第三十一話 赤金の鷲
「さて、心配してるアズの手前大見え切ったはええけど・・・」
わいは目の前で不気味に口を歪ませる男に視線を向ける
この世界には合いすぎている整った金髪に、高級そうな白い服・・・そして何より目立つ顔を覆い隠す不気味な仮面
正直前情報は全く無し、対峙するだけで背中に嫌な汗が流れる
不気味な雰囲気を纏った仮面男は、俺を見るなり変な声をあげる
「ああ?おめぇはあん時の・・・!?」
ん?相手はなんかわいを知ってそうな雰囲気やな
もしかして今までの冒険で出会った事があるんか?
「えーと、誰でしたっけ?」
「あぁ?・・・ああ、なるほど」
男は何か納得したように顎に手を当てる
「いえいえ、わたくしの勘違いだったようです!」
先程までの不気味な雰囲気が嘘のように、男は明るい声で笑みを浮かべる
「どうも初めまして正義の風紀委員さん!わたくし赤金の鷲の副マスを務めておりますグランと申します、以後お見知りおきを」
「その呼び方はやめ・・・」
今こいつなんちゅった?赤金の鷲の副マスやて?
最近何か悪さをしている人間が決まって入団している悪党クラン、赤金の鷲
わいが風紀委員とか言われ始めるきっかけになった諸悪の根源の副マス・・・なるほど、最初に感じた嫌な感じはそれが原因やね
「っちゅー事はまた何か悪だくみでも考えとんか?」
「いえいえ!今回は単純に赤金の鷲の知名度を上げる為の広報作業ですよ!!」
グランは両手を広げて高らかに宣言すると、腰のレイピアに手をかける
・・・ほんまどっかで見た事あるんやけどな
訝しみながらもグランと対峙して拳を構えると、アナウンスが鳴り響く
<えー!それでは第三試合の選手は・・・ってもうなんか始まりそうな雰囲気ですね!それではそのまま決闘開始の宣言を致します!デュエル開始ー!!!!>
相手がわいを知っていて、なおかつわいは相手が誰かわかっていない
この情報量の差で時間稼ぎは自殺行為・・・!なら!
「速攻いくで!!崩拳!!!」
開始の合図と共に接近、グランの腹目掛けて拳を突き出す
その拳はモロにグランに入ったが・・・おそろしく手ごたえが無い
グランの口角が吊り上がる、何か嫌な予感がする
「っつ!封陣拳!!」
続いてアーツ封印効果のある技を繰り出すが、軽く避けられてしまう
「おおこわいこわい!そんな焦らなくても相手してあげますよ?」
グランは不気味な笑みを浮かべて指パッチンする
「ペイン・・・シェア!」
それと同時にぬめっとした気持ち悪い感覚が全身を襲う
「なんや・・・?でも何も起きて・・・な!?」
唐突に腹部に走る激痛に、思わず片膝をついてしまう
な・・・なんや!?あいつが指パッチンしたと思ったら腹に激痛が・・・!?
困惑するわいに、レイピアを構えたグランが気持ち悪い笑みを浮かべている
「これがわたくしのアーツ、ペインシェア、自分が受けた痛みを他人と共有する素晴らしいアーツです、他人と痛みを共有する・・・素晴らしいと思いませんか?」
そう言いながらレイピアを突き出すグランに足払いをかけて転倒させる
「なーにが素晴らしいアーツや・・・一方的に痛みを押し付けてくるだけやん」
これでこっちの痛みも引き受けるとかならまだ・・・いや、それでも嫌なアーツやね
「フヒ!素晴らしいですよ?このアーツが共有するのは痛みの感覚だけ・・・しかしその痛みは痛覚遮断設定の効果を受けないんですよぉ?」
グランの顔が醜く歪む
「どいつもこいつも痛覚設定を低く設定する温室育ちのゲーマーばかり・・・そんなやつらが痛覚無視の痛みを受けたらどうなると思います~?」
グランはコロコロと表情を変えながらもレイピアでわいに追撃をはかる
「さいっこうですよ~?痛みに恐怖し、何も出来ないまま苦痛に喘いで消えていくやつらを見るのは・・フヒ!フヒヒ!ヒャーハッハッハ!!!」
豹変したグランから突き出されたレイピアを掴み、グランを睨む
これがやつの本性ってわけやね
やっぱ根性曲がっとるやん!
