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鬼の末裔の少女〈断罪者編〉  作者: 美浜忠吉
1章 断罪者
3/18

第二夜 初めてのお友達

「ただいまー」

「やあ、おかえりヨミ」


 わたしはヨミさんに連れられ、とあるマンションの一室の前に来ておりました。


 ドアをヨミさんが開けると、爽やかなお兄さんが出てきたのです。

 きっと、ヨミさんのお兄さんに違いありません。


「ちょっと遅かったな、心配したぞ?」

「あはは、ごめんね兄ちゃん」

「まあいいけどね。ヨミの後ろにいる子は友達?」


 お兄さんは、オドオドしてるわたしを見て不思議そうにしております。


「うん、そだよー。でも人見知りな子だから気にしないであげてよ」

「そっか——ごめんね」

「いえ……」

「それにしてもヨミが友達連れてくるなんて珍しいな」

「あ、あの、その……お邪魔します!」


 正直に言いますと、パパ以外の男性とこうして普通に話す事は閻魔さんを除いて初めてで、少し怖いのです。


「あはは、そんな固くならないで大丈夫だよ。別に君をとって食べたりなんかしないから」


 でも、お兄さんは怖い人では無さそうなので安心できます。


「まあホントに食おうとしたら、あたしが許さんけどね!」

「えへへ……」

「ヨミは手厳しいなあ。ウチには何もないけどゆっくりしてよ」

「はい……」

「じゃあ、さっさと部屋に戻りな。いのりんが落ち着けないでしょ?」


 ヨミさんがお兄さんを追っ払おうとしてましたので、少し申し訳なく思います。


「あはは、分かってるって。それじゃあね」


 それでもお兄さんは朗らかに笑ってましたので、やはり優しい人なのでしょう。


 なんであれお兄さんに、脇腹の血痕を見られなくて本当に安心しました。


「はあ……お兄さんに見られなくてよかったです」

「んふふ、とにかくこのままあたしの部屋について来なよ?」

「うん」


 わたしはヨミさんに着いて行き、彼女の部屋へ入った途端に気を緩め、柔らかい床へとへたり込んでしまいました。


「ふああ……疲れました」

「あっ。少し休む前にさ、ちょっと上着脱いでよ?」

「あ、うん。でも……あまり見ないで欲しいです」

「何言ってんの、あたし達女の子同士っしょ?」

「それはそう……だけど」


 例えそうだとしても、見られたくない物だってあるのです。


「とにかく脱ぎなってー」

「あっ!」


 それでもヨミさんは、わたしの上着を無理やり脱がせるのですから堪りません。


「おおー、服の上からでも感じてたけど、この大きさ……ちっと予想外」

「だ、だから見ないでください!」


 これだから嫌なんです。


「ほおほお、これはいいモノ見れた感じだわー」

「やだ……っ。そんな目で……見ないでよ!」


 なんだか悲しくて、涙が溢れてきます。


「ああメンゴメンゴ、ちっとからかい過ぎた。ホントごめん。反省してるからそんな泣かないでってば」

「ぐす……だっ、だってヨミさんが……ひゃっ!」


 ヨミさんは反省してくれたのでしょうか。

 わたしにバスタオルを被せてくれたのですから。


「ほい、しばらくそれで隠しててね」

「あ、ありがとう……ございます」

「んじゃ、あたしは代えの服取ってくるから、いのりんはゆっくり休んでてよ」

「うん……」


 ヨミさんが部屋を出て行きましたので、わたしはふと部屋を眺めてしまいました。


「ヨミさんの部屋、とても綺麗に片付いてるな」


 ヨミさんの部屋には、特にこれと言った物はありません。

 でも、国語や数学等の参考書や、ゲームの雑誌(?)が本棚にありますので、趣味と勉学が得意な事は、なんとなく分かります。


「あ……写真立て?」


 机に置いてある写真立てが一番気になり、思わず手に取ってしまいました。


「これ……ヨミさんがお兄さんにとても楽しそうに抱き付いてる写真だ。えへへ、なんだか可愛いな」


 ですが、この写真のヨミさんは無表情ではありません。

 この時のヨミさんは推定十歳なのでしょうが、とても楽しそうに微笑んでおりました。


「後ろの人はヨミさんのご両親なのかな?」


 わたしが色々考えてますと、ヨミさんが小さめな服を持って戻って来ました。


 このままでは部屋を漁っていると思われて、ヨミさんに怒られてしまいます。


