第三十話 トーナメント1日目
「ようフーキ!弁当持って来たぞー!」
トーナメント初日
選手席で険しい顔をしているフーキに弁当を持ってきた俺は、とっとと弁当を渡し選手席に座る
これにより特等席で試合を見る事が可能になるのだ!
「おお、助かるね」
フーキの表情が若干良くなる、くっくっく・・・それだけでも十分な成果だが、更に驚かせてやる
「驚けフーキ!プレイヤーメイドの料理にはなんとステータス上昇効果があるんだぞ!」
素材、質などによってステータス上昇の内容は変わるがとてつもない情報なんだぞ!
「あぁ、知っとるよ?酒場のアズ目当ての客の半分は能力付与目当てやったし」
どうやら知らないうちに利用されていたようだ
口をムニムニさせながらコロシアムに視線を向ける
だ、だがしかぁし!今回の料理は酒場から貰った豪華食材をふんだんに使ったゴウジャス弁当!能力値アップも成金クラスだ!
再びドヤ顔でフーキに向き直り、いかにこれが素晴らしい事かを解いていると見知った顔が寄ってくる
「封印されし大賢者よ!覚醒の時が来たか!」
そう言いながら黒いコートを纏った男が、これまた黒いマントを広げながらポーズを決めている
一気に現実に引き戻された俺は、半眼で厨二患者を睨む
「まさか我ら血族が争う事になるとは・・・!しかしこれも運命!ディスティニー!存分に剣を交えようぞ!!」
「いや、俺はフーキに差し入れに来ただけだからトーナメントの資格はないから」
というか俺は杖だから剣を交えるのは無理かな
「そうか、我らの終わり無き戦いに決着をつけるのも一興であったのだが・・・」
馬鹿兄が見てわかる程落ち混んでる・・・そんなにか?
「PVPならいつでも受けるから、というか馬鹿兄もちゃっかりトーナメント出場してんのな」
「当然だ!」
落ち込んでいた馬鹿兄の顔で唐突に視界が埋まる
近い近い近い近い
馬鹿兄が鼻息荒くトーナメント表を取りだしたので、フーキと一緒に確認する
どうやら出場者の顔写真が拡散されているようだ
「うへぇ・・・トーナメント8枠の内3割が知ってる顔じゃん」
フーキ、†エンドシャドウ†、筋肉男の画像を確認してゲンナリする
予選参加者1万人でよくもまぁこんなに知ってる顔が集まったもんだ
「時にそこのお前!我がフェイバリットファミリーの盟友だと・・・?」
馬鹿兄がポーズをつけながらフーキを指差す
なんだ?俺が誰かと友人関係になるのが気に食わないのか?
「大天使アズリエルは孤高の存在、故に盟友等おらん!」
こいつ!言うに事欠いてぼっちと言ったな!?トーナメントに出る前にぶっころす!
包丁を取りだした俺を止めるように、ローブの頭の部分をフーキにかぶせられる
「離せフーキ!こいつ殺さない!」
「まぁ落ち着こうや・・・えーと†エンドシャドウ†さん?悪いけどアズとはほんまに腐れ縁やよ?」
「なん・・・だと・・・!?」
馬鹿兄が心底驚いた顔をしているのが腹たつ
「アズリエルの盟友・・・面白い、ならばその力!この輪廻永劫の戦いの果てに証明してみるが良い!フーハッハッハッハ!!!」
馬鹿兄が高笑いをあげながら立ち去って・・・いや、隣の席なんだよなぁ
一転して真顔でコロシアムを見る馬鹿兄を見ながら、フーキがポカンとしている
「・・・なんや愉快な人とフレンドなったんやね?」
「いや、あれはフレンドじゃないから、というかフーキ?あれ太郎兄だよ?」
「え?あれって青兄さん?ほとんど別人になっとるやん」
そういえばフーキと馬鹿兄が最後にあったのって小学生の時、馬鹿兄がまだクソ真面目な時だったな
そりゃわからんか
「あれが・・・今の兄です・・・」
「なんや・・・大変やね・・・」
二人で昔の馬鹿兄の姿を思い浮かべているとアナウンスが流れる
『これより第2試合が始まります!選手の方は入場お願いします!』
トーナメント戦では、ランクマッチで空席だった客席からコロシアムでのPVPを観戦する事が出来る
しかし入場チケットが高いのと、良い席はすぐ埋ってしまうのでまともな席を取るには徹夜で並ばなくてはならないらしい
ドラゴン退治組が最前席はまず無理だろうな
まぁ俺はルールの裏をついた方法で選手席に陣取ってる訳だが
PVPを目の前で見ることができる位置、かつ無料だ
今回ばかりはフーキ様々である
選手入場
隣に座っていた馬鹿兄が再び高笑いを上げながら椅子を飛び越えていく
リアルでは失敗してたが、流石にゲーム内だと上手くできるのか
そんな馬鹿兄の目の前には2Mはある肉の塊
観客席からザワッザワッという音が流れる
「おいフーキ?オークまで試合に出れるのか?」
「いや、あれはプレイヤーやよ?」
これは失敬、若干オークさんがこっちを睨んでる気がするが気のせいだろう
若干凄みのあるオークさんの眼光に視線を逸らしていると、試合開始のブザーが鳴り響く
開始と同時にオークさんが見た目にそぐわぬ速度で両手を広げ突進
馬鹿兄は一歩も動かず近づいてきたオークさんに足を突き出す
馬鹿兄の蹴りが体にめり込むがオークさんは物ともせず馬鹿兄の両腕をガッチリ捕まえる
これは決まったかな?
観客席からホモォ・・・という歓声が響く中、馬鹿兄が不敵な笑みを浮かべる
オークさんが吹き飛びHPが黄色くなる
え?何が起きたんだ?
「あれは・・・気とかなんかそんな感じやね!良いもんもっとるなー」
なんか適当な答えを出すフーキの瞳が怪しく揺らいでいる
フーキさん?少し怖いですよ?
そんな友人の様子にガクブルする中、馬鹿兄がオークさんの巨体をまるでボールのように弾いてHPをロストさせてしまった
あれ?もしかしなくてもかなり強いんじゃないか?
「あれは多分決勝で戦う事になるやろうなぁ」
沸き上がる歓声の中、†エンドシャドウ†とフーキの間に火花が飛び散っているのが見える
フーキはフーキですでに決勝に行くこと前提で話してるし・・・
「あんま油断すんなよ?もしかしたら次の試合で負けるかもしれないだろ?」
「ん?メンツを見た感じ、わいの相手になりそうなんは青兄さんくらいやったで?」
それは負けフラグじゃないか?ほんとに大丈夫かこいつ?
俺の気持ちを知ってか知らずか、フーキが手をグルグル回しながらコロシアムの中に入場していく
「まぁ見とき、ちゃちゃっと勝ってくるで」