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鬼の末裔の少女〈断罪者編〉  作者: 美浜忠吉
1章 断罪者
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第六夜 戦いの後は休息を!

 わたしとヨミちゃんが移動した先は、おばあちゃんの家でした。


「ビックリしたー……」

「あはは、まあ最初は驚くよねー。あたしもビビったし」

「ホントに……じゃあ、おばあちゃんと話すね」

「おうー」


 おばあちゃんは、話し掛けるまで椅子に座ってゆったりしたままです。


「おばあちゃん、ミントさんを連れてきましたよ?」

「おやおや、本当にどうもねえ。助かりますわあ」

「もう、おばあちゃんったら心配性ね。イノリに迷惑かかっちゃったじゃないの」


 ですが一言でも声掛けすると、この様に話が進みます。


「ま、まあまあミントさん。おばあちゃんも心配だったんですよ」

「うふふ、それは分かっているわイノリ。だから怒ってないし、イノリにも感謝しているの。本当にありがとうね」

「い、いえっ! そんなに感謝される事ではっ」


 相変わらず固くてすみません。


 二人との会話を終えると、ESDからテッテレーと間抜けな音が鳴りました。


 画面には、『あなたは【老婆の孫娘を探せ】クエストをクリアしました。報償をお受け取りください』と表示されていたのです。


 画面をタップすると次に、おばあちゃんのクッキーが五個と1000Gが表示されました。


「わあーっ、なんか貰えた」

「うんうん。因みにクッキーは食べるだけで疲労度を30下げるアイテムなんだけど、レアっぽいからあたしは使うの控えてる」

「へえ、そうなんだ」


 気にせず、わたしは一枚呼び出し食べました。


「ふまー、サクサクおいひいよー!」

「って、食べるんだ……」


 美味しい物をすぐ頂くのは当たり前の事ですよ。


「うまそうに食べてるね……あたしも一個食べよー」

「そうした方がいいよ〜」


 ヨミちゃんもクッキーを一つ呼び出し、美味しそうに頂いてます。


「うん、おいしいねー」

「ねっ、疲労も吹き飛びますし!」


 もう一つ食べたいけど、後で味わいたいので我慢しなくては。


「んふふ、とにかくカネも入ったしさ。次は美味しいゴハン食べてみない?」


 ヨミちゃんはパクパクとお箸で食べる仕草をします。


「うん、ぜったい食べたいっ」

「あはは、あとこの世界の料理を食べると疲労度も下がるからマジオススメー」

「ああ、早く食べてみたいなぁ……」

「締まらない顔してんね、いのりんったら」


 危なくヨダレを垂らすところでした。


「あう……恥ずかしい」

「それじゃーあたしに着いてきて」

「うんっ、お願いするね」


 ヨミちゃんに連れられてレストラン・シナジーへ向かい、実時間三分程で辿り着いたのです。


 店内に入ったわたしは、ヨミちゃんに勧められて五百グラムのシンパシービーフステーキを頼みました。

 ヨミちゃんも同じくですよ。


「うわあ、この肉厚すぎるステーキ……素敵すぎる!」


 まもなく頼んだステーキが目の前にやって来ましたが、あまりの大きさに心が踊って止まりません。


「おっと親父ギャグかい、いのりん君よー?」

「あっ違っ、別にそこ狙ったわけじゃないの!」

「うんうん。もちろん知ってるからムキにならないでってー」

「むう……」


 本当にイジワルな人です。


「あはは、まったくいのりんはマジメで可愛いなー」

「わたし……そこまでマジメなのかな?」

「うん、めっちゃマジメ」

「あう……なんだか嬉しくない」


 別にわたしは、真面目なんかじゃありません。


「どうして?」

「だって、マジメってことは面白くない人ってことでしょ」

「あー、それはちょいと違うよ?」

「そうなの?」

「うん。むしろあたし的にはマジメな子の方がからかい甲斐があって面白いしー」


 あまりにも酷い事言うので、少し睨んでしまいました。


「なんだか、それは褒められてない気がする」

「あははー。まーそんな事よりこの素敵なステーキを一口頬張ってみなよー」

「引っ張らないでっ!」


 一切れ大きく切って、口に頬張りましたけど。


「んんっ!? このお口の中いっぱいに広がる濃厚な林檎の風味と優しい油の香りーーホントにホントに美味しーい!」


 自然と笑いたくなる美味しさです、ホントに。


「あっはっはーっ、マジでウマいでしょー」

「うん、これならいくらでも入りそうだよっ」


 わたしは二切れ三切れと、どんどん頬張ります。


「うむ、すごい食べっぷりだねーいのりん」


 ヨミちゃんがいやらしく笑ってますが、気にしません。


「だって、すっごく美味しいんだもん!」

「そっかー、そりゃおっぱいもそんだけ育つよねー」

「えっ、何か言った?」


 今、すごく失礼な言葉が聞こえましたが気のせいですよね。


「ごめん、なんでもないから気にせず食べなって」

「うんっ」


 ほら、やっぱり。気にせず、がっつり食べ続けましょう!


「さて、あたしも食べようかなー……」


 ヨミさんも食べようとしてますし、とにかくわたしも無我夢中で食べ続けました。


「——ごめんねいのりん、うるさくしちゃって……?」

「もぐもぐ——美味しいよお! ……あれ、ヨミちゃんステーキ食べてないの?」


 食べてませんでしたっけ?


「いや、今から食べるけどさ。さっきの話聞いてないの?」

「えっ、なんのこと?」

「あー……あーっはっはっは!」

「ひゃっ! いきなりそんな大声で笑ってどうしたの?」


 思わず後ずさりしそうになりました。


「ごめん、ホントなんでもないからっ! というかいのりんったらステーキに夢中になっちゃってマジ可愛すぎだよーっ」

「うう、そんなことないのに……」


 なんだか、わたしがバカみたいじゃないですか。

 でも次の一切れを頬張ったら、全てを許せましたけどね!



