BGO外伝 はぁはぁ、敗北者?達の過去回
これはグランにキルされ、負け犬部屋に強制送還されたグレイとランズロットの話
どこまでも広がる白い部屋、誰もいない空間で天井を仰ぐ
「・・・これが噂のリスポン待機部屋か」
上半身を起こして何も無い空間を見渡す。
思えばBGOを始めた当初はずっと宿屋に引きこもってたし、冒険をするようになってからはHPモリモリなせいで死ぬ事も無かったからな、俺とは無縁な場所の一つだ。
「しかしグラフ城は内戦真っただ中だってのにリスポン待ちは俺だけか?」
これは冒険者側に被害者はいないと考えて良いのだろうか?
快勝なのは良い事だが、この内戦で死者は俺だけですとか嫌なんだが?
そんな事を考えていると、ジジッという音と共に目の前に人の輪郭が浮かび上がって来る
良かった、どうやら俺以外にもこの内戦で死んだマヌケがいるようだ。
「・・・しかしこの体系は女キャラか?」
俺は目の前でふよふよと形を変える輪郭を見ながらゴクリと喉を鳴らす
そういえばこんな噂を聞いた事がある
リスポーンする前に転送される白い部屋、通称負け犬部屋
ここにはBGO内で死んだ冒険者が一時的に集められるのだが
何でもこの空間に飛ばされた瞬間は、ラグなのかバグなのか服がほんの一瞬遅れて反映されるという物だ。
普段死なない俺にとっては関係の無い事柄。
しかもそんなバグが残ってるなら運営が速攻で修正してるだろう事柄。
俺は軽くスクワットをすると目を見開く
仮に修正されていたとしても!
仮に嘘だったとしても!
今俺には大きなチャンスが到来している可能性がある
漢としてこれを確認するのは当然!
何より今の俺は何だかんとても調子が良い、今なら僅かな一瞬を確認できる気もするし、一瞬で細部まで記憶する自信がある
「さぁ、いつでも来い・・・!」
まばたきもせず輪郭に集中、白い空間を流れる揺らぎに自然と喉が鳴る
「・・・来た!」
俺の呟きと共に輪郭が肥大化、白い空間に肌色が彩られる。
「やれやれ、私だけではどうにもならなかっ・・・どうしたんだいグーサー?顔が真っ青だぞ?」
真っ白な床にモザイク処理がかかった物をぶちまけている俺に、ランズロット♂が優しげに手を差し出してくる
お前のイチモツを完璧に記憶してしまったからなんだが?
というか何であんな柔らかい輪郭線からこんなクソコラみたいな筋肉漢が出てくるんだよ!
目の前の現実から目を背ける俺に、ランズロットは不思議そうに首を傾げながら持っていた槍を地面い突き刺す。
「しかし、随分と懐かしい物が出てきましたね」
クソコラ野郎の顔を見て再度モザイクを吐いていると、
ランズロットが愛おしそうに俺のカリパーとケツ・ホルグを見比べている。
「・・・ああ、レジェンドオブキングがサ終してからもう8年か」
俺はゲロだらけでモザイク処理のかかったエクスカリパーを掲げる
総プレイ時間数万時間
全てのニートゲーマーが己の知力や財力、果ては権力まで全てを賭して戦い、その中でも頂点に立った者が手に入れる事の出来るキングオブニート剣
運営がハッチャケて作ったこの伝説の聖剣は、一振りでラスボスを瞬殺させる火力を持ち、
毎秒HPとMPを2%回復、重量制限も装備制限もないチート武器
かの約束されし勝利の剣エクスカリバー・・・の隣にあったと言われる岩・・・に座った事があるというおっさんが作った由緒正しき聖剣エクスカリパー
この聖剣を手に入れるまでにかかった時間と労力と財力を思い出して思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「まぁそんなチートを使っても勝てなかったんだがな」
「そりゃあ相手はチーターでしたからね、チート武器はあくまでアイテムでしかないですから」
ランズロットがフフッと笑いながらケツ・ホルグの柄を撫でる
まぁ言わんとする事はわかる・・・わかるが納得もいかない・・・
俺は溜息を一つ、かつて幾度も死闘を繰り広げた
違う意味でモザイクのかかった槍に視線を向ける。
・・・そういえばケツ・ホルグの刃先の形ってさっき見た・・・
再び吐きそうになるのを堪え、嫌な事を考えないように床に大の字で寝転ぶ。
「・・・そういえば俺の初恋も・・・レジェンドオブキングの時代だっけ」
目を閉じ、当時の記憶を辿る
画面越しにしか見たことのない綺麗な青髪、透き通るような金色の瞳
表情はあまり動く事は無かったが、結構負けず嫌いな当時の相棒
「元気にしてるかな・・・アズリエルのやつ」
外伝とはつまりそういう事だ!