「いのりーん、替えの洋服持って来たよー……おっ?」

「あ、えっと、これはその……」

「ああ、その写真が気になったんだ」


 でも、ヨミさんは怒らなかったのでホッとしました。


「うん、なんだかこの写真のヨミさんは、その……楽しそうに笑ってましたから」

「そだね、この時はクソ無邪気なお子ちゃまだったなー」

「今は……違うんですか?」

「いやあ、今はこの通りというかさ。イヤなもの見てからおかしくなったのかな?」

「イヤなもの?」


 やっぱりヨミさんにも、思い出したくない過去があるのでしょうか。


「そーだね。気が向いたらいつか話したげる」

「あ、うん……」

「それよりもさ、とりあえずこれ着なよ?」

「あっ、ありがとう」


 わたしは喜んでヨミさんから借りた可愛い柄の洋服を着ましたが、物理的に胸が苦しいのです。


「ちょっと苦しいです……」

「コラ、ワガママ言うなっつーの」

「は、はいっ、ごめんなさい!」


 わたしは精一杯に頭を下げて謝りました。


「いや、別に頭下げる程じゃないけどねー」

「あう……」

「じゃあさ、いのりんが帰る前に大切な事を教えたげる」

「断罪者の……こと?」

「そそ、いのりんに知っておいて欲しい事が山ほどあるんだ。なんせ命に関わるかもだからねー」

「命に……関わる?」


 やっぱり、先程の厳つい男の様な人を相手にしなければいけないと言う事なのでしょうか。


 怖くて体が震えてしまいます。


「そうだよー。本当はいのりんが帰ってからゆっくり話そうと思ったんだけど、いい機会だし今教えたげる!」

「わかりました。でもその前にお家に連絡しても……いいですか?」

「うん、いいよ。ESDだと普通の電話には繋がらないから、そこの電話を使ってよ」


 ヨミさんは机に置いてある子機を指差しました。


「あ、それでは借ります……」

「とぞー」


 わたしは借りた子機で、自宅に連絡を取りました。


『もしもし、鬼頭ですけど』


 良かった、優しいパパが出ましたよ。


「もしもし、パパ」

『おっ、その声はイノリかあ!』

「あ、うん。ちょっとお友達の所に用事があってね。帰るの遅れそうだから連絡しなくちゃと思って」

『おお、そっかそっか~!』


 パパは喜んで話を聞いてくれてます。


『んで、どのくらい掛かりそうだ? なんなら帰る前に電話くれたら迎え行くぞ!』

「ううん、大丈夫だから。えと、それだけなの。いつもありがとね……パパ」

『気にすんなって、イノリは大切な娘じゃないか!』

「あははっ……。それじゃあね」


 恥ずかしいけど、嬉しくて堪りません。

 そのまま電話を終えました。


「へえ、陽気そうなパパさんだねえ。というか声でかいね。こっちまで丸聞こえだよー」

「ご、ごめんなさい……うるさいパパで」


 さっきの話を聞かれていたと思うと、尚更恥ずかしくて堪りません。


「いやいいよ、あたしそういうの大好きだしー」

「う、うん……わたしもそう思います」

「ふふん、じゃー断罪者のシステムで一番大切なこと教えたげる」

「お願いします」


 ヨミさんは、短パンのポケットからESDを取り出しました。


「まずコレについてだけどさ。いのりんはどこでコレを拾ったの?」

「あの、わたしは——」


 わたしもESDを取り出し、まじまじと眺めてしまいます。


「先ほどの公園で拾いました」

「そっかあ。やっぱそんな感じなのね」

「ヨミさんはどこで?」

「うん、あたしのはポストに入ってた」


 驚きです。


「そんな事もあるんですね」

「まあ出どころはどっちも不明じゃん」

「あの……」

「どったの、いのりん」

「変な事言ってしまうかもしれませんけど……聞いてくれますか?」

「うん、もちろん聞くよ」

「あのね、このESDを知ってる閻魔と名乗る方にですね……。恐い男の人に刺されて死んじゃった時に出会ったの」

「え、どーゆーこと?」


 どうやらヨミさんは知らないらしいみたいです。

 そもそも死んだなんて聞いたら、混乱しても仕方ありませんよね。


「あ、や、やっぱりこんな話……信じてもらえませんよね?」

「ううん、信じるから続き話してみ」

「あ、はい。えっと、その閻魔さんと名乗る方が、わたしにESDの使い方を少しですが教えてくれたのです」

「ふうん、なんかその人怪しい感じだね」

