第九章 初心者殺し
キルされる事を覚悟した俺の前に颯爽と駆けつけ笑顔で振り向くルピー
先程の虚ろな目が嘘のように輝いて・・・やめろぉ!魅了が発動してる!
「ルピーさんルピーさん、出来れば魅了スキルを・・・」
少しでも光から目を守るように顔を隠しながらルピーの方を確認した俺は、驚愕に目を見張る
そこには先ほどまで水の中でのたうち回っていたジン魚がルピーを羽交い絞めにしようとする姿
「危ないルピー!!!」
何故か顔を真っ赤にしてうずくまっていたルピーは、俺の叫びに急ぎ体勢を立て直す
しかし少し間に合わなかったらしく、片手を掴まれ宙ぶらりんになってしまった
ルピーが強いのはあくまで力と俊敏、HPや防御力に関しては紙に等しい
・・・このままじゃまずい
「今助ける!」
水辺に軽い渦を作ってジン魚の体勢を崩すが、行動を阻害するには至らない
まずいまずいまずい!
焦る俺を無視するように、ジン魚が触手を肥大化させ・・・
次の瞬間、ルピーの腕が斬り飛ばされ、ジン魚が真っ二つになった
「え?はれ?」
今何が起きた?
俺はルピーのHPがミリ単位になったのを確認しながら、呆然とたたずむ
正確には何が起きたかはわかる、ただ理解できなかった
ジン魚が触手を肥大化させた瞬間にルピーは自分の腕を切断
着地したと同時に片手でジン魚を叩き斬ったのだ
「はは・・・ゲームならではの方法だな・・・痛かっただろうに」
相当痛かったのだろう
輝いた笑顔の時とは打って変わり、顔を赤くしてうずくまってしまっている
一瞬痛覚遮断してるのか?と思ったが、この態度ならそれは無いだろう
どうやらこのクエストは俺達には荷が重かったらしい
俺はルピーの手を引きキャラバンに戻る
キャラバンのおじさんも、片手を失い、涙目で顔が真っ赤なルピーを見て顔を真っ青にしている
<システムログ:外来種の魚をクリアしました>
<システムログ:5R、ブラックサンギョ×3を手に入れた>
おまけとして魚をもらう事に成功した
ここだけ見れば当初の目的は達成されたのだが、いたいけな少女を守れなかった事に後味の悪さを感じる
こうなったらルピーの元気が出るよう後で精一杯美味しい料理を作ろう
グラフ街に戻る道中は平和そのもの!
ヌレー河川に行く途中は散々エンカウントしたが、今は一切エンカウントしない
ルピーが即死圏内なので助かるのだが・・・
ちなみにルピーの腕はしばらくしたらはえてきた、冒険者ってすげー
一休憩取るべく日陰になりそうな木を見つけその下で軽く調理をする
今は刺身を作っても天然の味しか楽しめないので、小型バーナーと包丁で作った簡易的な物になる
ブルーラットの串焼きとブラックサンギョの串焼きだ
お腹が減っていたのであろうルピーは、まるで何事も無かったかのように笑顔で食べ始める
「しかし・・・」
この短期間で色々な事があった
俺は食べるのもそこそこに木にもたれかかる
草原は人っ子一人いな・・・いわけではなく何人かの冒険者は見かける。
ブルーラットと戦っている冒険者が大半だが毛色の違う冒険者がいるのが気になる
赤髮と金髪の男が明らかに新参だろう冒険者に各々の武器を突き付けているのだ
「初心者狩り・・・だよなぁ」
このゲームはLV1からPVPができる
恐らくチュートリアルでPVPをすればそれにちなんだスキルを習得するのだろう
それ狙いもあるかと思ったが、新人冒険者は本気でおびえてる
「まだ攻撃はしてないようだが・・・」
見ていて気持ちの良いものではない、少なくとも俺は、だが
それにあの赤髮と金髪、初日のログインで見かけたPVPもどきをしてたやつらだ
PVPにちなんだスキルを持っている可能性が高い
戦力としてはイマイチな俺が行っても恐らく返り討ちにあうだろう
ご自慢の火力娘は食べるのに夢中みたいだし話しかけづらい
一人でなんとかなるものかと思案していると、俺よりも先にブラウン髮の男が乱入したのを確認
どっかで見たことある・・・というよりフーキだな、あれ
見てしまったなら助けなあかんよね
そんな思いと共に絡まれてる冒険者を背中に隠して二人の男を睨む
「あ!おめぇあのときのいけすかねえガキ!」
