第九十九話 突撃!天空の城
どうも皆さんこんにちは、アズです。
前回色々あって俺のファーストキスを奪われたり、フーキのたまたまのせいで大変な事になりましたが、なんやかんやで元気してます。
さて、そんな所で今日のお題なんですが・・・
俺達は空高く吹き荒れる竜巻を見上げる。
高さ的にアルルヘルルに届きそうな程の暴風だ。
これにのればアルルヘルルに行ける?
一同そんな事を考えていると、命知らずが一人竜巻に突撃する。
「よっしゃ!おれいちべし!?」
グレイは変な悲鳴と共に、明後日の方向に吹き飛ばされ、民家の壁に穴を開ける。
なんというか、あいつは見事に役目を果たしたよ。
つまりこのまま突っ込んでもさきの馬鹿と同じ道をたどるという事か。
「しかし現状アルルヘルルに侵攻する最適解はこの竜巻ですね」
ランズロットさんが険しい顔つきで半裸になる。
肉体美を晒すのはどこか別の場所でどうぞ。
「いっそ私共、円卓の騎士団で竜巻を覆い隠してみましょうか」
ランズロットは身振り手振りで説明するが。
ムサイ漢がタワーのようになって竜巻を囲むらしい。
過去からの経験からして、絶対半裸なんだろ?それに囲まれて飛ぶ人間の身にもなって欲しい、まず精神が崩壊する。
というか高さが足りないだろ
いくら円卓の騎士団が大規模でも、天高くまでは流石に人数が足りない。
『風の流れを読むのはどうでしょう?』
そうチャットを飛ばしながら、竜巻の中でステップを踏む規格外が一人。
あの才能は、どうやらステータス云々は関係ないらしい。
「ルピーはそれで良いかもしれんけど、俺達じゃ無理だな」
「間違いあらへんね」
何やら首を傾げるルピーを無視して更に話を詰める。
「そもそもあれを作ったのはアズちゃんなんですから、アズちゃんが良いように操作出来ませんの?」
とはメアリーさん。
そう言われても、俺はあれを作り出した記憶がないし、どうすれば良いか全くわからん。
「それやったらまたアズール?に返信してみたらどうや?今度は意識を乗っ取られない程度に加減して」
ええ・・・
俺としては目が覚めたら大人の階段を登ってたトラウマがあるから使いたくないんだが。
というか変身度合いとか調整できんのか?
半信半疑で指輪からフーキのたまたまを出現させ、表面をゆっくり撫でる。
おおっ・・なんか体がムズムズして、高揚感に溢れてくる。
「あっ!皆んな!アズを囲むんや!」
そんなフーキの焦った変えと共に、俺の視界が仲間で埋め尽くされる。
「なんだなんだ?何かあったのか?」
「何かも何も、髪が緑に変色し始めとる」
なんと、完全に精霊化してないのに・・・
どうやら調整は出来るらしい。
「でも囲む理由は?」
「その状態のアズは今指名手配中で多額の賞金がかけられてんねん、あとはわかるよね?」
「あ、はい」
知らない内に大変な事になってたようだ。
最悪俺が変身して捕まって、後で山分けとか出来ないだろうか?
「アズ、面倒ごとはなしのほうよ?」
「わかってるわかってる」
フーキにギロッと睨まれたので慌ててポーカーフェイスに努める。
さて、うまい具合に調整は出来ているが、徐々に精霊の力が増幅していっている、はやめに竜巻をなんとかした方が良いだろう。
でもどうにかするってどうすれば良いんだ?
とりあえず外面をヤベェ風圧にし、扉のように一箇所だけ柔い風圧に変える、そして中身を緩やかな風に変えて・・・これでいけるかな?
新しい実験と精霊力の侵食で徐々にテンションが上がってきた。
ふふふ、うふふふふふふふ
「ソイヤッ!は〜ソイヤッ!」
しかし俺のテンションは、目の前でポージングをするランズロットさんのおかげで一気に最低値まで下がる。
それと同時に周りの皆んなが離れた所を見るに、恐らく変身が解除されたのだろう。
「ほんで?どうゆう風に変えたん?」
「とりあえず正面に入り口をつけた。あとは外に飛び出さないように外面を暴風に変えて、中はマイルドにしてみた」
「ほう?」
フーキは少し興味深そうに入り口に手を入れ、顎を撫でている。
「じゃあ次こそいっちばーん!」
いつ復帰したのか、再びグレイが入り口に侵入し、空高く飛び上がって行く。
行くのだが・・・
「なぁアズ、あれってGがヤバいんじゃないん?」
「仕方ないだろ?人を飛ばす風圧っていったらこのぐらいが丁度良いんだよ」
知らんけど。
よし!行くぞ!
グレイに続き俺も竜巻に突入。
中に入ると唐突な浮遊感とGに襲われる。
あっ、やっぱもうちょっと調整しておいた方が良かったかも。
意識を失いそうになりながら、何度か外面の風圧にぶつかり竜巻の頂上へ。
「つ、ついた・・・けど・・・」
俺は上空数十メートル上を浮かぶアルルヘルルを見て顔を歪める。
届いてない!届いてないよ!
というかそれならグレイはどこに!?
まさかこの上空から紐なしバンジーを?
次に予想される出来事に顔を青ざめていると、ぐぐっと体が空に向かって落ちて行く。
どうやらアルルヘルルの方の重力に引っ張られているようだが・・・
「この高さは死ぬる!死ぬるー!!!」
アルルヘルル研究棟、青い髪の少女がその一室で歩みを止める。
「なに してるの」
「ん?ワーッハッハッハ、なんだ我の話半分に消えた小娘ではないか」
暗く狭い室内に、悪魔の王の声が響き渡る。
少女は無表情に周りを見渡し、ある物を見据える。
「ちょっと 気になる事があっ た」
「ふぅん、まぁ我には関係ない事であるな、丁度暇を持て余していた所である」
悪魔王は心底つまらなそうにソファに座り込む。
「人間種め、少しイタズラをしたら直ぐにでも乗り込んでくると思ったが、飛んだ肩透かしだ」
「ふつうのにんげんは ここまで これな い」
苛立たしげに指を鳴らす悪魔王に助言を与えると、そんな事は考えてなかったのか、ハッとしたように目を見開く。
「まさかそこまで脆弱だったとは、そろそろこの遊びもやめるとするか」
悪魔王はそう言いながら、今回手に入れたアイテムを懐にしまおうと腰を浮かす。
「でも ふつうじゃないのが きた よ?」
何のことだ?と首を傾げる悪魔王は、視線をアルルヘルルの外に向ける。
そこには数人の男女の人間種が倒れているのが見える。
「わーはっはっは!なるほどなるほど!ついにここまで来たか!うむ、情報感謝であ・・・む?」
感謝の意を伝えようとした悪魔王は、しかし再び姿を消した少女に眉を顰める。
「気味の悪い・・だがまぁ良い、我は玉座にて人間共を迎え撃つまでよ!」
悪魔王は意気揚々と立ち上がると、妖精王の玉座に向かうのであった。