外伝第20話 大侵略、集う強者
毛食賊が占有していた無人の領地。
本日俺はアズリエルさんを連れてここの酒場を訪れている。
「・・・アズリエルさん、はぐれないように俺にエンゲージしといてくれ」
「ん」
今まで無人だったとは思えない程活気に満ち溢れた酒場に顔を顰めていると、アズリエルさんが俺の袖をつまむ。
んほおおおおお!これこれ!見ろよ周りの俺を見る羨望の眼差し!これがネト充ってやつですよ、貴方とは違うんですってなぁ!
ニヤニヤと開いている椅子を見つけ着席。
すると俺が座るのを待っていたかのようなタイミングで、オープンチャットが流れる。
「これより、対魔王軍侵略防衛作戦会議を始めるデス」
氷のように冷たいチャットに、ガヤガヤうるさかった酒場が一気に静まり返る。
「まずはご挨拶から、本日この会談の司会進行を務めさせていただきます、スーモ、デス」
全身黒ずくめ、線の薄いやつが静かにお辞儀をする。
チャットだから声がわからないうえに、顔も黒いレースのような物で覆っていて性別すらわからない。
しかもご丁寧に名前にモザイクをかけるアイテムまで使ってやがる・・・
今回魔王軍に対抗して数々のギルマスが参加するうえで、誰が司会・・・この会談の主導権を握るかで睨み合っていた所に現れた謎の人物。
正体に関しては一切の詮索をしない、開示しない事を条件に、誰かにマウントをとられるぐらいならと満場一致で司会を任される事になった人物だ。
「それではまず現在の状況整理から初めて行くデス」
スーモが古ぼけた地図を取り出して大きなテーブルに広げる。
そしてその上に一つづつチェスの駒を置いて行き、何かの呪文を唱えると駒が淡く光動き出す。
「これは・・・上の方に置いてあった黒い駒が下の白い駒に向かって移動している?」
「くろが魔王 軍?」
「だろうな」
黒い駒にぶつかった白い駒が、奇声をあげながらパタリと倒れていくのを見ながら頷いておく。
「こちらが1週間前から今日にかけての領地の変化になるデス」
ドンドン倒れていく白い駒を見て俺は苦い顔を浮かべる。
「思った以上に酷いな」
のぶにゃがが陣地を狭めたその日から今日にかけて、ざっと見ただけでも30個の駒が倒れている。
結構有名所な領地もあったから善戦を期待してたが・・・見事に瞬殺か。
先程よりも更に酒場が静まり帰る。
そんな中一人の若葉マーク領主がガタリと立ち上がる。
『皆何神妙な顔してんだよ?その為に俺達領主が集まったんじゃねぇか!こんだけの陣営が集まれば余裕っしょ!』
「それを踏まえた上で、この盤面を見る限り普通に戦っても同じ道をたどる事になりそうだって事に皆黙り込んでるんだよルーキー」
「思想も思考も ばらばら 一致団結不可」
ルーキーっぽいギルマスにアズリエルさんと共に釘を刺しておく。
『じゃ、じゃあ絡めてとか?ほら、ここにはそういうのが得意な領主様がいるじゃねぇか』
ルーキー坊が顔を引き攣らせながら酒場の一角を指さす。
ボサボサの髪にエンド特有の和装、そしてとんでもない長身にそれと同じくらいの長さの刀。
「あはははは、わしらが先に魔王軍に外交を持ちかけたんじゃけど聞く耳もたんかったぜよ、あれにからめてはきかんぜよ」
リョーマ帝国帝王、リョーマ・カエサル (ランキング666位)
レジェキンのサービス開始当初から残ってる古参で、戦は戦いでは無く商売で勝つがもっとー。
軍事力が壊滅的な為滅多に戦を仕掛けない変わりに、内政、外交を駆使して敵を降伏させる戦術をとる。
そんな男が効かないというのであれば、本当にきかないのだろう。
「であれば、やはり真向から敵対するコミーを粛正するだけではないかね?」
テーブルの端で、静かに成り行きを見守っていた赤髪軍服お姉さんが静かに立ち上がる。
「戦争だ!戦争だよ!それこそ我々が求めている物であろう諸君!」
『『『イエスマイロード!』』』
次の瞬間赤髪のお姉さんの顔が豹変、顔芸をかましながら部下の『戦争!』コールに満足げに頷いている。
