01.魔王、引越しする。
僕は善良なる市民だった。
一般人の感覚からしたら大き過ぎる力を持ってしまった。世界最強?宇宙最強?
そんなものじゃない、僕が求めていたのは穏やかな日々。大きな喜びは要らないけれどその代わり酷い悲しみもいらない。
植物の様に静かで平穏な日々が欲しかったのに神様はいじわるだ。
神歴5016年の今日、僕はそろそろこの家から旅立たなければならなかった。
玉座に座る僕の右手には水色の水晶。
「写せ」
空中に映像が浮かび上がる。
そこには強いモンスターと戦っている強靭な四人がいた。
「あーあー、勇者パーティーしなねえかな」
僕は魔王という立場なのだが、従えるモンスターは一匹もいない。
僕がここに来てまだまだ魔王になったばかりのことだ。
未熟だったんだ。
あの時僕は体内から溢れ出る気配を抑えられなかった。まあ抑え方をしらなかった。
そしたらモンスター達は一目散に逃げ出したというわけだ。
逃げ出したモンスター達は住処を求め、世界各地に広がり、今でも未曾有の危機を引き起こしている。
そこでとある大きな王国の王様は思いついた。
「この未曾有の危機の原因は魔王復活に違いない。大昔魔王が存在したとされる魔王城に勇者パーティーを派遣しよう。」
別に復活したわけでもなく、無理矢理押し付けられたのだが…
まあ魔王のせいであるのは概ね間違いではない。
僕は一度ここ魔王城から飛び出せばモンスターが各地から戻って来るのではないかと思い、ここを離れてみたが二、三週間しても戻ることがなかった。
魔王城付近にいるモンスターは僕の気配を感じ取れなかった鈍感な雑魚モンスター。それこそ力を得る前の僕でも楽勝で倒せるレベルの奴だ。
「勇者が来るのも時間の問題か…」
ぶっちゃけ、魔王城ぼろいしさ。シャワーないし。ここにある本は読み尽くしたし。食料もそろそろ尽きる。
勇者を倒してもいいけど、悪人でもない人を殺すのはちょっと気がひけるので、戦いたくない。
「今では気配を抑える事が出来る様になったしな…」
バキバキィ_____
玉座の脚が折れた。
そう言えばこの椅子もぼろぼろだったけな。
もういいか。
「引越ししよう」
そして、僕は魔王城を捨てることにした。