第十三夜 わたしの本気
ヨミちゃんの意識が戻るまで充分な休憩を取ったわたし達二人は、ロゼッタさんとミントさんを助ける為に必要なEWを回収しに、倉庫へ向かっておりました。
「ねえ、黄泉ちゃん?」
「どしたのー、いのりん」
ヨミちゃんが休憩中に拾った革の鞭が気になるのです。
「それ、本当にそのまま使うの?」
「ん? ああー、もちろん使うよ。だって武器がないと不安じゃーん」
「確かにそうだけど……」
「そういういのりんだって、どうして丸太なわけ? ハデな片手剣とかあったのにさー」
わたしは部屋に積んであった大きな丸太で充分です。
太くて長いし頑丈だから、とても立派な武器なんですよ。
「だって……他の道具は汚なそうで触りたくないもん」
「あー……まあそうだけどさー」
やっぱりヨミちゃんも嫌そうなので思う所はあるのですね。
「ね? だからこう言う天然物が一番なの」
試しにわたしは、丸太を片手でスイングしました。
「やっぱ凄い力……。あーあ、あたしもいのりんぐらい力あったらなー」
「大丈夫、今度はわたしが黄泉ちゃんを守るからっ!」
「うん、めっちゃ頼もしー」
そんな時、奥から三人の盗賊がいきなり現れました。
「おい、あの女どもボスの寝室に入れたヤツらじゃねえか」
「やべえ……寝室の見張り番がやられてるぞ!」
「バカやろう、逃げるな!」
一人は本当に逃げてしまいましたが、残った二人を見たヨミちゃんがうんざりしてます。
「ほら、早速うるさいのが湧いてきたじゃん」
「黄泉ちゃん、先手必勝だよっ!」
「えっ、あー……おうともー!」
「はああああー!!」
わたしは声を張り上げながら前方最右に立つ盗賊へと素早く駆け付け、横胴に丸太を打ち込みました。
「やべ――うごっ!?」
「――あぎゃっ!」
すると隣接していた盗賊もおまけに薙ぎ払え、一撃で倒せたのです。
「ヒューッ、いのりんヤバーイ」
「えへへっ」
「痛てえ……クソが――死にさらせえええ!」
「わっ――」
ですが隣接した盗賊は気絶しておらず、腰から曲刀を抜いて構え、わたしに突進してきます。
「そりゃっ」
「痛でえ!」
ですがヨミちゃんが鞭で器用に武器を払いましたので、わたしは無傷で済みました。
「もう……許さないんだからあああ!」
「ゆ、許してく――あぎゃ!」
逆上したわたしは盗賊の声も聞かず、勢いに任せて丸太を叩き付けました。
少しやり過ぎましたが気絶しているだけで済み、本当に良かったです。
「おおう……流石いのりんの怪力」
「はあ……はあ、ふうっ……怖かったあ!」
「いや、ホントお疲れ」
「うん、ありがとう黄泉ちゃん!」
「でもさ……平気なの?」
気使うヨミちゃんの気持ちを察しました。
「あっ……うん。死なない程度に手加減してるから」
と言いつつ、最後は手加減できなかったのですが。
「そっか、じゃああたしからは何も言わない」
「気を使わせてごめんね……」
「んーん、全然使ってないからだいじょーぶ。辛くなったらいつでも言いなよ?」
「黄泉ちゃん、本当にありがとう――」
やっぱりヨミちゃんが隣にいれば、わたしに怖いものなんてありません。
いつかわたしもヨミちゃんみたいなカッコいい女の子になれる日が来るのかな。
「うん、気にしないで。さあ、さっさと進もー!」
「うんっ!」
どんどん奥へとわたし達が進むと、倉庫の様な広い部屋の前へ辿り着きました。
「ねえ黄泉ちゃん、扉の横に何か文字が書いてるよ?」
「んー……よく分からない言語だけど、きっと倉庫だと思う」
「やっぱり?」
「そうだよ、じゃあドア開けるよー」
「お願いっ」
ヨミちゃんが取手を引っ張りますが、残念ながら開きません。
「鍵掛かってるっぽいね」
「あう、残念……」
「んーっと……あっ、多分いのりんが倒した盗賊が持ってる筈だから戻ってみる?」
「でもそれだと時間が勿体無いよ。それよりわたしにいい考えがあるの」
「ん、どうするの?」
「それはね――こうするの!」
わたしは脆そうな木製の扉に目掛け、丸太の先を打ち付けるよう大声を張り上げながら突進しました。
「どりゃああああ!」
「ちょっ——いのりん!?」
すると騒がしい破壊音と共に扉が砕け散り、倉庫に入れる様になったのです。
「よしっ!」
「よしっ……じゃないよ! 残った盗賊共が一斉に来たらどうするのさ!」
「あっ、考えてなかった……」
わたしったら、うっかりしてました。
「まあそーだよね。今回はたまたま誰も来なかったからいいけどさー」
「うう、ごめんなさい……」
「とにかくお説教の続きはアト。今はEWの回収が先」
「うん!」
気を取り直したわたしはヨミちゃんと一緒に倉庫を漁り、大きくて禍々しい刃が特徴の業剣アニムスバスターと、バリバリ電流を流す刺々しい鞭の雷電を見つけて拾いました。
