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鬼の末裔の少女〈断罪者編〉  作者: 美浜忠吉
第2章 復讐
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第十七夜 長かった思い違い

「ふわぁ~、フタバおはよぉ……って、あれ?」


 翌早朝に目を覚ますと、一緒に寝ていた筈のフタバが隣にいませんでした。


「えっ、どうして――まさか自分から消えて!?」

「安心して、わたし?」


 そんな時、ESDからフタバの声が聞こえました。


「あれ、画面にわたしが映って……もしかしてフタバなの?」

「うん、そうだよ」

「はあ……消えたかと思って心臓が止まるかと思ったよ」

「安心して、わたしはあなた自身から完全消去されるまでは絶対に消えないから」

「そんなこと絶対しないから安心して!」


 わたしは必死に叫びました。


「ありがとう、やっぱりあなたは優しいね」

「えへへ……どう致しまして」

「それでね、ちゃんとわたしが学習した記憶はあなたに引き継がれてるから、安心して学校に行ってね」


 言われてみれば、昨晩フタバが国語や社会の授業を受けていた記憶が、わたしの脳に入っていることに気付けます。



「本当だ、すごい」

「その代わり、あなたの経験もわたしの脳に流れるから悪さしたらダメだよ?」

「あっ、はい……気を付けます」


 という事は、わたしが昨日わんわん喚いていた記憶も流れているのですね。

 それに今考えていることも併せて。


「えへへ、同じわたしだから他の皆には内緒にするけどね」

「うう……昨日の事はわたし達だけの秘密だからね?」

「安心してっ」

「うんっ」


 同じ自分でしたら間違いなく信頼できます。


「それじゃ、もうそろそろ朝の支度を済ませた方がいいよ?」

「うん!」


 洗面所でそそくさと洗面を済ませて制服に着替えたわたしは、ママが用意してくれたバランスよい朝御飯を居間で食べています。


「イノリ、昨晩は遅くまで勉強していたみたいだけど、体調は大丈夫?」

「あ、はい。とてもいい調子です」


 珍しく、ママが穏やかに微笑みました。


「そう、だったらいいの」

「偉いなあイノリ! パパなんて中学の頃は夜九時までに寝てたから、勉強なんてした事なかったぞ~」

「あははっ、パパったらダメじゃない?」

「ふふ、本当にダメね」


 微笑するママの横で、パパは笑いながら後頭部を掻きました。


「いや~申し訳ない」

「でも、そんなパパも今では自衛官なんだもんね」

「ふふ、まあ頑張ったからな~……教育は死ぬかと思う程キツかったけど」

「そう言えばあなた、この間千代田区で議員の方が銃でめった撃ちされた事件があったそうよ?」

「ああ、一昨日に起きた機銃乱射事件のことだね」

「わあ……随分と近所だね」


 その犯人も罪人なのでしょうか。

 もしもそうでしたら、頑張って止めに行かなくては。


「どうもうちの基地で保管してた機銃で撃たれまくったという話……あっ、この件は絶対内緒だぞ、イノリ?」

「ちょっとあなた、そういう事は身内だろうと漏らしてはダメじゃない」


 呆れたママがパパの脳天を手の平で叩きました。


「あ痛っ――ごめんよママー」

「うん、絶対に話さないけど……そんなに銃の管理が甘いの?」

「いやいや、部外者からは絶対に盗まれないよう厳重に管理してる筈なんだが……うーん、なんでだろね?」

「わたしに聞かれても困るな」

「ああ、そうだよな。すまんイノリ」

「それよりあなた……そろそろ7時を迎えるのだけど、出掛ける用意を済ませなくてもいいの?」


 ママのドスの効いた声から、明らかに機嫌が悪いことが分かります。


「やばいっ、すぐに準備する!」

「わたしも、そろそろ出掛けます!」


 わたしは空になった食器をまとめて台所に持って行くと、部屋に置いてあった鞄を持ち、二人に行ってきますと挨拶してから即座に家を出ました。


「ふう、危ない危ない」


 まあ、登校時間的には余裕でしたから歩いてますが。

