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鬼の末裔の少女〈断罪者編〉  作者: 美浜忠吉
1章 断罪者
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第十一夜 不穏

「お前さん達、せっかくだからわしの話でも聞かんか?」


 シンパシータウン北門からジャンデー地下洞穴まで向かう際のシナジー高原を駆けている途中、ロゼッタさんが不意にわたしとヨミちゃんに語り掛けました。


「あっ、はい。ロゼッタさんのお話し、是非とも聞きたいです」

「あたしも聞きたーい」

「うむっ、それでは話すぞ」


 ロゼッタさん、ご満悦な顔です。


「まずお前さん達の様な断罪者(エクスキューショナー)の事だが、詳しくは知っとるかの?」

「いえ、この世界ではまったく知りません」

「あたしも詳しく知らなーい」


 ヨミちゃんは知ってるかと思ったので、意外です。


「そうか、新しく産まれたばかりだったか」


 どういう意味です?


「新しく産まれたって……わたし達がですか?」

「どうゆう事なの?」

「うむ、実は断罪者と言われる者達は、この世界に原住しとる動物や人間が魔物化したと同時に産まれてきたのだと、この国では伝えられておる。それももう500年以上も前の話だがな」

「あっ、そうだったんですね」

「なるほどー、それで断罪者がポツポツ増えてるんだ」

「その通りだ、その断罪者の産まれ方と言うのが不可思議なものでな。どうも地面からニョキっと芽が生える様に現れるらしいぞ」


 なんて言えば良いのでしょう。キノコかな?


「へえー、地面からニョキっとねー。つまりあたし達はこの世界を救う希望の芽ってヤツなんだ?」

「どこからでも生えるなら寧ろキノコみたいな……」

「あはは、それはなんかジメジメしててやだなー」


 ジメっぽくて、ごめんなさい。


「はっはっは。まあわしが王宮で研究していた頃の仮説だが、断罪者は遥か地底に在る冥界二ヴルムから芽吹いたのだと想定しておる」

「え、冥界なんてあるの?」

「うう、この世界も広そうだね……」


 長丁場になりそうな。


「すまん、まずはそこから教えんといかんな」

「おばあちゃん、おねがーい」

「わたしからもお願いします……とても気になります」

「うむ。まずこの地上界はミドガルと言って、人や動物たちが暮らす自然豊かな世界なのだ」


 はえー、なるほどですね。


「それでだ。地上界の更に上の世界には天界アスガルが有ってな。わし達人類や動物を産み落とした神達が住んでおると云われとる」

「なるほどー」

「うーん……」


 理解が追いつかないですね、これ。


「でだ、地上界の地下には冥界二ヴルムが存在してな。そこには地上界で死んだ生物達の霊魂が集うと云われとる。どちらも、このミドガルから生身で行く事は不可能だ。ゆえに伝説としてそう伝えられておるのだろう」

「うん、あたしはなんとなく理解できた」

「うう、わたしも感覚だけなら……」


 ええ、フィーリングですよ。


「まあこの世界の概念さえ分かってもらえれば充分だ。アスガルには天界の王オーディン、二ヴルムには冥界の女王ヘルがおって、2人の神は昔から対立しておるのだ」

「うんうん」

「そんな中、オーディンの気まぐれなのか知らぬが、自然豊かなミドガルを支配するために、地上のあらゆる生物を魔物化する閃光――神の怒りを放ったのだ」

「うう、神様なのにひどい……」


 神様は人を助けるもの。そう思っていた時期がわたしにも有りました。


「まあ、神とはそういうものなのだろう。特に、人を見下しとるオーディンなら尚更な」

「そうだね、おばあちゃんの言う通りだと思うよ」

「なんだか悲しいな……」

「だがイノリよ、全ての神がそうではない」

「えっ?」


 一つの希望が見えそうです。


「冥界の女王ヘルも神だが、それでも彼女は人を救いたいと思っておる筈だ」

「あの、どうしてですか?」

「それはだな。女王ヘルはミドガルで戦争や飢餓、疫病などで無惨にも息絶えた亡者達の嘆きや無念の叫び声をイヤと言うほど聞いておるせいだと云われとる」

「つまり女王ヘルは根が優しいってこと?」

「ああ、その通りだろうな。故に女王ヘルは地上界ミドガルを不条理から守るため、お主たち断罪者を実らせたのだろう」

「そ、それってつまり、わたしたちは正義の使者ってことで……いいのかな?」

「んだね、あたし達はそういう立場にあるねー」


 つまり、わたし達は救世主なわけですね!


