第二十話 RPGの森って状態異常率高いよな
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グラフ大森林
グラフ王国北に位置する森林地帯、グラフ領内で最も難易度が高く
この森林のボスを倒せば駆け出しから熟練者と認められる 適正Lv7-9
グラフ幻想譚
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グラフ大森林
大森林というだけあり、動物と大量の昆虫、植物モンスターが生息している地域だ
ゲームを少しでもやってる人なら、この構成を聞いたら察する事だろう
麻痺で動けなくなり、毒であえぐグレイさんの背中をさする
「まったく、なんで無警戒にキノコに近づくかなぁ・・・」
「だって・・・朝から何も食って無いし・・・クエスト前に少しでも英気を養おうかと・・・」
だからってあんなあからさまに怪しいキノコ食べるか普通・・・
俺はグレイさんがかじったおどろおどろしいキノコを慎重に手に取り、インベントリからアイテムの説明を確認する
<かじられた麻痺毒キノコ>
<効果:10秒間麻痺、Lv10の毒効果>
「うわぁ・・・」
見た目もさることながら効果もヤバいぞ?
詳しくは知らんが、毒のダメージは1秒毎に毒Lv分のダメージだと聞いた事がある
つまり俺だったら速攻でなんとかしないと数秒で死ぬ、だが麻痺のせいで行動不能・・・完全な即死トラップとなる
グレイさんはもうダメかもわからん、ここからならリスポンすれば1時間もかからないし・・・
未だ形なき者を生産する機械を放置して大森林に視線を向ける
まぁ話は戻るが、このフィールドでは状態異常のバーゲンセールなのである
前述のとおりのフィールドアイテムもさる事ながら、モンスターも状態異常持ちが多い
例えば適正Lv7のフォレストビィ
攻撃力は低いが麻痺を持ち、フォレストウッドの中に巣をつくっている
こいつはフォレストウッドを見かけたら最低でも10匹はリンクしてくるらしい
ちなみにフォレストウッドの適正レベルは9
速度は遅く高い耐久力を持つ上に、個体によって様々な花粉の状態異常を与えてくる
前述のフォレストビィと合わせてエンカウントする為、厄介な事このうえないらしい
「軽く受けたは良いけど・・・適正Lvギリギリのフィールドでの探索か・・・大丈夫かな」
大森林入り口で岩陰に隠れてコソコソしていると、背後で吐いていたグレイさんがスッキリした表情で侵入していってしまった
「ちょ待てよ!置いてかないでください!というか毒は!?てっきりもう手遅れだと思ってた」
「はは、なんともないさ!こう見えても俺、LV13だぜ?あの程度のダメージじゃ死なないし、持前のHPの高さで敵の攻撃を全部引き受けるからその間にぱぱっと魔法で倒してくれよ!」
「Lv13って・・・それと魔法じゃなくて精霊術なので」
「あっはっは、そうだったそうだった」
正確にいうとアーツも魔法も覚えてないから多分もっと違う物なんだろうけどさ
しかし最低でも100のダメージは受けた筈だぞ?
モンスターが寄ってくるのではないかというほど豪快に笑っているグレイさん、もといイケメンさん
そのHPは多少減っているが、本人の言う通り大したダメージではないらしい
・・・確かにLv13でHPが馬鹿みたいに高いというのは大きいし、戦闘においてはレベル差による補正で数値以上の期待が出来る事になる
ここはイケメンさんを頼るとしよう
「押し黙ってる所ごめんよ、敵さんが出たみたいだ」
道無き道の上、イケメンさんの指さした方向で緑色の狼が様子を伺っているのが見える
その緑の毛皮には大量の苔が付いており、ヨダレを垂らしながら近づいてくる
狼型モンスター、フォレストウルフ
この森では数少ない動物系モンスター
隠密と自然で一時的に姿を消してから精霊術で回りを見渡す
「さて・・・普通に考えたら木を使った拘束でグイケメンさんをサポートするべきか・・・?」
「どうやら!俺の出番のようだな!」
戦力の確認を行っていると、グレイさんが髪をたなびかせながらフォレストウルフに突進していってしまった
フォレストウルフは難なくイケメンさんを避けると、カウンターとばかりに足に噛みつく
しかしイケメンさんはそんな事全く気にせずフォレストウルフに組み付く
・・・その間噛まれ続けているのだが
「すごい・・・HP全然減ってない」
さすがLv13、これならしばらく大丈夫そうだ
一人と一匹の戦いに隠密で近づき、見切りでフォレストウルフの弱点を探す
どうやらこのフォレストウルフは首が弱点らしい
少し距離とってから杖を構える
流石にノーダメージとはいかないようで、イケメンさんのHPゲージが少し減っている
「いきますよ!グレイさん!離れてください!」
イケメンさんが離れようとするが、フォレストウルフが離さない
イケメンさんは良い笑顔で叫ぶ
「構わん!俺ごと撃てー!」
「っく・・・ごめんなさい!」
地精霊で槍状の石を4本作り風精霊で射出、名付けてロックランス!