「言われてみれば怪しいかも……です」


 と言うより、変な人かも知れません。


「そうだねー。まーこれ以上憶測で話すのもアレだし、具体的な話を続けるよー」

「うん、お願いします」

「まず一番に覚えて欲しいのはさ……規則第十四条のクリミナルリストっての開いてみて」


 そう言えば、規則を再度表示する方法は知りませんでした。


「あの……規則の出し方が分かりません。初めは表示されてたんですけど」

「ああ、ゴメン。再び出すにはさ、リンカーの時と同じ要領で辞書の形したアイコンをタップしてよ」


 そのアイコンを探し中です。


「あっ、ありました。ええと、これをタップすれば……表示されました」

「よし、オッケーだね!」

「はいっ、それで……十四条の項目を見るんですね?」

「そそ」


 あの畏まった文字列も、以前よりは頭に入り易くなりました。


「第十四条、『クリミナルリストとは罪人をリスト化し、表示するアプリをいう』ですよね」

「そそ、そこにはたくさんの罪人の詳細情報が乗ってるんだけどさ、そいつら以外にはEWを使って絶対危害を加えないこと」

「あの、EWって……?」

「ああごめん、第二条の五号に書かれてるよん」


 検索開始して、見付けました。


「うん。『断罪具とはエクスキューショナルウェポン(EW)の事で、断罪者が処理執行するための道具をいう』ですね」

「そうだよん、いのりんが使ってるデカい剣とかの事ね」

「なるほど……ですね」


 それだけでも、ちゃんと頭に入れておかなければいけません。


「でさー。もしも一般人とかに処理執行状態で危害を加えた場合、そのクリミナルリストに載る可能性があるんだってさ」

「あの……載った場合はどうなるの……ですか?」


 嫌な予感しかしません。


「罪人と同じく処刑対象にされるに決まってるじゃん」

「そ、そんな……」

「やっぱ怖いよね。いのりんめっちゃ震えてるもん」

「当たり前……です」


 もしかしたらわたしも、正当防衛のつもりで知らない人を怪我などさせてしまったら、断罪者達に命を狙われる危険性があるのですから当然ですよ。


「でも正当防衛……んっと、あたしやいのりんに殺意が向けられたり、処刑の妨害をされそうな時は、EWを使ってもいい事になってるみたい。そんな事も規則に書いてたよ?」

「なるほど……」


 確かに書いてありますが、なんか曖昧な表現ですね。


「うん。そんじゃ次だけど、処理執行状態に移るのも実はタダじゃないんだよね」

「どういうことでしょうか?」

「えっとね、まずはESDの画面を右に二回ぐらいフリックしてよ」

「フリック?」


 横文字は、あまり好きじゃありません。


「画面に指を触れたまま右にさっと動かすの」

「えと、こうかな?」


 言われた通りに操作すると、変な棒や数字が表示されました。


「あ、ゲージと数値がたくさん……出てきました」

「そそ、それがいのりんのステータスだよ」


 ステータスと言われてもよく分からないので、後でじっくり確認しておきます。


「で、その中にある疲労度を確認してよ」


 言われた通り、疲労度を確認しました。


「ええと、疲労度は26って表示されてますけど……上限はあるのですか?」

「あたしの考えなんだけど、疲労度は100が限界じゃないかな」

「どうしてそう思うんですか?」

「うんとね、ゲームばっかやってるあたしの勘!」


 やはりヨミさんはアバウトな方です。

 そんな所が気楽で良いのですけど。


「あはは……ヨミさんらしいです」

「えっへっへー。つうわけで100を超えちゃダメだよ! きっと気絶しちゃうからさー」

「は、はい……気をつけます」


 なんか怖いな。気が重くなって疲労度が2も上がってますし。


「次に魔力だけど、これはランクやINT、それにMNDが上がる度に最大値が増えてるっぽいから覚えといて」

「は、はい!」


 何やらヨミさんはESDを操作して、画面を眺めております。


「因みにいのりんの魔力最大値は312しか無いね。そんで現在値は228と」

「は、はあ……」


 そう言われてもサッパリです。


「んとね、この魔力がある意味一番重要でさ。あたしが適当に導き出した計算式だとこの世界にEWを出すには最低でも魔力最大値の25%必要みたい。そんで出してから一分経つ毎に2%減ってくの」

