03.朧げな空の旅と圧倒的強者の足音
廃墟と化した城はもはやミクロな何かで、黒い雲の上からは霧のように消えかけている。
魂の抜けたゼンマイ仕掛けの死体は僕に話しかける。
「コノ 船 ハ 何処ヘ 向カンデスカ?」
曲がった顔は声に遅れて口を開ける。
腐りかけの死体に命を吹きかけたのは僕だ。それは勿論カスタマイズも可能な人形。
雑談機能も付けたんだっけなあ。めんどくさい…
「魔王大陸を越えて海を越えてテルセイア大陸へと向かう。おおよそ15時間のフライトだ、休んどけ」
アンデットに疲労は無い。しかし、僕の埋め込んだおつむはそこそこ良好。
「ハイ ソウスル」
片言に返事を返す。空気を読んで。
こいつは僕より頭がいいかもしれない。
神が人間を造ったとして、神が人間より頭が良いなんて道理はない。
まあ何を持って頭が良いとするかだが。
学歴なら神様よりもいいかもしれない。
ところがどっこい神様はマチャチューセッツ大学卒の可能性もある。
マサチューセッチュ大学がどれほどの大学か分からないが僕よりも遥かに良い学歴だろう。
まあマサチューチュッチュ大学は多分凄い大学だろう。
そしたら僕は言う、大切なのは学歴じゃない。何をしたかだ。
東大卒ニートと中卒フリーターのどちらが社会に貢献しているか。それは税金を多少は納めている後者だろう。資産家でもない限り…
僕は神様にこう言ってやる。
「僕は異世界で魔王をしている。屍を自分好みにカスタマイズして世界征服を企てている。(世界征服するとは言ってない)
僕より強い奴はいない。
もし僕の手下になるなら世界の半分をくれてやる。どうだ?」
僕は稀に意味不明な事を口走る。
座右の銘は口は災いの元。
生きているのならば神様だって殺してみせる。
「アノ スミマセン オキロ」
「ん…?すまないフランケン。もう少し寝_____」
「モウ到着シマシタ」
僕は窓から辺りを見渡す。
予め着陸予定地は設定しておいた。あとは自動で操縦してくれる。
「はあ…この力を試す時が来るとはな…」
飛行船を停めた地点は森に覆われ、人が訪れる事もない。
何故こんな場所に停止させたのか、訳はある。
人目が少なく、近くにゴブリンに占拠された廃村があるのだ。
遠くから世界中をリアルタイムで監視できる水晶(但し、屋内及び何かしらの魔法で妨害される場合は不可能)で事前に予習復習共に完璧。
後は占拠するだけだ。村人の人達の恨みを俺が果たしてやるからな。面識はないが。
「合図があるまでお前らは船内にて待機しろ。敵襲があった場合すぐに知らせろ」
「了解シタ」
フランケンに飛行船はすべて任せ。僕は村へと向かおう。兵は神速を貴ぶらしいし…
普段スロースターターの僕は珍しくすぐさま村に行く。心臓が高まっていた。
遠足前夜のようなそんな感じ。まあぐっすりだったけど。
軽口はこれくらいにして、いよいよ村が見えてきた。
「中規模くらいの村か…所詮は村だしな」
水晶は俯瞰視点でしか見れないのが玉に瑕。実際自分の目で見るのが一番であると思う。
見張りをしているゴブリンが見えた。
ゴブリンには知能がある、人間程ではないが声帯が進化しており、声によって合図を出し合う。
そして小さな目に大きく突き出た腹。人間の子供ほどの身長に筋肉質な体。緑色の肌。
その容貌は醜く悪魔の下部とも称される。
一般人の二、三倍の筋力らしい。魔物の中では貧弱だが、発達した知能はこの個体に生存競争での勝利を与えた。
そして村人にとって身近な恐怖であり、それは古来より人間の隣人であった。
そう。ここに住む人々もゴブリンに負けたのだ。
見張りのゴブリンは鎧に剣を持ち、身を繕っている。腹部以外は。
ゴブリンの腹にはたっぷり豚のごとく脂肪がついている。
あの鎧は元は人間向けに作られたものであろう。
殺され奪われたものだ。
強者が奪い、弱者が奪われる。
この世界では至極当然の世の理。
圧倒的強者の足音は徐々に徐々に、ゴブリンの住まう村へと近づいていった。