外伝第27話 日誌を読むときってドキドキしますよね
「働きたくないでござる」
「私はしめじになりたい」
俺の声に反応するように、ヴァンプが意味不明な言語を発する。
魔王城南東にある洞窟にて、我々キャロット軍勢は臨時キャンプを張っていた。
やることは特になく、ただスーモデスとやらが門を開けてくれるようになるまで待つといったものだ。
いや、最初は何とか潜入を試みたよ?でもことごとく失敗して、もういいかなーって。
だって完璧な城塞なんですもん。
「ここを第二のキャロットにしよう」
正直もう考えるのも面倒だ。
ヴァンプとも、もともと引きこもりの資質があるのですぐに打ち解けたし。
しかしさすが魔王城付近といった所か、この辺りは魔物の質もよく、金策もレベル上げも困らない、国盗りシミュレーションというジャンルとさえ思わなければ、効率の良い狩場である。
魔族は強靭なステータスがある変わりにレベルが上げにくいらしいが、これなら他の種族並のレベリングはできるんじゃないか?
ああ、だからここの領土は魔族領なのに栄えたのか。
俺がゲーム内でもリアルでもただただダラダラしていると、ゲーム内のキャラがゴツンと木箱に当たる。
「もわっぷ、何かふってき・・・なんだこれ?」
俺は頭上から降ってきた本に視線を向ける。
題して『カフェイン日誌』
そのまんまである、俺たちが出会う前の日からの日誌が書かれている。
中身をパラパラのぞいているとヴァンプが抗議の声をあげてきた。
「他人の日誌を無断で読むのは関心せんぞ?」
「良いって良いって、あいつ今日もアズリエルさんと魔族っ娘と遊んでんだろ?」
そう、ここ最近カフェインはアズリエルさんと共に、門番に塞がれて立ち往生していた幼女と遊んでいるのである。
歳は2-3歳の見た目、プレイヤーだから中身はおっさんだろうが、究極のロリ魔族っ娘である。
「わざわざここに置いていったんだ、読めって事だろ?それに、これを読んでいったらあいつの弱点がわかるかも知れないぞ?」
俺のせりふに、ヴァンプがゴクリと喉をならす。
「そそそそれでは仕方ないな、うむ、ぞんぶんに読もうではないか」
そそくさとヴァンプが俺の横に座ってきた。
ちょろいぜ。
龍年○月?日晴れ
『今日はケツ・ホルグを新しい人間に継承したヨ。あんな馬鹿げた性能を求めるなんて相当なバカだが、僕は嫌いじゃなイ、精々新しい伝説をつくって欲しいネ』
これはランランロットの話だろうか?かなり古いな・・・。
俺は斜め読みしながら欠伸をする。
星年○月?日雨
『緊急で素材が必要になったヨ!素材はなんと吸血鬼からしか採取できないものときたヨ!困ったナ!とかなんとか思ってたらちょうど吸血鬼を見つけたから捕獲しといたヨ!ちょうど結界の中に勝手に入ってきてくれて助かったヨ!これでいつでも素材の回収ができるネ!』
「これお前の事だよな?なんかすっごい軽く捕まってないか?自称アンデット族最強に近い存在さんよ?」
「あ、あの時は運が悪かったのだ!というかあの結界、カフェインのやつがはったやつであったか!?」
なんだか最強モンスターが雑魚モンスター並の捕獲率だが、まぁどうでもいいか。
星年○月?日雨
『捕獲した吸血鬼の抵抗が激しいから、親切に色々やってやったヨ!そしたら大人しく素材提供してくれるようになったヨ!』
俺の無言の視線に、ヴァンプは目をそらしてブルりと震える。
あいつ何やったんだ?最初にヴァンプにあった時も散々嫌がらせしてたからな。
しばらく吸血鬼虐め日誌になっていたので斜め読みする。
「お、ここから新しいな」
霊年○月?日晴れ
『隣に馬鹿な城主が誕生したらしいヨ!面白そうだから遊びに行ったラ、これまた本当のバカだったヨ!』
「あいつに馬鹿なんて言われるなんてどこの城主だ?」
俺はその城主を内心馬鹿にしつつ更に読み進める。
「ここからは最近の出来事だな」
霊年○月?日曇り
『バカの提案で魔王領まで来たけど、街にすら入れなかったヨ!同じく街に入れなそうな魔族の娘を見つけたから、新しいおもちゃにしようと思うヨ』
カフェインに目をつけられるとは・・・ロリ魔族っ娘、南無。
霊年○月?日晴れ
『バカ達が魔王城侵入をあきらめて数日、僕とあずあずとさーたんは、ここら一帯の魔物をかたっぱしから乱獲してるヨ!門番にこれ以上狩られたら初心者が育たないとか言われたけど、知ったこっちゃないネ!そもそも魔王城から出ることもできないんだしネ!』
なんだ、あいつら三人最近どこにもいないと思ったら魔物の乱獲をしてたのか、ここは効率よく経験値が入るし、もしかしたらアズリエルさんにレベル追いつかれるかもな。
そして魔族っ娘の名前はさーたんか・・・ん?
「ま・・・まさかな?魔王が外で往生してるなんてないよな?」
霊年○月?日晴れ
『さーたんの能力ははんぱないね!普段無口で、所々動きがぎこちないけどドラゴンをワンパンで倒してたヨ!こりゃ逸材だヨ!』
確か魔王さーたんは、リアル幼女設定としてチャットはほぼない、操作もぎこちないんだっけな・・・。
ただし多くのパパさんのレベリングという貢献により、レベルはプレイヤー内でもダントツ、下級のドラゴンくらいならワンパンで倒せるって聞いたな。
「ん?んー?」
俺は頭を抱える。
「やぁやぁ、ボクの日誌を勝手に読むなんて感心しないなア」
そしてニヤニヤと帰ってきた三人のうちの一人に視線を向ける。
「魔王いるじゃん!」