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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第一章 空の王者と愉快な仲間達
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第二十四話 静かなる浸食

 椅子から転がり落ちたフワフワした感覚の中、何かに運ばれる感覚に目を開ける

 寝落ちしていたのだろうか?俺を小さいジローがベットまで運ぶ、そんな夢を見た気がする


 見慣れた天井

 昨日グレイから無事逃げ切れた俺は宿屋でログアウト

 精神的な疲れでそのまま椅子の上で寝てしまったはずだ


「いつの間にベッドに移動したんだ?」


 上体を起こして周りを見るに、ジローを抱いてベッドで眠ってしまったようだ


 伸びをしながら部屋のスタンドミラーで自分の姿を確認

 うん!いつもの大きさだ!

 ゲーム内では、ほぼ永続的にちっちゃくなったり、胸がついたりした為、現実の姿を見ると安心する


「そろそろ24時間たってるしログインしたら治ってるかもな」


 隣の部屋では馬鹿兄のいびきが聞こえる

 いつもの如く夜更かししたのだろう


 壁ドンをしていびきが止まったのを確認してから一階に降りると、姉が上機嫌で台所に立っているのが見える


「姉さんや姉さんや?何か良いことでもあったのかい?」

「あ!おっはよー!」


 抱き付いてくる姉の腹にブローをいれる


「いた・・・痛いって!地味に痛いんだって!」

「歳をかんがえろ!歳を!」


 しかし、ふむ?いつもと若干手応えが違うな、腹の柔らかさがない

 そういえば最近街を歩いていると誰かの視線を感じるとか言ってたな、ストレスで食欲でも落ちたか?


 殴るのをやめて姉に真面目に言い聞かせる


「姉さん・・・ちゃんとご飯食べてね?痩せてる姉さんなんて嫌だよ?」


 姉が目に涙を浮かべて「ひろ!お姉ちゃんの事をそんなに!」と言って再び抱き付いてくる


 全く、お腹の弾力が無くなったら殴り心地が悪くなってしまう

 されるがままに頷いていると、唐突に頭に刺激が走る


「あっ!ひろの若白髪発見ー!」


 姉が白髪を抜いたらしい


「ヤメロォ!白髪でも抜かれると痛い時は痛いんだぞ!」

「ごめんごめんー!見つけるとついね!あれ?白髪ってこんな色だっけ?なんか青っぽいけど・・・白髪なんて久しぶりに見たからかなー?」

「謝罪に誠意を感じない!やり直し!」


 二人でドタバタしていると馬鹿兄が目にクマを浮かべて降りてくる


「お!太郎兄!珍しく早起きじゃん!」


 太郎兄は何やら不機嫌そうに無言で椅子に座る

 仕方ないなぁ


「エンドシャドウ!今朝は随分と早いな!」

「大いなる大地の脈動により覚醒した故な」


 若干馬鹿兄が睨んできている気がするが気のせいだろう


「しかし!今日は我が忠臣が来たる日故にアズリエル、貴様を褒めて遣わす!」


 馬鹿兄が椅子から立ち上がり全身でポーズを決める


「大天使アズリエルによる審判により覚醒する事は必然であったのだ!」

「ところで姉さん朝ご飯まだー?」

「今ちょうど出来たから二人共席についてー」


 椅子の上でグラグラしていた馬鹿兄が静かに席に座る


「そういえば太郎兄の言ってた忠臣って?」


 太郎兄は不貞腐れながらもこたえてくれる


「メアリーしかいまい」


 ほーっメアリーさんとはリア友だったか

 顔を合わせたくないしさっさとBGOにログインしよう

 あの人の俺を見る目はヤバイんだよ


 ◇



「うー!冒険冒険!」


 今、新たな冒険を求めて宿屋の階段を駆け下りている俺はどこにでもいる冒険者

 強いて違う所があるとすれば、さっきまで胸があった事かな!

 そんな俺がふと酒場の入り口を見ると、一人のけむくじゃらが視界に映る


「やらねぇか?(クエストを)」

「ウゲッ!?ドルガさん!?」


 最近何かにつけて酒場のクエストを押し付けてくるドルガさんに、反射的に体をUターンさせる


 しかし回り込まれた!


「アズ・・・おめぇ、ちょっと良いが?」


 ◇


「あれ?今日は混んで無いですね」


 手伝わさせられるの覚悟でついてきたが

 酔っ払いNPCや冒険者が吐いてる所にエンカウントする事なく厨房に入場、拍子抜けだな


 酒場の中は冒険者が一人しかいないありさまである 

 というよりあれグレイじゃないか?何であんなに落ち込んでんだ?


 その陰鬱とした姿は、リストラされたサラリーマンのように見えなくもない


「ドルガさんドルガさん、あの人は一体いつからあの状態で?」

「あぁ、今日の朝からだな、何でも宿を追い出ざれでがら行く所がねぇそうだ」


 あぁ、この前の冒険の時に言ってたあれか

 グレイは一瞬こっちに反応したが、興味を無くしたのか再び虚空をみつめている


 ちなみに今の俺は今まで通りのアズだ、アズリエルでは無いし、ゲームを始めたころのアズでも無い

 つまる所あのクソ妖精の呪いは解けていなかった


 俺は溜息を吐きながら、視線をグレイから酒場内に移動させる


「本当に追い出されたんですね、それにしても今日は人がいませんねぇ・・・」

「平時の酒場はこれが普通だよ、厨房内はペット厳禁だぞ?」


 だとすると俺は何で呼ばれたんだ?


「ここで働かせてもらった経験がある俺としては寂しい現実ですね・・・ジローはぬいぐるみなので」

「そうか・・・ところでアズは料理人としてやっでいく気はないのが?」

「料理は好きですが全てではないので、あくまで趣味ですよ・・・アリスさんの写真を店に飾ると客足減りますよ?」

「酒場の雰囲気を変えたいとずっとおもってたでな・・・アリズは世界一のべっぴんだがらな・・・近寄りがたい店になるだか」


 そんなものを飾ると食欲が失せるんだよ!

 アリスの写真を壁から引き剥がそうとしてると、俺達の会話を聞いていたグレイがガタッと立ち上がる


「リア充爆発しろ!!」


 怒鳴り声と共に立ち去るグレイを片目にドルガさんに向き直る


「ドルガさんドルガさん、最後の客を逃しました」

「ありゃあ仕方ねぇだ・・・むしろ陰気臭かったからありがてぇよ」


 ドルガさんは何もすることがないからか無駄に食材で遊んでいる


「話は戻るが料理人としてやっていかないまでもホームは欲しくねぇか?」

「それは欲しいですが・・・ホームがどうかしたんですか?」


 ホームは大量のRと引き換えに手に入れる事が出来る物の一つで、でかいものだとクラン専用のお城等もある

 そんな物、駆け出しの俺と何の関係が?


 首を傾げる俺にドルガさんが口の端を上げる


「アズ、おめぇには色々と世話になっでるかだな、ぐれでやっても良いと思ってな」

「マジですか!?でも維持するのにもRが大量にいりますよね・・・?」

「なーに部屋は四つほどある、家賃を払わせて維持費を賄えば良いだ」


 なんて甘い話!


 多少知った仲とは言え、ほぼ他人に近い俺達

 こんな甘い話絶対裏があるに違いない!絶対高いツボとか買わされる!


 ・・・ここは欲望に負けない強い精神が必要だ

 心を落ち着かせ真面目な顔でドルガさんに向き直る


「是非貰いたいと思います」


 疑い過ぎるのも良くないという事なのです


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