 それよりヨミちゃんとは家が真逆なので一緒に登校できず、それが残念で仕方ありません。


「はあ……一人はつまらないな」

「おっと、そこ行く隣席さ~ん」

「えっ?」


 そんなとき、背後から同じ制服を着た女子が声を掛けてきました。


「おはようさんっ、お隣失礼するね~」

「あ、おはようございま――あっ、隣に座っていた人でしたよね、確か」


 クラスの皆と楽しそうに喋るその子の姿を思い出したので分かりました。

 わたしはその輪に入らなかったので、挨拶というものを会釈ぐらいしかしてませんが。


「そだよ~。いやぁ~こっちから通う友達がいなくて寂しかったんだ~」

「そうだったんですね」

「うんっ。じゃあ改めて紹介するけど、ボクは君島(きみじま)ルコってんだ」

「あ、はい。わたしは……鬼頭イノリと言います」

「うんうん、イノリね。今後ともよろしく~!」

「はい、よろしくお願いします」


 まさかこんな形で初めて話すなんて、思いもよりませんでした。

 入学したばかりの昨日は、こんな風には誰とも話さないと思ってましたし。


「それにしてもさ、最近ここら物騒だと思わない?」

「あっ、そうですね。千代田区で銃乱射事件があったみたいですし」

「ああ、それもあるね」

「他にもあるんですか?」

「あるある~」

「えへへ……」


 そんな眩しい元気な顔で何度も頷かなくても良いのですよ。


「それにしてもさ、それ最近のやつだよね?」

「あ、はい」

「なんか撃たれたのがどこかの議員らしいけど、イザコザでもあったんだろね~」

「イザコザですか。何か恨みでもあったのかな?」

「そうだねぇ。人をバンバン撃ち殺す程だし怨みが無きゃおかしいと思う」


 改めて聞くと、物騒な事件すぎます。


「危険ですね、一般人が巻き込まれるかもしれないのに」

「ホントそれ。まあ議員以外に被害は無いみたいだし計画的なんでしょ」

「そうですね……わたしも頑張らなくちゃ」

「ん? なんの話?」

「あっ――なんでもありません!」


 危ない、つい断罪者の事を話しそうになりました。


「あははっ、キミったら変な子~」

「えへへ……すみません」


 はあ、無関係な方に断罪者の話をできないなんてもどかしいです。


 早くも学校に辿り着いたわたし達は席に座り、鞄を机の横に置きつつ会話を続けます。


「イノリは東京暮らし長いの?」

「あっ、はい。小学一年の頃、大分の中津から越して来ましたので」

「そっか~。ボクの場合は小六の時に越して来たんだけどなんか似てるね~」

「そうだったんですか!」

「うん、ボクの場合は広島の尾道から来たんだけどさ、もしも東京でオススメのお店とかあったら教えてよ~!」

「あっ、はい……その時は教えますね」


 あまり都心に足を運ばないので、ほとんど知りませんけど。


「それにしてもイノリ?」

「あの、なんでしょうか?」


 どうして顔をマジマジと眺めるのですか。


「いや、君ってマジメだな~って思ってさ」

「え……あっ、やっぱり敬語とかダメですか?」

「いやいや、そんな事ないから! 寧ろ共感持てるんだ~」

「そうなんですか?」

「うん。実を言うとボクもさ、自称とか男の子っぽい口調をやめなきゃって思ってるんだけどさ。癖になっちゃって中々抜けないんだよな、コレが」


 はあ、そう思う方もいるのですね。


「元気な君島さんがそう思うなんて、なんだか意外です」

「あはは~。まあ何が言いたいかと言えばね、少しぐらいお淑やかじゃないと男子にモテないじゃん?」

「うーん、わたしはそう言うことに興味が無いので」

「えっ、マジ?」


 君島さんは、とても意外そうな顔をわたしに向けました。


「はい、本当に」

「えー、可愛い顔してるのに勿体ない!」

「そそ、そんな可愛いくなんて――っ!」


 真剣な顔でそんなこと言われると、とても恥ずかしいから止めて欲しい。


「それにスタイルもいいしさ……ああもうホント勿体ない!」

「あうう」


 うう、この方もヨミちゃんみたいな事を言うのですね。


「ちょ、ちょっと君島さん」

「ルコ、鬼頭さん困らせちゃダメだって!」