「わあ……なんだか嬉しいなっ!」

「あはは、そうだねー」

「うむ、そういうわけだからお前さん達は正義を貫くのだぞ。決して悪さしてはならぬからな!」

「はい!」

「あいあーい」


 ヨミちゃんは適当な返事してますが、中身はしっかりしてるんです。


「そんなこんなで無事、洞穴の入口に辿り着きそうだの」


 ロゼッタさんが黄金の錫杖で差した先には、人の入れそうな洞穴があります。


 ワクワクが止まりません!


「うう、あの中には強い魔物さんが……」

「あはは、経験値多そうでサイコー」


 さあ、この子|(業剣アニムスバスター)も活躍の時です。


 ヨミちゃんも鞭|(雷電)を手に持ちました。


「さて、ここから先は凶暴な魔物もいる。気を強く持ってかかれよ!」

「は、はいっ!」

「もっちろーん」


 初めてのダンジョン、楽しみで仕方ありません!




 ジャンデー地下洞穴に足を踏み入れた瞬間、体力や魔力を表すゲージが頭上に現れました。


「うわあ、本当にゲージが勝手に出てきたっ」

「楽しそうだね、いのりん。でも常に表示されるって事は、いつ魔物が襲ってくるか分からない状況ってことだから気を付けてねー」

「う、うんっ」

「お前さん達、魔物が現れたぞ!」


 早速現れ……。


「いやあああ、芋虫気持ち悪い!!」

「いのりん!?」


 やだ、芋虫やなの!


「ええい恐れとる場合か! こっちに来るぞ!」

「むう、蜂は平気だったのにー……。とにかくあたしがいのりんの分まで戦うから!」


 ああ、結局わたし足手まといじゃないですか。


 ヨミちゃんは頑張って攻撃していると言うのに、わたしと来たら。


「いったーい!」

「ああっ……」


 ヨミちゃんが三匹もの人並みに大きい芋虫から体当たりされて……。


「くうっ……地味にかったいなコイツ」

「よし、ストレングス!」


 ロゼッタさんが叫ぶと、ヨミちゃんの体が赤く光り輝きました。


「おおー、力が上がったかも?」

「そうじゃろ、その鞭で攻撃してみろ」

「あいよ!」


 ヨミちゃんが振るいますと、一匹の芋虫が激しく弾け飛んだのです。


「わお、攻撃力が段違いに上がってるー」

「そりゃそうじゃ、何せ筋力が倍増しとるからの」

「なるほどー」


 続いてバチバチと凄まじい雷を帯びた鞭を二匹目に振り落とし、一撃で丸焦げにしちゃいました。


 今更ですが、この稲妻落としをヨミちゃんったら遠慮なく、わたしに使ったんだよね。


「くうーっ、気持ちいいー!」

「だが攻撃する毎に筋力も戻っていくから、よく考えて攻撃するのだぞ。まあお前さんなら問題ないか」

「あっはっはー……あぎゃっ」


 三匹目の芋虫がヨミちゃんに体当たりしました。


 そんな事より、どうしてわたしは何もしていないの。

 芋虫なんかで怖がってる自分に対し、だんだん腹が立って来た。


う……地味に食らう」

「頑張れ、お前さんだけが頼りなのだ」

「まっ、それは当たり前だけど!」


 ヨミちゃんが頑張って、芋虫を倒そうとしているのに!


「んー、ホントに力減ってる」

「だから言ったろう」

「やだなー、また攻撃食らっちゃうじゃん」

「たああああーっ!」


 気付けばわたしは芋虫に飛び掛かり、真っ二つに斬り捨てました。

 これ以上、ヨミちゃんに怪我させたくないですもの。


「はあ……はあ……ふうっ」


 そうです。わたしだって臆病な性格を直したら、なんでも出来るんだ!