独裁国家凸トツ凸、恐怖の独裁者ピトラー (ランキング106位)
歴史としては大分浅く、領土も領民も資金力も乏しい。
だがそれでもランク100位代をキープしている猛者。
彼女の国は近代ユニット、超高額の戦車とかで構成されていたり、略奪による武力の併合により軍事力だけであればランク1位であってもおかしくないと言われている。
しかし先程のリョーマ帝国とは真反対に内政がボロボロな為、どうしてもランキング最上位には届かない準最強格ギルド。
俺が終わらない戦争コールに顔を顰めていると、さっきのイキリルーキがしたり顔でこちらを見ている事に気が付く。
『ほらな?ここにいるやつは皆勝つと思ってるみたいだぜ?』
「勝つというかなぁ・・・こいつらの場合負けても良いとか思ってそうだ」
「戦えれば それで 良 い」
「そうそうそんな感じ」
良い具合に頭がいかれた連中ばっかりってわけだ。
俺とアズリエルさんの言葉を聞いて、イキルーキーが恨みがましい視線を向けて来る。
『同盟を組みに来たって割に随分と否定的な事ばっかり、なんなんだよお前等?』
「俺か?聞いて驚け、キャロット城を本拠に構える無敗の男。その名もアーサーだ!」
『すまん、聞いた事もない』
晴れやかなドヤ顔で声を張り上げた俺は、ズルりと滑りながら元の椅子に着席する。
確かにウチはランキング圏外だしぃ!?仕方ないっていえば仕方ないけどさぁ!?
いじいじと机の上に円を書いていると、頭の上に温かいであろう物が乗せられる。
アバターの視界を上に向けると、アズリエルさんが頭を撫でてくれているのが見える。
トゥンク!アズリエルさんまじ天使!
「そこのルーキー、あんまりそいつを舐めん方が良いぜよ」
不整脈によりリアルで転がり回っている俺のアバターの元に、乱入者が現れる。
「そいつぁわしらの国が長年攻め続けて一度も落とせんかった城の頂点じゃけんのぅ」
リョーマが人懐っこい笑みを浮かべて俺の隣に移動してくる。
「おまんらの国は内政を全く成長させんからのぅ!ある意味わしの一番の天敵じゃい」
「天下の3桁ランクに褒められると照れるぜ」
『お前それ多分褒められてないぞ?』
リョーマの言葉に機嫌良くしている俺を、ルーキー坊がジト目で見てくるので咳払いを一つ。
「で?腹黒領主のリョーマさんはこのまま全面戦争に賛成なのか?」
「そんなわけなかろう?腹黒なりにちゃんと有力情報を掴んできとるわい」
リョーマが俺の皮肉を笑い飛ばしながらテーブルの駒に触れる。
「わしの掴んだ情報によると、魔王軍の幹部が近々この辺りに集結するらしいぜよ」
「これは・・・魔王軍が一箇所に集結している?」
「本隊を叩くのは厳しいじゃろうが、幹部の軍団を壊滅させれば少しは攻勢も収まるじゃろうよ」
リョーマの言葉にギルドマスター達が納得したように頷く。
「そんでもって今回の戦の資金はわいが出す、お互いの同盟書と一緒に一筆いれとくでぇ」
『いける、いけるぞ!こっちはこんなに大量のギルドが集結してんだ!』
『ああ!しかも物資の補充はリョーマ帝国が見てくれるんだろ?武器や兵糧の心配もない!』
『何より戦力だけで言えばピトラーさんまでいるんだ!戦闘でも負ける事はないさ!』
暗い雰囲気から一転、周りの空気が一気に明るくなる。
「んなら最後にここにおる全員とわいとで同盟書を書いて、お互い背中の心配をせずに魔王軍討伐と行こうやないか」
リョーマの言葉にアズリエルさんがピクリと体を動かす。
「りょーま と だけ?」
そして何か考えるように手を頬に当てる。
「あーさー これは わ「反対、俺そういうの嫌いなんで」
晴れやかな顔をしていた奴らが、この会議の場で唯一反対の声をあげた俺を凝視する。
何故かアズリエルさんも目を見開いて?こっちを見ているが多分きのせいだろう、無表情だし。
「さて、用事も済んだしさっさと帰ろうぜ」
「・・・ん!」
俺は呆然とする一同にドヤ顔をかましながら、酒場を後にするのであった。