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勇者?聖女?いやいや、ないわー。

作者:

おはなししよう


 May I help you?

 我が国の言葉で言うと「お手伝いしましょうか?」もしくは「手伝わせて下さい」といった感じでしょうか。少なくとも大多数の人は冗談以外で「手伝わせてやる」なんて言わない(……はず)。そんなことを言えば「厚かましい」と思われるのがオチ。「手伝ってもらえませんか」と「お願い」するのが筋。

 それを踏まえて。


 いきなり異世界から過去も背景も立場も人間関係も持っている人間を「何の了承も得ず」呼び出し、挙げ句「世界の危機を解決しろ」とは一体どういう了見なのか、こちらが納得できる理由を提示して下さいな。

 ……え?いえいえ、自分の生まれ育った世界ならば、それなりに真面目に考えますが、ねぇ。じゃあ反対に、「私達が居ないと私の世界が滅ぶかもしれないんです。今すぐに、元の世界、元の場所、元の時間に戻して下さい」そう言われてあなた方はどのような対応をして下さるので?

 ………………ふぅん、そう。えぇそうですね。私達の世界の事はあなた方には関係ありませんものね。そう言うあなた方の気持ちが、今の私達の気持ちです。むしろ慰謝料なる物を頂きたい位です。

 ふふ……、まぁ今この場でそんな金品を提示されてもね。ましてや名誉なんて何になるんですかねぇ。それはこの国、引いてはこの世界でですよね。………………意味ないし。


 あーもういいから早急に元の世界に戻せっつってんのよ。正直あんた等がどんだけエライ立場でもね、こっちから見ればただのコスプレしたジ……老年の男性とその一味なだけだってーの。あぁ?不敬?ナニソレ美味しいの?一体どこのどなたが「私たちにとって」敬うべき対象なの?

 こちとら2000年以上続く皇家の方々を頂きとする国家で育ってんのよ。なぁに?ちゃんと家系も辿れるそうよ?……で?敬うべき対象を教えてくれるんでしょ?さぁさぁどうぞー?

 …………ハッ。(嘲笑)

 話にならないとはこの事ね。なーんで連れてこられた先で、会ったばっかりのヒトを敬わないといけない訳?こっちから見たらただの「誘拐犯一味」だし。……はぁ?戻す方法は無いってナニソレ。

 つまりあれか「自分にとって有益となる人材」を連れてきました。了承は得ていませんし、戻せる方法は今まで考えたこともありません。賠償も「問題解決後」の保証もないけれど、自分たちの利益のために働きなさい。多少の手助け位はして「あげます」ってことか。


 ………………何か「殲滅級魔術」ってヤツを試し打ちしたくなっちゃったなー。……ん?出来るよ?ははは、日本人なめんな。どんだけ妄そ……ゴホン想像力が豊かだと思ってんのよ。だからこそ「私達」が呼ばれたんでしょ?まぁその場合、こっちに被害が来ない様に「絶対防御」を……えー出来るから言ってんだってばー。


 さっきから私達にそれを張ってるの。

 ……あれ?気づいてなかったんだーこっち初心者なのにーやだー笑えるー。ちなみに「反射(増幅)」も付与してあるから、こっちに攻撃すると倍以上の威力で「戻って」行くから気を付けてね♪

 

 え、脅し?まっさかー♪こっちは平和主義ですよー?私達の国はもう70年余り戦争はしていませんしー、暴動なんかもおこりませんしー。簡単に言えばー、酔っぱらって真夜中に女一人で徒歩で帰宅しようとしてもー、十中八九無事に帰宅できるような平和な国家で暮らしているのでー。争いなんてそんなそんな。

 ただ「怒らせるとタチが悪い」ような事を言われる国でもあるかなー?どうだっけ?

 んでソチラの国は?あら、お顔が……違ったお顔の色がお悪い様ですよー?あぁ「魔物」とやらの対応に追われて、治安の維持にまで手が回らないんですかー。大変ですねぇ。……え?だって他人事ですし。


 さぁて………………、そっちが絶対有利ではないと理解出来たカナー?

 ではお話しましょうか。イロイロと…………ね?

