(3):最初の村
果てしなく広がる平原を、アルハは何日も何日も歩き続けた。
途中にいろいろな発見があった。土を被って這いすすみ、たまにひょいと顔を出すモグラ、頭上を楽しそうに飛ぶ小鳥、大きな黄色い目で、近づくと一目散に逃げてしまう猫、どれもこれも谷では見ることができなかった生物ばかりで、アルハはすごいすごいと連呼していた。でもよくよく考えれば、これは懐かしい思い出の一つで、決して初めて見るものたちではない。
また雨の日は、雨宿りをする場所に困らされた。最初の雨は近くに雨除けにちょうどいい木があったため、その下で一晩を過ごしたが、二回目の雨はさすがに運の果て、雨に打たれて一晩歩き続けるはめになってしまった。幸いアルハは風邪も引かず、水を弾く特性の旅人服に身を纏っていたため、その点では後日それほど引きずることはなかったが、足首はドロドロに汚れていて、それに靴はグニャグニャになっていた。こんな状態で旅を続けるなど、危険かどうかはさておき気持ちが悪いものである。
アルハはおそらく旅の途中、母が見たであろう星月夜を毎日探してみた。無論、平原の空は、視界が固定された谷の空とは違うので、毎回変化して綺麗であった。星のしずくが地上で活動しているものたちに力を与えているようで、一つ一つの輝きが心地よい気分にさせてくれる。しかし、母がかつて見た星月夜とは、こんなものだったのだろうか。アルハはふと思う。あれだけ綺麗で雄大な海と、それに引けをとらない大自然の数々よりも、目を輝かせ思い出にひたるような星月夜は、こんなものであるはずがない。たしかに綺麗なのだが、きっとこんなものではないだろう。
そんな答えを出して数日、アルハは母の見た星月夜について考えることは無かった。
平原を歩き始めて十日後、とうとう食料が尽きてしまった。というわけでこの日からは平原に生息する動物を狩って空腹を凌がなければならない。といっても、アルハにとってはやっとこさ谷の生活が戻ってきたような感覚で、獲物を捕るなど何の雑作もなかった。捕った獲物は血抜きをして火で焼く。ある程度焼けたのを確認すれば、それを口に放り込む。ただそれだけだ。
十五日後、アルハは平原を流れる浅い川を見つけた。ちょうどそのころ、彼の手持ちの水が無くなってしまったため、水分の補充にタイミングがよかった。アルハは川の水を手ですくい顔を洗う。ひさびさに澄んだ水を浴びたようで、とても気持ちがよかった。最後にアルハは川の水を少しだけ飲み、気が済んだところで川を渡った。
二十日後、道なき平原をさまよっているうちに、ようやく旅を始めて最初の「村」を見つけた。アルハは小高い丘の上にたち、眼下にひっそりと横たわる小さな村に目をやった。村は大きな建物が二つと、藁の家が数件、ため池、放牧中の動物などが見受けられる。また、村の中で活動する老若男女の姿が見えた。
アルハは小高い丘の澄んだ空気をスーっと吸い込んだ後、眼下に横たわる小さな村へと歩み始めた。
いよいよ最初の村へと到着しました!
最近忙しくて、更新が遅れ気味になりますが、頑張って続けていこうと思います。