第百一話 VS悪魔王
「わーっはっはっは!よくぞ来た勇者よ!我が名はヴァンプ!悪魔界の王にして吸血鬼の王!キングオブキングである!脆弱な人間どもよ、その力を我に示すが良い!」
テイク2を終えたヴァンプが手を天にかざすと、黒色の炎が複数に分裂して襲ってくる。
「散開!適当にガンガンいくぞ!」
炎を避けた俺達はそれぞれヴァンプに襲い掛かる。
「まずはわいからや!」
フーキがヴァンプの前に着地すると、そのまま腹にパンチを繰り出す。
するといとも簡単に腹部を突き抜け、ヴァンプの背中からフーキの拳が現れる。
あれ?もしかして弱い?
しかしそんな考えもすぐに間違いだと気づかされる。
「やばい、抜けん!」
なにやらじたばたしているフーキは、ヴァンプの腹に拳を突き刺したまま、ヴァンプにニ、三発殴られ大きくHPを削られる。
「ぐ・・・あ・・・」
よろけて気絶マークがついたフーキの後ろから、犬耳がぴょこんと現れる。
『フーキさんを、離してください!』
バフもりもりのルピーの大太刀がヴァンプの喉元に当たるがびくともしない。
ヴァンプはそのまま大太刀を素手で掴むと、大太刀事ルピーを地面に叩きつける。
「ふーはっはっは!この程度か!脆弱な人間共よ!」
ヴァンプが高笑いを上げ、再びフーキに拳を上げる。
これ以上殴られるのはまずい!
「ルピー!フーキの腕を斬れ!」
『は・・・い!』
ルピーはすぐさま体勢を立て直し、めり込んでいるフーキの腕を切断、お姫様だっこで戦線を離脱するが、たった一発くらっただけで力尽きたのか、少し距離を置いて地面に倒れてしまう。
とどめにさしかかったヴァンプは、メアリーさんの状態異常もりもりナイフで動きを止めるが・・・。
「我に状態異常等効かぬは!」
ですよねー!ボスですもん!
ヴァンプの背中のマントが肥大化すると共に複数の大きなコウモリとなり、メアリーさんを囲み、あっという間に姿が見えなくなる。
・・・わーお。
開始数分、前衛火力二人と中衛が行動不能になってしまった。
残ってるのが支援と肉壁二人でどうしろっていうんだこれ。
「どうするこれ?」
「逃げるしかねぇだろ?」
「同感ですね、全滅さえまのがれればまだチャンスはあります」
三人の意見がまとまった所で扉に引き返そうとしたところで、扉の前のヴァンプと目と目が合う。
ボスからは逃げられない!
大きく振りかぶられた拳が着弾すると共に、俺はランズロットさんに抱えられるように三人まとめえて吹き飛ばされる。
「これはまずいですね」
「逃げるにも簡単には逃げさせてくれそうにないな」
グレイとランズロットさんが少し顔を顰めるが、HPはさほど減っていない。
この二人はなんでこんな無駄に硬いんだ?
そんな事を考えていると、グレイとランズロットさんが視線で会話したように頷き、俺を下ろす。
「ここは私達二人で時間を稼ぎます」
「その間にアズは逃げてくれ」
「え!?」
予想外の言葉に目を剥く。
この二人に時間稼ぎなんて高等テク出来る訳ないじゃん!
顔に出ていたのか、グレイにデコピンをくらわされる。
「あうちっ」
「ばーか、俺達にはこんな時の切り札があるんだよ!」
そう言いながら、グレイは腕をクロスさせ、開くと同時に眩い光と共に青と金の装飾が交えられた大きな剣を取り出し、両手で剣を持ち地面に突き刺す。
何事かと目を剥く俺の背後では、ブスリ♂という音と共に、ランズロットさん後方の地面にモザイクのかかった槍が突き刺さり、ランズロットさんがその槍にもたれかかる。
「偽聖剣 エクスカリパー」
「尻魔槍 ケツ・ホルゾ」
二人の武器からとんでもない覇気を感じ、俺は思わず叫ぶ。
「おいグレイ!どこでそんな物盗んできたんだ!今なら俺も一緒にごめんなさいしてあげるから、大人しく白状しろ!」
「おい、あずてめぇこのタイミングでそれを言うか!?正真正銘俺の剣だよ!」
そんな事を叫びながらエクスカリパーを構えたグレイがヴァンプに斬りかかる。
ソードスキルはないのか、初心者丸出しの攻撃だが、避けようとしなかったヴァンプは直撃をくらいわずかによろめく。
そこに畳みかけるようにケツ・ホルゾが軌道を変え、ヴァンプの尻に照準を合わせる。
「わーはっはっは、中々面白い物を持っているではないか」
だがヴァンプの尻は思いのほか硬く閉ざされ、貫通させる事は出来ないようだ。
「これでわかったろ!アズ、今の内にお前だけでも戦線を離脱しろ!」
俺は顔を顰めながらも頷き、扉に向けて走る。
何このムリゲー、絶対勝てないじゃん!何考えてんの運営!
心の中で運営に罵倒を浴びせていると、頭の中に少女の声が響く。
『かてるな ら?』
「ほあ!?」
一体何事かと思ったが、少女は言葉を繋げる。
『かてるな ら からだをかしてくれ る?』
勝てるなら体を貸す?
つい先ほどまでアズールに体をのっとられていた俺はなんとなく嫌な気持ちになりつつも、強く頷く。
「絶対勝てるってんならいくらでも貸してやらぁ!」
『そう』
その少女の言葉と共に、俺の意識は暗転する。