「やるじゃんいのりーんっ。芋虫はもう平気なの?」

「ううん、苦手……。でも戦わないとヨミちゃんが傷付くもの……もう誰も傷付けたくないよ」


 ボンタンみたいな犠牲は絶対に出させません。


「そっか……ありがとね」

「ううん、いいよ」

「うむっ。イノリも一皮剥けたようだし、ちゃっちゃとアジトに行くぞ!」

「うんっ!」

「おうともー」


 それからわたし達は洞穴の奥へと進み、その道中では巨大コウモリやさっきの芋虫に、変な蛙などの魔物を沢山退治しました。


 おかげでヨミちゃんはランク7に、わたしはランク6まで上がりまして、戦闘能力も上がった気がします。


 そうして盗賊のアジト入口前に辿り着いたのですが、ポーラベアみたいに大きな体の、頭部に一角を生やしたトカゲなのかカメレオンなのかよく分からない魔物が立ちはだかっていたのです。


「お、大きい……」

「うん、あたしもちょっとビビってる」

「お前さん達、そんなに怯むでない。ここまで来たお前さん達なら問題なかろうが!」


 ロゼッタさんの喝は気合が入りますね。

 恐れなんて、どこかへ吹き飛んでしまいました。


「うしっ、おばあちゃんの言葉で目が覚めた!」

「わたしも……ヨミちゃんとロゼッタさんがいれば怖くない!」


 武器を握る強さも自然と増します。


「ふふっ——よし行くぞっ。イノリ、ヨミ!」

「てりゃあああ!」


 大きな剣を両手で持ってジャンプし、力を込めてトカゲの頭へ振り下ろしました。

 非常に硬い手応えで驚きです。


 ヨミちゃんも続いてトカゲの下腹へ鞭を二回打ち付けてます。


「んー、ゲージ減らないし硬いな。こんなのソロじゃキツいわ」

「ヨミちゃん気を付けて!」

「うおっ?」


 トカゲが長い舌を伸ばし、ヨミちゃんを叩きました。


「うぎゃっ」


 ゲージが半分近く減ってて、本当に痛そうなんです。


「くう……めちゃくちゃ痛い」

「ほれ、これでも浴びろ!」


 ロゼッタさんが投げた緑の球が空中で弾けてシャワーみたいにヨミちゃんへ降り注ぐと、ゲージが戻りました。


「おお、痛みが取れたー」

「それはヒーリングボール。わし特製の回復薬だぞ」

「ありがと、おばあちゃん」

「イノリ、ストレングスじゃ!」

「わっ、力が湧いて……」


 ロゼッタさんの呪文に反応して、筋肉が喜んでいます。


「あとイノリ、お前さんは間違いなく強い。だから自分に自信を持て!」

「あっ……はいっ!」


 そんなこと言われたら嬉しくて仕方ありません。


「どりゃああああ!!!」


 精いっぱい宙へ跳んだわたしは尋常ではない程にグリップを両手で力強く握り、トカゲの角を根元から破壊する程の斬撃を繰り出しちゃいました。


「やった!?」

「ひゅーっ、いのりん超強いじゃーん。あいつのHP、二割ぐらい減ってるよ」

「まったくな」

「えへへ……2人のおかげだよ」

「あたしも負けてらんないね――稲妻落とし!」


 ヨミちゃんも稲妻落としを繰り出し、トカゲの背中を痛め付けます。


「うーん、あんましダメージ入らない」

「強化しとらんと、そんなもんだ」

「おばあちゃん、あたしにも掛けてよー」

「まあ待て、術を使うのにも準備がいるのだ」


 ロゼッタさんが、いそいそと杖の先に何か塗ってます。


「へえー、結構面倒なんだねー」

「当たり前だ。強力な術を準備もなしに使えるわけ無かろう」

「おばあちゃんの言う通りっす」

「……たあああ!」


 大声を上げながら大剣の腹をトカゲに打ち付けたのですが、頭部が小さく爆発しました。


 この派手な技が、スマッシュというスキルなのですね。


「反動がすごくてあまり動けないけど……このスキルカッコいいっ!」

「あはは、スキルっていいでしょー」

「うん、派手なところが大好きっ」


 もっと破壊したくなります!