 


*****

さいしょからおもいだしてみよう


 私の職業は会社員。

 年齢は、まあ一般的に結婚適齢期と言われる歳を少々過ぎた独身の女である。

 自分の性格的に、例え誰かを好きになったとしても、他人と共に生活するのが向いているとも判断できない為、恐らく独身のまま生涯を終えるのであろう。

 平和な老後、その為にもお仕事頑張ろう。


 今日も今日とてストレスを煙草で誤魔化しつつ、つつがなく仕事を終え帰宅。

 さて風呂が先か、調理が先かと考えつつ玄関から三和土に入った所で、見慣れた自宅の風景がぼやけた。


 おかしいな。老眼にも更年期のなにやらにも少々早い気がするが、疲れだろうか。

 などと思っていたら光に包まれた。

 ……「光に包まれた」ってナニ。

 普通に考えれば「暗い場所から明るい場所に出た」と思うのだろうが、この場合は光が(ありえない事に)丸まっていったのだ、―私を包むように。


 一瞬、光が一際強まった後、空気が変わった。

 私を包んでいた筈の光は消え、その代わりに光の壁が円形に周囲を囲んでいた。そして足元には何らかの模様。いや、文字だ。

 私の知識にはない……なかったの文字。本などで想像した「魔法陣」としか呼びようがない物が足元に広がっていた。

 更に、同じ光の壁の中に十代後半の少年と女の子が各1名存在した。


 まるでゲームや小説の召喚の儀式のようだ―と現実逃避したがる思考が解釈した。


「え……」

「な、なんだここ。これ……、なあ、アンタ、いやえっと、お、おねえさんは何か知って……マスカ?」


 呆然と立ち尽くす女の子と、どうにか現状を判断しようと周囲を見渡し、私と目があった少年が話しかけてきた。なぜ言い直したのかはわからん。

 女の子はその声でやっと一人ではない事に気づいたらしい。縋るような眼を何故か私に向けてきた。あら可愛い。

 いや間違えた。うん、落ち着こう。


「えーと私も分からないんだけど。仕事から帰ったらいきなり光に包まれて現状です」

「わ、わたし……、図書室にいたはずで……、あっでも光に包まれたのは同じ……かもです」

「俺は部活終わって帰ってる途中だった……はず。光に包まれたのは……あった、な」

「つまり私達三人とも同じきっかけで此処にあると言う事ね」


 自分一人でないからか、割と冷静に話し合いが始まった。

 でも、余り時間はかけられそうにないかな。なんだか光の壁が消えるまでがタイムリミットな気がする。


「ところで君たち。この足元の模様と言うか文字と言うか、魔法陣みたいなの『意味』わかる?」

「え……えっと何でしょう。……文字、なのかな?」


 女の子の言葉に、少年はしばし足元に広がる模様を見つめてから首を傾げた。


「文字だとしても……読めないな」


 そうか、この二人読めないのか。


「……ええっとね、私、これ読めるみたいなんだけど。なんでかは分かんないし、初めて見る文字、のはず……なんだけどなぁ……」

「え」

「は」


 私を見る二人のぽかんとした顔に苦笑を向ける。うん、とりあえず確認確認。


「えっと、真ん中に『相応以上の力を持つものを召喚』、うーん、周囲は『力の強化』『言語の知識付与』か。そして……『隷属化』……」


 読み上げる自分の声が固くなるのを自覚した。

 現時点では思考も(範囲は限られても)行動も自分の意思が通じている。もし、もしも、この光の壁が消えれば効果が固定されると言う事ならば、『隷属化』なんて物騒なこと極まりない。

 気の所為ならいいけれど、来た当初より光の壁の発光が弱まっている気がする。


「……二人とも。この光の壁が消えたら、もしかしたら呼び出した人たちがいるかもしれないけど、信用はしない方がいい。『隷属化』は配下とか部下、いやもうぶっちゃけ奴隷の様にする事。つまり、本人の意思を無視して言う事を聞かせられるって意味だと思う」


 それから手短に彼らに推測できる状況を説明した。

 恐らく、『力を持つ者』が必要であった『何者』かの意思により呼び出された。『何者』かは、その『力』を使って何かをなし得たいと思われる。そして、こちらの事情や意思は考慮されない可能性が高い。


