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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
第一章 空の王者と愉快な仲間達
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第二十三話 アズリエル

 

「おーいアズさーん!いるなら返事してく・・・おっふ」


 恐らく俺を探していたのであろう、草を掻き分けてグレイがポップして来やがった

 グレイは俺を見つけた瞬間から、目を点にしてこちらを見ている


<この時アズに電流走る>


 マズイな、これはあれだ、自分の恥ずかしい秘密を誰かに見られた時のようなこの・・・


 何か言い訳を考えなければ、俺は自分の胸を増量し、あまつさえ可愛い服で徘徊する子認定されかねない

 しかもグレイは普段引き籠ってレベルを上げてるくせに、地味に知名度が高く交友関係が広い・・・それこそ俺が知っている程に


 そんなやつがこの事を広めたら俺は二度とこのゲームが出来ない程のダメージを受ける・・・間違いない


「あ、いや!そのさ!これは!?」


 何とか弁明を図ろうとするが、上手く口が回らない

 っく!こんな時に人見知りスキルが発動してやがる!


「・・・お嬢さん、お名前は?」

「え!?あれ!?」


 どこかキリッとした表情のグレイが手を差し伸べてくる


 こいつは何を言ってるんだ?

 俺は首を傾げながら頭の上を指さす


「ああ、名前を隠してるわけじゃないんだね・・・という事はバグかな?君の名前が文字欠けしてて見えないんだ」


<再びアズに電流走る>


 名前の非公開とか出来るのか・・・一応このデバフが消えるまで設定しておくとして・・・

 なに?こいつは今俺をアズと認識していない?


 俺が無言でグレイを見ると、何やら頬を染めて明後日の方向を向いてしまった


 ・・・だとすると俺がすべき事はただ一つ!


 尻もちをついた状態だった俺は、グレイに支えられながら立ち上がる


「ありがとう!おれ・・・私はグラフに住んでいる者ですが、お婆ちゃんが病気でこの森に薬草を採取しに来たんです」

「ああ!なるほど!地元民の方でしたか!」


 シラを切る!別人で通す!

 俺は普段絶対しないような笑顔を浮かべ、かつ口調を緩やかに話す

 若干声が柔らかな物になってるから、余程俺と親しい間柄じゃなけりゃ気づかんだろう


 そんな俺を見て納得したように手を叩くグレイ

 ちなみにグレイが言う地元民とはBGOのNPCの事を指したりもする


 どうやら作戦は上手くいったようだ


「えーと、それでお名前は?」

「アズ・・・」

「アズ?」


 咄嗟にアズと言いそうになった俺は急いで口をつむぐ


 勢いあまって舌を噛んでしまった、痛覚設定を遮断しているのに痛いのは何故だ!?


「わたひはアズリエルと申します~」

「アズ・・・リエル?」


 あ、やっべ!

 舌の痛みに気をとられて黒歴史を口にしてしまうとはぁぁ!?

 グレイの無言の視線が痛いんですけど!やめて!そんな目で見ないで!?


 あまりの恥ずかしさに頭を抱えてうずくまる


「ですよねー・・・こんな厨二全開の名前・・・恥ずかしいですよね・・・」

「あ、いえ!そういう訳ではなく!」


 グレイが何か懐かしそうな表情で遠くを見ている


「昔ハマってたネットゲームでアズリエルって人とすっごく仲が良くて・・・」

「へぇ・・・そうなんですか・・・」


 とりあえずどうでも良い情報なので適当に相槌をうっておく

 これ以上自爆したら敵わんし、今はまずこいつから離れる事を優先しよう


「それじゃあ、お・・・私はこれからグラフに帰りますので・・・」


 なーに、どうせこの場限りの顔合わせ、24時間たてばこの忌々しいデバフも消える

 24時間ログインは若干キツイ条件だが、宿にでも引き籠って放置でもしとけば良い

 そうすれば明日にはいつも通り元の姿に戻った俺が


「だったら俺が街まで護衛しますよ!」


 今なんて?