「お前さん達ずいぶんと余裕だな。まだ魔物は死んどらんのに」


 ロゼッタさんの言う様に少しはしゃぎましたので、反省しなくちゃ。


「ご、ごめんなさい……」

「まーまーおばあちゃん。いのりんのおかげで本当に楽だしね」


 ヨミちゃんは相変わらずですが、きちんと攻撃を当ててます。


「うむ、そうだな……ほれストレングスじゃ!」

「おおうっ」


 今度はヨミちゃんの筋肉が喜んでいるみたい。


「さあ、今こそお前さんの大好きな必殺技だ」

「もち分かってるってば……稲妻落としーっ!」


 凄まじいまでの雷の槌がトカゲの背中に落ち、地面も少し抉れてました。


「おおっ、あたしってば意外と強ーい」

「そうだね、ヨミちゃんはやっぱり強いよ! ……いろんな意味で」

「いろんな意味ってどーゆー意味?」


 まずいです。つい本音が口に。


「あっ、ええとっ、そのお……あうっ!」

「うぎゃっ」


 油断しました。

 トカゲが長い舌を伸ばし、わたしとヨミちゃんを巻き込んで薙ぎ払ってきたのです。


 おかげでガードする事も出来ず、背中から壁に叩き付けられちゃいました。


「かなり痛いよ……」

「ううー、全体攻撃なんて聞いてなーい」

「愚か者、そうやって油断するから悪いのだ」


 ロゼッタさんは文句を言いつつ、ヨミちゃんにポーションを振りまきます。


「おばあちゃんごめんねー。ちょっとふざけすぎた」

「ごめんなさい……」

「ふん、ちゃんと反省するんだぞ」


 ヨミちゃんがトカゲの背中を二度も打ち付けてますし、私も気を取り直して頭部を斬りつけました。


「ほれ、もうすぐだから2人とも頑張れ」

「もちろん――」

「頑張るってー!」


 どんどん斬るべし、斬るべし!

 ヨミちゃんも頑張って打ち付けてるのですから。


 またトカゲの舌を薙いだ全体攻撃が来ましたが、今度は大剣の腹でガード出来ました。若干、手がジンジンしますけど。


 ヨミちゃんも上に跳んで無傷です。


「うん、集中すると攻撃が見えやすいね」

「そだね、最初から集中するべきだったわー」


 あと少し、あと少し!


「これで終わり——稲妻落としー!」


 ヨミちゃんが最後の一撃に稲妻落としを繰り出しました。


 すると大きなトカゲの体が爆発し、生々しい肉片がこちらにまで飛び散って来たのです。


「きゃあっ!」


 やだやだっ、血生臭くて気持ち悪い!


「うわっ、死に方エグいな……。ふーん、スキルで倒すとこんな風になるんだー」

「れ、冷静に言わないでよ……ビックリしたんだから」

「あはっ、めんごー」

「もう……っ」


 すぐに肉片は消え去りましたが血痕は残るんです。やだなあ。


「まったく、お前さん達は本当に緊張感が無いな」

「あっ、ごめんなさい……」

「めんごー」


 ヨミちゃん、本当に怖いもの知らずすぎます。


「ふっ、まあ仲がよくて何よりだがな」

「えへへ……」

「へっへー、あたし達はマブダチだしー」

「きゃっ、ヨミちゃんったら……」


 ヨミちゃんがわたしの肩にいきなり腕を回して来たので少し驚きました。


「うむ、その気持ちアチラでも忘れるなよ?」


 ロゼッタさんが先にアジトへ入ります。


「あっ、ちょっとおばあちゃんアチラの意味ってー?」

「ほれ、急ぐぞお前さん達! 早くしないとミントの身が危ない」

「はいっ、すぐ行きます!」


 わたしはヨミちゃんから離れ、ロゼッタさんの後ろを着いて行こうとしました。


「うーん……」


 何やらヨミちゃんが唸ってますが、どうしたのでしょうか。


「ヨミちゃん、どうかしたの?」

「――ううん、なんでもない。あたしも行くよー」


 それでしたらわたしも気にする事なんて有りませんし、早くロゼッタさんを追い掛けよう。

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