「そんなに減るのですか?」


 計算は苦手ですが、EWを出したり消したりする事が危険なのは、なんとなく理解できます。


「ゲージ見ながらEW出したらそれだけ減ったんで間違いないよー」

「つまり……EWを出さないで25%を切れば処理執行自体できなくなる……という事なんですね?」

「そうだよー。まあそもそも規則には

一日三十分までしか処理執行状態になれないって書いてるけどね」

「第三条の三号ですね……。ですがランクが上がれば制限時間も増えるみたいですけど」


 規則の読み方が、だいぶ分かってきました。


「おお、やるじゃんいのりん」

「えへへ……少しだけ分かってきましたから」

「うん、その調子で頑張っておくれー」

「うん、頑張りますねっ」

「まー、とにかく魔力の消費には気を付けないとね。とは言え自然に回復するから、割と大丈夫なんだけどー」


 ヨミさんは楽天的なお方ですね。


「な、なんだか不安です」

「まー大丈夫。そこでこれを——」


 ヨミさんがESDを操作してましたら、彼女の手元に美味しそうなプリンが出てきました。


 驚きです。一体どんな手品を使ったのでしょうか。


「ジャーン、魔菓子——とろけるプリンLV2だよー」

「あの、これはどうしたんですか?」

「罪人をEWで倒すと手に入るおやつでね。あたし達の魔力を即回復したり、他にもボーナス貰えるんだ」


 ヨミさんは意味不明な事を言いながら、わたしにプリンを差し出してくれます。


「はい、これあげるから食べてみ」

「あの……いいんですか?」

「気にしないでって。元々いのりんが手に入れるハズのおやつなんだから」

「そ、それって……」


 まさか、あの厳つい男に関係があるのでしょうか。


「うん、あの男を倒した時に手に入れたヤツだよ」

「そうなんですね……」


 知っておりましたけど、やっぱりあの男を倒したのはヨミさんなのですね。


 ボンタンの仇をわたしが取れなくて、なんだか複雑です。


「まあとにかく食べてみ? ご丁寧にお皿とスプーン付きだからさー」

「う、うん……」


 わたしは甘い物が大好きなので、とにかく頂いたスプーンで掬い、恐る恐る頬張りました。


「あっ——これ」


 予想以上に美味しくて、思わず疲れが吹き飛んでしまいます。


「甘くてふんわりして……とっても美味しいっ!」

「あはは、じゃあゲージを確認してみてよ?」

「うん」


 ESDを見ると、疲労度が3に減り、TEXPが120まで上がっているのです。

 楽しくて、なんだか興奮してしまいます。


「すごい、何かたくさん上がりましたっ」

「それが魔菓子の効果だよ、スゴいっしょ?」

「うん、本当にすごい……ですね!」

「あっはっは。でね、リンカーボーナスって言えばいいのかなー」

「リンカーボーナス?」


 また横文字ですか、頭に入りませんね。


「あはは、まーあたしの造語だけどねー」

「そうでしたか」

「へへ、どうやらリンカーの数が多いほど魔菓子の効果も上がるみたいなんだってさ」

「それはどういうことですか?」

「んー、まだ試したことないんだけど魔菓子をリンカー同士で分けて食べると効果が上がるみたい。ただし上昇効果は5人が限度なんだってさ」

「あの……それってもしかしてヨミさんとプリンを分けて食べたほうが良かったのではないでしょうか?」


 そう言うと、やはりヨミさんの顔が少し歪みました。お茶目ですね。


「あー……まー今回はいいさ! イノリに分かりやすく説明したかったしー」

「そ、そうですよねっ」

「うんうん、そうだよー!」

「あの、ヨミさんのくれたプリンはとっても最高の味でしたっ」

「当たり前さー!」


 ヤケになるヨミさんは見ていて楽しいです。


「コホンっ、じゃー話を戻すね」

「あっ、お願いします」

「魔菓子にはレベルが存在してね。罪人のランクによって上がるんだってさー」

