04.ゴブリンとその中に潜む影
ゴブリン程度敵ではない。
僕はゆっくりと歩いていく。警備をしているゴブリンもこちらに気づき、右手に持った剣を構える。
ゴブリンはそのまま剣を振り下ろしたので、僕はそれを見事に素手で掴む。
「ンナキキナム…」
どうやら剣を素手でキャッチした事を疑問に持ったらしい。
手の周りに魔力を張り巡らせ、鋼並みの硬度に強化すれば鉄の剣ごとき手で受けても怪我はしない。
僕は掴んだ剣をくるりと捻ると、ゴブリンの肩から先がそのまま回転して自然に曲がらない方向に関節が曲がる。
剣を手放し、剣を持っていた右手とは逆の左手でむやみやたらと殴りつけてくる。
ゴブリンの恐ろしいところは知能の高さ。
だが、冷静さのかけたゴブリンはもはや他の獣と大して変わらない。いや、それ以下だ。
「キィエエエエエエエ」
片腕を潰された怒りからか大声で叫んだ、でもこれが仲間に伝わる事はない。
防音結界を事前に展開しておいた。
「眠れ」
僕がそう呟くと、ゴブリンは突然力が抜けて倒れた。
初めからこうしとけばよかった。
戦闘の最中からこのゴブリンに少し違和感があった。耳元に色の付いたラベルがついているのだ。
武装をするゴブリンはいても、耳に穴を開けてラベルを付けるゴブリンなんて聞いたことがない。
これは何者かがゴブリンを区別する為に付けたものなのではないだろうか。
そして、ゴブリンがゴブリンを区別する為にこのようなラベルを用いるだろうか。
ゴブリン社会は、通常十体から二十体前後の群れで行動する。
それは家族のような共同体であり、そこに階級や奴隷といったものはないとされる。
つまりだ、家族にこのようなラベルを付けて差別化する必要があるだろうか。
あくまで憶測だが、このゴブリン村には人間がいる。
とりあえず、このゴブリンについては後でアンデットにするための糧となってもらおう。
僕は村の中に入る前に魔法を使う事にした。
「サーチ」
村の中にいる生命体をサーチする魔法だ。安直すぎる名前だが、妙に気取ったのよりも分かりやすくていいじゃないかって僕は思う。
ふむふむ。この村にはゴブリンが十二体に人間が四人いる。
人間のうち三人は村で最も大きな建物の中にいて、もう一人はゴブリン三体と戦闘中だ。
まじかよ、僕の計画の妨げになるような事が起きてる。
百歩譲ってゴブリン達を裏で操っているのが人間である事は良いとしよう。
しかしだ、人間がゴブリンと戦っている。これはまずい。
ゴブリン退治に来た冒険者とかだったらこの村を活動拠点にする計画が丸潰れだ。
はあ、新しい引越し先をさがすか?いやそれも面倒だ。
とりあえず、ゴブリンと戦闘中の人間に接触してみるか。
ゴブリン三体と剣を持った人間が戦っている様子が見えた。
ゴブリン達はしっかりとした鎧に、様々な道具を駆使して戦っており、戦っている人間も苦戦していた。
嫌な予感が的中してしまったよ…冒険者だ。
ゴブリンと戦闘中の人間は茶髪の長髪をしてフード付きのローブを身に付け、片手に短剣、片手に杖を持っていた。
そして何より首から鉄のプレートをぶら下げている。
「はあ」
僕は無詠唱の闇魔法でゴブリン達の動きを止めた。
「大丈夫ですか?」
彼女は驚いた様子だった。
「は、はい」