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BioGraphyOnline!  作者: ツリー
BGO!外伝 アーサー王伝説
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外伝第25話 本毛の勇者の戦い

 金髪のやつれた青年の背中を見ながらうつらうつら。

 吸血鬼の住処から馬車に揺られ一日。

 ゲーム内時間で数日たっただろうか?


「・・・良い加減暇だ」


 いくら俺が普段から暇を持て余しているとはいえ、意味も無くPCの前で一日座り続けるなんて滅多にないぞ?

 なんかこう・・・暇を潰せる物は無いか・・・


「お、何か良さそうな物発見」


 ごそごそとインベントリを漁っていると、小さい受話器のような物を見つける。

 確かこれはマーソンの発明品で、遠く離れたNPCとも個人チャットが出来るようになるんだとか。

 あいつは本当に変な所でぶっ壊れた能力を持ってるな。


「いつか運営にバレてBANされませんように・・・っと」


 断っておくがマーソンでは無く俺がだ。

 小さくPCの前でお祈りをし、対象を指定して受話器を使用する。


『む・・・何だこれは?』

「よう、天才イケメン領主アーサーだ、わかるか?」

『そんな物は声でわかるが、それよりなんだこれは?ああ、さてはまたマーソン殿が変な物を作ったのだな?衛兵を準備せねば・・・それで、緊急事態ですか?』


 ほう、個チャはNPCだと声で伝わるのか。

 そしてトリスタンもマーソンの扱いに慣れた物のようだ。


「いや何、領主である俺がいないとお前等も領民も寂しい思いしてるんだろうなと」

『なんだそんな事ですか、領民はアーサー王が留守と知って大喜びしてたぞ?今日は城内で祭りの準備に大忙しだ』


 チャットを注視すると、ガヤガヤとにぎやかなSEが聞こえてくる。


「あいつら・・・!」


 確かに普段から変な言いがかりをつけて絡んだり、欲しい物があった時にはちょこーっと増税したりもするが、そんな大喜びする程か?

 というか人の城で何してやがる!


『聞いての通り、領民はアーサー王の事を気にもしていない』


 通りも何もチャット越しじゃSEしか伝わってこないのだが?


『・・・まぁ私は少し寂しいですが』

「何か言ったか?」

『なんでもないです』

「そうか?なら俺は寂しがりやのトリスタンの為に早く帰らないとな」

『ハッキリと聞こえているではないですか!?いや違うのです、アーサー王の事はどうでも良いのですよ?私はアズリエル殿とカフェイン殿がですね』

「あー、はいはい」


 向こうは音声でもこっちはチャットなんだ、バッチリログに残るんだよ。

 しかしいつもはカツラがいるから、トリスタンと一対一でで会話するのは新鮮だな。

 あいつらキャロットに属した時から二人でワンセットだからな。

 無機物を一人とカウントして良いかは悩む所だが、まぁ喋るし。


「それで?そっちは変わりないか?」

『何も問題はありません』

「・・・本当か?てっきり魔王軍だとか、漁夫の利を狙ったやつに攻められてると思ったが」

『・・・そんな事がある訳ないでしょう?ああ、だが事件という程の物でもないですが、エレイン殿が出産なされましたよ、名前は私の故郷にならい空葉(カラハ)と名付けました、可愛い女の子ですよ』

「大事件じゃねぇか!?」


 あいつらゲームのNPCだからって子づくりRTA極めすぎだろ!?

 所々報告は聞いているが、途中をショートカットすんな!


「ま、まぁその事は帰ってから円卓会議で問い詰めるとして・・・」


 俺は静かにPC画面を見据える。


「本当に、何も問題は無いんだな?」

『・・・ああ、何も問題はありません』

「よしわかった、後は任せた」


 トリスタンの返事に満足した俺は、静かに受話器の使用を止め、馬車の外に視線を向ける。

 遠目からでもわかる程に禍々しい黒い建物。

 どういう原理か至る所から青と赤の炎が吹き上がり、空フィールドには名状しがたき化け物が右往左往している。

 だが不思議と恐ろしいとか嫌悪感は無く、何故か某ねずみの夢の国を連想させる。


「あれが、魔王サーたん城か」


 ◇


「まったく、アーサー王は変な所で勘が良いな」


 アーサー王からの不思議連絡魔法が止まったのを確認し、小さいながらも立派なキャロット城のテラスに歩を進める。


『おいおい、あんな事言って大丈夫なのか?どう考えてもピンチだと思うが』


 眼下に広がる機械の軍団、そして何故かキャロットに攻め込んできた連合軍を見ていると、頭部から聞き慣れたカツラ殿の声が聞こえてくる。

 連合軍の数は数千といった所か?大体領土5個分の戦力だろうか?

 機械軍団の方はそこまでの数はいないが、戦車とか言ったか?確か一体でワイバーンに匹敵すると聞いた事がある。

 そして恐らくそれらの軍の指揮をしているであろう軍服の女。

 軍帽からはみ出した赤い髪は、髪の無い私を挑発するかのように風に揺られ。

 背中には巨大な機械のアームが四本、その瞳はまるでゴミを見るかのような冷たい物をしている。

 民を守りながらあれの相手は少し不安が残るが・・・。


 アズリエル殿が渋々作った量産型兵士数百を振り返る。

 数は圧倒的に不利、誰に聞いてもキャロットの負けと判断するだろう


「アーサー王は今大事な任務の途中だ、少しでも心労を軽くするのが私達の務めだ」

『あいつはそういう気苦労とは無縁だと思うが・・・俺の国にはな?ホウレンモウっていう言葉がある』

「・・・」

『報告、連絡、毛髪を大事にしろということわざだ』


 聞いた事はあったつもりだったが、前に聞いた物と少し違う。

 だが私にとっては以前聞いた物より共感が持てる。


「エレイン殿の事は報告したし、民は城内で祭りの準備だと連絡もした。毛髪は元より大事にしている」

『お前はもうちょっと真面目ちゃんだと思っていたがな・・・この馬鹿な戦を祭りだと?』

「ああ、この程度の戦など祭りの範疇だ・・・私とカツラ殿の力があればな」

『嬉しい事言ってくれるぜ、カツラ冥利に尽きるってもんだ』


 トリスタンはカツラを労わるように最上級のワックスをつけると、今は亡き毛根に力を込める。


「私・・・我は勇者、神無し・トリスタン!侵略者共よ、掛かって来るが良い!」


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