アーツじゃないから具体的な効果があるわけではないが、当たれば普通に痛いぞ!
バキバキという音を立てながら飛来したロックランスは、フォレストウルフに3本、イケメンさんに1本当たる
フォレストウルフのHPが半分削れている、なかなかのダメージだ
・・・ちなみにイケメンさんはほぼノーダメージ
「これなら・・・いけそうだ・・・む?」
大ダメージを与えたせいか、フォレストウルフがこちらに駆け出してくる
ブルーラットとはくらべものにならない変則移動に対応する事が出来ず腕に噛みつかれる
激痛と共に㏋が半分減るが、即座に自然で姿を消す
フォレストウルフが俺を探して辺りを見回している所を、イケメンさんが組み付いて拘束してくれる
「二回以上の攻撃は無理だな・・・」
あの速さで近づかれると一瞬でキルされる
しかしイケメンさんは流石だな、このダメージをほぼノーダメージとは・・・さすが高Lv冒険者
これならイケメンさんが組み付く、俺が攻撃する
このコンボでいけそうだ
こそこそと戦闘地より距離を取り、杖を構える
その瞬間、フォレストウルフがこちらに駆け出してきた
すぐさま姿を消して距離をとる・・・が・・・
「やばい、こっちにヘイトが固定されてる」
姿を現せば攻撃が飛んでくるので攻撃が間に合わない
グレイさんにPTチャットでヘイトを稼いでもらうようにお願いする
『すみません!こっちにヘイトが固定されて動けません!ヘイト稼いでください!』
『いや、俺そんなスキル持ってないし無理かな』
・・・ん?
『じゃあそいつ倒して下さい!』
『いや、耐久力には自信あるけど他のステータスは無いし、アーツも無いから削れないかな!』
・・・あれ?
自然で㏋が回復した俺は、捨て身でロックランスを放ち、フォレストウルフとお互いに致命的なダメージを受ける
噛まれたまま押し倒されるような形になるが、料理人の包丁を取り出してフォレストウルフが首筋に噛み付く前に首を斬り落とす
㏋ゲージが真っ白、尻餅をついた状態の俺にグレイさんが近づいてくる
「いやぁなかなかの強敵だったね!でも余裕だね!」
「グレイさん・・・質問なんですがステータス教えてもらって良いですか?」
「ああ構わないよ、㏋が400で力が1、防御が20で俊敏1に運が1だよ」
流石高レベル冒険者、HPが異常だ・・・だが・・・
なるほど木偶の坊か、挙句ヘイトぐ事も出来ず、アーツも無い、なるほどなるほど
「おいグレイ、俺は帰って再挑戦するメンバー探すからPT解散だ」
PT解散の申請を送りながら森の出口に向かって歩き出す
「ちょちょちょ!ここまで来てそれはないよ!クエスト報酬が無いと路頭に迷うん・・・っていうか口調変わってない?」
「最初からこんなもんだよ、この辺りは金策には良さそうだから続けるなら一人で頑張れ!」
危険な場所での解散だが、俺は何故かソロだとモンスターとエンカウントする事が少ないし大丈夫だろう
「・・・あれ?」
しかし今回ばかりは運が悪かったようだ
俺は目前で気をわさわささせるフォレストウッドを見上げる
「うわーお・・・」
これはあれだろ?おまけがいっぱい出てくるんだろ?
そんな絶望的状況でグレイがニヤリと笑う
「ふっふっふ!わざわざやられにくるとは!俺が注意を引き付けるから頼むぜ相棒!」
それができたら苦労はしないんだよ!
