外伝第21話 思惑
「と、言う訳で、俺達キャロット陣営は今回の同盟には参加しない事になった」
「貴方と言う方は!貴方と言う方は!」
顔を真っ赤にして机を叩くアフロヘアーウーマンの前からこんにちは。
対魔王連合の集会から帰城した俺こと若き天才イケメン領主アーサーは、現在事の顛末を仲間達に報告しています。
俺の態度に激昂したトリスタンが俺の襟首を掴んで揺さぶってくるが、もう決定した事なのだから文句を言わないで欲しい・・・というか。
「おい、あんま激しく揺さぶるなよ、ヅラがズレるぞ?」
トリスタンは、はっ!?と頭に手を当てると、ホッとしたようにドヤ顔を決める。
「私の注意を逸らしたかったようだが、残念だったなアーサー王!カツラ殿はその希少な特性でズレる事は無い!」
あんだけ真っ青になりながら確認しといてよく言うぜこいつ・・・
というか何でまたアフロなの?とか聞くのは無粋なんだろうか?
訝し気にアフロの方に視線を向けると、アフロっぽい吹き出しが現れる。
『真のカツラってのはズレないもんさ、その中でも真のエリートカツラの俺がズレる事など有り得ないって訳だ』
相変わらずカツラの言ってる事はこれぇっぽっちぃ!もわからん。
「そんな事よりもです!どうして今回の同盟に参加しなかったのですか!」
何故か共感したように頷いていたトリスタンが、バンッ!と円卓を強く叩く。
ちっ!話を逸らせなかったか。
ここで正直に、ただ、だが断る!をやってみたかったとか言ったら怒るんだろうなぁ。
「・・・よく考えてみろ、相手は現ランク1位様だぞ?今回の連合軍結成だって視野に入れていたに違いない」
「そ、それは・・・」
トリスタンは何か言いたげに立ち上がったが、何も思いつかなかったのか静かに座り直す。
「ならばアーサー王は何が考えがあるとでも?」
「当然」
一応言っておくが、俺は決してけぇっして、だが断る!がしたかった訳ではない、決してだ。
「良いか?景気良く侵略を進めているこんな状況で連合軍なんて目立つ物が出来てみろ、まず見せしめに真っ先につ「見える!見えますぞ!布地の薄い魔族共の大群がキャロット城に押し寄せてくる光景が!」
・・・
俺は奇声をあげて立ち上がったマーソンに視線を向けると、神妙な表情を浮かべて元帥ポーズをとる。
「賢い魔王軍の事だ、まず周辺の弱小ギルドを潰して地盤を固めに来るに違いない」
何せ相手は現ランク1位、見せしめだとかそんな単純な発想で侵略してくるとは思えない。
「であればまず俺達が魔王軍を引き付け、連合軍が完成するまでの時間を稼ぐ囮を「見えますぞぉ!キャロット以外のギャルが全員手を取っている姿がぁ!」
・・・
俺はマーソンがこれ以上余計な事を言い出す前に縄で縛り上げる。
何でこいつは変な所でインチキ能力を発揮するんだ?しかもさっきから内容が少しズレてるし。
「な、なぁアーサー王、本当に、本当に考えがあるんだよな?」
「ととと当然だろ?俺を誰だと思ってるんだ?」
仮にも無敗の名を背負ってるんだぞぉ!
「だがまぁここで我が軍の参謀殿の意見を聞くのもやぶさかではない、あーっ俺の完璧な策を披露する場面だけど手柄を譲るのも頼れる盟主の義務なんだよなー!」
チラチラとアズリエルさんに視線を向ける
「あーさー はめい しゅ がんばっ て」
鶏を頭にガッツポーズをとられてしまった。
「・・・アーサー王、今なら怒りはしません、どうか本当の事を・・・」
「違ぇよ!?何疑いの眼差しを向けてるわけぇ?本当に策があっからな!?」
俺は逃げる事に特化した灰色の頭脳をフル回転させる
「・・・良いか?魔王軍・・・魔王が実は幼女だと言う話は知っているか?」
「いえ・・・本当なのですか?ランランロット卿」
俺の質問に、トリスタンは首を傾げながらランランロットに真偽を問う。
「生憎と私は男の尻にしか興味がないのでね」
「そ、そうでしたね」
「逆に言うと私の知識に無いという事は、少なくとも男ではないともいえますね」
「・・・!流石はランランロット卿だ、自分の欠点を瞬時に補う所は尊敬に値する」
若干引き気味ながらも、トリスタンが俺に視線を戻す。
こいつらが話してる所はあんまり見かけないから珍しいな・・・
男にしか興味ないランランと、髪にコンプレックスを持つトリスタンでは馬が合わないと思っていたが、思いのほか悪くない関係のようだ。
まぁそれは今は良い。
「おい?何でランランに確認とってる訳?」
「アーサー王!今はそんなことどうでも良い!続きをお願いします!」
トリスタンが中身のない逆ギレをしながら机ダーンをする。
こいつ・・・まぁ良い
「良いか?魔王サーたんはまだろくに喋れねぇレベルの幼女・・・そして魔王軍ってのは、その幼女を崇めるパパさん同盟なんだよ」
「な・・・ナンダッテー!?」
俺の魔王軍に対してのリアル情報に、トリスタンが困惑の声を上げる。
すくなくとも、魔王さーたんがそういうロールをしているのは事実だ。
「幼女だから勝てると!?いや・・・だがしかし・・・魔王軍はそれで今まで勝ってきたのだろう!?アーサー王は一体どうするつもりで・・・!?」
良い具合に混乱しているトリスタンに、不敵な笑みを浮かべる。
「俺達は・・・幼女を誘拐する」
「えいへーい!衛兵はいるかー!?」
「おいヤメロ!ここの衛兵は何故か領主でも問答無用で牢にぶち込むんだぞ!この!」
叫ぶトリスタンからカツラをひっぺがすと、まるで人形のように机に突っ伏す。
「っく・・・力が入らない・・・」
ズラに全ての毛根力を渡したっていったからな、対処方さえ知ってれば無力化するのは容易だ。
力無く円卓に突っ伏すトリスタンを無視して話を進める。
「まぁ落ち着けって、別に悪い事をするわけではないんだぞ?」
「あーさー ゆうかいは わるいこ と」
いつの間にか横に腰掛けてきたアズリエルさんに突っ込まれてしまった。
「俺達の世界ではな?この世界ではそうとも限らん」
「・・・犯罪・・・だ・・・」
元アフロから何かか細いチャットが聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。
俺のログには何も無かった。
「ま、そういう訳でちょっと魔王軍に潜入して幼女を拉致してこようと思ってる訳だが、誰かついてくるか?」
俺のチャットに円卓が静まり返る。
まぁ敵陣の中に特攻するみたいなもんだし、この反応は当たり前だ。
ブラック申請してるランランからの申請は当然無いし、トリスタンは身動き一つ出来ないので当然、決して誰も俺についてきたくないとか、そういう訳ではない・・・多分・・・だよな?
若干不安になっていると、アズリエルさんが思案気な無表情を浮かべる。
「あては あ る?」
「ん?ああもちろん」
「・・・そう」
アズリエルさんは短くチャットを流すと、無言でPT申請を送って来る。
どうやらついてきてくれるようだ。
アズリエルさんがいてくれれば、ぶっちゃけもう怖いもんはない。
このまま潜入とかこつけて、二人で冒険の旅に出るのも悪くないな!
・・・けどまぁ今のゲーム環境が別に嫌という訳でもないし。
「んじゃまぁサクッと幼女拉致って魔王軍を返り討ちにしますかね!」