 俺は信じられない物を見るような視線をグレイに向ける


「お!疑いの眼差し!ですがご安心下さい!俺はこう見えてレベル20の凄腕なんですよ?」


 そっちじゃねぇよ?というかお前は俺と一緒にクエスト中だよな?

 しかも何ちゃっかりサバよんでんの?お前レベル13だろうが!!


 しかしここでそれを言う訳にもいかんし・・・


「貴方は一人でここに来られたのですか?」

「いえ!実は仲間と一緒に来たんですがね!まぁそいつとはマブダチなんで置いてっても大丈夫です!」


 グレイがウィンクしながら親指を立ててくる


 いつから俺とお前はマブダチになったんだ?

 一人で来たとか言うなら後ろのジローをダシに問い詰めるつもりだったが・・・上手く回避されてしまった


 こうなったら次の作戦だ!

 俺は再び笑顔でグレイに向き直る


「それでは街まで・・・ですがそんな傷だらけでは私不安です」


 グレイはドキリとしながら傷を隠そうとするが、全身傷だらけだから隠しようがないぞ?


「傷の手当をさせてください~」


 くっくっく・・・この森は状態異常を引き起こす植物がふんだんにある・・・これを塗れば・・・


 その事を身をもって知っていたグレイは表情を引き攣らせるが、若干震えながら俺に傷口を見せる


「マァ!トテモヒドイケガ!!」


 悪く思うなよ・・・俺とお前はマブダチなんだろう?

 俺はその辺にあった適当な雑草をグレイの体に塗りつける


<グレイの キズがな おった!>


 違う!そうじゃない!!!

 HPに変化は見えないが、擦り傷が治ってしまった


「おお!もしやアズリエルさんは薬師か何かで?」

「え?あ、はい~、ですのでこうやって森に薬草を~」

「なるほど!」


 インベントリに入れれば効果はわかるが・・・地元民ロール中だから使えないし・・・

 ええい!さっきのはマグレだ!なーに、グレイは傷だらけ、数撃ちゃ当たる!


 納得したように顔を綻ばせるグレイに、今度は毒々しい薬草を塗りたくる


<グレイの キズがな おった!>

<グレイの キズがな おった!>

<グレイの レベルが あがった>

<グレイの キズがな おった!>


 ちくしょー!!!!!!なんでだ!?なんでこんなに毒草を避けるんだ!?


「いやー!流石アズリエルさん!瀕死だった俺がこんな元気に・・・貴方は俺の幸運の女神ですよ!」


 いや、お前は元々元気だっただろう?

 というか・・・幸運だと?


 BGOでは運の高さによってドロップする品も変わる事がある、まさかそれが原因か!?

 どうやら俺のステータスまでもがこいつに味方しているらしい


 もうこの際こいつをキルして帰るのも手かもしれない・・・いや、俺の力じゃこいつをキルするのは無理か・・・ワンチャン驚いて逃げてくれるかもしれないが、バレた時が怖い


 俺は取り出した包丁をインベントリに戻し、若干虚ろな目でグレイを見上げる

 せめて周りに言いふらさないようにしておこう


「グレイさん、今日私と出会った事は・・・その・・・秘密ですよ?」


 人差し指で口をふさぐようにして、黙っておくよう伝える

 ・・・なんかグレイが急に屈伸運動を始めたぞ?


「はっはっは!今の俺ならエリアボスだって倒せますよ!」


 グレイが木に向かってシャドーボクシングをし始めた瞬間、木がわさわさと動き出す


「「・・・」」


 俺とグレイが無言で見つめる中、フォレストトレントから大量のキラービィが出現してくる


「っく!ここは俺に任せてアズリエルさんは逃げてください!!!!」

「ソ・・・ソンナーミステルコトナンテデキナイヨー」

「いつか再び出会う時があれば!その時俺はあだだだだ!!!!!」


 大量のキラービィに刺されるグレイを背に、グラフの街に帰還する俺であった

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