レイピアを引き寄せるようにグランを引き寄せる
「あ~ら?良いんですか~?わたくしに攻撃すればあなたにぃ!?」
見せびらかすように隙を作っていたグランの顔に思いっきり拳を叩き込む
同時にわいの頬にも激痛が走る
「ギェフ!?おめぇ!?なんで!?」
「あんた何か勘違いしとるやろ?」
体勢を崩しているグラン目掛けて再び拳を振り上げる
「あひゅぅ!?ば・・・馬鹿な!?痛みが来るとわかっていれば少しはためらうはず!?しかも痛みは現実と全くおなひぎぃ!?」
腹を抱えて痛みに喘ぐグランを殴りながら笑みを浮かべる
「そこがあんたの勘違いや」
グランは何が起きているか全くわからない様子でわいを見上げている
痛みを感じてないのか?とかそんな事思ってそうな顔やね
頬を伝う汗を拭い、そのまま親指を下に向けておく
「わいの痛覚遮断設定はハナッから0%・・・つまり」
アホ面かますグランに特大の攻撃をぶちかます
「所詮この程度の・・・殴られる程度の痛みにわいは怯まん!円孔砲覇!!」
攻撃力×200%の特大技を受け、グランのHPが赤色に染まる
全身全霊、最強の一撃を決めたつもりやったけど・・・存外しぶといやん
でもま、これはわいの勝ちやな
床に倒れ、ピクピクと痙攣するグランを見下ろす
「フヒ!フヒヒ!フヒヒヒヒ!!!!」
お?たったあんだけで壊れてもうたか?
やり過ぎてもうたかな?と心配そうに見下ろしていると、グランが突如大きな声で叫び出す
「ペインギフトぉぉぉぉ!!!!!」
な・・・なんや!?
ユラユラと不気味に立ち上がるグランに一瞬びびってしまう
グランは何を考えているのか人差し指でわいに攻撃してくるように挑発してきた
「お望みとあれば、もう一発いくで!!円孔砲覇!!!」
クールタイムが解けたわいの必殺の一撃、グランは避ける事もせずモロに体で受け・・・口角を吊り上げる
いったい・・・何を狙って・・・
ただひたすらに不気味なグランに後ずさった瞬間、コロシアムの観客席で異常が起きる
『ああ・・・・ああああああああ!?いてぇ!?い・・・ひいいいい!?』
何が起きたのか、突如痛みを訴えだした観客がそのままログアウト、場は騒然となる
「あんた・・・何したんや?」
「フヒヒ!決まっているでしょう?慈愛に満ちた私が・・・痛みを分け与えてあげたんですよ・・・!!」
なんやと!?痛みを与えれるのは敵対する人間だけじゃないって事か!?
それに今までは痛みだけを共有してただけのはず・・・ノーダメージやと?
・・・これはズルしとる可能性が出てきたね
「さぁ・・・わたくしを攻撃できますか~?正義の使途たる貴方が!何も知らない人間に痛みを与えてまで!あひゃひゃひゃひゃ」
よろよろとレイピアを構えるグランが狂ったように笑う
どうやらどこまで行っても赤金の鷲の連中は心底腐っとるらしい
「あんたらやっぱ最低やわ」
「さいっこうの誉め言葉ですねぇ?」
だからこそ、そんな悪党共を放っとくわけにはいかへんな
ギロリとグランを睨み、アーツを発動させる
「博愛の守護」
「ああ?今更どんなアーツを使ってくるかと思いきや・・・守護系か~?びびってんじゃねーよ!!」
グランがゲス顔をかましながら親指を逆さに首元をかっきる動作をする
良い具合にメッキが剥がれとるやん、やっぱ悪党は悪党らしい言動しとる方が殴りやすい
グランの腹に本日三度目の拳を突き付ける
「別に?びびってへんよ?」
「ヒヒ・・・さぁて今度は誰が・・・・なぁ!?」
多分観客席で苦しんでるやつを探しとったんやろうけど・・・
「博愛の守護の効果は、一定範囲内にいる他プレイヤーのマイナス効果を全て倍にして引き受ける効果や・・・つまりあんたが周りに分散させた痛みはわいが引き受けとる」
「はぁ!?おめぇドMかよ!?」
失礼な事言わんといて欲しい、そういう罵倒を言ってくるのはあいつだけでええんや
しっかし、グランのHPがほんのちょっとになってから減る気配が無いね
根性系のスキル持ちと言えば通りそうやけど、赤金の鷲やしなぁ・・・よし
「せっかくやから特別に見せてやるで、わいのとっておき・・・模写眼を」
グランはわざとらしくヒッと情けない声を出しながら、レイピアをこちらに向けてくる
「模写眼発動・・・対象は・・・ペインシェアや」
わいがアーツの発動を口にした瞬間、グランがレイピアをわいの肩に突き立てる
「へ・・・うへへ・・・驚かせやがって・・・何にもおこ・・・あああああああああ!?」
自分の肩を抑えながら地面を転がり回るグラン
「わいの模写眼は全てのアーツをコピーする、おっと、こっちにまた痛みが返ってきたで?」
これはあれやね
わいが痛みを受ける→グランが痛みを受ける→わいが痛みを受けるの無限ループが成立しとるね
グランは息も絶え絶えに地面を這っている
温室育ちのゲーマーばかりとか言ってたわりに随分と根性がないやん
グランの頭を掴み自分の足で立たせる
「どこ行くんや?まだ勝負は決まってへんよ?」
「ひ!?」
ふらふらと立つグランの顔を思いっきり殴りつける
先程までの痛みに加え、新たな痛みが追加される
これは面白い、どこまで痛みは重複していくのか
「ほら立ちや三下、こっちはアンタの2倍の痛みを受けとんやで?どっちが先に音を上げるか・・・勝負といこうや」