「まあ会ったばかりの私を信用出来ないのも仕方ないと思うし、私も実は混乱してるのよ。けど自分の意思や事情を無視されて、向うのいいようにされるのは嫌だし。それに……私より(遥かに)年下の君たちが同じようにされるのも気分は良くないし」


 やはり気の所為ではなさそうだ。先ほどより、僅かに薄くなってる光の壁を睨み付けながら口を開く。少年と女の子は私の言葉を聞いて、真面目な顔で何かを考えているようだ。

 正直、私が彼らの立場なら、こんな状況で初対面の人間の言う事を信用するだろうか。


「……あのさ、前にそんな感じのゲームをやったことがあって、ダチと話したんだけどさ。実際そんな風に呼ばれても、自分の国でもないどころか地球でもない訳じゃん?大事な人や物が一つもない世界を救う為に、下手すると死ぬかもしれない冒険って行けんのかな、って話になって。まあ……戦争の経験もない俺らじゃ無理だよなって。その時は笑い話だったけど、現実になるかもって事だったら……」


 少年の静かな言葉に、女の子もこくこくと頷く。


「わたしも……そんな本を読んだ事があります……。世界中を回って汚れた地を清めるとかの……。でも、見知らぬ世界の為に、初めて会う人と、いつ終わるのか分からない旅に出るなんて。……現実ではありえないかな、とその時は思って、いました」


 あまり顔色の良くない二人の言葉を聞いて、深い溜め息を吐く。


「年長者の社会人として何か出来ればいいんだけど。ごめんね。私もどうなるのか、どうするのが最善なのかが分からないの」

「おねえさんの所為じゃないじゃん」

「そうですよ……!同じ立場なんですから!」

「……ありがとう」


 なんていい子たち……!と感動しつつ、とりあえず足元の厄介な文字を睨み付ける。

 せめてこの『隷属化』がどうにかならないかしら。消すのが無理なら言葉を変えるとか、例えば……そう、『隷属化等の精神支配を受けない』になったりしないかなー、なんて思いながら該当の部分を足先でつついてみた。


「したよ……」

「な、なんか模様?あ、文字?がぐにゃってなったんだけど!?」


 少年の叫びをよそに、その文字を見つめる。何度見ても『隷属化等の精神支配を受けない』の記載である。


「えええええ」

「ちょ、おおおねえさん!?」


 おお変わる変わる。ちょっと楽しくなってきた。


「この文字!変えられるみたい!」

「え!?なに!?」

「お姉さん!説明して下さい!」


 お叱りを受けて我に返り、二人に説明をする。とりあえず『隷属化等の精神支配を受けない』に変更出来たので、他のも試してみた事。

 とりあえず『力の強化』『言語の知識付与』はそのままにして置いた。メインである『相応以上の力を持つものを召喚』を、その文字に加え『但し、召喚されたものの意思により自由に行き来できる』と付け足し出来た事を告げると、二人の顔に笑みが浮かんだ。


「えっと……じゃあ、もし異世界だとかのありえない超展開でも、断って帰れるかもしんないってこと!?」

「すごいですお姉さん!」

「いやいや。これが上手くいったのかは分かんないから、安心するのはちょっと待って。……文字の変更は出来たけど、とりあえず光が消えた所に人がいたら、向うの出方を見る様にしましょう」

「!……はい。そうですね。命令されるか、事情を説明されるかでも違いますし」

「そうだな……。あ!おねえさん!これって文字の追加って出来そう?」


 神妙な顔をして頷きあっていたが、突然少年が「ひらめいた!」って顔で言ってきた。


「なんか精神的には守られるかもしれないけど、例えば武器で脅されたり、クスリを使われたりしたらヤバいじゃん!だからえーと結界張れるとかそういう能力付けるとかってできない?」

「!!!」

「!!!」

「……すごいよ少年!そうだね!ちょっと試してみる!」

「少年って。いや褒めてもらったのはいいんだけど」

「あれ、そう言えばわたしたち自己紹介もしていませんね……」


 その瞬間、三人の間に沈黙が落ちた。


「そうだったね。自己紹介……。社会人なのに私ったら……」

「あぁっ!でも本名を名乗らない方がいいかもしれませんし!ほら、よく物語で名前を知られたら支配されるとかっていうのもあるし」

「「なにそれこわい」」


 女の子のセリフにぎょっとする少年と私だったが、一理あると言う事であだ名的な仮名で呼び合う事となった。それと別々に引き離されるのも怖いので、3人兄妹で通す事に決定。長女・長男・末っ子次女の順番なのは言うまでもない。

