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二階建ての廃屋

 せっかくの夏だし肝試しに廃村に行こうという話になり、暇を持て余していたH雄、D助、S子を呼んで、D助の車で廃村の入り口にあった車が止められそうなスペースに車を止め、明るい内にいくつか廃屋を回り、人がいないという非日常感を楽しんでいた。


 空が赤み始めた頃、他と比べて崩れておらず、まだ住もうと思えば住めそうな二階建ての廃屋を見つけ、俺たちは中に入ることにした。

 廃屋の中はもう落ちてきた太陽の明るさでは中を照らしきれなくなっていた。

 もはや電機が通っていないこの場所で電灯は点く事もない。

 俺たちは持ってきた懐中電灯に電源を入れ、中を照らしながら探索する事にした。

 元は靴を脱いで上がっただろう床を土足で踏み入り、縁側をギシギシと音を立てながら進む。

 いくつかある部屋を見るがあるのはもはや博物館くらいしか見ることの無いダイアル式のブラウン管テレビや昔のグラビアアイドルだろうか何やらポーズを決めているのが表紙の古い雑誌、昔はここに人が住んでいたと語るような物ばかりであった。


 一階を探索し終え外も暗くなった頃、そろそろ二階に行こうかという時、

 「二階から声が聞こえない?」とS子が言い出した。

 「聞こえないぞ?」

 「ちょうど二階に行くし確かめにいくか」

 「私怖いから行きたくない」

 肝試しに来たはずなのにS子が急にそんな事を言いだすが無理強いするのもどうかと思われたので、車の鍵を持ってるD助と一緒に車で待っててもらう事にした。


 俺とH雄だけが残り二階の探索をする事にした。

 「S子の言ってたあれ本当かな?」

 「もしいるなら写真撮ってツイッターに上げようぜ」

 そうやって恐怖を紛らわせるように話をしながら階段も上がりきろうという時、

 ―――せんばやまには たぬきが おってさ―――

 そんなお手玉で歌われるような童謡が聞こえ始める。

 俺たちは驚きと少し怯えた顔で顔を見合わせ自然と小声で話し始める。

 「本当に聞こえて来たぞ!どうする!」

 「どうするって……ここまで来たら確かめるしかないだろ」

 俺たちは数十秒ほど悩んだ後、覚悟を決めて俺たちは足を踏み出す。


 廊下を『ギシッギシッギシッ』とまるで家全体が侵入者の位置を報告するように響く、和紙でできた襖からは相変わらず淡々と繰り返し歌が聞こえる。

 襖に近づくと手のひらほどの穴が空き明かりが漏れている。

 中が見えないかと覗くとそこには電気が点いた明るい部屋、中は綺麗に掃除されており、タンスや本棚等の家具が見え、部屋の中央には二人の女の子が向かい合わせに座りお手玉をしている。

 あの響くような足音に気付かないのか、同じ映像を繰り返し再生するように同じ歌を同じ動作を続けている。


 俺たちはその光景を見て震える。

 だがここまで来たのだそのまま帰るわけにもいかない。

 俺は穴からスマホで写真を一枚撮り、襖に手をかけると歌が途切れた。

 急な変化に息が詰まる。

 開けようか開けるべきか一瞬の逡巡の後、息を吐き意を決して襖を開ける。

 中の光景は先ほど見た光景とまったく違っていた。

 部屋は懐中電灯が無ければ見えないほど暗く、二人の女の子もいなかった。

 「いたよな!さっきいたよな!」

 俺は恐怖で震える声でH雄に確認するがH雄の返答は青い顔で頷くだけだった。

 俺はもうここにはいたくない気持ちでいっぱいでH雄も同じようで俺たちはこの家から出ることにした。


 俺たちは階段まで戻り降りようとした時、

 ―――あんたがた どこさ ひごさ ひごどこさ―――

 またあの歌が流れ始める。

 俺たちは振り返ると襖からまた明かりが漏れている。

 もはや確かめる勇気など無く急いで階段を降り、S子とD助が待つ車まで走って戻って行った。


 車まで戻りS子とD助に見たことを伝えた。

 「写真とか撮ってないのか」

 そうD助が言いあの部屋に入る前に一枚スマホで撮っていたのを思い出す。

 俺のスマホにみんなの視線が集中する。

 だが、そこには何もない部屋が写っているだけだった。

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