 楽しい事があれば、辛い事が待っているものです。


「イノリ、今何時だと思ってるの?」

「あの、その……」


 家に帰り着いたら早々、ママに叱られるのですから。


「もう19時よ、わかってるの!? あんたはまだ中学生になったばかり。それでこんな夜遅くに帰ってくるのは違うでしょうが!」

「はい……その通りです」


 知ってます。そんな事言われずとも。


「もっと大きな声でシャキッと返事なさい!」

「はっ、はい!」


 でもわたしは気が弱いので、そんな大層なこと口に出来ません。


「まったく……まさか昨日も私が病院で緊急の患者さんを看てる時に遅くまで遊んでたんじゃないでしょうね?」

「い、いえ……」


 ママが少しだけ、目を逸らしました。


「そうね……昨日の事は忘れたわ」

「あ、ありがとう……ママ」


 よく分からないけど、許してくれるそうです。


「別にお礼はいいわ……とにかく外は危険でいっぱいなの。だから余計な心配かけさせないでちょうだい!」

「はい、気を付けます」


 危険なのは体で実感しております。


「じゃあゴハンもできてるから家に入りなさい。こんなところで風邪でも引かれた堪ったものではないし」

「はい……」


 わたしは我が家へあがりました。


 それから体の手入れを済ませて居間へ移動しますと、ママの得意な料理がたくさん並んだテーブル前の椅子に、大好きなパパが申し訳なさそうに座っていたのです。


「いやあ、すまんなイノリ……激怒するママを止められなかったよ」

「ううん、パパは悪くないから」


 悪いのは遅く帰って来たわたしですと思いながら、パパの対面する椅子に座りました。


「だけどなイノリ、ママだって……すまん、なんでもない」

「ん? 変なパパ」


 わたしとパパは、ママから先に食べて良いと言われていたので、手を合わせてからモリモリと美味しく頂きました。

 あの世界で食べた料理は、やっぱりこちらの世界には反映されないのですね。


「はあ……ママの作る料理はこんな美味しいのに、どうしてあんなに厳しいのかな」

「あーっと、それはだな……」


 台所の片付けを終えたママが、わたしの隣に椅子へ座りました。


「そんなの決まってるでしょう。食事は美味しく作って当然だからよ」


 ママは怒っている筈なのに、声にハリがないから逆に怖く感じます。


「マ、ママ……」

「いただきます。イノリ、食事は静かに食べるものよ?」

「は、はい」


 いつもでしたら、もっとこうガーッと怒られる筈なのに、今日は全くそんなことありません。


 とは言えわたしもパパも行儀良く食べますが、食べる速度は相変わらず早く、テーブルいっぱい並んでいた料理も速攻で片付いてしまいました。


「ご馳走様」

「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまです……ママ、美味しかったです」


 それと、いつもより大人しくて怖いです。


「ありがとう。今日は私が片付けるからイノリはお風呂に入りなさい」


 まさかそこまで優しくされるなんてと思いつつ「はい」と返事をして、お風呂場前の洗濯室へと移動しました。


「あっ、ESDは防水性なのかな……」


 こんな精密機器が水に強い訳がありません。


 あまり手放したくありませんが、とりあえず服で覆い隠しておきましょう。


「ふあぁ……やっぱりお風呂は気持ちいいなあ」