 名前はもういっそ開き直って、異世界召喚物ならこれだという仮名を付ける事にすると、驚くべきスピードで決定した。

 少年が恐らく勇者だとして「ユウジ」、女の子が聖女だとして「セイラ」、そして私は


「おねえさんは魔女だと思う!魔女……いや大魔女……。ま、マジコ?とかど―何セイラ……って、ぃいってぇえ!!」

「もうユウジ君ったら。えぇっと……さっきの文字の変更とかを見ると魔法とかに長けているのはあるかもしれませんし、魔法のマからマコさんとかどうでしょう?」


 ワタシは何も見ていない。

 何か口走っていた少年ユウジがセイラに足を踏まれた後に、その踏んだ足を台代わりに背伸びしたセイラからアイアンクローを食らってしゃがみ込んだのなんて見ていない。

 そして私は、晴れやかな笑みを浮かべたセイラの提案として「マコ」になった。この年齢で魔女……あぁこの年齢だからか……いやもう何も言うまい。


「よし!じゃあ次は魔法陣の追加だな!」

「そうだね!」


 いつの間にか(すっかりダメージから復帰した)ユウジとセイラは、兄妹のように息の合った様子で相談しているし。うん、まあいいけど。


 よーし、おねえさんがんばっちゃうぞー。

 


「こんなとこかな」

「すっげえ!さすが大魔女!」

「マコさん素敵!」


 ユウジのセリフは気にするまい。

 追加出来たのは『万能結界付与』『精神干渉系薬物無効付与』である。物理・魔法双方から身を守れる事と、薬による危害を受けないようにすると言う事だ。もう恐れるものは何もないって気分。今時のゲームと本からの知識って凄いな。

 勿論、不安感は常にあるのだけど、三人で力を合わせればきっと大丈夫だと信じよう。



 そして、光の壁が消えていくのを、三人で並んで見つめていた。



*****

はんめいしたこと


 まあ結論から言うと、本当に異世界召喚物でした。

 なんか偉そうな王様や慇懃無礼な大臣達から話を聞くと、本当にユウジは勇者様で、セイラは聖女様。私は大魔女ではなく賢者としての召喚だったらしい。「あーマコじゃなくてケンコだったかー」とかいう呟きは聞こえない。ユウジめ……。


 魔王を倒せと言われたので理由を問うと、何故か驚いた顔になり(それこそ何故だ)、こんなに困っているのを助けないとは何事か、と責められ武器を向けられた。

 そこは『万能結界』により無害化し、念の為相手の考え方を確認したうえで全否定。

 交渉は決裂したと見做して帰還しようとした。しかしセイラの「また別の人が召喚されたらどうなるのかな」との言葉により進路変更。

 ちょっと怯え気味の相手方に、交渉の余地ありの旨と、その間の滞在についてどうするかを持ち掛けた。

 滞在時は不自由のないようにするから数日時間をくれと言われたので、その間に元の世界と行き来を試してみた。戻ってみても時間の経過がないのを確認し、再び異世界へ。


 敷地内なのは仕方ないとしても、出来るだけ接触し難い状態でいたかったので、王城内では落ち着かないと説得し、普段使っていないらしい小さな小屋(平屋建て・キッチンとバストイレ付)に滞在させてもらうことにした。

