外伝第26話 ヴァンプ・ザ・ハザード
どうも皆さんお久しぶりです、現在我々キャロット軍は悪魔領の民にふんし魔王城に来ています。
目標は魔王の捕縛、現在大陸全土で侵攻を繰り広げている魔王軍を押しとどめるためだ。
作り物の悪魔の角をツンツンしているアズリエルさんにほっこりしていると、
巨大な名状しがたき門にヴァンプが声を張り上げ、チャットにシャキーンとSEがなる。
「開門!開門である!魔王城十二貴族が一人、ヴァンプ・ザ・ハザードの帰還である!」
なんか凄そうな肩書を並べるヴァンプの横顔は、カフェインに虐められていたとは到底思えないほどの迫力がある。
カフェインが何か半笑いでヴァンプを指差している、どうやら普段とのギャップがツボったらしい。
しばらくヴァンプの声がこだまし、場が静まり返る。
「ヴァンプさん?ヴァンプさん?何も起こらないんですけど?大丈夫だって言ったよね?ヴァンプがいたら簡単に入城出来るっていったよね?城どころか街にすら入れてないよね?」
「と・・・当然入れる!も、もう少し待て」
「あれあれあレ?もしかしてここまで来て役立たずだったって事ないよネ?ないよネ?また僕の為に素材を提供してくれるのかナ?」
良いネタを見付けたといった感じに笑みを浮かべるカフェインに頬を引き攣らせながら、ヴァンプはこほんと咳払い、再び名乗りをあげる。
「魔王城十二貴族にして、アンデット族でも最強に近い吾輩の帰城である!開門せんか!」
再びヴァンプの声がこだまし、静寂が訪れる。
どうでも良いがヴァンプは虐められてない時は基本尊大な態度なんだな・・・。
しかもアンデット族の中では最強に近いとか・・・カフェインに虐められてる姿を見た事があるやつだったら信じないぞ?
「ヴァンプ、おい、もしかしてお前俺たちの事からかってんの?なーんも起きないじゃん!ちょっと期待してた俺に謝って!ほら謝って!」
「へイ!誤っテ!誤っテ!」
「ええいやかましいぞ貴様ら!そもそも門番が吾輩を無視するからいかんのだ!」
合いの手をうってくれるカフェインと煽っているとヴァンプが変な事をのたうち回る。
門番?俺は眼前に広がる空間を見ながら首をかしげるアクションを打つ。
目の前には歪な門のような物、そしてその上には今にも動きそうなリアルな石造が一つ、それ以外には人っ子一人いない。
もしかしてあれか?あの石造が動きだすのか?
オネムなのか舟をこぎだしたアズリエルさんに再びほっこりしながら成り行きを見守る。
「ええい起きろ!おきんか!」
ヴァンプは怒りで肩をわなわなさせながら、尋常じゃないスピードで石造にジャンプ蹴りをかます。
ついでに船をこいでいたアズリエルさんもビクンと跳ね上がる。
大丈夫、アズリエルさんに言った訳じゃないぞ?
しかし今のスピードはランズロットよりはやい、初見のイメージが最悪だったが、相当な実力を感じさせる。
もしかしてヴァンプって本当に強いのか?
「いつまで寝ておるこのデカブツ!」
ズガンという音と共に、石造がギシっと音をたてるとその大きな首をもたげる。
思わずたまひゅんしてしまいそうな眼光で睨まれ、俺はそっと視線を外す。
「なんだぁ、ヴァンプさんでねぇか」
「様をつけろ様を!」
予想に反してのんびりした口調の石造は、ヴァンプをゆっくり眺めた後俺たちに視界をうつす。
「ぼっちのヴァンプさんが珍しくパーティー組んでるんだな」
「ええい!今はそんなどうでも良い事気にするでない!はやく門をあけろ!」
真っ白な肌を真っ赤にさせながら、ヴァンプが必死に抗議している。
そうか・・・ぼっちなのか。
「おい、ぼっちのPTの俺からも頼む、門を開けてくれないか?」
「きさ、きさま!?」
ヴァンプが目を見開いて俺にじゃれついてくるが、無視だ無視。
今は一刻もはやく魔王を捕まえたい。
トリスタンは大丈夫だと言っていたが、正直現状キャロットが攻められないわけがないからな。
しかし俺の言葉に門番は首を横に振る。
「今は上からの命令で、誰も通すなといわれてるんだな」
石造はそう言うと、ドシリと門の前であぐらをかく。
「なんだと!?十二貴族である吾輩よりも上の者の命令だとでもいうのか!?」
「宰相のスーモデス様の命令なんだな」
「なぁ!?」
ヴァンプが打ちひしがられたようによろめく。
どうやら十二貴族とやらも、宰相には敵わないらしい、というかそれは偉いのか?
「どうする?倒して潜入するか?」
「・・・やめたほうが良い、やつは頑強さだけは頭一つ抜けている、応援部隊が来れば吾輩達が殲滅される」
なるほど、ここまで遠出をしておいて全滅なんて目も当てられないな。
「じゃあ隠し通路でも探すか?」
「魔王城に隠し通路なんてないわ!見よこの絶壁を!」
ヴァンプの言う通り、荒野の先まで見える壁には、穴ひとつ見受けられない。
かと言ってこのまま帰るわけにもいかないし・・・。
「とりあえずしばらくここでキャンプを張るぞ!」
どうやら俺の計画は最初の段階で頓挫したようだ。