第百話 ボス戦前の一休み
ゆらゆら揺れるまどろみの中、唐突な浮遊感と頬に痛みを感じる。
「きろ・・・おきろ!」
「ひゅい!?」
目の前いっぱいに広がるフーキの顔に目を瞬きながら、現在進行形で頬を叩かれている事に気が付き、顔を顰める。
「痛い」
「やっと起きよったか、この戦犯め」
戦犯、果て何の事だろう?
不思議に思い後ろを見ると、逆さづりだった世界が見える。
「なんだ、皆無事に辿り着いてるじゃないか」
「時間見てみ?」
時間?・・・んー飛び立ってから1時間はたってますね。
「わかったか馬鹿チン、さっきまで天空に放り出されたわいらは皆気絶しとったんや」
おおうまさかそんな事になっていたなんて、でもそれ完全に俺のせいじゃないし。
たしかーにGが想定外だったのと、届かないなんて思わなかったけど・・・。
ちょっと視線を泳がせながらライフポイントが減った仲間達が見える。
皆無事!目的地到着!俺悪くない!
「そんな事より無事にアルルへルルに到着した事を喜ぼうぜ!やっとこのイベントから解放される時がきたぜ!」
そう、このマイナスステータスともお別れ・・・。
「ってあれ?既にマイナスじゃなくなってる?」
「ああそれやね、なんでかわからんけど皆ここに来た時にはマイナスステータスは無くなっとったんよ」
フーキが頭をガシガシと掻きながら「予定外な事ばっかりすぎるんよ」と一人イライラしている。
「じゃあ目的は達成だな、帰るか」
「待て待て待て、もしこのまま帰ってステータスがマイナスに戻ったらどないするんよ、まずはこの城をなんとかせんといかんやろ」
こめかみをトントン叩きながら、フーキが冷たい目で見下ろしてくる。
でも俺的にファンタジー世界に天空の城って、景観的にありだと思うんだよなぁ。
「じゃあここの主にお願いして帰ってもらいますか、精霊の城ってくらいだから、精霊王とか出てくんのかな?」
よし!と掛け声を上げると共に、空の大地に足をつける。
重力が下にあるからか、逆さ城といえど違和感はない、逆に今まで住んでた街がさかさま状態で不思議な感覚に襲われる。
「まぁアズが寝とる間に城の中はあらかた調べてはおるんよ」
「流石フーキ、話が速いぜ」
フーキによると、城の中にエネミーはいないそうだ。そんであからさまに怪しい扉以外は調べたが、特に何もなかったらしい。
「で?そのあからさまに怪しい扉って?・・・ああ、確かに怪しいな」
俺も城の中に入りキョロキョロ見回すと、エントランスから大ホールらしき場所に続く場所に『よくぞきた勇者よ』とか『ここからはボス戦である!』と書かれたプレートがついている。
なんて親切な警告なんだ。
「とりあえず全員回復してから中に入るか、ま、扉の隙間から少し覗くぐらいなら大丈夫だろうけど」
そう言いながら、扉からチラリと中の様子に視線を向ける。
「わーっはっはっは!よくぞ来た勇者よ!我が名はヴァンプ!悪魔界の王にし・・・」
バタンと扉を閉める。
脳がフリーズする中、同じくフリーズしていたフーキに尋ねる。
「フーキ、中に魔王がいるんだけど」
「悪魔種の王って訳で魔王ではないと思うんよ」
「ああ、ね、日本語って難しいな」
とりあえず強敵がいる事は理解したので、俺達はボス部屋前でキャンプを張る事にした。
今回の構成は、グレイ、ランズロットの壁二人、ルピー、フーキの前衛火力、メアリーさんの中距離異常、そんで最後に遠距離支援の俺となるわけだが、前衛多くない?
「なんか俺の負担多くない?」
「そこはアズに任せるしかないからね、今どんなアーツ覚えとるん?」
こいつ・・・。
「ええと、支援だけならプロテクション、ヒールと・・・エアストってのも覚えてるな」
多分アズールに変身した時に自動で覚えたんだろうな(経験談)
あとはもう一つ、エヌマエアって技も覚えている。
《エアスト》 《PTメンバー全員の素早さを、自分の素早さの数値アップさせる》
すばやさ高めの俺にぴったりな支援技だ。このまま後方支援職になるのも悪くないかもしれない。
んで、もう一個は・・・。
《エヌマエア》 《風の剣を生成する 攻撃力1%》
試しに出してみると、緑色の風の剣が手に収まる。
攻撃力は控えめだが、斬撃が必要な時に便利そうだ。
俺が一人納得していると、フーキが眉間に皺を寄せている。
「どうしたんだフーキ?なんか顔がおかしいぞ?」
「言い方!・・・いや、アズはヒールが使えるようになっとったんやね」
あ、そういえばルピー以外に話してなかったっけ、アズリエルの正体に繋がりそうだから黙ってたんだった。
「そのうえ先ほどのアズールの用に変身出来るのでしたね」
「そういえばヒールを使えるキャラは今の所一人しかいませんね」
「お?なんだなんだ?アズリエルさんの話か?俺にも話させろよ~、あの人は天使でな」
メアリーさんとランズロットさんの追撃に視線を泳がせ、一人だけ検討違いな事を言っているグレイを無視してマグカップの午後ティー(BGO風味)に下筒をうつ。
「それより作戦考えようぜ、多分これが最後のチャンスになるから」
さっき見てきたら暴風が消えていたので、この城を攻めれるのは今回が最初で最後のチャンスになる。
また新しい城への到着方が確立されるまで時間がかかるだろうし、なんとしても今回で成功させたい。
「作戦って言ってんも相手が未知数やからね」
「あたって砕けろで良いだろ」
『ガンガンいこうぜ!』
なんという脳筋パーティー、だが話題は逸らせたのでよしとしよう。
「よし、回復した所で行きますか」
俺がマグカップをインベントリにしまい立ち上がると、皆も立ち上がる。
出来れば穏便に済ませたいが、無理だろうな。
俺は溜息を吐きながら扉に手を掛ける。
「わーっはっはっは!よくぞ来た勇者よ!我が名はヴァンプ!悪魔界の王にして吸血鬼の王!キングオブキングである!脆弱な人間どもよ、その力を我に示すが良い!」
あっこれ待っててくれたのかな?