「ほんとだ!てめぇ!あん時はよくもやってくれたなぁ!ぉい!」
どこかで見たことあると思ったら初日の二人やん
そう思いながら両手を握り片足を一歩前に、ファイティングポーズをとる
「あん時はわいのフレンドがあんたらんとこの近く通ったのをみかけてなぁ・・・あんたらのPVPを止めたのは偶然や・・・堪忍してえや」
この二人はログイン初日
人込みの中でアズを見つけたフーキが声をかけようとしたところ、アズが急加速して人の少ない場所目掛けて駆け抜けていった
それを追ったフーキがたまたま争っていた二人を放っておけず仲裁に入ったところ
二人がかりで殴り掛かってきた
単調な拳で殴って来る二人をフェイントをかけながらあしらっていると、周りのプレイヤーが二人を非難し始め二人を攻撃、二人は逃げるように去って行った
結果、周りにいた多くのプレイヤーと仲良くなり、今では情報屋の肩書を持つようになったのはここだけの話である
「てめぇのせいでこちとら赤っ恥かいたんだ!そこん所ケジメつけてもらうぜ」
赤髪の男がツーハンドソードを肩に担ぎ片手をこちらに突き出しながら叫ぶ
「おめぇにはあの時一回も攻撃が当てれなかったからな、ここでリベンジさせてもらう」
金髪の男がレイピアを片手に半身を前に出す
「いっぺんに二人相手とかほんまきついわ・・・どうしてこうなったんやろ・・・」
溜息一つ後ろを見ると、わずかに震える新人冒険者
それを確認して前の二人を再び睨みつける
「見つけてしまったら、助けるんがわいら先輩プレイヤーの役目っちゅうことやろうな」
軽く笑みを浮かべ、上段斬り途中のツーハンドソードの腹を殴りつけて力任せに軌道をずらす
赤髪の男が舌打ちをしながら下から切り上げるのを、新人プレイヤーをかかえてバックステップで回避
そのまま新人プレイヤーを後ろに逃がしながらレイピアの突きを避ける
避けてがら空きになった腹部に正拳突きを繰り出そうとしたところで嫌な気配を感じしゃがみこむ
今まで立っていた場所に隠し持っていたであろうダガーが宙をさく
今度こそがら空きの腹部に・・・といった所でツーハンドソードが追い打ちをかけてくる
「やりづらいわぁ・・・せめて相手が一人やったらなぁ・・・」
ぼやきながら二人の攻撃を捌くが徐々に劣勢になっていく
「おいおいどうした!?びびってんのか!?ヒャハハ!!」
赤髪の男が三日月の用に口を歪ませる
「これにこりたら金輪際俺達にはかかわらない事だな」
レイピアで牽制しながら金髪が静かに笑う
ピンチ到来やね、せやけどなんやろなぁこの安心感
胸中の笑みがそのまま現実に浮かび、二人に一瞬の隙ができる
フーキはこの時確かに追い詰められていた
だが直感で感じていた
自分の力を過信しているわけではなく、長い付き合いだからわかる
あいつが傍にいる気がする
「フガッ!?」
瞬間赤髪が声を上げ周りを見回すがそこには誰もいない
気のせいと思い攻撃をしようとしたところでまた声を上げる
これは2対1やないんや・・・2対2のPVPなんやで?
不敵な笑みを浮かべいつもの攻撃スタイルに構えなおす
思い浮かべるのはいつもの格ゲーのキャラ
気を散らした金髪にコンボを叩き込む
a2a2b3cc2c・・・・・
何度も頭で反芻し、手にタコができるまでやりこんだ格ゲーのコンボ。
赤髪が気づいた頃には金髪はHP全ロスト、めでたく街へ強制送還や
「てっめぇ!なにしやがった!くそがぁ!」
尚もツーハンドソードで斬り付けてくる男を捌きながら、今はもういないフレンドにメッセージを送り
無事二人を強制送還したわいは新人プレイヤーに手を振る、逃げてもよかったのにまだおったんやね
「ほんとにありがとうございました!楽しみにしてたゲームだったのでほんとーっにたすかりました!!」
新人プレイヤーがキラキラした目でフレンド申請を送って来る
断る理由もないしフレンドなっとこか、YES
新人プレイヤーは喜びながら先ほどの戦闘の疑問点を上げていく
「あの時の技って・・・あ!それと・・・赤髪の男を足止めしてた青色の光る技も無手スキルの一つなんですか?」
素朴な疑問に今はグラフ街にいるフレンドに送ったメッセージを思い出す
[助太刀たすかったで]