第二十三話 アズリエル
「おーいアズさーん!いるなら返事してく・・・おっふ」
恐らく俺を探していたのであろう、草を掻き分けてグレイがポップして来やがった
グレイは俺を見つけた瞬間から、目を点にしてこちらを見ている
<この時アズに電流走る>
マズイな、これはあれだ、自分の恥ずかしい秘密を誰かに見られた時のようなこの・・・
何か言い訳を考えなければ、俺は自分の胸を増量し、あまつさえ可愛い服で徘徊する子認定されかねない
しかもグレイは普段引き籠ってレベルを上げてるくせに、地味に知名度が高く交友関係が広い・・・それこそ俺が知っている程に
そんなやつがこの事を広めたら俺は二度とこのゲームが出来ない程のダメージを受ける・・・間違いない
「あ、いや!そのさ!これは!?」
何とか弁明を図ろうとするが、上手く口が回らない
っく!こんな時に人見知りスキルが発動してやがる!
「・・・お嬢さん、お名前は?」
「え!?あれ!?」
どこかキリッとした表情のグレイが手を差し伸べてくる
こいつは何を言ってるんだ?
俺は首を傾げながら頭の上を指さす
「ああ、名前を隠してるわけじゃないんだね・・・という事はバグかな?君の名前が文字欠けしてて見えないんだ」
<再びアズに電流走る>
名前の非公開とか出来るのか・・・一応このデバフが消えるまで設定しておくとして・・・
なに?こいつは今俺をアズと認識していない?
俺が無言でグレイを見ると、何やら頬を染めて明後日の方向を向いてしまった
・・・だとすると俺がすべき事はただ一つ!
尻もちをついた状態だった俺は、グレイに支えられながら立ち上がる
「ありがとう!おれ・・・私はグラフに住んでいる者ですが、お婆ちゃんが病気でこの森に薬草を採取しに来たんです」
「ああ!なるほど!地元民の方でしたか!」
シラを切る!別人で通す!
俺は普段絶対しないような笑顔を浮かべ、かつ口調を緩やかに話す
若干声が柔らかな物になってるから、余程俺と親しい間柄じゃなけりゃ気づかんだろう
そんな俺を見て納得したように手を叩くグレイ
ちなみにグレイが言う地元民とはBGOのNPCの事を指したりもする
どうやら作戦は上手くいったようだ
「えーと、それでお名前は?」
「アズ・・・」
「アズ?」
咄嗟にアズと言いそうになった俺は急いで口をつむぐ
勢いあまって舌を噛んでしまった、痛覚設定を遮断しているのに痛いのは何故だ!?
「わたひはアズリエルと申します~」
「アズ・・・リエル?」
あ、やっべ!
舌の痛みに気をとられて黒歴史を口にしてしまうとはぁぁ!?
グレイの無言の視線が痛いんですけど!やめて!そんな目で見ないで!?
あまりの恥ずかしさに頭を抱えてうずくまる
「ですよねー・・・こんな厨二全開の名前・・・恥ずかしいですよね・・・」
「あ、いえ!そういう訳ではなく!」
グレイが何か懐かしそうな表情で遠くを見ている
「昔ハマってたネットゲームでアズリエルって人とすっごく仲が良くて・・・」
「へぇ・・・そうなんですか・・・」
とりあえずどうでも良い情報なので適当に相槌をうっておく
これ以上自爆したら敵わんし、今はまずこいつから離れる事を優先しよう
「それじゃあ、お・・・私はこれからグラフに帰りますので・・・」
なーに、どうせこの場限りの顔合わせ、24時間たてばこの忌々しいデバフも消える
24時間ログインは若干キツイ条件だが、宿にでも引き籠って放置でもしとけば良い
そうすれば明日にはいつも通り元の姿に戻った俺が
「だったら俺が街まで護衛しますよ!」
今なんて?
俺は信じられない物を見るような視線をグレイに向ける
「お!疑いの眼差し!ですがご安心下さい!俺はこう見えてレベル20の凄腕なんですよ?」
そっちじゃねぇよ?というかお前は俺と一緒にクエスト中だよな?
しかも何ちゃっかりサバよんでんの?お前レベル13だろうが!!
しかしここでそれを言う訳にもいかんし・・・
「貴方は一人でここに来られたのですか?」
「いえ!実は仲間と一緒に来たんですがね!まぁそいつとはマブダチなんで置いてっても大丈夫です!」
グレイがウィンクしながら親指を立ててくる
いつから俺とお前はマブダチになったんだ?
一人で来たとか言うなら後ろのジローをダシに問い詰めるつもりだったが・・・上手く回避されてしまった
こうなったら次の作戦だ!
俺は再び笑顔でグレイに向き直る
「それでは街まで・・・ですがそんな傷だらけでは私不安です」
グレイはドキリとしながら傷を隠そうとするが、全身傷だらけだから隠しようがないぞ?
「傷の手当をさせてください~」
くっくっく・・・この森は状態異常を引き起こす植物がふんだんにある・・・これを塗れば・・・
その事を身をもって知っていたグレイは表情を引き攣らせるが、若干震えながら俺に傷口を見せる
「マァ!トテモヒドイケガ!!」
悪く思うなよ・・・俺とお前はマブダチなんだろう?
俺はその辺にあった適当な雑草をグレイの体に塗りつける
<グレイの キズがな おった!>
違う!そうじゃない!!!
HPに変化は見えないが、擦り傷が治ってしまった
「おお!もしやアズリエルさんは薬師か何かで?」
「え?あ、はい~、ですのでこうやって森に薬草を~」
「なるほど!」
インベントリに入れれば効果はわかるが・・・地元民ロール中だから使えないし・・・
ええい!さっきのはマグレだ!なーに、グレイは傷だらけ、数撃ちゃ当たる!
納得したように顔を綻ばせるグレイに、今度は毒々しい薬草を塗りたくる
<グレイの キズがな おった!>
<グレイの キズがな おった!>
<グレイの レベルが あがった>
<グレイの キズがな おった!>
ちくしょー!!!!!!なんでだ!?なんでこんなに毒草を避けるんだ!?
「いやー!流石アズリエルさん!瀕死だった俺がこんな元気に・・・貴方は俺の幸運の女神ですよ!」
いや、お前は元々元気だっただろう?
というか・・・幸運だと?
BGOでは運の高さによってドロップする品も変わる事がある、まさかそれが原因か!?
どうやら俺のステータスまでもがこいつに味方しているらしい
もうこの際こいつをキルして帰るのも手かもしれない・・・いや、俺の力じゃこいつをキルするのは無理か・・・ワンチャン驚いて逃げてくれるかもしれないが、バレた時が怖い
俺は取り出した包丁をインベントリに戻し、若干虚ろな目でグレイを見上げる
せめて周りに言いふらさないようにしておこう
「グレイさん、今日私と出会った事は・・・その・・・秘密ですよ?」
人差し指で口をふさぐようにして、黙っておくよう伝える
・・・なんかグレイが急に屈伸運動を始めたぞ?
「はっはっは!今の俺ならエリアボスだって倒せますよ!」
グレイが木に向かってシャドーボクシングをし始めた瞬間、木がわさわさと動き出す
「「・・・」」
俺とグレイが無言で見つめる中、フォレストトレントから大量のキラービィが出現してくる
「っく!ここは俺に任せてアズリエルさんは逃げてください!!!!」
「ソ・・・ソンナーミステルコトナンテデキナイヨー」
「いつか再び出会う時があれば!その時俺はあだだだだ!!!!!」
大量のキラービィに刺されるグレイを背に、グラフの街に帰還する俺であった




