
やはり持つべき者は友だな
「まぁほんまはちょっと違うんやけど・・・」
「ん?今なんか言ったか?」
「いや、なんでもないで」
ハンカチで鼻をかんでいてよく聞こえなかったぞ?
というかドラゴンは!?
ビクビクしながらドラゴンに視線を向けると、ドラゴンに相対する男がもう一人
「ふん!我らが神聖なる決闘を邪魔した罪、万死に値する・・・その上我が寵愛を受けし天使に手を出すとは・・・くっくっく・・・余程愉快な死体になりたいと見える!!!」
いつになく闘気を漲らせる†エンドシャドウ†が、ドラゴンの頭を蹴り上げている
「馬鹿兄まで!?」
一体どうなってんだ!?
「まぁ簡単に言うと決勝中にメアリーさんからチャットが来てな、青兄さんと二人で先行して来たんよっと!!」
フーキは軽く説明をいれながら俺を抱える
「おいやめろよ!なんでよりにもよってお姫様抱っこなんだよ!」
「はっはっは!ドラゴンに連れ去られる役は大抵お姫様やん?」
「ざっけんなよこの顔面生殖器!!!」
「なんかひどない!?」
そう言いながらもフーキは俺をお米様抱っこに持ち替え、ドラゴンの突進攻撃を回避する
うむ、これなら納得だ
「しかし野獣先輩のやつ俺から全くヘイトを外さないぞ?」
「せやね、アズには後方支援を任せようと思ってたけど無理そうや」
だったらあれか?俺があの野獣先輩相手にタンクをしなくちゃならないのか?
下手したら討伐終了までに俺は卒業式を迎えかねんぞ?
最悪の事態にガクブルしていると、フーキが困ったように笑う
「よし青兄さん!プランBでいくで!」
「ふん!我に指図するとは図に乗るなよ?血に飢えた風紀委員よ」
そう言いながらも何か筒状の物を設置する馬鹿兄
「おい、なんなんだあれ?」
「あれは遠距離を移動する為のアイテム、カタパルトやね、キメラの翼みたいなもんや」
ああなるほど、あれに射出されて移動するわけだな?・・・随分とヤバイ移動方法だな
納得したように頷いていると、フーキがカタパルトに俺を装填する
「よし!」
いや、よしじゃないが
「着火!」
いや、着火じゃにゃああぁぁぁぁぁぁ
◇
アズが遠くに射出されたのを確認し、安堵の息を吐く
まったく、手のかかるやつやね
後ろを振り向くと、愛人を逃がしたからか怒り心頭のドラゴンの姿
「最後のカタパルトは使ってもうたし・・・青兄さん、救援が来るまできばってや?」
「暗黒世界の勇者にして魔王であるこの†エンドシャドウ†がトカゲ風情におくれを取るとでも?」
HPの減少で足をガクガクさせる青兄さんに吹き出しそうになりながらもドラゴンを睨む
「さて、わいの友人に手ぇだして・・・覚悟は出来てんやろうな?トカゲ野郎」




