外伝第24話 死せる伝説!偉大なる吸血鬼ヴァンプ!
「ヴァ~ンプく~ン、あっそびっましョー」
まだまだ太陽が眩しい昼上がり、キャロットから少し離れた場所に位置する廃屋にカフェインの声が木霊する。
樹木をそのまま利用したかのような簡易的な柱。
最低限の雨しか防げなそうな屋根っぽい何か、事前に廃屋と聞いていなければただの自然的な物に思える。
フィールド名は・・・作られた聖域?明らかに吸血鬼がいるような名前では無いが・・・。
「あれレ~?返事がないって事は入って良いって事かナ?」
「本当にこんな所に人が住んでるのか?」
とても人が住むような場所ではないが・・・。
「きゅーけつきは ひとじゃな い」
それはそうなのだがツッコム所はそこなのだろうか?
マイペースに住居に侵入したカフェインの後ろを、これまたマイペースに鶏を抱えたアズリエルさんが追いかける。
俺も続こうとしたら、思いっきり床をぶち抜いてしまった。
「吸血鬼ってもっと高貴な所に住んでるイメージがあったんだが・・・。」
現実と妄想に悩まされながらも中に入っていくと、今度は定番ともいえる棺桶が目に入る。
いや、なんか棺桶の上にロザリオっぽいのが置いてあるし、やっぱり俺の知ってる物と違うな。
「ヴァンプく~ン!あ~そ~ボ~!」
バンバン棺桶を叩くカフェインを見るに、ヴァンプという吸血鬼は棺桶の中にいるのだろうか?
棺桶からはうんともすんとも返事が無いが・・・。
「居ないのか?」
「いヤ?多分まだ寝てるんじゃないかナ?」
まぁまだ昼上がりだからな、吸血鬼なのだから俺達ニートと同じように昼夜逆転しているのだろう。
「というかもうここまで来たら勝手に開けりゃ良いだろ」
そう言いながら棺桶のフタに手を掛けるがビクともしない。
いくら俺のSTRがそんなに高く無いとはいえ、高レベルの腕力で動きませんか・・・ふーんそうですか。
「何か結界的な魔法でも掛かってんのか?」
「いヤ?多分中から鍵を掛けてるんじゃないかナ?」
棺桶って中から鍵なんて掛けれる物だっけ?
妙にリアルな吸血鬼の生態に悶々としていると、棺桶に吹き出しが現れる。
『ひ!ひぃ!?ままままた来た!?』
いや、仮にも吸血鬼が「ひぃ!?」って・・・。
ていうか何でこんなに怯えてんだよ・・・。
「やぁやァヴァンプ、今日も良い天気だヨ?」
『ふざけるで無い!貴様が言う良い天気は、私にとっては悪天候以外の何者でもないだろう!』
満面の笑みを浮かべて棺桶に手をさしのばしたカフェインの手を、棺桶の中から現れた手が払いのける。
「またまた~今日は良い物を持ってきているヨ?」
『良い物だと?まさか生血という名の聖水か?それとも墓標という名の聖なるロザリオか?はたまた芳香剤という名のニンニクエキスか!?一体どんなおぞましい物を持ってきおった!』
・・・
「なぁカフェイン、お前こいつに何したの?」
「何っテ?僕は親切にも行き倒れていた彼に救いの手を差し伸べただけだヨ?」
ニヒョリと変な笑顔を浮かべるカフェイン、絶対ロクな事してねーだろ。
『ま、待て!今の声は誰だ?まさかこの私のテリトリーに他の誰かを招き入れてなどいないであ・・・』
「あア!今日は君に紹介したい人がいるのサ!」
『ききき貴様ぁぁぁ!私との契約を何だと思っている!?』
「はハッ!悪いけど口頭での約束はボクにとっては契約とは言わないのサ!」
『きぃぃぃぃ!』
コロコロ笑うカフェインに、棺桶から悔しそうな声が浴びせられる。
・・・どっちかってーとカフェインの方が悪魔側に近いわこれ。
『ま、まぁこの際貴様の事はもう良い・・・コホン』
ヴァンプが咳払いすると共に、まるでボス戦前のようなBGMが流れて来る。
『よく来たな愚かなる人間よ!』
「今更取り繕っても遅えからな?」
『ええいやかましい!・・・コホン、脆弱なる人間種がこの私の所もで辿り着いた事は褒めてやる』
辿り着いたも何も冒険で一番最初に訪れた森なんですが?