「そうなんですね」


 だから先程、プリンにレベルを付けていたのですね。


「んでさ。魔菓子とは関係ないけど魔力は自然回復するんだー。さっきのEWの際に話した事ね」

「はい、それですね。ですが自然回復とは一体なんなのでしょう?」

「うん、5分毎に魔力が回復するみたい。EW出してる時は回復しないけど」

「そうなんですね」

「うん。まあ回復量は微妙だけど魔菓子節約のために知っといた方がいいんでない?」

「うん、わかりました」


 覚える事が多いので、一人じゃなくて本当に良かったと思います。


「えっとー、次で最後だね」

「お、お願いします……」


 とつぜん、ヨミさんが深刻そうな顔でわたしの顔を見てきます。


 変に緊張するではありませんか。


「第四条の一号——『一週間のうちに罪人を処理執行できなかった場合、当人の資格を失効する』って、あるんだー」

「やはり、そうでしたか……」

「ありゃ、もう規則完読済みだった?」

「いえ、まだですけど察してました」

「おお、流石はいのりんだねー」

「あう……でも、きっとわたしには罪人を処刑するなんてできません」


 だってそれは言ってみれば、人を殺める事で間違いありませんもの。

 ねじ伏せて降伏させるのなら、きちんとできるのですが。


「うーん、そっか。それならもういのりんとは一緒にいられなくなるね」

「えっ、どういうこと……ですか?」

「規則の通りだと、資格失効って書いてあるじゃん」

「あっ、あります……」

「で、第七条の『断罪者資格失効後の対応』って項目見てみ」

「第七条——『断罪者細部情報を保護するため、資格権利を失効した者の断罪者に関する記憶を抹消する』って……そ、そんな!」

「そんな非現実的な事が書いてるのはアホらしいけどさ。更に第五条——『断罪者に関する一切の情報を部外者に漏洩してはならない』って書いてあるの。だからノルマ達成できない場合、あたしといのりんは赤の他人になっちゃうワケ」

「そんな……イヤだよ。せっかくお友達になれたのに」


 もう、大切な何かを失う思いなんて絶対にしたくありません。


「それはあたしも同じだよ。でも、いのりんが罪人を処刑したくないなら、あたしには勧められないってば」

「で、でも……」

「とにかくさ、二日は待つから答えを決めといて。いのりんが後悔しないようにね」

「う、うん……」

「ホントにちゃんと考えてね。いのりんはまだ手を汚していない正常な女の子なんだし」


 ヨミさんは俯きがちに、そんな悲しい事を言っております。


 なんでも言いから元気を出させてあげないといけませんよね、友達として。


「あの……ヨミさんはどうして罪人を処刑しようと思ったんですか?」


 元気付けるつもりが裏目に出そうな質問してしまいました。

 バカですか、わたしは。


「んっ、そうねー……。好き勝手してる罪人どもが憎くて仕方ないからかな。平穏に暮らす人達を無下にする奴なんか特にさ!」


 ヨミさんの目が少し怖いです。

 本当に、こんなバカな質問するんじゃありませんでした。


「そう……なんですね」

「うん、とにかく今日はもうヤメヤメ。話し過ぎても覚えられないし」

「わかりました……」


 こういう時、どう謝ったらいいのか分かりません。


「じゃー、いのりんをお家まで送ったげるよ」

「そ、そんなの悪いです」

「いーのいーの。なんせあたしは強い上に——ヒマだから!」


 ヨミさんが見せてくれたESDの画面を見ると、ランク4もあります。


 わたしはランク1ですから、これは強そうですね。


「うん、暇なのは冗談でしょうけれど、とても頼もしい……です!」

「あはは、もっと頼ってねー」


 とりあえずヨミさんが元気を取り戻してくれたので、なんだかホッとしました。


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