 そんなとき、君島さんの前に必死な顔をした阿藤さんと伊良部さんがこちらにやって来ました。


 顔は合わせませんが二人とも昔からわたしと同じ教室で学ぶ腐れ縁のような存在なんです。

 勿論わたしが小学三年生のときに男子達を大怪我させた事をご存知ですから、とくに気の弱い阿藤さんは怯えているのでしょう。


「どして? それにそこまで困らせてないよ~」

「イヤイヤ、確実に困らせてるでしょ」


 うう、確かに困ってはいますが気にはしていないのに。


「き、鬼頭さん、その、本当に気にしてませんよね?」

「あ、はい、気にしてません」

「そっか、鬼頭さんが本当に気にしてないなら」

「う、うん、それならいいの」


 そう言いながら、お二人がわたしの前に手を差し伸べました。


「あ、あの……この手は?」

「あははっ、今まで無視してごめんねの仲直りの握手だよ」


 朗らかに笑う伊良部さんの横で、阿藤さんが顔を赤らめながら何度も頷きました。


「う、うんっ。今まで鬼頭さんがいつ暴力を振るうのが怖いからって避けてて……本当にごめんなさい!」

「そ、そんなに頭を下げないで、阿藤さんっ。わ、わたしはもう気にしてませんから」


 本当はそんなの嘘ですけど、ここまで謝られたら気にしてる暇なんてありません。

 だって、わたしだって二人やクラスのみんなのことを勝手に避けて、勝手に孤独気分を味わっていた大バカ者なんだもの。


 だからわたしは嬉しさのあまりに目を潤わせるのを堪えつつ、二人の手を不器用な笑顔で優しく掴みました。


「二人とも、ありがとうございます。そして……今まで避けててごめんなさい!」

「いやいや、別にいいってばそんな事さ。それよりウチこそホントキレるの怖いからって避けててごめん――マジ許して」

「私も、ぐすっ――本当にごめんね、鬼頭さん」


 優しい笑顔で涙ぐむ阿藤さんに釣られ、わたしも涙を溢れさせましたが何も気にしません。

 だってこの涙は悲しい気持ちではなく、嬉しい気持ちなんですもの。


 そんなわたしの肩に、嬉しそうに微笑む君島さんがポンと手を置いてました。


「き、君島さん?」

「今までの誤解が解けてよかったね、イノリ!」

「あ……はい、ありがとうございます君島さん」

「ええ、別にボクは何もしてないんだけどな~」


 君島さんは戸惑ってましたが、それでもわたしは彼女のおかげで救われた気がしたのです。

 だって、君島さんの明朗で誰とでも仲良くできる雰囲気が、二人をここに導いてくれたのですから。


 それから気を取り直したわたし達は、先生が教室に来る時間まで仲良く会話を始めました。


「いやー、それにしてもルコが鬼頭さんと友達だったとは予想外だわ」

「ふふんっ、だってめっちゃ可愛いイノリと会話したいと思うじゃ~ん」

「あう……恥ずかしいから言わないで」

「で、でも……鬼頭さんは本当に可愛いです……スタイルもすごくいいですし」


 阿藤さんは言いながら、自らの胸を寂しそうに摩っております。


「ちょっとカナー、アンタも可愛いんだから気にすんなって! なんならウチが大きくしてやろうかー?」

「うう……恥ずかしいから、ここじゃダメ……」


 伊良部さんが両手をワキワキさせながらイヤラシイ事を口にし、阿藤さんが困っております。

 だけど、本当に困っているにしては反応がおかしいのですが。


「あはは~っ、まるでここじゃ無かったら揉んで良いって反応だね~、カナちゃん」

「や、やだ――言わないで、君島さんっ」


 お茶目に笑う君島さんのおかげでわたしの疑問はなくなりましたが、代わりに驚きを隠せません。


「え……ええ??」

「へへっ。じゃあカナよ、今日も学校終わったら家へ来るかい?」

「う、うん……行く」

「あははっ、仲良いんだね二人とも~」


 驚くわたしの横で仲良し二人が際どい会話をしている気がしますが、ルコさんは楽しげに笑ってます。


「あはははっ、はあ……」


 だからできるだけ、わたしも不自然にならないよう笑いましたとも。

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