フォレストウッドがこちらに気づき、フォレストウッドの中からフォレストビィが大量に出てくる
戦闘状態ではPTを解散できないし、これだけ敵がいたら逃げるのも困難だぞ!?
俺は隠密を使用、できるだけ頑丈な蔓を作り、ジローを召喚してグレイさんの後ろに立つ
ジローは我が意を得たりとグレイを押し倒し、背中に担ぐ
急な出来事で目を白黒しているグレイをジローと蔓で固定する
グレイの大きさはジローの3倍はある、万が一にもジローに攻撃は当たらないだろう
「えっと・・・アズさん?何をしているんだい?」
「何って、この戦況を打開する作戦だよ、ジロー!頼むよ!」
ジローは囮のスキルを発動、グレイを引きずりながら駆け出す
そんなジローに向かって大量のフォレストビィが押し寄せ、攻撃を加える・・・背中の肉壁に向かって
「さて・・・今の内に・・・」
距離を取りながらジローに攻撃が当たらず、かつ広範囲にダメージを与えれる技を考える
風精霊で竜巻を作って、近くの木で棘のついた花を大量に投入して・・・ハリケーンとバラもどきでバリケーンといった所か?
思いついた精霊術をイメージ通りに発射、予想通りの効果に加え、継続ダメージと毒ダメージも入っている
「あいたたたた!ちょ!?アズさん!?蜂の攻撃も痛いんですけど魔法も痛いんですが!?」
一瞬こちらにフォレストビィがヘイトを向けたが
頼れるジローが囮を発動、肉壁さんを大量の針が襲う
次はバリケーンに小型バーナーの火精霊を追加
第二射撃、発射!
バリケーンが収まった頃にはフォレストビィ10匹とフォレストウッドの討伐に成功していた
「さすが肉か・・・グレイ、これだけダメージを受けて㏋がまだ半分以上あるな」
「アズさん?今なんて言いかけ・・・」
「グレイが大活躍して安全に探索できるって話しだ」
「はっはっは!そうだな!俺にかかれば朝飯前だって!」
知力も1なのだろう
ドヤ顔をかますグレイに冷たい視線を送っておく
『クスクス、やっぱりアンタは面白いでありますな!』
「ん?グレイなんか言った?」
「いや?なんかあったのかい?」
気のせいか?
いや・・・今確かに子供の声が聞こえてきたぞ?
『もうそろそろ見えても良いくらいなんじゃないでありますか?』
やっぱ気のせいじゃないな、しかしそろそろ見える・・・?何の事だ?
首を傾げながら辺りを見渡していると、知らない女の子が立っている事に気が付く
背は小さくなった俺の半分にも満たず、銀色に輝く髪からは何かの粉がふわふわと漂っている
「え?あれ?いつからそこに?」
「いつから?最初からいたでありますよ?」
少女はクスクスと笑う
なんなんだこいつ?明らかに人間じゃないだろ?
よく見ると背中には蝶のような羽があるし・・・
さてはこいつが妖精だな・・・?
「・・・グレイ、どうやらこいつがターゲットのようだ」
俺は注意深く杖を構える
「・・・なぁアズさん、さっきから何もない空間に何言ってんの?」
「何って・・そこに妖精がいるじゃないか」
グレイは俺が指さした方を見て首を傾げる
妖精はそんな様子を見て、腹を抱えて笑いだす
「残念だけどアタシ達は子供にしか見えないでありますよ?」
「なん・・・だと・・・?」
それはあれか?俺が子供だと言いたいのか?
身長のせいか?こんなチビにまで身長でからかわれるのか?
・・・兎に角こいつをなんとかすればクエストクリアだ
俺が杖を構えて妖精に攻撃をしかける寸前、フォレストウッドが現れる
・・・だー!こんな時に!!!
「ジロー!プランB!任せたぞ!!」
ジローは任せろと言わんばかりにグレイを背中に乗せると、グレイが逃げれ・・・落ちないようしっかり蔓で固定
「じゃあ肉壁さん!妖精の処理が終わるまで任せました!」
「ん?アズさん!?今聞き捨てならない言葉がぁぁぁぁ!」
グレイが何か言い出す前に、ジローが走り去っていってしまった