 ついでに、料理なんかも自分でしたいとし、しばらくは材料と道具の提供を受ける事に。

 希望を伝えた当初はかなり渋られたが、この国と私たちの国とでは味付けが違ったり、食材・調理的に日常的なタブーに差異がある可能性を伝えてどうにか了承を得た。


 滞在が決まってすぐの頃は、食材に薬が混ざっていたり、そちらの効果が得られないと理解したらしい後は、ハニートラップ的なものを仕掛けて来られたりもした。

 一応その可能性がある旨はユウジとセイラに伝えてもいたのだが、心配無用だったらしい。

 実はこのパーティメンバーの人員的に一番向かない懐柔方法だった為、あちらの望む結果は得られなかった。


 まず長男ユウジ

 彼は姉一人、妹二人(双子)が家族におり、更にはどうも女系の一族らしい。近隣在住の親戚が一堂に会する席も多く、しかも集まれば男2:女8と言う比率になり、ある意味「魔窟」と化するそうだ。「姉含む年上の姉ちゃんズから『女に幻想を抱くな』って言われてんだー。つうか普段の姉ちゃんズを見てたら幻想なんて抱けねぇっつの。はは、はぁ……」と肩を落としていたのは記憶に新しい。……ツヨクイキロ。


 それから末っ子次女セイラ

 見た目や話し方は非常におっとり甘々で可愛い彼女だが、しっかり者の家族に『甘い言葉には裏がある』と躾けられたらしく、実は結構冷静に相手を観察している。「最初の人への反応が悪かったせいか、タイプの違う騎士の人が代わる代わる来たんですよー。わたしでなくても怪しく思います」とはハニトラ発生して間もない頃の彼女のセリフだ。

 しかも、実はご両親の意向により、幼少の頃より護身術を習っているらしい。……ああ、たまに実力行使なのはそのせいゲフンゲフン。


 そして長女(マコ@私)

 兄弟はいないが、社会に出て(ピー)年の社会人である。今更ハニトラなんぞに引っかかる訳もない。……ふっ、オヒトリ様歴ウン年の社会人舐めんなって事よ。


 『所詮は小僧(小娘)』と侮ったユウジとセイラには相手にされず、『ならばこのオバサン』とばかりにこっちに来ても右から左。

 最後の方は妙に気合が入っていたり、半泣きになったりした騎士その他が、異性同性問わず来たが右から左。とうとう諦めたらしく、最近は静かになった。良い事だ。



  とりあえず他の人達が来ない暇な時間を使って、自分たちの能力とやらを確認してみた。

 一応魔法能力は三人ともあったのだけど、それぞれ得意分野が違っていた。

 ユウジは剣技と攻撃魔法が、セイラは防御魔法と治癒・浄化が、私は賢者の知識に基づく転移等の便利能力が特に強い。ちなみに空間に物を保管するのは三人とも出来た。

 

「物理兼魔法アタッカー、防御兼ヒーラーがいて、あとマコさんの転移なんかの賢者ワザがあるし、タンクは万能結界があるから……三人でパーティ完了じゃね?索敵や罠なんかの探知系と、あと鑑定は三人とも出来るし。あ、冒険するなら食料調達がいるか。動物捌くのとか誰か出来る?」

「わたしはスーパーで売ってる様なお肉とか触るのは平気だけど、捌くのはした事ない……」

「私も自炊は出来てもお肉はセイラと同じく。魚は簡単にならいけるけど、動物は捌いたことないねぇ。下手に素人が手を出すと悲惨な事になるらしいし」

「俺もムリー。うーん剥ぎ取りのナイフが欲しい」

「?なあにそれ?」

「あれ、セイラは知らない?えっと某ゲームで倒した相手に突き刺すと、肉とかコインとか魔石とか薬草とかドロップしてくれる便利なナイフ」

「あぁウチの会社の同僚がハマってたゲームのヤツね。……賢者知識にないかなぁ。ちょっと検索してみるかな」

「キャーオネエサマステキー!(裏声)……いててててて!セイラさん痛い痛い!!頭潰れるから!!!」

「もう!マコさんが真剣に検索してるんだからふざけないの!」

「スミマセンー。……うおーいってぇ……」


 ………………私は何も聞いていません。なんか小声で「やっぱ物理アタッカーは二人かも……」なんてセリフは聞こえていません。

 えー、結局便利ナイフは何かいろいろ魔法付与したら出来た。……出来てしまった。ちょっと自分がコワイ。



 遊んでばかりいた訳ではないのですよ。


 先立つものを手に入れる為に、路銀を稼ぐ方法を考えた。

 出来るだけこの国に援助を求めるのは差し控えたいと言うのは、全員の意見だったからこれは重要。


 しかし下手な知識を伝えるのは、セイラによると技術革命が起こりうる可能性もある、との事で一時凍結。

 結局ユウジの強い希望もあり、冒険者ギルドに入った。まあこれは周囲にも勧められたので問題なし。

 薬草採取なんかで多少の収入を得ると、この街(やはり王都だった)の相場を確認。

 ある程度慣れて少しずつ稼ぎ始めた辺りで、王城からの援助は住まいのみにしてもらった。いかに「毒物無効」を持っていても、怪しげな薬物入りの食材は進んでは食べたくない。(ちなみに、これまでの援助分は勝手に呼ばれた迷惑料と思っている為、返すつもりは全くない)