話が進まないから黙っとくけど。
『普段ならば貴様等のようなやつら、私自ら調教し家畜としてやる所だが・・・そうだな、それなりの誠意という物を見せれば許してやらん事もない』
そう言いながら棺桶から手だけが伸びて来る。
はやい話が何か寄越せって事なんだろうな、こんな奴に許しを請うつもりにもなれんが・・・棺桶から手だけが出ているのを見ると、とてつもなくシュールである。
しかし話が進まないので何か渡せる物はっと・・・。
「ここはFFのマジックポットにのっとってエリクサーでも渡せば良いのか?」
『げげげ劇毒ではないか!?貴様もやはりそちら側のやつか!?』
ああ、系統で言うとアンデットらしいからな、回復アイテムだとダメージを受けるのか。
インベントリから棺桶に視線を戻す。
「ぶっちゃけ始めて会ったお前の望む物がわからんから困るんだよ」
『そういう事だったか』
棺桶は生意気にも鼻で笑ったようなSEをたてると、カフェインを指さす。
『私が望むのはそいつを何とか出来る物だ』
「あっはっハ!ヴァンプは本当に冗談を言うのが好きだネ!」
ヴァンプの要求にカフェインがケラケラと腹を抱えて笑いだす。
『思い返せば私がこの地に閉じ込められる事になったのも、そいつのせいだ!』
ちょ!怖い怖い!棺桶のままズズイッと近寄ってくんな!
『あれは数か月前の事だ、魔王の領地で暇を持て余していた私は、何かの結界に捕まり空腹で日光浴をする事になったのだ』
つまり行き倒れてたんだな?物は言いようだ。
「そんな時にたまたま、たまた~ま近くを歩いていた親切な錬金術師が飲み水をわけてあげたのサ!」
『聖水とかいう劇毒をな!』
「そしたら泡拭いて倒れるじゃないカ!?相手が吸血鬼だなんて微塵にも思ってなかった親切な錬金術師ハ、お見舞いに墓地の形をした木彫りの置物を置いてったんダ!」
『ふざけるな!あれはロザリオという物だ!おかげで棺桶から出ようにもピリピリして出れないのだぞ!?』
「まぁでもネ?親切な錬金術師といえどタダで施しをする訳にもいかなイ、そこでいくらか吸血鬼の稀少な素材を提供して貰ってるのサ!」
『おかげで回復したそばから剥ぎ取られるのですぐに瀕死だ!』
「まぁそういう訳で、お互いに支え合う事になった彼はボクの友人となリ、こうやってたまに遊びに来る仲になったのサ!あ、なんか匂いがこもってきたね」
『ええい!そのニンニクやら聖水のまじった匂いのする物を取り出すのはやめろ!』
俺は尚もギャーギャー騒ぐ二人を見ながら溜息を吐く。
つまりあれか、カフェインは生かさず殺さずヴァンプを飼いならし、無料で素材を毟り取っていると。
「かち く」
言い得て妙である。
俺は隣に寄って来たアズリエルさんの頭に手を置きながらカフェイン達に視線を向ける。
「悪魔じゃねぇか」
「何を言ってるんだイ?吸血鬼はアンデットだって言ったばかりだろウ?君は本当にバカだなア~」
どらえもん風に言うなよ、腹立つな。
というか話を聞く限り、下手したらヴァンプが行き倒れになった原因すらカフェインのせいなんじゃ・・・。
「まさかまさか!ソンナコトナイヨー」
俺の心を読んだように、棒読みで首を横に振るカフェインを軽く睨んで、棺桶に優しく手を差し伸べる。
「事情は大体わかった、カフェインは俺が何とかしてやる」
『本当か!?』
マジで困っていたのか物凄い食いつきである。
「ただし条件がある」
カフェインの事がトラウマになっているのか、棺桶がビクリと震える。
「何簡単な事だ、魔王側と顔見知りらしいあんたに、ちょーっと魔王城に入る手伝いをして欲しい」
『そ、そんな事で良いのか?』
ヴァンプが恐る恐る訪ねて来る。
「ああ、勿論だ」
『わ、わかった!私はこう見えて魔王軍十二貴族が一人、容易い話だ』
俺はヴァンプの答えに満足したように頷く、隣でアズリエルさんが「まっちぽん ぷ」とか呟いているが、カフェインは第三者なので正確には違う。
「さて、兎にも角にもこの聖域を破壊しますかね」