おまけに2000Gをヨミちゃんが拾いましたが、わたしは遠慮して拾わなかったです。
気分的な問題がありましたので。
「うーん、なんかアッサリし過ぎて微妙な気がしない?」
「わたしもそう思った。なんだか置き方がすごく雑だよね?」
「いや、そうじゃなくて……まあいっかー。とにかく倉庫を出よー」
「黄泉ちゃん上っ、気を付けて!」
「おっ――!?」
わたしが不穏な気配を察知して本当に良かった。
おかげでヨミちゃんが頭上から降って来た盗賊の斬撃を回避できたのだから。
「チッ――避けやがったか」
「あっぶなー……全然気付かなかった」
「黄泉ちゃん、大丈夫!?」
わたしは急いで大剣を構え、ヨミちゃんと並びました。
「うん、ありがとね。いのりんのおかげで助かったよ」
「ううん、お安い御用だよっ——たああああ!」
「うおっと――あぶねー!」
わたしは即座に盗賊の前へ駆け付けて大剣を振り落したけど、バックステップされて避けられました。
「もう……動かないでっ」
「バカやろっ、こっちだって死にたかねーんだよ!」
構わず何度も振るいましたが、素早過ぎて当たりません。
「峰打ちだから死なないのに!」
「ちょっと、いのりん落ち着いて! こいつ素早いから、動きを先読みすればいいんだよ」
「動きを先読み……うん、やってみる!」
ヨミちゃんが後方を守ってくれておりますし、安心して闘えます。
「へっ――甘く見るなよお嬢ちゃんよ! オレは他のヤツとは一味違うのさ!」
「落ち着いて、わたし。もっと集中して敵の動きを読むの……」
瞑想して気を落ち着かせなければ。
「へっへ、目でも瞑って血迷ったかお嬢ちゃん? そっちから来ないなら――こっちから行くぜ!」
あちこちの壁から足音が耳に届き、盗賊の挙動を察しました。
「その命、オレが取ったあああ!」
「――左!」
盗賊が目の前に飛んできた瞬間、わたしは大剣の峰を左側に振り落しました。
「な――ごぼっ!?」
ですが振り下ろした大剣の打ち所が悪く、盗賊の首をへし折るよう地面に叩き込んでしまったのです。
「えっ、なんでわたし……うえぇっ!」
その時の感触があまりにも気持ち悪いのに、わたし自身は喜んでいた事に気分が悪くなり、膝をついて思わず吐いてしまいました。
「いのりん……っ!」
それでもヨミちゃんは気にせず、わたしの顔を胸に埋めるよう優しく抱いてくれたのです。
「けほ、けほっ! わたし……殺すつもりなんて無かったんだよ!」
「いのりん……」
この感覚はとても気持ち悪い筈なのに、心の何処かでは異常なまでに求めている。
その闇の衝動がまた、わたしの心を荒ませるんだ。
「でもさ……これが処刑なの。今はゲームだから処刑の重みは伝わりにくいけどね。だけど現実世界じゃあ罪人とは言え、本物の人を殺すんだよ?」
「うん……」
でも、わたしはヨミちゃんと違って人を殺める事に喜びを覚えていたの。
そんな事、絶対に口にはできないけれど。
「いのりんはさ。この罪の重みに耐えきれる?」
「わたしは……耐えられる。ううん、耐えないとダメなんだ」
そうだよ。
ヨミちゃんだって一人で背負ったんだから、わたしも暴走しないよう抑えて頑張るしかないんだ。
「いのりん……」
「それにもう……ボンタンの様な被害者を二度と出したくないもの!」
うん、それだけは絶対に変えられないわたしの意思だから。
「ごめん、あたしが悪かった」
「どうして謝るの?」
「ううん、気にしないでよ。そうだよね、いのりんは既に覚悟決めてるもんね」
「うん……だけど、もっと早くに覚悟を決めたかった……。ボンタンを犠牲にする前に!」
あの時わたしに厳つい男を殺める勇気があれば、大切なボンタンを失わず済んだんだ。
「自分を責めなくて大丈夫……落ち着いて」
「うん、ありがとう……。だからね――私ももっと精神的に強くならなくちゃ!」
「大丈夫、これから強くなってくるって」
「うん……強くなる! 全ての罪人を、わたしのこの手で処刑してあげるから!」
その意志が、今のわたしが生きる意味なのだから。
「いい覚悟だねー!」
「えへへっ」
「でも、あたしも混ぜて欲しいなー」
「あっ、もちろん黄泉ちゃんも一緒だよ。だって1人は心細いし……」
ヨミちゃんが側にいなかったらきっと、わたしは断罪者を続けていられないもの。
「あっはっは、いのりんなら1人でも大丈夫だってー」
「本当?」
「本当だよ、いのりんはまだまだ成長期だからねー」
「うん、ありがとう……」
「だからさ——おっぱいもまだまだ成長するんじゃなーい?」
「もうっ……黄泉ちゃんのイジワル!」
感動している横で結局それなんだから!
「痛い痛い痛い! そんな力で肩叩かないで!」
「知らないっ、黄泉ちゃんなんてもう知らないんだから!」
でも、そんなヨミちゃんが大好きです。