 それなりに収入が安定し、かつギルドとしての活動に慣れたところで、やはり正しい基礎知識を得ようとなり、転移魔法を駆使して、城内外や近隣国に行っていろいろ調べてみました。


 その結果分かった事。

 実は過去にもこの世界で魔王討伐はあったものの、召喚などはしていなかった。

 基本的に各国が協力して討伐隊を編成して対応しており、今もその予定で他国は動いている。

 中心となる国はその都度で違うらしいが、今回は最近新たな魔道具を作成して頭角を現していた小国。

 小国が中心となることが気に入らない「とある大国」が、今回私たちを召喚したこの国である。


 つまり

 小国が中心ー?気に入らなーい → こっちがその小国より優位性を示せばいい → でも兵や食糧(つまり国の財産)は出したくない → 異世界から召喚すれば損しない → ついでに隷属化すれば魔王討伐後もほかの国より優位に立てる!? → よっし召喚!!


 上記の結果が私たちの召喚だった、と……。

 バカじゃねーの。随分とゴーマンなゴイケンですことー。なんて遠い目をしてしまったのは記憶に新しい。


*****

そしてそのご


 私達を呼び出した召喚陣は木端微塵に粉砕した。えぇそりゃもうナノ粒子レベルで。召喚に関わる過程を含めた研究結果や資料も、もちろん抹消した。出来る事なら、誰かの精神に作用する魔法などは使いたくなかったが、召喚に関しては今後の事もある。二度と行われない事を願いつつ、それを発想から封印した。

 そして私達が来た痕跡も消し、この世界を去った。


*****

ごじつだん


 賢者知識で作った魔道具に、三人分の魔力を溜める。そしてようやく迎えた始まりの日。

 とか格好つけてみたが、まあただの旅行の出発日だ。但し、行先は「異世界」だけど。

 高校生だった長男次女は無事大学へ進み、そして長い夏休みをゲットした。そして長女へ「家族(仮)旅行」を提案してきたのだ。

 

「マコ姉の夏休みが10日かー。短くない?」

「うっさい弟。社会人なめんな。これでも会社の休みに有給足してんのよ」

「そうだよユウジくん!社会人って大変なんだから!うちのお父さんなんか毎年『オンシーズンは休めない』とか言って休みが取れるのなんか秋だよ!家族旅行なんて行きたいのに行けないって泣いてるんだからね!」


 セイラのお父さんの不憫さは置いといて。異世界転移はさっくり済んだ。

 ちなみに、発端となった「魔王騒動」は、魔道具を開発した小国の活躍により、無事終止符を打ったらしい。それでも魔物が居なくならないのは、この世界のデフォルトだから仕方ないのだろう。


「……さて、この後はどうする?」

「別の国のダンジョン行ってみたい!」

「うわー久しぶりの景色。うーんとりあえずウォーミングアップは必要じゃない?」


 それもそうだとセイラの提案に乗り、初心者レベルの場所から世界を巡る。ユウジご希望のダンジョンへ行ったり、各地の名物を味わったり、人目が無い辺境の地へ行って魔法で遊んだり。


「あーあ、もう終わりかー」

「うん……。しょうがないよ。また来よう?ね、マコ姉さん」

「そうね……。また来よう」


 休みなんて直ぐに終わった。名残惜しい気持ちを抑え帰途。到着地点は私の部屋だ。


 そして、出発時間と同じ時間に戻った事に気付き、呆然としたのは3人同時だった。

 こ、こんな所は似なくてよかったのにー!

誤字脱字があれば、多少書き直しがあるかもしれません。御読み頂き、ありがとうございました。

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