 体を隅々洗ってお風呂に入りますと、全部の疲れが取れますよね。


「それにしても今日のママは優しかったな。いつもならゴハンの時でもガミガミと叱られるのに……」


 本当にちょっと粗相しただけでも鋭く指摘するんです。

 姑が旦那さまの奥さんを叱る様な感じで。


 だけど、今日は一切ありませんでした。


「でも、いいや……。きっと今日はたまたま機嫌が良かっただけなんだ」


 しばらくわたしは湯船に浸かり続け、今日ありました色〜んな疲れを癒し続けましたとも。



 お風呂から上がって、長い髪の水分を丹念にバスタオルで拭き取りながら部屋に戻ったわたしは、ヨミちゃんにお礼の電話を掛けました。


「もしもし、イノリですけど」

『ほいほい、ヨミだよー』


 何かシャカシャカ音が聞こえますが気にしません。


「あの、今日はいっぱいありがとうございましたっ」


 思わず頭を縦に振ってしまいます。


『あはは、別にいいってばー。それより気楽に話そーよー』

「あっ、ごめん」


 わたしったら、いつもこうだな。


『ううん、大体LOKの過ごし方は分かったっしょ?』

「うん、戦い方もちょっと理解できた」

『そーだね、じゃあ明日はあたしと一緒にリアルで罪人を処刑しようか』

「あっ……うん」


 やっぱり、本物のヒトを斬らないと駄目なのですね。


『うーん、その感じだとまだダメそう?』

「ごめん……なさい。頭では分かってるの……ボンタンの仇だって」


 でも、罪人達全部が仇ではない事も理解しております。


『いやーぶっちゃけあたしもさ。いのりんと同じだったんだよね』

「えっ?」


 意味がよく分かりません。


『えっとね……あたしが初めて罪人を処刑したのが一週間前かな。そのとき物凄い恐怖と罪悪感に追われてた。あたしもいつかこの罪人みたいに殺されるんじゃないかって』

「やっぱり、ヨミちゃんでもそう思うんだ……」


 それなら理解出来ます。わたしも同じ気持ちなのですから。


『うん、まあそれから二日ぐらいで慣れちゃったけど』

「そうなんだね」


 たった二日で慣れるなんて、ヨミちゃんは強い精神力の持ち主です。


『うん、とにかくあたしが言えるのは、いのりんは一人じゃないってこと。ねっーーあたしがいるじゃんかー』

「うんっ」


 そのおかげで、何度か助けられましたとも。


『それにあたしもいのりんのおかげで、もうちょい人に頼ることを考え直したほうがいいって思ったし』

「そうなの?」

『そうだよ。罪人を裁く時って少人数だと危険だもん。とんでもなく凶悪な罪人だっているし』

「た、たしかにそうだよね。この間の男の人より……怖い人もいるかもなんだね」


 あんなクレイジーより更にクレイジーな方が現れたら、わたしはどうなっちゃうのでしょうか。


 きっと、発禁もの間違いなしですねっ。


『そういう事。でも一般人からしたら、どいつも危険なヤツラだってば』

「その通りだね」

『うんーーっとごめん。もうちょいで晩飯完成するからもう切るー』


 なるほど、随分遅い時間ですが夕御飯を作っていたんですね。


「あっ、うん。それじゃあまた明日」

『また明日ねーっ』


 電話を終えると、ずっと感心しておりました。


「ヨミちゃんは自分で料理してるんだ……すごいなあ」


 だって、ヨミちゃんが格好良すぎるんですもの。


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